永田町や霞が関では、「男性優位社会」が罷り通る。財務事務次官のセクハラ騒動も氷山の一角だろう。一方で、女性政治家の失言やスキャンダルが俎上にのせられることも珍しくない。女性だからという理由で重宝されている議員は多い、と文筆家・古谷経衡氏は考える。女性を「弱者」とするだけでは何も問題は解決しない。ではどうすればいいか。現役女性閣僚の野田聖子総務大臣に古谷氏が問う。

古谷:小池百合子は昨年の衆院選の惨敗を受けて「ガラスの天井どころか、鉄の天井があった」と語りました。大臣もそう感じた経験はありますか?

野田:鉄の天井というより、私の感覚では日本の政界の真ん中にある鉄の塊という方が近いかな。

古谷:鉄の塊ですか?

野田:そう。アメリカの大統領選で、トップに上り詰めようとした女性をガラスの天井が邪魔をするという例えは分かります。でも日本の政界は違う。トップの周囲で徒党が組まれて塊になっている。政局を画策する鉄の塊のなかには男しか入れない。

古谷:とはいえ、女性閣僚も増えています。政界中枢には女性議員も入ってきている気がするのですが。

野田:そんなことないのよ。閣僚は、組閣の前日や当日に官邸に呼ばれて「あなたのポストはここ」と突然、任命されるでしょう。女性の場合はもっと顕著で、能力や経験、専門分野は無視される。それは任命権者が適材適所より女性閣僚を登用した事実だけを重視しているからです。

古谷:女性閣僚は有権者にアピールするだけの看板、数合わせに過ぎないと。

野田:結果として専門外のポストで、力を発揮できなかった女性閣僚は多い。

古谷:稲田朋美がそうだったかもしれませんね。

野田:誰とは言いませんけど。私の場合、昨年の内閣改造で入閣前にどのポストがいいか、というやりとりをさせてもらいました。

古谷:それでも大臣は鉄の塊から排除されていると感じているのですか。

野田:ええ、塊は完全な男の世界なの。ただ改めて振り返ると10年前、20年前に比べれば、塊に近づき、片足を突っ込んだ実感は持てていますけど。

古谷:完全な男の世界といえば、財務省の事務次官がテレビ朝日の女性記者へのセクハラで辞任する騒ぎが起きました。事務次官を擁護するかのような麻生大臣の発言も問題になった。

野田:ハラスメントにはパワー、モラル、セクシャルの3つがあります。セクシャルの場合、被害者は基本的に女性です。でも、被害者になる側の人間が国会にはほとんどいない。とくに男性が多い国会と霞が関はセクハラに対する意識は遅れていると実感します。

 社会を作っているのは男女半々。だけど、この政策決定の場所である国会と霞が関は、9:1で男性。おのずと、女性が主体となる大切な仕事は後手後手に回る。去年、「強姦罪」が「強制性交等罪」(*)へ改められたけど、刑法改正は110年ぶりのことなのよ。

【*法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げ、起訴するのに被害者本人の告訴が必要となる「親告罪」規定が削除された。なお、女性に限定されていた被害者に男性を含め、性交類似行為も対象とした】

 10人の会議で、9人が賛成で1人が反対しても声は消されてしまう。それは男性でもそうだと思う。

古谷:本当の民主主義だったらその1も尊重するべきなんでしょうけども。さっき野田大臣が言った鉄の塊を打破するのは、宰相に女性が就く以外に解決方法がないのでは?

野田:私が25年やってきての結論はそれですよ。

古谷:それはこの9月に行われる自民党総裁選に出馬されるおつもり、と受け止めてもいいんですよね?

野田:そうなりますね。総裁選は、党員ひいては国民に政治理念や政策を訴える貴重な場です。2015年の総裁選では、その機会を鉄の塊を牛耳る一部の権力者が奪ってしまった。だからこそ、次の総裁選はがんばらなくては、と考えています。

古谷:大臣が日本初の女性宰相になった暁には、鉄の塊はどうなるのでしょう。

野田:私がイチから作り直します。コンテンツもメンバーも異なる新しい中枢にしたい。これまでとはまったく色の違う塊を作りたいと思います。

古谷:ほぉ、新しい仲間ですか。そのメンバーは誰?

野田:まだ内緒よ(笑)。



※SAPIO2018年5・6月号
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