http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170628/soc1706280014-n1.html
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「財政再建待ったなしだ」「少子化の日本はもう経済成長は難しい」「日銀の出口戦略が急務だ」−。本コラムの読者ならあれっと思うだろう。こうした記事が、経済紙など大手メディアに平気で出てくるのはなぜか。

 大手経済紙は、毎日大量の記事を生産しなければいけない。すべてのニュースソースを自社の記者だけで発掘できればいいのだろうが、そうもいかない。

 となると、常にニュースソースを提供してくれるところがあれば便利だ。日本の場合、その役割を担っているのが、役所なのだ。そして役所からみても、大新聞は、みずからの政策を広く世間に知らせるために便利な道具だといえる。

 そうした両者の思惑が一致して、日本独特の「記者クラブ制」ができている。このため、役所内の一室がマスコミにあてがわれ、記者が常駐し、記者はアポイントメントなしで役人と接触し取材できる。

 クラブ記者は原則として役所内の職員と同じようにどこでも出入り自由である。役所内の職員食堂も職員と同じように利用できる。記者は文字通り、役人と同じ釜の飯を食う仲になって、役人と話をしながら、新聞ネタをもらう。
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 経済関連で特に重要なのは財務省と日銀である。記者クラブは、財務省が財政研究会、日銀が日銀クラブとよばれており、大手新聞の経済記者にとっては幹部への登竜門となっている。ということは、大手新聞社の幹部には、財務省や日銀の考え方に染まった人が少なくない。大手新聞にとって、財務省と日銀は新聞ネタを提供してくれるところでもあり、記事の「ウラ」を取れるところでもあり、さらには経済を教えてくれる「先生」でもあるのだ。

 そうした環境では、財務省や日銀の伝統的な考え方が、大手新聞でも支配的になっても決して不思議ではない。

本コラムの読者であれば、財務省が事実上、増税を「省是」としているのをご存じだろう。このため、「財政再建待ったなしだ」というのは、マスコミにとって疑う余地のない言葉になる。いくら、日銀を含めた「統合政府」のバランスシート(貸借対照表)を見せて、「財政再建は事実上終わっている」と言っても信じない。

 「少子化の日本は経済成長できない」というのも、成長による増収を見込めないことは財務省に好都合なので、好まれる。だが実は、先進国並みの経済成長だと財政問題は解消する。「ICT(情報通信技術)投資で、成長率の1%くらいのかさ上げは可能なので、人口減少を心配する必要はない」と言っても、人口減少を過度に強調するのは困ったものだ。

 一方、日銀はアベノミクス以降大きく変わったが、マスコミは古い体質を引きずっている。金融緩和は良くないというかつての日銀遺伝子がまだマスコミにはびこっていて、「日銀は早く出口戦略を」という記事が出てくる。

 この観点では「金融政策が雇用政策である」ことは全く忘れ去られ、金融緩和で失業率が下がったことも無視される。こうした事実は、拙著『「日経新聞」には絶対載らない日本の大正解』(ビジネス社)でも詳しく書いている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)