曜「私と梨子ちゃんとでラブソングをデュエット!?」
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千歌「進んできてますね、デュオトリオ楽曲も」
ダイヤ「そうですわね。どのチームも進捗に差こそあれ本番までには何とかなるでしょう」
千歌「もう、あんなに発破かけるように言い方しなくてもいいのに。ダイヤさんスパルタなんだから」
ダイヤ「あら、Aqoursとしてパフォーマンスするのですから当然です。ましてやラブライブ本選も控えているのです。……まあ、とはいえ、正直途中までは冷や冷やしてましたが、何とか形になりそうで安心しています」
善子「ルビィと花丸が楽曲を作り直すって言った時はびっくりしたわね。それまでの曲も十分素敵だったのに。正直ヨハネには何が悪かったのか分からないわ」
千歌「でも、二人とも、すごく楽しそうだよ。前よりも余裕は無くなってるはずなのに」
ダイヤ「ふふ、そうですわね。きっと何かあったのでしょう」
千歌「むむむ、ひょっとしてダイヤさん、何か知ってるんですか?」
ダイヤ「いいえ、何も」
千歌「え〜、怪しいなあ」 善子「リリーたちも前半の遅れが嘘のように進みだしたわね。何があったのかしら」
ダイヤ「元々お二人は十分な能力を持っていますから。流石という感じですね」
千歌「そうだよ! 梨子ちゃんと曜ちゃんはすごいんですから! 完成した曲も楽しみだよ!」
善子「なんで千歌さんが偉そうな訳……?」
千歌「でも、進捗という意味では、やっぱりダイヤさんも果南ちゃんも鞠莉ちゃんもすごいなって。果南ちゃんたちはぶっちぎりで一番に完成したし、完成度もすごい。ダイヤさんはしっかりと予定を立てて、少し余裕を見ながらその通りにきちんと進めてくれてる。千歌たち、ずっと勢いで作ってたから、こんなやり方もあるんだって思った」
ダイヤ「どのやり方が正解ということはありませんが、昔からの癖のようなものですわね。千歌さんに向いているかは分かりませんが、参考になればよかったです」
善子「ふと思ったんだけど」
千歌「?」
善子「最初に呼び出されて、このイベントの打ち合わせに行ったのって、この三人だったじゃない? そしてそこで、ダイヤがデュオトリオの組み合わせを決めた。もしかして、この組み合わせって何か狙いがあったんじゃないの?」
ダイヤ「…………」
千歌「ほぇ?」
善子「いや、何となくなんだけど。ここまで計画的に物事を進めるダイヤが、ただファンからの希望だけで組み合わせを決めるかなって。何かダイヤには目的があるのかなって思っただけよ。ラブソングなんて課題も運営からは出てなかったじゃない」
千歌「そうなんですか? ダイヤさん。ラブソングは確かにその方が面白そうだから黙ってたけど」
ダイヤ「ふふ、そうですね。今まで楽曲制作に関わってなかったメンバーに曲作りの経験をされることで、自分たちのパフォーマンスに対する理解を深める——最初のミーティングで言ったこれ以外にも、今回のデュオトリオでの活動、組み合わせにはわたくしなりの狙いや意味はあります」
善子「やっぱり……」
ダイヤ「全てが狙い通りに行くとは考えていませんでしたし、上手くいったかも分かりませんから、詳しくは言いません。今は分からなくても構いません。ですが、わたくしなりにこれからのAqoursやみなさんがぶつかるであろう課題、問題に向けて少しでも助けになればとこの組み合わせを作りました。
一年後、Aqoursがどうなるかは分かりませんが、もしみなさんがAqoursとしてこれからもいてくださるのであれば、きっと」
千歌・善子「……」 ダイヤ「わたくしの狙いに気付いていたのは、おそらく鞠莉さんだけだと思います。彼女はそれを察知してさりげなくフォローしてくれていました。やはり善子さんは物事を客観的に見る能力がありますね。その力は是非、今後もAqoursの為に活かしていってほしいと思います」
善子「Aqoursの為に……」
ダイヤ「ふふっ、善子さんには悪いことをしてしまいましたわね。本当はあなたもルビィや花丸さんと曲を作りたかったでしょうに」
善子「んなっ!?」
ダイヤ「今回はわたくしのせいで寂しい思いをさせてしまいました」
善子「ち、違っ——わないけど。そりゃちょっとはルビィとずら丸見てて寂しい気持ちにはなったけど。
……それでもトリオでの曲作りはすごく、楽しかった。私は今まで部活もやってこなかったし、友達もいなかったし、こうやって学校の先輩とわいわい一緒に過ごすなんて、想像もしてなかった。ましてやこうやって集まって楽しく騒ぐパーティの歌だなんて。
……ずっと、憧れてたの。だから、私を——ヨハネを受け入れてスクールアイドルに誘ってくれた千歌さんにも、こんな奇跡のような歌を歌えるチャンスをくれたダイヤさんにも、感謝してるの」
ダイヤ「善子さん……、ありがとうございます」 千歌「でもダイヤさん、このトリオにも狙いがあったんですか?」
ダイヤ「……そうですね。ですが、それはさっき善子さんが言った通りです」
千歌・善子「?」
ダイヤ「わたくしも……憧れていたのです。このように先輩も後輩も無く、集まって笑い合える関係を」
善子「ダイヤも……?」
ダイヤ「昔から委員会や生徒会に携わり、後輩と関わることも多かったですが、どうしてもそこには距離がありました。尊敬や信頼してくださっているとは言って頂けましたが。そんなつもりはないのですが、どうもお堅いとか、厳しいとか思われることが多く。果南さんや鞠莉さんとはそんなことは無いのですが、後輩たちとも遠慮なく笑い合えるというのは、わたくしの昔からの憧れだったのです」
千歌「ダイヤさん……」
ダイヤ「ですので、このトリオはわたくしの私欲、我が儘とも言えます。まだ完成してはいませんが、わたくしたちの楽曲は素晴らしいものになると思っています。そして何より作っていてとても楽しかった。お二人とも、ありがとうございます」
千歌「チカこそありがとうございます。すごく楽しくて、勉強にもなりました」
善子「お泊り会も楽しみねっ」
ダイヤ「ええ、ミカエルさん」
善子「ヨハネなんだなー、これが。てかボケなくていいからっ! ダイヤまで真顔でボケるのやめてよ!」
三人「あはははっ」 ◇
善子「でも、なんでじゃんけんで負けるのかしら? ヨハネはまあ、昔からだけど、他の二人も。たまたまかもしれないけど、連続じゃない。あ、これ花丸のパンね」
ルビィ「あ、それはね、善子ちゃん」
花丸「あ、ルビィちゃんダメずら!」
善子「え——リトルデーモン、何か知ってるの!?」
ルビィ「えっと、善子ちゃん、試しにじゃんけんしてみる?」
善子「え、うん……。あ、また負けた」
ルビィ「えっとね、善子ちゃん……。善子ちゃんのチョキって独特だよね」
善子「ふっ、これはね、ヨハネチョキというの。堕天使にとってピースサインという平和の象徴は忌まわしきもの……。ヨハネチョキはヨハネ降臨を意味する相応しい——」
ルビィ「善子ちゃん、チョキばっかり出すよね」
善子「——は?」
花丸「あーあ、言っちゃったずら」
善子「ずら丸も知ってたの!?」
千歌「あ、善子ちゃん、確かにすぐチョキ出すかも。ワンパターンだ!」
曜「いや、千歌ちゃんもだよ……」
千歌「え?」
曜「千歌ちゃん、すぐパー出すんだよ。昔から付き合いある人はみんな気付いてるよ。果南ちゃんも、たぶん梨子ちゃんも、ね?」
梨子「う、うん。千歌ちゃん、単純だから……」
千歌「……う、嘘……」
果南「ダイヤはすぐグー出すよね」
ダイヤ「!!?」
鞠莉「これぞ石頭デース♪」
ダイヤ「そ、そんな……」
果南「まあ三人とも分かりやすい性格してるから。ある意味似た者同士かもね」
曜「あ、そういえばじゃんけんで最初にどの手を出すかって性格によって決まってくるらしいよ」
鞠莉「あら、面白いわね。ネットで調べてみましょ!」 曜「どれどれ……、まず最初にグーを出す人。慎重だけど頑固で融通が利かない。初対面ではちょっと怖い人と思われがちだが、実は家族思いで温かな心の持ち主。不器用だけど人情に厚く、周りの人に頼りにされるボスタイプ……だって」
果南「すごーい、当たってんじゃん。パーは?」
曜「えっと、最初にパーを出す人……。大雑把でおおらかな人。普段から忘れ物やうっかりミスも多いが、大胆で度胸があり、失敗を怖がらずに何度もチャレンジして、大きな成功につながることも。楽天的で、笑顔と明るさで周りを幸せにする……」
梨子「当たってる……」
曜「最後は、最初にチョキを出す人。個性的で目立ちたがり、カッコをつけて人目を気にするタイプ。見栄っ張りでお調子者だけど、発想力がある。意外と寂しがり屋で、相手に喜んでほしくてついつい頑張ってしまう……」
花丸「うーん、当たってるずら……」
ルビィ「あ、あはは」
ダイヤ・千歌・善子「…………」
果南「よかったね。頑固で人情に厚いダイヤ。これで明日からじゃんけんで勝てるようになるかも」
梨子「ち、千歌ちゃん……、大体褒め言葉だから……、ね?」
花丸「マルは善子ちゃんのヨハネチョキ、好きだよ? 今後も出し続けてくれると有難いずら」
ダイヤ・千歌・善子「うわあああああ!!」 ◇@-7
曜「梨子ちゃん、この振りは二人で円を描くようにしたいんだけど。お互いが距離を保ちながら届かない手を伸ばすイメージ——そう!」
梨子「はぁ…、はぁ…、やっと最後のサビまで来た……。あとはダンスソロだけ……」
曜「ここはお互いが被らなければ自由に決めちゃっていいかなって。梨子ちゃんも好きな振りを考えてみて。私はブルックリンとロジャーラビットで行こうかなって考えてるの」
梨子「う……、ステップは苦手なんだけど」
曜「ダメ! ソロは自分で考えるの! 歌詞と同じで自分のところは自分で表現しないと。まあダンスソロは梨子ちゃんの不戦敗でもいいけど?」
梨子「曜ちゃんのケチ……。そこまで言わなくてもいいのに。ちゃんと考えるわよっ」
曜「あはは……、振りが出来たら練習は付き合うから、ね?」 曜ちゃんのスパルタダンス講座がひと段落して座り込む。
コンペ勝負から少し経って、楽曲もかなり形になってきた。二人の歌詞が出来てから、作曲はすぐ終わり、それに合わせる形で歌詞の変更もすんなりと完了した。それまでの遅れを取り戻すように作業は進み、ダンスの振り付けと、衣装案は曜ちゃんがささっと仕上げてくれた。やっぱり曜ちゃんはすごい。
これだけ早く進んだのは、作詞以降の作業がいつものお互いの得意分野だったからだけでは無いように思う。私と曜ちゃんにいい意味で遠慮が無くなったから。
あの日、お互いの作った歌詞を見せ合った。曜ちゃんの前ではコンペだなんてカッコ付けてたけど、本当は顔から火が出るほど恥ずかしかった。自分の心の醜いところをさらけ出すのって、本当に怖い。ましてそれを客観的に言葉にして伝えるなんて。私は飛び込みなんてしたことないけど、曜ちゃんに歌詞を見せる時なんて、本当に目をつぶって空中に飛び込むような心地だった。曜ちゃんにいいって言ってもらうまで、いつ地面にぶつかるか分からず落ち続けているような、浮遊感めいた恐怖が消えなかった。
だから、曜ちゃんも同じように裸の心でぶつかってきてくれて、すごくすごく安心した。嬉しかった。だからかな、なんか共犯者みたいな親密さが生まれつつある。
淑女協定は今のところ守られている。二人とも、楽曲制作に没頭することでそこにあるものから目を逸らすように。
どうするかはすごく真剣に話すのに、何故そうするのかという気持ちには二人とも一切触れなかった。にもかかわらず、何故そうするのかという意図は二人とも口に出さなくても完璧に了解していた。怖いほどに。
結局、鞠莉ちゃんは正しかった。私たちは似た者同士だ。だから、同じ人に惹かれたのかもね。だけど、二人の願いは同時には叶わないから、こうして同じ想いを別々に歌うんだね。三人じゃなきゃ成立しない、誰かとあなたと私に向けた、この共犯者のラブソングを。 ◇
曜「前見てもらったラフのように、お互いの色は対照的にして、シルエットだけで統一感をもたせようと思う。私は海の、梨子ちゃんはお花のイメージで、ドレープはしっかり目に。ダンスは足元をしっかり見せたいから、丈は短くして衣装の色に合わせたタイツで考えてるんだけど、どうかな」
梨子「コンセプトは対照的でシルエットは揃える——。うん、いいと思う! 同じテーマを別々に歌うことに説得力が生まれるかも」
曜「仮にも百花繚乱≪ダンシング・フェアリー≫だからね。お花要素とをダンスは大事だよね。振り付けはかなり激しめだから、残りの時間は出来る限りダンス特訓に充てていこっか」
梨子「う……、よろしくお願いします。曜先生」
曜「了解であります! 任せて!」
二人で歌詞を見せ合ってからというもの、楽曲制作はそれまでの苦戦が嘘のようにとんとん拍子に進んだ。作曲は梨子ちゃんは自分で言ってた通り、何なのってくらいすぐ出来てきた。それも歌詞にぴったりな曲が。やっぱり梨子ちゃんってすごい。梨子ちゃんのメロディーと二人の歌詞で、アイデアがすぐに膨らんできて、私は衣装と振り付けの考案に取り掛かった。
なんていうか、驚くほどに私と梨子ちゃんの息はぴったりで、私の考えを梨子ちゃんはすぐ理解してくれた。お互いのアイデアで更に良くなっていくのが実感できる。現金なもので、この前まであれほど苦しんでいたのに、今はぽんぽん進む梨子ちゃんとの楽曲制作に楽しさすら感じている。 梨子「あのね曜ちゃん、スケッチをさっき見せてくれた衣装についてなんだけど、ひとつだけ私からも提案があるの。この前のラフのときに考えてきたんだけど……、これ」
曜「これ、……シュシュ? 作ってきてくれたの?」
梨子「……うん。私がピアノのコンクールに行った時、あの時は9人だったけど、今回は曜ちゃんと二人で付けたいなと思って。なんて言うか、今回のテーマにも合うと思うんだ」
梨子ちゃんが手渡してくれたのは、お互いの色が入ったシュシュだった。私のはライトブルーを基調に差し色でサクラピンク——梨子ちゃんの色だ。梨子ちゃんのシュシュは配色が逆になっている。
夏のラブライブ予備予選。ピアノのコンクールと日程が重なってしまった梨子ちゃんは一人、東京に向かった。Aqoursは8人でパフォーマンスを行い、無事予備予選を突破した。その時に梨子ちゃんが作ってくれたのがそれぞれのメンバーカラーが入ったシュシュだった。 今にして思えばお揃いのシュシュは、別々の場所でも想いは一緒だと梨子ちゃんからのメッセージで、一人離れる不安な自分を勇気づける為のものでもあったと分かる。でも、千歌ちゃんのことで悩んでいた当時の私はそれを牽制のように感じてしまって——。当時の私は自分のことしか考えてなかったんだなって恥ずかしくなる。
あああ、思い出しちゃった、バカ曜だ。ごめんね、梨子ちゃん。不安なのに、昔傷ついたのに、勇気を出して一人でコンクールに挑んだ梨子ちゃんのこと、何も気付いてあげられなかった。今はそれがどれだけすごいことかって分かる。お揃いのシュシュが梨子ちゃんにとって、Aqoursにとって、どれだけ大切な意味を持っていたか分かる。まだ二人とも何も知らない、無邪気な季節。
けれど、今はもう、私たちは確信犯。このシュシュは、掛け替えのない友情で、絆の証であり、思い合いながらお互いを縛る手錠だった。
曜「そっか……」
梨子「曜ちゃん?」
梨子ちゃんがくれたシュシュをつける。確かに、二人の歌に絶対に合う。梨子ちゃんの考えが理解できる。確信する。梨子ちゃんとなら、この曲は最高のパフォーマンスに出来る。きっと今しかできない特別な歌になる。悩んで迷って二人で苦しんだ挙句の果て、驚くほど目の前に答えはあった。
曜「私からも、提案いいかな。今思いついたんだけど、歌の最後に、歌詞を付け加えたいんだ」
今はまだ、霧の中にいる/凍らせた想い。
私たちはいつか、このシュシュを外す時がくる。
私の書いた歌詞を見て、梨子ちゃんは一瞬だけ驚いて、すぐに小さく頷いた。
果南ちゃん、ごめん。果南ちゃんの言う通りだった。
……答えは、歌が教えてくれたよ。今はまだ無理だけど、いつか。
——私は伝えたいの? ……伝えたいよ!—— これにてようりこ編、ひと段落となります。
残りはかなまり、エピローグのみとなりますので、今しばらくお付き合いください。 ◇A-4
鞠莉「あ! 今、あそこ! 見えた?」
果南「うん、見えたよ、あ、あっちも!」
鞠莉「ワオ! すごいわ。まるで流れ星のパレードね」
果南「極大時刻は一時間に60個くらいだからね。今日は月明かりも少なくて星も見やすいし、夜更かしする価値があるってもんだね」
鞠莉「まったく。作業はほとんど終わってるのに合宿だなんていうから何かと思ったわ」
果南「ごめんごめん、今年はどうしても鞠莉と一緒に星を見たかったんだ」
鞠莉「……っ」
果南「ん、どうしたの? 寒い? ブランケットもスープも用意してあるよ」
鞠莉「はぁ……、果南って時々卑怯よね」
果南「何が?」
鞠莉「気にしないで。それよりこっち来て。二人の方があったかいわ」
果南「じゃあ失礼して」 鞠莉「ふたご座流星群だっけ。留学する前は見たことなかったわね。夏にはいつかダイヤと三人で流星群を見た覚えはあるけど」
果南「まあ冬で寒いし、夜だしね。親が許してくれなかったんだよ。私は家を抜け出して見てたけど」
鞠莉「さすが不良ね。誘ってくれても良かったのに」
果南「あの時は鞠莉の親御さんに目を付けられてたから。鞠莉を連れ出て家に戻ったら救助隊が出てた時なんてびっくりしたよ。やたらヘリ飛んでるなって思ったら」
鞠莉「大げさなのよ。でも、今はそれだけ私たちも大人になったってことかしら」
果南「どうかな。今も探してたりして」
鞠莉「ふふ、色んなことは変わっても、内浦の星と海は変わらないわね」
果南「二年か。長かったね」
鞠莉「いいのよ。今は一緒にこうして星を眺めていられるから。この先離れても、いつかまた一緒に星を見ることが出来ることを知ってるから」
果南「星河一天≪スターダスト・オーシャン≫——。素敵な名前だね。流石ダイヤ」
鞠莉「このデュオを組んでくれたのもダイヤだしね。おせっかいというか」
果南「?」
鞠莉「ううん。感謝しなきゃって話」 果南「ふと思ったんだ。星の河ってもしかして天の川のことなのかなって。七夕伝説、覚えてる?」
鞠莉「もう耳タコデース。覚えたての果南に何度も説明されたからね。夏の大三角——アルタイル、ベガ、デネブ。日本ではアルタイルが彦星、ベガは織姫と呼ばれているのよね。もともとは働き者だったけどお互いに夢中になって仕事が手につかなくなってしまった二人は天の川に隔てられ、父親に離れ離れにされてしまう。
けれど二人は一年に一度、晴れた時にだけ七夕の日に会うことを許される。かささぎという鳥が天の川にかかる橋になってくれて、二人はそれを渡って会うことが出来る。普段はお互いを想いながら真面目に仕事をして、二人は一年に一度だけ、夏の夜の短い逢瀬を楽しく過ごす。
ちょっと教訓じみた話も交じってるけど、昔の人はロマンチックね。天の川を跨いだ二つの星を見て、会えない恋人の話を作るなんて」
果南「さすが鞠莉。それで、さ。私たちにとって、天の川がこの二年間だったなって。鞠莉は浦の星に戻ってきてくれたけど、私は頑なにスクールアイドルに戻ろうとはしなかった。それを諦めずに繋いでくれたのがダイヤだった。ダイヤは私たちのかささぎになってくれたんだ」
鞠莉「……」
果南「地球から見ると、ベガとアルタイル——織姫と彦星の方が明るいんだけど、実はかささぎとされるはくちょう座のデネブが一番明るいんだ。ただ地球からの距離が一番遠いから暗く見えているだけ。
つまり、デネブは、織姫と彦星を後ろから照らして見守ってくれてるんだ。そして、二人が会いたい時は助けてくれる。どう?」
鞠莉「……っ、……」
果南「どしたの、鞠莉? 調子悪い?」
鞠莉「恥ずかしいのよ!! よくもそんなこと臆面も無く言えるわね!? 自分たちは織姫と彦星だなんて。昔の人も真っ赤になるくらいのロマンチストよ!」
果南「う、そうかな……。でも本当にそう思ったし」
鞠莉「ほんと果南ってば天然タラシ。星見せて優しくしてロマンチックなこと語ればいいと思ってるんでしょ」
果南「いやいや、鞠莉にしかしないよ!」
鞠莉「だからそういうとこよ!!」 ◇
果南「でも曜やルビィたちも曲作り上手くいってよかったね。最初はどうなることやらと思ったけど」
鞠莉「そうね。意外とダイヤもギャンブラーよね。この時期にどうなるか分からない組み合わせでデュオトリオだなんて。上手くいったからいいものの失敗したらどうするつもりだったんだか」
果南「ん? どういうこと?」
鞠莉「だから、ダイヤのこの組み合わせにはこれからのAqoursの為の狙いがあったってこと。あのダイヤが何も考えないと思う? 頑固でおせっかいで、Aqoursを大好きなあのかささぎさんが」
果南「へえ、適当に決めたわけじゃなかったんだ。それぞれの組み合わせに意味があったってこと?」
鞠莉「直接聞いたわけじゃないし、詳しくは言えないけどね。それでもデュオの二組はしっかり本気でぶつかり合って、少し前に進めたんじゃないかしら」
果南「確かに。最初は眉間にしわを寄せてたのにすごくいい顔になったね。楽曲のクオリティも申し分ないし、何よりみんな楽しそうだし」
鞠莉「そうね。自分たちをさらけ出した楽曲になってて驚いたわ。見る人の心を打つ楽曲ってああいうのを言うのね。Aqoursの楽曲ってだからすごいんだなってマリーも感動しちゃった」
果南「ふふ、自分で言うのもなんだけど、苦労してきたからね。私たち」
鞠莉「でも、想像はしてたけど、梨子と曜の曲に対する千歌っちの反応は笑っちゃったわね。二人は歌詞をどう思われるか気が気じゃ無かっただろうに」
果南「半分告白に等しい歌を無邪気に二人ともすごーい、だからね。千歌らしいっちゃらしいけど。曜と梨子もある程度覚悟はしてただろうから拍子抜けというか目が点になってたね」
鞠莉「まあそんな千歌っちだからこそ二人や、Aqoursが惹かれて集まったのかもだけど。でも千歌っちはいつかツケを払うでしょうね」
果南「そうだね。いつか曜と梨子が動いたとき、何も気付いてなかった千歌はきっと今回の二人かそれ以上に悩み、苦しむことになる。当然曜と梨子も。でも、きっと大丈夫だよ」
鞠莉「ふふ、あの三人だから?」
果南「うん。きっと、あの三人ならどんな形になったとしても素敵な答えを見つけ出せるよ」 果南「しっかし、すごいな鞠莉は。ダイヤの考えてることなんて全然気付かなかったよ」
鞠莉「あら、いいのよ。果南はそのままで」
果南「うーん。曜にも馬鹿でいいって言っちゃったからなー。おとなしく受け取っておこうかな。
……でも、鞠莉はいつもそうだね。破天荒に好き勝手やってるように見えて、いつも誰かのことを気に掛けてる」
鞠莉「私は元々他人の顔を窺うのは得意だったわ。私をこんなにフリーダムにしてくれたのは、どこの誰かさんだったかしら?」
果南「う……」
鞠莉「果南は意外と頑固親父よね。一度決めたことは絶対譲らず、曲げず。人の話も聞かないで」
果南「イタタタ……」
鞠莉「——でも、底抜けに優しいの」
果南「鞠莉……」 鞠莉「——ねえ、果南、私に星を見ることを教えてくれてありがとう」
果南「うん? どうしたの急に」
鞠莉「幼いころの私は、人の顔色ばかりを見て、望まれていることを望まれるままにやらないといけないと思っていた。それが小原家の娘として当たり前で、疑問に思ったことすらなかった。でも、果南とダイヤに出会って、親の言いつけを破って星を見て。あの日からずっと、シャイニーを探しているの。私に自由を、夢を教えてくれてありがとう。お人形のお嬢様を、マリーにしてくれてありがとう」
果南「元からあったんだよ。鞠莉の心の中に輝きを探す心が。探したい気持ちが。私はただ、鞠莉が俯いて下を向いてるのが気に入らなかっただけ」
鞠莉「ねえ、もっと星のことを教えて、果南?」
果南「そうだなあ。さっき夏の大三角の話をしたから、今度は冬の大三角にしようかな。あそこにある白い星がシリウス。全天の一等星で一番明るいから見つけやすいね。あっちがプロキオンで、向こうの赤っぽいのがベテルギウス。これが冬の大三角」
鞠莉「夏の大三角よりも綺麗な正三角形ね。こっちには七夕みたいな伝説は無いの?」
果南「七夕伝説はもとは中国から伝わって日本にも根付いたと言われてるけど、確かに冬の大三角の日本での伝説は無いね。ギリシャの方ではオリオン座にちなんだ神話があるけど」
鞠莉「あら、そうなのね。じゃあ、私たちで作っちゃいましょう? 冬の大三角のストーリーを。夏のお話はマリー的にはいまいちだし。大体、一年に一度しか会えないなんて気に入らないのよね。会いたい時にいつでも会いたいもの。それに、デネブが頑張ってるのに仲間はずれみたいで寂しいし」
果南「ええ……? 神話を作るって……。昔の人も真っ青だよ」
鞠莉「星は自由、でしょ? 神話だって昔の人が勝手に作ったんだから、今の私たちがそうしても文句は言わないわよ。夏のがあれば冬も作るのよ。ご好評なら春も秋も」
果南「私はなんて女に星を見ることを教えてしまったんだ……」
鞠莉「ふふ、責任取ってね。さあ、新しい神話創生よ、果南♪」 ——ある時、ある所に、仲の良い三人の美しい若者がいました。
三人の若者は幼少からの友人で、お互いをとても大切に思っていましたが、ある時、お互いを大切に思うあまりバラバラになってしまいました。
一人の頑固な少女は二人を待ち続け、かつての三人の居場所を守り続けました。もう一人の頑固な少女はもう一度一緒に過ごすために見聞を広めるための旅から帰ってきました。最後の頑固な少女は、かつて自分からそうしたように、友人の未来の為、三人に戻ることを拒みました。しかし、ついには折れ、三人は再び一緒になりました。そしてかつて三人だった居場所はもっと大きなものとなりました。
しかし、その居場所は再び失われようとしていました。若者たちは諦めずに戦い続け、その場所が消え去る最後の冬に一曲の歌を作ります。かつての居場所は時の流れとともに失われてしまいましたが、その歌は永遠に語り継がれ、やがて時が移ろっても若者たちに歌われ続けてゆくのでした。
望み通り一緒になった三人は星となりました。
三人は永遠に輝きながら、かつての居場所で続いていく水面の輝きを見守り続けるのです。
これを冬の大三角といいます。 ◇
未明。
鞠莉「ねえ果南、私たち二人の作った歌、すごくいいものになったわね」
果南「そうだね。まさに私たち!って感じだし、カッコいいし、ライブで絶対盛り上がるよ」
鞠莉「たぶん、スクールアイドルとしての私たちの最高傑作だと思うわ。ベストを尽くしたし、現状これ以上のものは無いって言いきれるくらい」
果南「鞠莉……?」
鞠莉「この三年間、いろんなことがあったね。つらいことも、楽しいことも、悔しいことも、嬉しいことも。私たちはたくさん間違えて、自分たちなりの答えを得た」
果南「ふふ、ちょっと苦かったけど」
鞠莉「ねえ、馬鹿なこと言っていい?」
果南「いつもは言ってないつもりなの? 何でも言いなよ、きっと同じ思いだから」
鞠莉「ルビィや花丸、曜や梨子が苦しみながら頑張ってるのを見て、私たちは格好つけてたのかなって思った。せっかくダイヤが最後に二人だけの歌を作るチャンスをくれたのに」
果南「……」
鞠莉「歌ってみたいなって。ただの果南と鞠莉として。スクールアイドルとしては間違ってるかもしれないけど、変に格好つけないで、ありのままの答えを。どうかしら?」
果南「鞠莉とダイヤと一緒だと無理をしたくなるんだ。私たちなら出来るんじゃないかって。集大成なんて私たちには似合わないかもね。こっそり家を抜け出して星を見に行った時から変わらず、未熟なまま、夢を見続ける。それが私たちらしいのかも。
行こうか、鞠莉。私たちの星を探しに」
鞠莉「ほんと果南ったらいちいち言い回しがロマンチストね。デフォルトはおばかさんなのに」
果南「おばかはお互い様でしょ」
鞠莉「もう一人いるわよ」
果南「ダイヤに怒られるよ」
鞠莉「いいのよ。三人一緒なら」 ◇C-3/B-4/A-5
ダイヤ「では最後、ルビィ、花丸さん。お願いします」
ルビィ「は、はいっ」
花丸「ずらっ」
ルビィ「ルビィたちの衣装はこんな感じですっ」
Aqours「おおーっ」
千歌「わー、可愛いねっ!」
曜「すごいよ! 色やパンツや小物——色んなところで差別化を図りながら、チェック柄や帽子、懐中時計なんかで統一感を出している。二人にもぴったりマッチしていながら、パーティ感もある可愛らしく華やかな装い……。
流石ルビィちゃん! ヨーソローが止まらないよ!!」
梨子「よ、曜ちゃん、落ち着いて……」
鞠莉「うんうん。ベリープリティデース!」
善子「やるわね! リトルデーモン! わ、わたしも着たい…(ぼそっ)」
果南「ほら、ダイヤも前方姉貴面してないで何とか言ってやったら?」
ダイヤ「なんですのその胡乱な単語は……。でも素敵な衣装ですわ。よくやりましたね、ルビィ、花丸さん」
果南「ひゅー、素直じゃーん」
ダイヤ「お、おやめなさい!」 千歌「この衣装は何かモチーフはあるの? マジシャンみたいにも見えるけど」
ルビィ「それはね、えへへ。白うさぎさんでーす!」
曜「へ、うさぎ?? そうは見えないけど」
梨子「たぶん、不思議の国のアリスの白うさぎのことじゃないかな? いつも時計を持って急いでて、それを追いかけたアリスが不思議の国へ迷い込むの」
鞠莉「ルイス・キャロルの小説ね。アニメや絵本にもなってるからアリスの物語自体はかなり有名だと思うわ」
ルビィ「えへへ! 花丸ちゃんが考えてくれたんだ!」
曜「なんでルビィちゃんがそんなに嬉しそうなの?」
花丸「ルビィちゃんはマルのことをスクールアイドルの世界に引っ張ってくれたの。千歌ちゃんとルビィちゃんがいなければ、マルはAqoursに入ることすら想像できなかった。でも、それはルビィちゃんも同じだよって言ってくれたの。マルのおかげでスクールアイドルをやる決心がついたって。マルたちは二人でお互いの背中を押しあってこの世界にやってきた——だから、二人ともが白うさぎなんだ!」
鞠莉「ふふ、素敵ね。読書家の花丸ならではのアイデアだわ」
果南「ダイヤはアリスにしてもらったら? ルビィに誘ってもらったんでしょ?」
ダイヤ「か・な・ん・さん〜?」
花丸「ううん、果南ちゃん。ダイヤさんはこわーいダイヤの女王ずら」
ダイヤ「あ、こら! 花丸さん!?」
ルビィ「あははっ」
ダイヤ「もう……。何にせよ、みなさんお疲れ様でした。イベント間近となりましたが、これで、全てのデュオトリオで楽曲、ダンス、衣装が完成しました。セットリストと本番の段取りはこちらで考えてありますので、後はコンディションを整えながら——」
果南「あ、ダイヤ。ひとつ報告があるんだった」
ダイヤ「もう、何ですの。いいところでしたのに」 ◇
Aqours「ええーー!! 楽曲を作り直す〜〜!!?」
ダイヤ「どういうことですの、果南さん、鞠莉さん。こんなギリギリで、衣装まで仕上がっているというのに。それもバラード? 方向性が全然違うでは無いですか」
果南「うーん、昨晩鞠莉と話してたらそれしかないなって」
ダイヤ「お二人が作った楽曲はどうするんですか。あれは正直に言って素晴らしいと思います。今から急いで作って、あれを越えられるものが出来るのですか?」
鞠莉「そうねえ。あれはあれでいい曲だし、勿体ないから、曲名と歌詞をちょっと変えてマリーがソロ曲として使うわ。“シャイニーレーサーズ”! なんてどうかしら」
ダイヤ「はあ。お二人のことですから、止めても聞かないのは分かっています。ただし、出来てきたのが中途半端なものだったり、間に合わず本番で出せるクオリティでなければ、こちらの楽曲を歌って頂きます。いいですね。
まったく、あなたたちがこれでは、慣れずともきっちり仕上げてきた下級生に顔が立たないでは無いですか」
果南「ごめん、ダイヤ。でも、私たちはカッコ悪くてもいいんだよ。カッコ悪くて、無茶をして、それでも星を探すんだ」
ダイヤ「はあ……、本当に遺憾ですが分かりましたわ。それでは最後に一つだけ」
果南「?」
ダイヤ「……わたくしに手伝えることはありますか?」
鞠莉「ダイヤ……」
果南「ありがとう、ダイヤ。この三年間、もう十分、手伝ってもらったよ」
ダイヤ「果南さん、鞠莉さん……」
果南「——なーんて、言うと思った?」
ダイヤ「は——? なぜわたくしの手を掴んで」
果南「ごめん千歌、善子! ダイヤ借りてくよ!」
ダイヤ「ちょっと! どこ行くの、引っ張らないで!」
鞠莉「今日は徹夜よ、ダイヤ。寝かさないんだから♪」
果南「ルビィ、ダイヤ今日私の家に泊まるって言っといて! もしかしたら明日も!」
ダイヤ「何を勝手に——」
果南「やっぱり私たちはこうじゃないとね。かささぎさん」
鞠莉「仲間外れになんかしてあげないから。まったくもう、自分で仕向けた癖に寂しそうなカオしちゃって」
ダイヤ「し、してませんっ」
果南「よーし、燃えてきた。一夜漬けは得意なんだ。頼むよベテルギウス」
ダイヤ「さっきから誰のことですの! だいたい一夜漬けなんて果南さんだけ——ああっ、ちょっと、行きますっ、走りますから!」
果南「じゃっ、千歌、あとよろしく!」
鞠莉「チャオー♪ ニューソングもお楽しみに♪」 ◇
千歌「行っちゃった……」
曜「嵐みたいだったね……」
梨子(呆然)
花丸「やばいずら……」
ルビィ「でも、おねえちゃん、楽しそうだった」
善子「ひょっとして、Aqoursで一番めちゃくちゃで、でも一番楽しんでいるのって三年生なんじゃないかしら……」 ◇エピローグ
ダイヤ「リハーサルも終わりましたし、みなさん、いよいよ本番です。待ち時間はまだありますが、準備はよろしいですね」
千歌「ばっちりです! ね、みんな」
曜「うん! だよね、梨子ちゃん」
梨子「ええ、あとは精一杯やるだけ」
ルビィ「は、花丸ちゃん、頑張ろうねっ」
花丸「あわわ、マル、緊張してきた……」
善子「もう、落ち着きなさいよ。ほら、楽屋にあったお菓子」
果南「あ、ねえ、フラスタあるよ、“Aqours様へ”だって」
鞠莉「ワオ! 綺麗なお花ね! どちら様から?」
千歌「ふっふっふ、こちらのフラワースタンドはなんとSaint Snowのお二人から頂きました〜」
果南「へえ、聖良たちがねー」
梨子「わあ、アレンジメントのセンスもいいね。流石っていうか」
千歌「実はお二人からイベント出演記念ということでお届け物も頂いています! まだ千歌も開けてないんだけど」
曜「ええ、なになに!? わっ、冷凍便?」
花丸「食べ物ずら!? 早く開けて千歌ちゃん!」
千歌「よーし、じゃ、開けるよ! ん? これって——」
梨子「雪?」
果南「保冷用の氷じゃないの? 中に凍ったカニとか入ってないの?」
千歌「うーん、入ってないなあ。あ、メッセージカードだ」 「Aqoursのみなさん
この度はイベントのご出演おめでとうございます。
先日は理亞のこと、色々とありがとうございました。Saint Aqours Snowとしてみなさんと、理亞ともう一度パフォーマンスが出来たこと、とても嬉しく思っています。先日千歌さんとはお話ししましたが、お正月明けには沼津に顔を出させていただきます。みなさまにもう一度会えることを楽しみにしています。
さて、内浦は冬でも雪が滅多に降らないと伺いました。そこで、献花と合わせ、われらが北海道の雪を贈らせて頂きます。なにせこちらでは雪は売る程、いいえ、売れない程にありますので。少しでもみなさまの気分が出ればと思いまして。
少し早いですがメリークリスマス。イベントの成功を北の大地よりお祈りしています。
——聖良
イベントのタイトルからして雪が無いのはおかしいと思わない? 送ってあげる。
ルビィ、花丸。あんたたちにしてはいい曲が出来たと思う。変なパフォーマンスしたら承知しないから。あと善子も。お正月にはビシバシ鍛えてあげるから覚悟しておくように。
——理亞」 果南「へえ、雪の贈り物か。粋なことするじゃん」
曜「確かにこっちは雪が降ること、ましてや積もることなんてないもんね」
鞠莉「イベントのコンセプトに合わせて気を利かせてくれたのね。マリーも人工降雪機用意すればよかったかしら?」
ダイヤ「いくらかける気ですの!? 絶対却下ですわ」
千歌「ねえねえ、本番まで雪だるま作ろうよ! ミニチュアサイズのやつ!」
梨子「ふふ、いいかも。せっかくだしデュオトリオの組み合わせで作る?」
花丸「わ、冷たい! でもふわふわだよ!」
ルビィ「うん! 理亞ちゃんにお礼言わなきゃ」
善子「フフ、永久凍土からの供物……、有難く我が魔力とさせて頂きましょう」
千歌「よーし、じゃあデュオトリオ対抗雪だるま大会だ!」 ◇
——Aqoursさーん、本番5分前でーす!
幕が上がる。
この三年間の答え。スクールアイドルとしてではなく、ただの果南と鞠莉としての。今にして思えばダイヤは、答えを歌という形にする為、私と鞠莉をデュオにしてくれたんだろう。ほんと、口では厳しいことを言いながら、気が回るというか、おせっかいなんだから。
結局、三人がかりの徹夜で私たちの曲は完成した。三人でギャーギャー言いながら最後は疲れきって死んだように作業してると、一年生の頃を思い出した。何も知らなかった頃。あの頃が繋がって今がある。いや、繋げてくれた人がいて、繋がりたい気持ちが変わらずあったから今がある。
衣装に付けたアクセサリーの鎖が小さく音を立てる。ぎりぎりの楽曲制作と練習で精一杯で、衣装は元々のものをそのままで行くことになった。カッコ付けた衣装と、カッコ悪いありのまま私たちの歌。それも私たちらしいかもねと鞠莉と笑いあった。
衣装に一つだけ手を加えた。私はジーンズに赤い鎖、鞠莉はジャケットに赤いスカーフ。やっぱり私たちには必要でしょ?
これからもよろしくね。鞠莉、ダイヤ。 幕が上がる。
まさかルビィちゃんと二人でステージに上がるなんて。あの頃は想像もしてなかった。正直に言って、緊張と不安でどうにかなってしまいそう。でも、隣を見る。ぎゅっと手をつないだルビィちゃんが緊張しながらもマルに笑いかけてくれる。分かる。伝わってくる。一緒なら、絶対大丈夫。怖い、でも頑張りたい。二人の気持ちは一緒。
目をつぶって自分の胸に問いかける。ルビィちゃんとマルの二人の歌で、見ている人に楽しい気持ちになってもらえたらいいな。今はまだ怖いけど、マルもきっといつか、みんなみたいにキラキラと輝きたいな。
白うさぎの懐中時計にそっと触れる。
行こう、ルビィちゃん。時は来たれりです! なんてね。 幕が上がる。
たまにあるんだ。今日、行けそうって分かる時が。予感? 確信? 高飛び込みでもそういう時は必ずいい結果になる。
隣で佇む梨子ちゃんの息遣いを肩越しに感じる。梨子ちゃんとなら、行ける。いや、梨子ちゃんとだから、最高のパフォーマンスになる。今しかできない特別な歌になる。
やばい。緊張と興奮で昂ぶりを抑えられない。今歌ったら感情入りすぎてやばいかも。こんなの初めてだけど、あえて自分を抑えずに行きたい。ありのままの私で、梨子ちゃんとぶつかりたい。梨子ちゃんなら、絶対に受け止めてくれる。ううん、全力で行かないとこっちが負けちゃうかも。
私と梨子ちゃんが作った歌。未熟で臆病なラブソング。いつか、私はこの想いを伝えるだろう。梨子ちゃんも、きっと。どんな未来が待ってるのかな。今の私たちはまだ知らない。だから、今は精一杯この歌を歌おう。
そう、冬が終わって、春が来て。
——この霧が晴れたなら
この凍らせた想いが解け出したら——
そのときは、きっと。 ——幕が上がった。
千歌「みなさん、こんばんは! 私たち、浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursです!」
Aqours「ようこそ、“White Island”へ!!」
〈了〉 ◆あとがき、補足、あるいは蛇足
最後まで読んで頂きありがとうございました。
初めてSSというものを書いてみたのですが、あとがき含め56,000字越えと予想外に大ボリュームとなってしまいました。デュオトリオ冬の楽曲とパフォーマンスが好きすぎて、自分なりの解釈でAqoursのみんながどのように楽曲を作ったかを書いてみました。
@-1みたいな各章の番号はプロット上のものですが、想定外に長くなってしまったので、そのまま残しました。一日で読み切れなかった場合にはこちらを参照ください。(あとがきに書いても意味ない)
一人称、各メンバーの呼称は色んな媒体をごちゃまぜですが、ミスがあったらごめんなさい。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
以下は各デュオトリオとメンバーごとのコメントです。需要があるのか甚だ怪しいですが、もしよければお付き合いください。 ●Party!Party!PaPaPaParty
ぐーりんぱ曲。
衣装も相まってライブでの可愛さがやばい。千歌は無邪気に、ダイヤと善子は密かにこういう仲間でのパーティに憧れていると思います。
他の組み合わせは制作進捗に波がありますが、ダイヤさんはスケジュール管理の鬼なので、進捗はグラフにしたら綺麗に時間経過と正比例となるイメージ。波乱も無くきっちり進めるダイヤさんの元、本SSではこの三人はオブザーバーポジションとなりました。
作中のジャンケン性格診断は創作では無く、以下のページを割とそのまま参考にさせて頂きました。
ttps://uranaitv.jp/content/3230
結構ぴったりじゃないですか?
Aqoursのみんな(と、みとねえ)は三人の癖を知ってて利用するけど、ルビィちゃんだけはたまに善子ちゃんに負けてあげてそう。やはり天使か。 ●千歌
パー担当の鈍感主人公。
才能溢れる周囲にコンプレックスを抱きながらも、人のすごいところは素直に褒め、ありのままを受け入れてくれるから、そりゃようりこもぐっときますわ。それでいて本人は危なっかしいから守護らねばってなりますよね。
普通とは違う曜ちゃんと梨子ちゃんが、こんな普通な千歌なんかを好きだなんてある訳ないよ!? 往年のラノベにありそうなタイトルですが、超人幼なじみに醸造された十年物のコンプレックスは千歌に自惚れることを許してくれません。それでも、普段はかなり人も気持ちに敏く、行動力もあるので、主役としてはもちろん、サポートキャラとしても有能。ボケてよし、おどけてよし、シリアスよしという内浦の太陽。
なお、千歌の発言に登場するJAなんすんは2022年4月に合併により「JAふじ伊豆」となっています。今回は馴染み深い旧名を採用しました。レモネード美味しい。 ●ダイヤ
グー担当の実質リーダーにしてフィクサー。花丸ちゃんへの姉ムーブに最後はヒロインと、割と美味しいポジションのダイヤさん。
マリーや千歌が社長タイプなら、ダイヤさんは理想の上司。スムーズに進行してくれるので作者的には助かるキャラ。果南と鞠莉には振り回されっぱなしだけどそれがまんざらでもない浜乙女。ハートの女王ならぬダイヤの女王。年下の可愛い花丸ちゃんにいじられる気分はどうだ?
ちなみにアリスの国ネタが分かったのはAqours読書友の会の花丸、鞠莉、梨子、ダイヤの四人。実は一番お泊り会にわくわくしている。でもすぐ寝てしまう。
●善子
今回は出番少なめの堕天ガール。一風変わったチョキ担当。
二人で頑張る花丸とルビィを見て寂しがるところが可愛い。花丸とは違う意味でマイペースなので、割とどんなポジションでも力を発揮できそう。ヨハネから善子に近づくほど口調がまともになる。さん付けで呼んでるときは最大限に真面目。善子ちゃんに限らずAqoursの先輩後輩は敬語の加減が難しい。
実は二番目にお泊り会を楽しみにしている。前日にはタロットとか人狼ゲームとかわくわくしながら準備してそう。なんだかんだ花丸ちゃんは付き合ってあげる。やはり仏の国木田。 ●Misty Frosty Love
この曲好きすぎる…。
映像込みのライブパフォーマンスも最高。逢田さん表情作り上手すぎない? 合わない視線。別々の歌唱。ようりこダンスバトル。最後だけ一緒に歌って、音源には無いハモリ…。よう(ちか)りこ、最高か?
そもそも作者がラブライブの沼に落ちたのが“Marine Border Parasol”のライブパフォーマンスを見たからなので、続編とも言えるこの曲がクリティカルするのは必然なのであった。
でもこの歌詞誰が書いたの? 二人は何を思ってこの歌を歌うの? これ聞いて千歌はどう思うの?という問いにはこのSSのような解釈としてみました。千歌っち…罪な女!
シュシュはあのような解釈に。悩めるようりこを作者は応援します。
●曜
クソ長モノローグのミスティ担当。梨子に比べるとモノローグのIQが低め。
優しすぎた浦女のヒーロー。周囲の期待に応えるために何かとカッコつけてしまう彼女には、姉さん女房が合う気がする。そんな訳で果南お姉ちゃんの精神的ハグ攻撃でした。
同じ理由で梨子とも相性はかなり良いはず。もちろん千歌と仲良くおバカしてるのも芳醇。下級生へのリア充ヒーロームーブも一興。おいおい、ここはカップリングビュッフェか? こんなんじゃパラダイスチャイム鳴っちゃうよ! ●梨子
クソ長モノローグのフロスティ担当。彼女のモノローグは曜と比べてやや大人。そしてちょっとポエミー。
和音の例え話は楽典の知識が無いと分かりづらいと思いますが、長々と説明するのもアレだったのでさらっと流してます。興味がある方は長三和音、短三和音、全音半音で検索してみてください。譜面上はそう見えても三つの音は等距離ではありません。彼女たちのように。
上でも語った通り、ようりこは(千歌ちゃんほど無邪気ではないので)相性が良く、仲良くなれると思います。お互い遠慮を捨ててからが本番の二人。本SS後半の千歌ちゃんには見せない、ちょっと口の悪い二人には、可能性しか感じません。
最終的に二人でくっついちゃえよ、YOUたち! 僕たちは上り始めたばかり、この果てしないラブスパイラルタワーを(完)。 ●キモチもユメも一緒だね!
Big Love…。荒ぶるベースと二人の歌声が最高。元気いっぱいの振り付けも好き。
一年生はどうもカップリングとして見れないので、どうせ人は一人とか言いながらも、ルビィちゃんと来世も友達になりたい花丸ちゃんという構図が好きです。
衣装はああいう解釈に。楽曲は最終的にはルビィの原案を元にして、二人で歌詞やアレンジを変えて完成させたというイメージです。
ダイヤさん的には鞠莉や果南の力を借りながら何とか形になればいい…と考えていたところ、“二人でやりたい”というルビィちゃんたっての希望から、理亞ちゃんチェックはありつつもアドバイスは受けずに最初から最後まで二人で仕上げました。さすがルビィちゃん…すごい。
●ルビィ
2期、劇場版と劇的な成長を遂げるルビィちゃん。サンシャインの次代主人公と考えています。
ピギりながらも前に進むその姿にはみんなの心の中のダイヤさんが感涙にむせぶこと間違いなし。次期Aqoursのリーダーにしてセンター(かつ静真の生徒会長)のイメージ。大人になったルビィちゃん見てぇ……。
“Future flight”の1番サビ千歌センター→2番サビでルビィセンターになるところや、CYaRon!2ndでようちかに見守られつつ全員曲のセンターになるところは解釈一致すぎてわかりみおじさんになりました。
ほっとくと勝手に一人で覚醒していきそうで作者的には恐いキャラ。自分の成果より花丸ちゃんの成果を喜ぶところがお気に入り。 ●花丸
“あこがれランララン”が大好き!! 1期4話が大好き!! 悩めるヒロイン、花丸ちゃんです。本SSにおけるモノローグ三人衆の最後の一人。
人のことはよく気付くのに、自分のことは鈍感で、一歩をなかなか踏み出せない、そんな彼女が大好きです!!(大声)あこがれランラランのリズムが後ノリなのも解釈一致。
今回は役回り的に彼女にとって苦しい展開になってしまいましたが、本来は割と精神年齢も高く、老成した性格。ドリコンの“今日のAqours”のりこまるのように、自分のことを除けば、相談に乗る側としても頼りになるはず。作者的には、ルビィたちが三年生になった時、カギを握るのは彼女だと考えています。頑張れ花丸ちゃん!
普段は“おら・ずら”は出ないように気を付けているので、本人に余裕が無い時とギャグシーンのみ顔を出します。 ●涙が雪になる前に
この楽曲大好き!! 二人の声の相性良すぎ。
ライブでの間奏〜ラスサビでのすわわと愛奈ちゃん表情が良すぎて消滅。身長も違うのにかなまりにしか見えない…。バックスクリーンの果南の優しい顔とすわわの優しいイケメン顔がたまらない。
衣装と曲調が合ってないのは急遽曲を作り直したから…という解釈になりました。本SS的には最後の最後に三人で徹夜して仕上げた設定です。かなまりの涙が凍り付いてしまう前に二人一緒になれたのはダイヤがいてこそ。青春してんなお前ら!
Cメロ前のギターソロは鞠莉の趣味。
●果南
ロマンチストなイケメン。何も考えてない癖に正解ルートを突き進むその姿は前作主人公のような圧倒的な安心感。こんなムーブしてたらそりゃモテモテだわ。
ちなみに終盤に鞠莉が「もっと星のことを教えて」って言ったのは鞠莉なりの誘い文句です。良い雰囲気になって、鞠莉にとっての星、果南のことを知りたいという意味で言ったにも関わらず、果南はそのままの意味で冬の星座を話を始めます。この朴念仁め!
今回は同じ脳筋系として曜のお助け役になりましたが、誰と組んでもそれなりにお悩み解決しちゃいそうですね。すごいぞ果南ちゃん! お馬鹿担当と言いつつも特に勉強が出来ないという描写がある訳でない無辜の淡島産海ゴリラ(ただしイケメン)。 ●鞠莉
果南にメロメロなデキる女。メタ発言も出来ちゃう強キャラ。
自由をモットーとする自立した素敵な女性でありながら、適度に果南に甘える姿勢は、完全に社会人女性のそれ。アニメでは曇りがちでしたが、周りをよく見ながらもいい意味でフリーダムなのが鞠莉の魅力。にしてもまさか神話を作って三人で星になるとは…。
彼女に限らず今回のテーマとして“ちゃんと上級生が有能”というのがありましたが、余裕を感じますね。学生時代において一年の差は大きい。そんな余裕が子が焦ったり照れたりするのが可愛いんじゃ!
今回は駆け引きに強い頭脳系ということで、梨子の相談役に。理事長だけあって社会人のような仕事論が展開されます。ルー語を彼女は場面や必要とされる役割に応じて意識的に使い分けています。このあたりはアニメと一緒。同じ複数のペルソナを持つ善子ちゃんとはコミュニケーションスキルが雲泥の差ですね。このスキルは小学校以降で後天的に身に付けたと思われるので鞠莉ちゃんの頑張りを感じます。 ◆
以上になります。
本当に最後の最後までありがとうございました。
ここまで辿り着けた方はいらっしゃるんだろうか…
またAqoursのSSを書きたいと思っていますが、作者は遅筆ですので、いつになるやら…。
次はもう少し短めに抑えたいですね…。
それでは東京ドームWindy Stageにてお会いしましょう。
本当にありがとうございました。 おつ
本当に良いSSをありがとうございます!
(ようりこの続き書いても良いんですよ?) 作者の人の愛が伝わってくる素晴らしいSSでした。大満足。乙! 良かったし面白かったわ
ダイヤさんが中の人と重なるところすごく好き くっさいあとがき付きのSS久々すぎて涙でそう
一応断っておくと僕は好きです ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています