2018年1月22日 朝刊 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018012202000140.html

フィリピン人技能実習生(25)が職場の暴力に耐えかねて労働組合に加入したところ、実習生の受け入れ窓口となった監理団体「AHM協同組合」(群馬県高崎市)が労組にファクスを送り、実習生を脱退させるよう求めたことが分かった。実習生にも労組加入の権利があるが、実習生を保護する監理団体などが役割を果たしていない形。労組は不当労働行為として神奈川県労働委員会に救済を申し立てた。

 ファクスには公益財団法人「国際研修協力機構」(JITCO)などがAHMに対し、労組加入者は実習先が見つからないとの見解を示したとも記載。これが脱退要請につながった可能性もある。

 労組脱退要請について労組側は「証拠が残るのは珍しい」とした上で、氷山の一角が露呈したとの見方を示している。

 この実習生らによると、二〇一五年四月に来日した実習生ら四人は埼玉県の建設会社で勤務。殴る蹴るの暴力や「ばかやろう」など暴言を日常的に受け、一六年十二月に労組「神奈川シティユニオン」に入った。

 シティユニオンはAHMやJITCOに四人の新たな実習先を探すよう要求。AHMは昨年四月十九日、シティユニオンへのファクスに「実習の継続意志があるということですが、東京入国管理局および、JITCOが労働組合に加入している技能実習生を受け入れる企業は見つからないとおっしゃっていましたので、移籍先企業を見つけるためにも貴組合を脱退させていただけますでしょうか」と記した。

 AHMは取材に「ファクスの評価は係争中のため回答を差し控える」、JITCOは「係争中の案件につき、対応や回答は控える」とした。東京入管は「個別事案への回答は控えるが、一般的には入管が実習生を労組から脱退させるよう指導することはない」と答えた。

◆権利全く理解せず
<神奈川シティユニオンの村山敏(さとし)執行委員長の話> 今回の文書は、監理団体や国際研修協力機構など技能実習制度に関わる当事者が労働組合を排除したいという論理で動いていることを露呈したと言える。よくあることだが、証拠に残す形でやるのは珍しく驚いた。人権擁護や労働法順守の中で実習生を労働者として受け入れるのではなくて、安価な労働力としてモノ扱いする実習制度そのものが問題だ。AHMは文書について「脱退した方が早く新しい実習先が見つかると思い善意で提案した。脱退工作はしていない」と主張しているが、理由にならない。

<外国人技能実習制度に詳しい指宿(いぶすき)昭一弁護士の話> 文書からはこの監理団体が憲法で保障された労働基本権を全く理解していないことが分かる。使用者は労働者より圧倒的に力が強いため、使用者の労働組合への支配介入を禁じるルールが生まれた。労働法の最も重要な部分の一つであり、これを外れてしまう監理団体は失格だ。企業にとって外国人実習生のメリットは、日本人と違い労組や弁護士に駆け込まない「文句を言わない労働者」という点にある。今回の文書は正直な現状の表明だが、認められるものではない。労働基本権が守られる仕組みになっていない技能実習制度そのものを廃止すべきだ。

<監理団体> 外国人技能実習生を受け入れる団体で、実習先の企業を訪問したり実習生との面談をしたりし、技能実習が適切に実施されているかを確認、指導することが役割。商工会や中小企業団体、農協や漁協など非営利の法人であることが要件で、昨年11月の技能実習適正化法施行により法相と厚生労働相による許可制になった。法務省によると2016年、監理団体35機関で偽造文書の行使など計59件の不正行為があった。

<不当労働行為> 使用者が、労働組合員であることを理由に労働者を不利に扱ったり、正当な理由がないのに団体交渉を拒否したりする行為。憲法が保障する労働者の団結権や団体交渉権の侵害となり、労働組合法が禁止している。労組法に基づき設置された労働委員会による救済制度がある。不当労働行為と判断されれば、労働委は是正のための救済命令を出す。