参院選で安倍政権は力を増したが、四海波高く、未来は五里霧中だ。

 安倍晋三首相(61)の政治の師、小泉純一郎元首相(74)はどう見ているのか。聞いてみた。

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 −−ご感想は?

 「与党が大勝したからって、そんなに変わるもんじゃないよ。これから大変だよ。アベノミクス」

 「これまで、目標はわかるけど、その通りにいってるか、実証しなくちゃいけない。『目標と実態が違うじゃないか』っていう人が出てくるよ。勝ったからって、浮かれていられる状況じゃないんだよ。もっと厳しくなるんだよ」

 −−でも、勝利は力。

 「足場は固まるさ」

 −−外交はやりやすい。

 「(安倍外交は)安定感あるよね」

 −−勝負度胸、政権運営術は小泉譲りでは?

 「いやいや(笑い)。まあ、時代だよ、時代。民主党(現・民進党)の失敗のおかげでもあるな」

 −−民進党が苦しい。

 「ひどいよ、あれ。ガッタガタじゃないか。何やってんだよ」

 −−改憲は?

 「あれは民進党と相談しなけりゃダメよ。最初から自民党案突き付けて『やろう』ったって、できるわけねえじゃねえか」

 −−いまの自民党改憲草案、小泉政権の時の案よりも復古調ですね。

 「見てないよ」

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 参院選で、いわゆる「改憲勢力」が、改憲発議に必要な両院の3分の2を超えたが、<9条改憲>が動き出す気配はない。

 それもそのはず、そもそも、「改憲勢力」の分類に疑問がある。

 日本のマスコミは、憲法の条項を問わず、なんであれ、憲法改正自体を否定しない政党、政治家を「改憲勢力」と呼んでいる。

 他方、ニュースを眺める側は、「改憲勢力」と聞けば、<9条改憲>に積極的な勢力のことだと思ってしまう。

 実態を見れば、「改憲勢力」に分類されている公明党は、<9条改憲>に抑制的である。自民党にも<9条護憲>派がいるし、「護憲勢力」の民進党にも<9条改憲>派はいる。

 つまり、国会の3分の2を占めたのは「憲法改正自体は否定しない勢力」であって、急進的な「9条改憲勢力」ではない。

 日本人が突然、右傾化したわけではない。

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 第二次大戦後、日本人の憲法観にはさまざまな変遷があった。冷戦終結後の1990年代以降は、グローバリゼーションを背景として、曲折を経ながらも「必要なら憲法改正を」という考え方が増えた。

 毎日新聞の世論調査によれば、一般論で「憲法改正に賛成」は、2006年と12年に65%に達した。

 それが、自衛隊・航空幕僚長の憲法軽視発言や安保法制の混乱が注目を浴びた局面では急落した。

 今春の調査では、「憲法改正に賛成」が42%(反対も42%)、9条改憲賛成は27%(反対52%)という比率になっている。

 国民は議論の進め方に敏感であり、力任せの<9条改憲>など「できるわけねえ」現実がある。

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 眼前の不安は経済だ。

 なるほど、代案が見当たらないが、アベノミクスが手放しで支持されたとは思わない。安倍首相は財政出動「加速」を宣言し、財政赤字は制御不能に陥りつつある。強気が虚勢に見えてしまう。浮かれていられる状況ではない。

https://mainichi.jp/articles/20160718/ddm/002/070/073000c?inb=ys
https://cdn.mainichi.jp/vol1/2016/07/18/20160718ddm001010060000p/8.jpg