北方領土における日露共同経済活動に向けた視察を終え、1日に北海道・根室港の岸壁に降り立った官民調査団の参加者は、一様に明るい表情を浮かべていた。

 「金融に関しては問題ない。共同経済活動へのハードルは低くなった」

 調査団に参加した信用金庫に勤める男性は帰港後、視察の感想をこう語った。男性は島内の様子について「予想以上にクレジットカードが浸透している。日本よりもカードを利用できる店舗は多いかもしれない」と振り返った。小売り関係者の男性も「向こうにも日本の商品が結構並んでいて、2、3倍の値段だった。日本製品に対するニーズは高い」と話す。ビジネスとして成り立つかだけに着目すれば、実現可能性は高まったといえそうだ。

 調査団団長の長谷川栄一首相補佐官は記者団に対し、当初の想定を上回る64カ所を視察したと説明し、「(露側からは)時間があればもっと見せたかったといわれた」と胸を張った。日露双方が積極的に協力している姿をアピールしたい思惑がのぞく。

 ただ、日本側が長谷川氏を筆頭に外務省の正木靖欧州局長を含む重厚な布陣で臨んだのに対し、露外務省の参加者はたった1人だった。直前になって日本側が希望した視察が取りやめになった箇所も複数あった。国境警備隊の立ち入り制限区域の近くだったことが原因とされる。

 日露両政府は追加的な視察を行った上で、9月上旬の首脳会談で具体的な事業の選定にこぎ着けたい考えだ。このために乗り越えなければならないのが、双方の法的立場を害さない「特別な制度」だ。

 「特別な制度」をめぐる日露交渉が本格化するのは事業選定に一定のめどが立ってから。主権に関わる問題だけに、露側がロシア国内法の適用をかたくなに主張する可能性は否定できない。この点で合意できなければ日本側が共同経済活動に乗り出すのは難しく、今回の視察で膨らんだ期待は絵に描いた餅に終わりかねない。(大橋拓史)

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