サッチャー革命が残した傷跡
6/29(木) 17:01配信 ニュースソクラ
1984〜85年の炭鉱ストライキに参加した元炭鉱夫ウェイン・マンクリー(中央、筆者撮影)
【資本主義X民主主義4.0】第二部 供給は自らの需要を生み出すか パリ協定離脱を望んだアメリカの炭鉱夫
 [南ウェールズ発]メタンガスに引火するのを防ぐため腕時計や携帯電話、カメラをロッカーにしまったあと、元炭
鉱夫のビル・レイチングス(74)は酸素マスクとヘッドライト用充電電池を腰に巻いてくれた。

 リフト(昇降機)は秒速2メートルのスピードでゆっくり約90メートル地下に下りて行った。真っ暗な炭鉱では、18
世紀以降、イギリスの産業革命を支えた南ウェールズの良質な石炭が光沢を放っていた。

 「アメリカと国民を守る私の厳粛な職務を遂行するため、アメリカはパリ協定から離脱する」。

 2020年以降の地球温暖化対策を定めた国際枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言したアメリカ大統領ドナルド・トラ
ンプをどう思うか、ビルに尋ねてみた。

 15歳の時から30年以上、南ウェールズやオーストラリアの炭鉱で働いたというビルは大きな目を見開き、「トランプ
は正しい。炭鉱を閉鎖して仕事を奪うのは間違っている」と断言した。

 南ウェールズでは中世から小規模の石炭採掘が行われてきた。南東部のブレナヴォンでは豊富な鉄鉱石、石炭、石灰
岩、水資源を利用して1789年、最初の炉が作られた。採掘の規模は19世紀になって拡大し、製造された鋼鉄は世界に輸
出された。

 ビルが案内してくれた廃坑ビッグピットは、ブレナヴォンの製鉄を支えた34の縦坑、162の横坑の一つだ。1920〜30
年代、アメリカやドイツとの価格競争に負け、37年に最後の製鉄所の火が消えた。

 ビッグピットも79年に閉鎖された。80年代のサッチャー革命で競争力を失ったイギリスの炭鉱と労働組合は引導を渡
された。84〜85年の炭鉱ストライキ前には170の炭鉱で19万1000人が働いていたが、90年代前半に1万人にまで縮小した


 ある支援団体の900人追跡調査では、1年以上たっても46%が失業、9%が職業訓練・教育中で、仕事にありつけた44%も
大幅な賃金カットを強いられていた。

 彼らがその後、どんな人生を送ったのか知る大掛かりな公式記録は残されていない。さびれた旧炭鉱町の失業率は高
止まりし、次世代の犯罪や薬物使用が横行した。60年代、50万人が1億7700万トンの石炭を生産していたが、深部採掘
は2015年12月を最後に歴史の幕を閉じた。

 炭鉱ストに参加したウェイン・マンクリー(54)は「トランプの離脱決定はとんでもない間違いだ。温暖化を防ぐた
め石炭火力発電の浄化を進めるのが正解だ。石炭のよりクリーンな利用を進めれば雇用が生み出されるはず」と強調し
た。
 
 以下略
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170629-00010001-socra-int