2017.11.20 16:00 ニュースポストセブン
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もうすぐ一年が終わると感じる風物詩のひとつに、その年の新語・流行語大賞の発表がある。ノミネート語が発表されると、あの言葉が入っていないのはおかしい、どうしてこのフレーズが採用されたのだとSNSなどで好き勝手に論評されるのもお約束の光景だ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、今年のノミネート語に特徴的なある変化について考えた。

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 ユーキャン新語・流行語大賞のノミネート語30が発表されたが、ラインナップを見た瞬間、ネットに対する「脅え」を感じた。何しろ右派が左派を批判する定番である、ネット用語で言うところの「反日的」「日本貶め」系の言葉が見当たらないのである。

 2014〜2016年にかけ、流行語大賞は年末恒例のバッシング対象となった。2014年は「集団的自衛権」と日本エレキテル連合の「ダメよ〜ダメダメ」がW受賞。衆院選直前だっただけに伝統的に右派の強いネットでは、左派のメッセージだったのでは、との憶測が多数書き込まれた。

 朝日新聞はこの件について〈選考委員のジャーナリスト、鳥越俊太郎さんは「特定秘密保護法から始まってアベノミクス、集団的自衛権、原発再稼働も、国民が反対しているにもかかわらず政府は少しずつ推し進めた。それに対して国民の気持ちを最もよく表すのが『ダメよ〜ダメダメ』」と総括した〉とも報じており、選考委員の思惑を反映した形との指摘もネットでは出ていた。

 2015年、右派は再びざわめいた。トップ10に「アベ政治を許さない」と「SEALDs」が入ったのだ。安倍晋三首相が提唱する「一億総活躍社会」も入り、バランスを取った形になったものの、この言葉自体が失笑されていただけに皮肉にも取れる。この年はエントリー語もなかなか左派色が強かった。

「I am not ABE」「戦争法案」「自民党、感じ悪いよね」「とりま、廃案」など反政権の言葉が続き、安倍氏の暴言である「早く質問しろよ」も入り、「存立危機事態」「駆けつけ警護」「国民の理解が深まっていない」など安保法案に関するものも選ばれた。

 2016年は「保育園落ちた日本死ね」を山尾志桜里氏が受賞。この時も「日本死ね、とはなにごとだ!」と右派が激怒し、主催であるユーキャンは「反日企業」認定された。イメージを上げるための活動でこうなってはたまったものではない。

 流行語大賞のノミネート語は読者アンケートを基に「現代用語の基礎知識」編集部が選ぶので、もしかしたらアンケートに含まれてもいないのかもしれないが、豊田真由子元議員の「ちーがーうーだーろー!」が入っているにもかかわらず、子供達の間でも流行語となった「このハゲー!」は「排除」。ここには自民党の不倫疑惑議員・今井絵理子氏で知られる「一線を越えない」配慮があったのかと邪推してしまうのである。

 今年の言葉で反政権色のあるものは「忖度」だが、これの大元となった「モリカケ問題」や「総理のご意向」「お友達」「アッキード事件」は入っていない。メディアに多数報じられたといえば、都議選最終日の秋葉原での街頭演説における「アベ辞めろ」「こんな人たちに負けるわけにはいかない」だが、これらも以前であれば入っていてもおかしくない。

 昨年までの政権批判的な論調が影を潜めた今年のノミネート語の数々。これこそ「忖度」なので今年は「忖度」に大賞をあげ、選考委員も「様々な忖度の結果選ばれました」とスピーチしちゃえば?

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2017年12月1日号

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