日本と欧州連合(EU)は17日、総理官邸で経済連携協定(EPA)に署名。来年初頭の発効を目指す。政府は、この協定で日本のGDPを約1%押し上げ、約29万人の雇用を生み出す効果があると試算。メディアも、消費者はチーズやワインなど本場の欧州製品が安く買えると歓迎するが、決していいことずくめではない。

 日本はEU産のチェダーやゴーダといったハード系チーズの現行29.8%の関税を発効から段階的に引き下げ、16年目に撤廃する。カマンベールやプロセスといったソフト系チーズも初年度に2万トンの低関税輸入枠を設け、発効16年目には3万1000トンに拡大し、関税も撤廃だ。

■酪農家はトリプルパンチ

 関税撤廃まで長期間を要することから、農水省は「当面、輸入の急増は見込み難く、牛乳も含めた乳製品全体の国内需給への悪影響は回避の見込み」と楽観視しているが、大甘だ。

ブランド力のある欧州産チーズが段階的に低関税で流入してくると、国内の酪農家へのダメージは避けられない。

 東大大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)はこう言う。

「日本の酪農家は、3月に署名されたTPP11と、所得低下を招く4月の畜産経営安定法改定の成立、そして今回の日欧EPA署名のトリプルパンチで、これまでにないほど危機的な状況です。酪農家の減少も歯止めがかからず、早ければこの夏にも国産の飲用牛乳が不足することが予測されます。消費者は今回の日欧EPAをもろ手を挙げて喜んでいる場合ではなく、新鮮で安全な国産の牛乳がなくなる危機を深刻に受け止めるべきです。政府も見せかけの成果を求めるのではなく、国の食の安保の基盤となる食料自給率をどうにかすべきです」

 このままでは近い将来、国産牛乳が飲めなくなる日が必ず来る。

日刊ゲンダイ
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