13歳で小林よしのり著『戦争論』に衝撃を受けるも、まったくの世間知らず状態のまま“誤読”してしまい、「昔の日本人スゴイ」→「日本人であるだけでスゴイ」→「だから僕はスゴイんだ!」という三段論法の“開眼モード”にはまり込んでネトウヨ化してしまったという内田大輔さん(仮名・31歳)。

 思春期を周囲の友人・大人たちに“真実の歴史を布教する”活動に捧げたが、イラク戦争、福島第一原発事故における保守派の言説に違和感を覚える。また、憧れから自衛隊に入隊するも過酷な訓練に耐えられず挫折。自身の言動を冷静に捉えなおすようになり、ネトウヨ活動は終了した。
 ところが、今度は家庭内でとんでもないことが

「実は、父がこの数年で急激にネトウヨ化してしまいまして。スーパーに勤めていて、まもなく定年を迎える年齢なんですが……原因はネットだと思います。昔は転勤族で、早朝から深夜まで忙しく働いていたのですが、年齢とともに地位と時間の余裕ができたんです。そこにインターネットの進化があって、頻繁にネットを見るようになったようで。気が付いたら『ネットで真実に目覚めた!』という状態になっていました」

少年時代の内田さんは、父親から「中国、韓国がどうのなんて言って回るのはやめなさい」とたびたびたしなめられていたが、今では完全に立場が逆転してしまったという。

「父は、家族や親戚の前でも平気で『中国、韓国が』なんて話をしちゃうんですよ。妹の彼氏が遊びに来たときも、『メディアは偏向している! 在日に支配されているんだ! 日本を亡国に導いているのはメディアなんだ!』なんて一方的にまくし立ててしまって。妹も彼氏も、ずっとうなだれて話を聞かされている状態で、これはもうダメだ、一家の恥だと思って、僕が父を自宅マンションの外へ引っ張り出しました。でも、注意するとますます激高してしまって。マンションの廊下で大声で怒鳴り散らして、隣の人がドアの隙間から覗いたり……。ご迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 内田さんの父親は、もともとパソコンやネットには疎かった。しかし、2012年に自民党が政権を奪還し、その2年後、2014年の衆院総選挙で自公325議席獲得の大圧勝をおさめた頃からネットにのめり込むようになっていったという。

「とにかくずーっとネットです。フェイスブックとツイッターを見ているんですよね。昔はパソコンでしたが、急に『スマホが欲しい』と言い出して。もっと情報収集したいという欲が出てきたんだと思います。ちらっと覗いたら、見ているのはネトウヨ界隈の狭い情報だけでした。

 父は、もっとリベラルな考え方の人間で、死刑にも反対していたような人だったんですが、安倍一強になって急展開ですよ。それまで見ていたネトウヨ情報が急激に盛り上がってきたのを感じて煽られたんでしょう。ブームに飲まれて『朱に交われば』という状態です」

 さらに、内田さんの母親にも影響が及んでいるという。

「母には強い思想があったわけではないんですが、父に引きずられてネトウヨ情報に侵されてしまったみたいなんです。母は、沖縄出身なんですよ。すぐ目の前が米軍基地で、かつて銃剣とブルドーザーで土地を奪われてしまったような場所に実家があるんです。それなのに、妹の彼氏に向かって『沖縄の人間は偏向している。翁長知事に投票するのは沖縄の人ではなくて、外部からの運動家なんだ』とか言っちゃって……」

 ため息をつく内田さん。両親がネトウヨ化していった直接のきっかけは、なんだったのだろうか?

「言動がおかしくなったきっかけとして、思い当たるのは、父がフェイスブックをはじめたことなんです。僕がネトウヨ化していったパターンとは違って、両親とも、本も新聞も読みません。家にもほとんど本はありません。その代わりに、ネットの世界で、あくまでも自分の見たいものだけを見ているような状態です。

 父は、安倍晋三が大好きで、フェイスブックでもアカウントをフォローしているんですよね。安倍政権って、メディアやネットへの露出をよく考えていますし、人の心を掌握するのがすごくうまいですよね。会食に行ったり、ビデオレターを出したり、日々の様子をネットに投稿したり。そういうのを見ているうちに、だんだん身近に感じるようになったのかもしれません。父は、『安倍さん、安倍さん』とまるで知り合いのように呼ぶんです。会ったことも話したこともないのにすごく親近感を持っていて、『安倍さんは立派で大事な人なんだ』という感じ。ちょっと異常です」

続く


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2018年06月26日 06:00
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