米国で「第五の権力」と呼ばれるシンクタンク。トランプ政権下で役割は変貌を始めたのか。『アメリカ政治とシンクタンク』を書いた帝京大学法学部講師の宮田智之氏に現状について聞いた。

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 ──米国の歴代政権にはシンクタンクから大挙して幹部要員が登用されました。

 米国の場合、政権の主要役職は政治任用であり、4000人近くの人材がシンクタンクなどから新たに登用され、また前政権の退任後の受け皿にもなってきた。

 これまでの政権ではシンクタンクの在籍者が政府要職に起用されるのがパターンだった。ところが、トランプ政権にはこの動きが明確に見られない。過去の政権に比べ圧倒的に少ない。ヘリテージ財団が早くから支持し応援していて、最も近いといわれていたが、従来ほど政府高官に起用されているわけでもない。ほかの主要なシンクタンクに至ってはわずかに1人とか2人だ。

■登用された人材が少ないということは…

 ──政官界との「回転扉」の人材源といわれていました……。

 シンクタンクに所属する研究員の多くは政府での経験が豊富。登用された人材が少ないことは、今の政権に政策や統治に長けた人材が乏しいことを意味する。特に外交、安全保障については皆無に近い。大統領選挙で“ネバー・トランプ”を掲げ歯向かった人たちを、トランプ政権は許さなかった。端的な例が国務副長官人事で、代表的な外交専門家の選挙当時の発言が発覚して直前に外された。

 ──現副大統領はシンクタンク経験者とか。

 仮にそのマイク・ペンス副大統領が昇格したら、大挙して政権に入ってくるようになるのではないか。ペンス氏自身がシンクタンクで育まれた人材だ。1990年代にインディアナ州の中規模シンクタンクの所長を務めている。当時からヘリテージ財団などと交流があり、保守系のシンクタンクとの関係は密接だった。


 ──保守系とは。

 米国でシンクタンク業界が大きく発展したのは1970年代。保守系が台頭したのがきっかけだった。1990年代に入るとリベラル系が覚醒する。私の集計では、主要シンクタンクは現在392あり、その8割以上がイデオロギー系、つまり保守系とリベラル系のシンクタンクだ。

──両者は何が違うのですか。

 今や主義主張がはっきりしている。保守系は「小さな政府、自由市場、強固な国防、伝統的な価値の推進」を重視し共和党寄り。リベラル系は「積極的な政府、プログレッシブな政策、環境保護、消費者保護、社会的正義、軍縮の推進」で民主党寄りだ。

 これらに対して伝統的な中立系もある。よく知られたブルッキングス研究所、外交問題評議会、カーネギー国際平和財団、戦略国際問題研究所、ランド研究所といったところだ。客観的な研究、独創性を志向している。

■保守系がシンクタンクの活動を変えた

 ──ただ、保守系やリベラル系が政治を動かすアクターなのですね。

 保守系がシンクタンクの活動を変えた。政策提言でマーケティングの手法を導入して、短めのペーパーをどんどん出す。特にヘリテージ財団は短時間で読める簡潔平易なペーパーによってアイデアを売り、成功を収めた。その後に出てきたシンクタンクは保守系もリベラル系もそれをモデルにしている。

 もう1つ、保守系が出てくることによって政治運動を担うという重要な役割が付与された。保守派にとってシンクタンクづくりは自分たちの政治インフラを強化する一環だった。大学の世界は伝統的にリベラル派寄りであり、保守派にとって知的基盤として居場所にならない。そこで注目したのがシンクタンクだ。保守的な知識人を集め、そこでの活動を保守主義運動の原動力にするというコンセンサスが生まれた。それが1980年代にレーガン政権で成功を収め、その後も順調に伸びた。

 ──対するリベラル派は。

 1994年の米国議会の中間選挙において、共和党が下院の過半数を40年ぶりに奪回し、保守優位が明らかになる。リベラル派は真剣に考え直し、保守派の動向を学習する。シンクタンクが重要なのだとの認識がリベラル派の中に出てくる。その動きの先頭に立ったのがジョン・ポデスタ氏だ。2002年に米国進歩センターを立ち上げる。そこを核にリベラル系が一気に発展していく流れが生まれた。


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