2017.11.16 DIAMOND
http://diamond.jp/articles/-/149090

 北朝鮮は9月15日の「火星12」の発射後2ヵ月間、弾道ミサイル発射を行っていない。従来、北朝鮮は米軍・韓国軍の共同演習を威嚇と見て、それに対抗しミサイルを発射、また国連の制裁決議に屈しない姿勢を示すためにもそうした行動を取ってきた。だが、トランプ大統領の11月5日からの日本、韓国、中国などの歴訪や日本海での日米、米韓海軍共同演習に対し、報道では口を極めた反発を示しつつ、軍事力の誇示を控えている。それはなぜかを考えてみた。

■「核戦力の建設達成」は「中断」の弁明  米国の軍事圧力に一定の効果か
 唐突だったのは、朝鮮の「労働新聞」が10月28日号の論評で「核戦力の建設は既に最終完成の目標が全て達成された段階にある」と報じたことだ。

 その1ヵ月以上前の9月15日には、北海道上空を経て北太平洋に落下した「火星12」の発射実験を視察した金正恩国務委員長が、「(開発は)終着点にほぼ達しているので全力を尽くして終えなければならない」と語った、と北朝鮮で報じられた。

 わずか1ヵ月そこそこで、何がどう変わったのか。10月28日に突然「核戦力建設の目標は全て達成された」と発表したのは、ミサイル実験を今後行わない、しばらく中断することの内外に向けての弁明ではないか、と考えられる。
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 北朝鮮の核・ミサイル開発は、1990年に当時のソ連が韓国を承認して国交を樹立、92年に中国もそれに続き、両国が北朝鮮に武器輸出を停止したため本格化した。

 ソ連、中国に見放された北朝鮮は孤立し、経済は衰弱、兵器の更新もほとんどできない状況にある。圧倒的に通常戦力で優勢な米軍・韓国軍に対して北朝鮮が抑止力を持とうとすれば、その最終目標は米国本土を確実に狙えるICBM(大陸間弾道ミサイル)と核弾頭の保有だったはずだ。

 9月15日に金正恩委員長が「終着点にほぼ近付いた」と言ったのは、そうした悲願ともいえるICBMの完成が近いことを示した、と考えられる。だが課題は残っていた。

 7月28日に発射した「火星14」は米国とロシアの間のICBMの飛行時間を上回る、47分間も飛び、理論上は、米本土ほぼ全域に到達する力を持つ。

 だが大気圏突入時の弾頭の姿勢制御や、その際に空気が圧縮されて生じる約7000度の高熱に耐え得るか、などの課題が残り、少なくとも完成までにはあと数回の発射実験が必要、と考えられていた。

 その後、北朝鮮は8月8日の人民戦略軍の声明などで、グアム島周辺の海上に向け「火星12」を4発発射する計画を公表、島根県などの上空を通るその軌道まで通告していた。ところがそれは実施せず、8月29日に北海道南部上空を経て北大平洋に向け「火星12」1発を発射しただけだった。

 グアム周辺への威嚇発射をやめたのは、米国がそれに怒って軍事的圧力を強化し、武力衝突に発展すれば北朝鮮の敗北は必至だったからだろう。

 米軍に攻撃されて、残った核ミサイルを急いで韓国、日本に撃ち込んだとしても、「刺し違い」となるだけで、北朝鮮は滅亡するから、米国に対し余りに露骨な威嚇は避けたものと考えられる。

 さらにその後、9月3日に北朝鮮は初の水爆実験を行い、9月15日に「火星12」を再び北太平洋に発射した。だが、それ以降2ヵ月ミサイル発射を行わず、10月28日に「核戦力建設の目標を達成した」と発表した。

 これは米国の軍事的圧力が北朝鮮に核廃棄を強いるほどの効果はなくても、ある程度自制をさせる役には立つことを示した、と考える。