2018.01.04 現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54058

■「だまし取った」で終わりではない
昨年12月、眠っていた東京地検特捜部が目を覚まし、スーパーコンピューターの世界で日本をリードすると目されていた斎藤元章被告を逮捕起訴、国家プロジェクトのリニア中央新幹線で談合を繰り返していた疑いでゼネコン大手4社を家宅捜索した。

事件は今年、本番を迎える。

斎藤被告の罪は、経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の13年度事業で、上限5億円の助成金のうち4億3100万円をだまし取ったというものだが、これで終わりではない。

斎藤被告は、「スパコンの天才」といわれ、省力化・小型化分野の「グリーン500」では世界ナンバー1を達成、計算速度を競う「トップ500」でもナンバー4に入るなど、実績は残している。だが、事業に直結はしておらず、その資金不足を国からの助成金に頼り、少しでも多くの資金を手にするために、ウソを繰り返した。特捜部は余罪を追及するとともに、脱税容疑の捜査も本格化させる。

その先に広がっているのは「政官ルート」である。経歴にも実績にも問題はないが、巨額資金を必要とするスパコン開発のために、国からの助成金を当てにして政界ルートを模索、多くの政治家の知己を得ていた。

なかでも親密だったのが麻生太郎財務相である。元TBSワシントン支局長で麻生財務相と親密な山口敬之氏は、斎藤氏が経営するペジーコンピューティングの顧問だった。TBS退社後、その職を得て、斎藤氏の提唱するシンギュラリティ(人工知能が人間の臨界点を越す現象)に備えるための財団法人や政治団体を設立、代表に就くのは麻生、斎藤、山口、三氏の親密さの証だった。

斎藤氏が国から得た助成金は約100億円で、NEDOからの約35億円の他に、文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)から16年度予算で、ペジー社の関連会社のエクサスケーラーに60億円の融資枠が付き、既に52億円が支払われている。

この助成は、昨年度補正予算の「未来創造ベンチャータイプ」として緊急募集されたもので、JSTに割り振られた120億円の予算のうちの半分をエクサス社が手にした。しかも、予算付けなどに権限のある財務省の文科省担当主計官は、麻生財務相の元秘書官だった。

「偶然」というには、予算にまつわる人脈が近過ぎる。今年1月の通常国会では、間違いなく野党が追及するだろう。

■ゼネコン談合にも「政界ルート」が
ゼネコンのなかで、大林組、鹿島建設、大成建設、清水建設という群を抜く大手のスーパーゼネコン4社の談合を疑った事件にも「政官ルート」はある。

リニア中央新幹線のゼネコン捜査は、大林組に対する偽計業務妨害容疑での家宅捜索から始った。この捜索を受けて大林組は、独占禁止法違反(不当な取引制限)での摘発が逃れられないと判断、課徴金減免制度に基づき自主申告した。この申告によって、大林組は刑事罰の適用を免れ、課徴金も減免される。

もともと、リニア中央新幹線で談合が行われているという情報は、公正取引委員会にもたらされており、ある程度の証拠と証言は集まっていた。しかし、「国家プロジェクトに手をつけるには証拠が弱い」として、検察に強制調査を阻まれていた。9月に「特捜のエース」の森本宏検事が特捜部長に就任、人を得てようやく捜査着手に漕ぎ着けた。

検察関係者が内幕を明かす。

「偽計業務妨害での着手は、独禁法違反でスーパーゼネコン4社を狙う布石。最初から談合体質の摘発が狙いだった」

ただ、事件を追う司法記者は、取材先のゼネコン関係者から「談合必要悪論」を突き付けられて、怯むことが少なくないという。

「限られた工期、対応できるゼネコンの少なさ、安心できる工事などを考えると、談合というか業者間の調整は仕方がない、というゼネコンの主張もわかる。

それに、リニア発注者のJR東海は民間企業。求められる技術と、それに相応する価格をJR東海との折衝のなかで引き出すのは営業努力であり、JR東海もある程度の調整を認め、子会社のJR東海建設に発注したりと、ゼネコンの論理で動いている。罪に問うほどのことかと、正直、悩む」(大手紙検察担当記者)

そこにメスを入れる必然性は、予算9兆円のうちの3兆円の財源が財政投融資であることに求められる。つまり、JR東海は民間企業であっても、リニアは国のカネが入った国家プロジェクト。独禁法違反の受注調整は許されない。