中小企業、農業、伝統工芸の職人…。日本は各方面で後継者不足が深刻だが、自民党も例外ではなさそうだ。第3派閥の額賀派が額賀福志郎会長(74)の退任騒動で揺れている中、党内を見渡すと、主要派閥には額賀氏のような70歳以上の高齢会長が目立つ。カリスマ性を持つ実力会長を抱えるがゆえに、めぼしい後継候補が不在の派も多いのだ。派閥は任意団体で、会長職に任期や改選などはないが、派閥運営の今後に頭を悩ませているケースは多い。

 自民党の7派閥のうち、最大派閥の細田派(清和政策研究会、95人)を率いる細田博之会長は73歳で、第2派閥の麻生派(志公会、59人)の麻生太郎会長は77歳の喜寿を迎えた。第5派閥の二階派(志帥会、44人)では、党全体も率いる二階俊博幹事長が派閥領袖として最高齢の78歳だ。今月17日に79歳となる。

 この3派に共通するのは、めぼしいポスト「細田」「麻生」「二階」候補が見当たらないことだ。

 細田派は安倍晋三首相(63)の出身派閥だが、仮に首相が9月の党総裁選で3選を決め、任期満了まで務めるならば、平成33年9月まで派に戻らない。同派には文部科学相や党総務会長を務めた塩谷立選対委員長(67)や、首相が「ポスト安倍」候補として期待する稲田朋美元防衛相(58)らがいるが、巨大派閥を一手にまとめ上げるような細田氏の後継候補は見当たらない。

 同派では、細田氏の前任の会長を務めた町村信孝元衆院議長(1944〜2015年)が安倍首相とともに24年の党総裁選に出馬し、派内の議員が両氏の陣営に分かれ戦った経緯もある。細田氏が緩やかに派の連帯を保つ現状を考えると、細田氏が会長職を退いた後の同派をだれがどう運営するのか極めて不透明だ。

 一方、麻生、二階両派では、それぞれの会長が強力なリーダーシップを持つがゆえに、後継候補がなかなか育たない環境もありそうだ。

 麻生派は昨年7月、山東派(番町政策研究所)と谷垣グループ(有隣会)の一部と対等合併し、党内第2派閥に急成長した。麻生氏は副総理兼財務相として5年以上安倍政権を支えていることもあり、党内の影響力は絶大だ。

 麻生派には、最近「ポスト安倍」候補として台頭した河野太郎外相(55)がいる。麻生派の前身の「大勇会」(河野グループ)を率いた河野洋平元衆院議長(81)は太郎氏の父であり、党内では「麻生派の後継は河野太郎氏」との見方もある。

 しかし、ある麻生派議員は「太郎氏が派を率いるまでの求心力を持つには、相当長い時間が必要だ」と語る。派閥領袖ともなれば、所属議員への細かな選挙応援やポストの配分など、物心両面の供給体制を整える必要があるが、「太郎氏はもう少し派のために汗をかく姿勢をみせてほしい」との声は強い。
 
 もっとも、太郎氏の政治家としての魅力は、派閥単位などの特定のしがらみにとらわれずに物事をズバッと言い切るような面にもある。過去の言動をみれば、本人も決して「派閥」に固執しているわけではないと思うのだが…。

 他方、麻生派には副会長の山口俊一元沖縄北方担当相(67)や鈴木俊一五輪相(64)、事務局長の松本純前国家公安委員長(67)らがいるが、積極的に「ポスト麻生」候補を探し出しているようには見えない。麻生派幹部は「麻生会長の肌のつやを見れば、まだ『ポスト麻生』なんて考えるときでない」と語る。

 麻生派以上に後継者が見当たらないのは二階派だ。二階氏は昨年10月の衆院選で落選した元議員を含め、派のメンバーを物心両面で支えている。派の結束力は党内随一ともいわれるが、同派中堅は「二階氏のカリスマ性が高いだけに、『ポスト二階』の議論など始まる気配がない」と打ち明ける。

 二階派には、会長代行の河村建夫衆院予算委員長や林幹雄幹事長代理らがいるが、河村氏が75歳、林氏は71歳と高齢だ。派にめぼしい後継候補がいないことについて、同派の議員は「将来、他派の草刈り場になりかねない」と危機感を募らせる。

 お家騒動の額賀派でも、後継会長に目される竹下亘総務会長は71歳だ。一方、同じ派閥領袖でも「ポスト安倍」と目される岸田派(宏池会)会長の岸田文雄政調会長は60歳、石破派(水月会)会長の石破茂元幹事長は61歳、石原派(近未来政策研究会)会長の石原伸晃元幹事長は60歳と、老練領袖とは10歳以上の差がある。63歳の安倍首相は3人より若干の先輩だが、世代は岸田氏らと同じ層に属する。こうみると、自民党を統率するベテラン層にも10年間ほどのみえない「世代の壁」が横たわっていることが分かる。

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