我が子を職権濫用で裏口入学、受け入れた東京医科大では幹部が主導したとされる。逮捕者を出した文科省内からは「解体的出直し」の声も上がる。

早稲田大学理工学部時代のある同級生は、こう吐き捨てた。

「同級生と食事したときなどに、『彼は出世街道を歩んでいる』と聞いていた。同級生の大半はメーカーなどに就職してサラリーマン人生を送っている。そういう意味では『将来の次官候補』とまで呼ばれ、夢のある人生だったのに……。それでも裏口入学とは親バカの度が過ぎる」

 東京地検特捜部は7月4日、文部科学省の私立大学支援事業の対象校に選定する見返りに、自分の息子を東京医科大学の入学試験で合格させてもらったとして、文科省の前科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者(58)を受託収賄の疑いで逮捕した。

 関係者によれば、合格させることを決めたのは、東京医科大の臼井正彦・前理事長(77)や鈴木衛・前学長(69)など複数の大学幹部。今年2月の一般入試で点数を加算したという。医学科の一般入試では3535人が受験し、214人が合格。倍率は実に16.5倍だった。1年の男子学生(19)は怒りを隠さない。

「自分は奨学金を借り、苦労して勉強している。権力はそのように使うのか。違う大学に入ればよかったと後悔しています」

 今どき、裏口入学なんてあるのか。医療関係者は話す。

「例えば開業医の息子などが2浪、3浪と試験に受からず、知り合いの教授などを伝って、AO入試などで便宜を図ってもらうことはある。ただ、医師の国家試験に何人合格したかが大学評価の指標になるため、明らかに学力が足りない子を合格させることは考えられない」

 見返りのキッカケとなったのが、2016年度から始まった「私立大学研究ブランディング事業」だ。事業期間は5年間で、独自色のある研究計画を国が支援。最大1億5千万円程度が助成される。16年度の応募数は198校で、このうち40校が対象に選ばれた。東京医科大は16年度の対象から外れたが、17年度は188校の申し込みから同大を含む60校が選定されている。

 対象となる大学は有識者の書類審査を経て、大学教授ら11人でつくる「事業委員会」が非公開の会議で選定する。委員の一人は「採択される十分なレベルのもので、圧力や裏話などはまったくなかった」と話した。

 東京医科大の関係者も、

「1年目の申請書は内容うんぬんではなく、書式に明らかな穴があった。当大はロボットの手術件数の実績などは高く、提案の内容もよく、普通に出せば採択されたはずだ。便宜を図ってもらう必要などあったのか」

 として、首をかしげる。そして臼井理事長をこう評した。

「みんなに気配りができる村の村長みたいな人。人間味があり過ぎる。裏口入学の件は酒でも飲みながら、『いいよ、いいよ』と受け入れたのかもしれない」

 佐野容疑者は早稲田大学大学院の理工学研究科を修了後、旧科学技術庁に入庁。近年は官房長などの中枢ポストを担い、出身地の山梨県では知事選の候補者にも浮上した。

「野心家で、上には腰が低く、下には厳しいタイプ。将来の次官候補だった」(文科省幹部)

 ただ、次官候補とはいえ、公私の区別はつかなかったようだ。事件の一報を受け、文科省のある課の幹部はこう漏らした。

「一度、文科省を解体しないと今の体制では駄目だ」

 ある中堅職員はこう話す。

「仮に高等教育局が忖度して助成金を動かしていたとすれば、組織としては終わっている」

 逮捕された日はくしくも学生の官庁訪問の初日。霞が関の就活スタートだ。ただでさえ、森友・加計学園問題でイメージが悪化し、優秀な人材を集められるか不安になっていた中堅職員が嘆く。

「これで本当に誰もこない」

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年7月16日号
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