森友学園と加計学園を巡る国会論戦が1年以上も続くのに、世論調査では国民の過半が政府の説明に納得していない。この異常事態について、ごまかしや論点のすり替えを図る不誠実な政府の国会答弁が原因だとの指摘もある。ネット上でいま、そのカラクリを暴く「ご飯論法」なるものが注目されている。発案者とともに政府の答弁を考えた。【和田浩幸/統合デジタル取材センター】

「朝ごはん食べましたか?」

 ツイッター上に5月上旬、次のような投稿が載った。

Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」

A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」

Q「何も食べなかったんですね?」

A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……」

そんなやりとり。加藤大臣は。

 投稿者は、労働問題に詳しい法政大キャリアデザイン学部の上西充子(うえにし・みつこ)教授だ。働き方改革関連法案を巡る質疑を「朝ごはん」になぞらえ、のらりくらりとした加藤勝信厚生労働相の国会答弁を皮肉った。

 実例の一つが、働き方改革関連法案に当初含まれていた「裁量労働制の適用拡大」(厚労省の統計データ不備発覚で削除)を巡る国会質疑だ。

 裁量労働制は、実際に働いた時間でなく、あらかじめ決めた「みなし労働時間」を基に残業代込みの賃金を支払う制度で、一部の専門的な職種で認められている。これを営業職などに広げる同法案に対し、労働界などは「過労死を招きかねない」と強い懸念を表明してきた。厚労省東京労働局も昨年12月26日、野村不動産が裁量労働制を社員に違法に適用していたとして是正を求め特別指導したと発表していた。

 同法案に反対する野党の追及に対し、安倍晋三首相は東京労働局の指導の例に言及し、「制度が適正に運用されるよう指導を徹底する」と強調していた。ところが、問題の野村不動産で社員の1人が2016年9月に過労自殺し、是正指導の発表と同じ昨年12月26日に労災認定されていたことが、朝日新聞の報道で今年3月4日に発覚。野党側が一斉に反発した。政府が、是正指導という都合のよい部分のみを発表し、裁量労働制のもとで過労死があったことは隠していた−−との疑惑が持ち上がったのだ。

個別問題を一般論にすり替え

翌日の3月5日、参院予算委員会で立憲民主党の石橋通宏議員が質問に立った際、加藤氏との間で以下のやり取りがあった。

石橋氏「(社員が過労自殺し、労災認定されたことを)加藤厚労相は、もちろん知っておられたんでしょうね?」

加藤氏「それぞれ労災で亡くなった方の状況について、逐一私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません」

 石橋氏は「知っておられなかった、と。この事案」と念押しし、新聞各紙も翌日の朝刊で、加藤氏が過労自殺を「把握せず」などと報じた。

 このやり取りについて、上西さんは「加藤氏はきちんと答えていない。野村不動産の事例を聞かれているのに、全ての労災死事案に論点をすり替えている」と見抜いた。

 実際、加藤氏はその後の国会で、先の答弁について「一般論として申し上げた。労災補償の個別事案は常に説明、回答を差し控えさせていただいている」と説明し、5日に答弁した時点で知っていた可能性を否定しなかった。

答えたようで実は何も答えず

 こうした加藤氏の巧妙なレトリックを、上西さんは「ご飯論法」として、ツイッターに次々に投稿した。

Q「では、何か食べたんですか?」

A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、というのは健康のために大切であります」

Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ」

A「ですから……」

Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか」

A「そのように一つ一つのお尋ねにこたえていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので」

 投稿は計3000件もリツイート(拡散)され、「霧が晴れたよう」などとネット上に共感が広がった。

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毎日新聞
2018年5月27日
https://mainichi.jp/articles/20180527/mog/00m/040/004000c