曜「私と梨子ちゃんとでラブソングをデュエット!?」
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代行ありがとうございます。
◆初めてSS書きました。
ここに書き込むのも初めてなので、ミスとかあったらごめんなさい。
Aqoursがデュオトリオコレクション冬の楽曲を作る話です。
某シブにアップしたものと同じですが、改行等して少し文章を整えています。
よう(ちか)りこが一応メインですが、ルビまる、かなまりを始め全デュオトリオ出てきます。一部モノローグあり。
時系列的にはアニメ二期の9話と10話の間、函館の後、お正月前の出来事となっています。
長めですがまったり楽しんで頂ければと。 SS「white island」
◇C-0/B-1
曜「え!? 私と梨子ちゃんとでラブソングをデュエット!?」
千歌「うん! 今度のクリスマスライブでね」
曜「ええっ!! そんな急に……」
梨子「そうよ。いきなりラブソングとか言われても……」
千歌「ええーー、二人なら絶対素敵なのに! 大丈夫だよ!」
曜「いやいやいや……」
ダイヤ「もう千歌さん。二人とも戸惑っているではありませんか。一から説明しなくては」
千歌「うー……、はい。じゃあダイヤさん、お願いします」
ダイヤ「はい、では皆さん、聞いてください。ほら、曜さんも座って」
曜「は、はい」 ダイヤ「千歌さんからもありましたが、今度のクリスマスライブについてです。Aqoursとしてイベントに出演することはお伝えしていましたが、今回はデュオトリオでのパフォーマンスとしたいと思います」
一同「!!!」
果南「デュオトリオって……、夏の時みたいに?」
ダイヤ「ええ、そうです。果南さんは前回千歌さんと組んでいましたが、今回は新たにシャッフルして各々で楽曲・衣装制作に臨みます」
鞠莉「あら、面白そうじゃない♪ 組み合わせはどうやって決めるのかしら? ダイヤの口振りではもう決まっているみたいだけれど」
ダイヤ「そうですね。今回は基本的に各学年から1組ずつデュオを、そして各学年から一人ずつでトリオを作ります。そして運営の方よりパフォーマンス楽曲に関して要望が来ています。課題楽曲と言ってもいいかもしれませんわね。
まずはラブソング中心。そしてパーティをテーマにした楽曲を盛り込むこと」
曜「ラブソング……」
ダイヤ「パーティをテーマにした楽曲はトリオで担当としたいと思います。人数としても各学年からということからもぴったりですしね」
千歌「チカたちで考えたんだよ!」えへん!
ダイヤ「デュオの組み合わせに関しては、Aqoursに寄せられるお便りや投稿動画のコメントからこちらで決めさせて頂きました。まずは果南さん、鞠莉さん」
鞠莉「OK! もうすんごいステージにしちゃうんだから! ね、果南♪」
果南「そうだね。よろしく、鞠莉」
ダイヤ「一年からは花丸さん、ルビィ」
ルビィ「!!」ピギッ!?
花丸「は、はいっ」
ダイヤ「できますわね、ルビィ」
ルビィ「う、うん。おねえちゃん。頑張る……」
ダイヤ「二年からは、もうお分かりですわね。曜さん、梨子さん」
曜「……」
梨子「……」
千歌「そしてトリオは、チカ、ダイヤさん、善子ちゃんでーーす! パーティ!」
鞠莉「ノンノン、チカっち。Partyよ!」
千歌「パーリィ!」
鞠莉「イエース! いいじゃない!」キャッキャッ ダイヤ「こほん。もう一つの課題のラブソングに関しては三年、二年のデュオで担当して頂きます。一年生のデュオはまだ楽曲を作るだけで手一杯かと思いますので、今回のイベントから大きく外れてなければテーマは自由とします。……ルビィにはまだ早いですわ」
果南「ダイヤー? 本心が漏れてるぞー?」
ダイヤ「とにかく! これで行きますわ!
来るべき冬のラブライブ本選に向けて各個人の力を高め、一から楽曲・衣装を各々が作ることでよりパフォーマンス、ひいてはスクールアイドル活動に対する理解を深めて頂きます。
勿論、今まではグループ全体で分担していた役割を自分たちで行うのですから、分からないことも多いかと思います。他の方に相談することは大いに推奨します。存分に意見を交換してクオリティを高めていってください」
千歌「よーーし、クリスマスライブに向けて、Aqours、頑張るぞー!」
Aqours「おー!!」 ◇
ダイヤ「さて、それでは、さっそく明日から制作期間に入っていきます。練習メニューは果南さんとも相談しますが、基礎練習と全体練習を半分にして、残りをデュオトリオでの活動に充てていきます。今回はチームでの自主性を養う機会でもありますので、ある程度進行は各チームの裁量にお任せしますが、進捗報告は適宜求めていきます。
何か質問はございますか?」
曜「あっ、あの!」
ダイヤ「はい、曜さん」
曜「ほ、本当にやるんですか? 梨子ちゃんと、私で、その、ラブソング……」
ダイヤ「ええ、お二人はファンの方の中でも特に要望が高かったデュオでした。能力的にも相性としても問題ないと考えていましたが……」
千歌「そうだよ、曜ちゃん! チカも二人のラブソング見てみたいなー!!」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「ね、梨子ちゃんはどう? イヤじゃないよね?」
梨子「う、うん……。いや、ではないけど」
千歌「そうだよねっ。決まり! というか、もう運営に提出しちゃってるし!」
曜・梨子「……え?」
千歌「ふっふっふー、チカたちがばっちりなユニット名で申し込んでおいたのだ! ばばーん!」
曜・梨子 百花繚乱≪ダンシング・フェアリー≫
果南・鞠莉 星河一天≪スターダスト・オーシャン≫
ルビィ・花丸 純情可憐≪エンジェル・キス≫
千歌・ダイヤ・善子 天下無双≪アンリミテッド・ファンタジスタ≫
一同(絶句) 千歌「ふふん、驚きのあまり声も出ないのだ? ちなみに漢字はチカとダイヤさん。英語のルビの発案は——」
善子「ヨハネよっ」ギランッ
ダイヤ「僭越ながら即興にしては良い命名ができたと自負しております。あとは各自名前負けをしないよう、Aqoursとして万全のパフォーマンスに仕上げて行くのみですわ」
梨子(こ、この三人って……)
曜(うん……)
ルビィ(おねえちゃん元々はちょっと中二病なとこあるから)
花丸(セイントスノーとか好きそうずら)
鞠莉「Oh!! いいじゃなァ〜いン(ねっとり)、ねえ果南?」
四人(!!?)
果南「あはは、そうだね。ルビとかちょっと恥ずかしいけど、星の海か。私たちにぴったりかも。まあとにかくもうこれで提出しちゃったんでしょ? やるしかないか」
鞠莉「楽しみね! アゲアゲなロックで虜にしちゃうんだから。他のみんなのもどんなのになるのかしら。でも一番会場を沸かすのはマリーたちよ」
果南「二年前を思い出すなー。鞠莉が作曲、私が作詞で。ねえ、合宿して曲作る?」
鞠莉「あら、いいわね。星を見ながら作るのもいいんじゃない?」
ダイヤ「ふっ、流石ですわ。鞠莉さん、果南さん。いえ、星河一天のお二人……」
四人(えぇ……)
千歌「ファンタジスタも負けていられないね」
善子「ギランッ」ギランッ
ダイヤ「ともあれ、これで決定ですわ! 冬休みに向けて全力で取り組んでください」
善子「くっくっく……冬期休暇≪ウインター・バケーション≫」
花丸(なんずらこの堕天使……)
鞠莉「さて、果南。作戦会議しながら帰りましょ。今日は理事長の仕事も終わってるの」
果南「お、いいね。じゃあみんな、お疲れさま。頑張ろーねっ」
鞠莉「チャオ♪ 期待してるわよ、フェアリーさん、エンジェルさん」 花丸「いっちゃったずら……」
ダイヤ「では、わたくしたちも失礼します。無双組もイベントに向けて少々打ち合わせがありますので。ルビィ、今日は先に帰っていてください」
千歌「梨子ちゃん、曜ちゃん、ばいばいっ!」
善子「そう、それは三つ足の三つ首を束し約定——。遥か未来への祈り。ずら丸、ルビィ、また明日ね」
ルビィ「う、うん」
曜「え、えっと……、どうしようか」
ルビィ「ほ、本当にやるんだよね」
花丸「マル、ちょっと自信ないずら」
梨子「……」
曜「とりあえず、私たちも帰ろうか……、ね、梨子ちゃん」
梨子「そ、そうね」
曜「き、急に言われちゃったからちょっと混乱しちゃってるけど、幸い時間はまだあるし、今日一日時間を置いて考えてみよう?」
梨子「うん……、ありがとう曜ちゃん。今日はゆっくり考えてみる」
花丸「ルビィちゃん、マルたちも行こっか」
ルビィ「……」
花丸「ルビィちゃん?」
ルビィ「花丸ちゃん、ルビィね、やってみたい!」
三人(——!!) ルビィ「ルビィ、さっきはいきなりだったから、不安で上手く答えられなかったけど、花丸ちゃんと一緒に、曲を作ってみたい。一から、ルビィと花丸ちゃんだけの歌を自分たちの力で」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「あのね、この前、函館で理亞ちゃんたちと四人で曲を作ったでしょ? ううん、曲だけじゃなくて、衣装も、イベント出演の選考会から運営さんとの打ち合わせ、告知まで。あのときは理亞ちゃんやおねえちゃんの為にって必死だったけど、それってAqoursではいつもおねえちゃんや千歌ちゃんがやってくれてたことなんだよね」
花丸「……!」
ルビィ「ルビィ、甘えてた。スクールアイドルができるのが楽しくて、夢中で、おねえちゃんたちがやってくれてたこと、今まで考えてもみなかった。
おねえちゃんが卒業しちゃったら、学校が無くなっちゃったら、これからどうなるか分からない。でも、“その先”があるのなら、ルビィたちはおねえちゃんたちがやってくれてたことを自分たちでやっていかないといけない。
何より、ルビィと花丸ちゃんで作った歌で、踊って、歌ってみたい。見てくれる人に、楽しい気持ちや、希望や勇気を届けたい! 花丸ちゃんと一緒なら、怖いけど、不安だけど、出来る気がするの。だから……」
花丸「いいよ、ルビィちゃん」
ルビィ「花丸ちゃん?」
花丸「マルこそごめん。みんなみたいに出来るか不安で、弱音言っちゃった。やろう、ルビィちゃん。ルビィちゃんと一緒なら、絶対大丈夫。一緒に頑張りたいの」
ルビィ「花丸ちゃん、ありがとう——!」ギュッ
花丸(ああ、ルビィちゃん。ごめんね。ルビィちゃんの心の中にある夢や輝きを応援するって、背中を押してあげるって思ってたのに。頼りないかもしれないけど、マルが支えたい。大好きなルビィちゃんの夢を)
ルビィ「明日から頑張ろう、花丸ちゃん!」
花丸「うん、ルビィちゃん!」
梨子「……」
曜「あはは、頑張らなきゃね、私たちも」
梨子「うん……」
曜「あはは……」
曜(……)
梨子(……) ◇@-1
霧について、子どもの頃、パパに聞いたことがある。
航海で家を空けることが多いパパが、お家にいてくれる期間は私にとって特別で、ママには悪いけど、パパを独り占めしたいといつもより我が儘になっていた気がする。学校がある日も少しでもパパと一緒にいたくて、早起きしてはパパに纏わりついていた。
冬の朝のお散歩は、お決まりの川沿いのコース。寒さも眠さも気にならなかったのは、パパと一緒にいられる嬉しさのせいなのか、それともただ単に幼さのせいだったのかな。
その日、海に流れ込む川から湯気のようなものが立っているのが見えた。びっくりした。湯気はお味噌汁やお風呂とか、とにかく温かいものから出るものだと思っていたから。冬の冷たい川の水面から出る靄(もや)が不思議で、川べりからずっと眺めていた。
どうして冷たいのに湯気が出るの?
手をつないだパパは、それが川霧と呼ばれるもので、朝の冷たい空気と、川の水の温度差により出来る霧だと教えてくれた。水は空気よりも冷えにくいから、とか、比熱とか飽和とかを理科の授業で習う前のことだから、幼い私の目にはひたすら“よく分からないもの”として映った。
朝の止まった時間。冬に水面から立ち込める白い霧。直接触ってもいないのに、冷たくて、静かで、不可思議な、凍てつく微睡みめいた停滞のヴェール。
ふとした時に浮かぶ情景。幼い日の記憶。そんなイメージがずっと、離れないでいる。 ◇
曜「さて、今日から頑張ろう、梨子ちゃん!」
梨子「うん、曜ちゃん……」
曜「二人だけで曲を作るって決まった時はどうしようかと思ったけど、よく考えたら、いつも作曲してくれてる梨子ちゃんがいるんだもん。むしろ余裕だよね!
ルビィちゃんたちも張り切ってるし、私たちも負けてられないよね」
梨子「そ、そうだね。いつもやってること、だもんね。千歌ちゃんに怒られちゃうよね。いつもは私に歌詞を急かしてくる癖にって」
曜「そう、千歌ちゃんに——」
梨子「……あはは」
曜「うん……」
梨子「え、えっと、いつもはテーマを決めて、歌詞を千歌ちゃんに作ってもらってから、イメージを膨らませて作曲する感じかな。そこから、二人で調整したり、みんなの意見を聞きながら完成に近づけていく、んだけど」
曜(二人で——)
梨子「だから、まずはテーマを決めないとなんだけど、あの、曜ちゃん?」
曜「……え? あ、ごめん! 曲のテーマだよね。えっと、どうしようか」
梨子「う、うん。今回はラブソングって決まってるから、曜ちゃんはどんなのにしたいとか、ある?」
曜「ごめん……。昨日一晩考えたんだけど、全然思い浮かばなかったや」
梨子「謝らないで! あの、私もなの」
曜「そっか。ラブソングとか急に言われても、どうしたらいいか分かんないよね」
梨子「ひとまずAqoursの過去の曲とか、他のスクールアイドルのラブソングを見ながら考えて行くのがいいかなって」
曜「うん、そうだね! いいアイデアが湧いてくるかも!」 ◇A-1
果南「うん、いい感じ!」
鞠莉「イエーイ! そうでしょ!? まだデモ段階だけど、もっともっとクールな曲に仕上げていくわよ!」
果南「ふふ、流石鞠莉だね。数日でここまで作りこんでくるとは」
鞠莉「ありがと、果南♪」 果南「思い出すね。あの頃のこと。鞠莉がロックとかパンクな曲ばっかり作ってくるから、ダイヤに怒られてさ」
鞠莉「ふふっ、ダイヤはスクールアイドルに関してはかなり固定観念というか、理想像があるから。普段の姿からは意外だけどポップなコテコテのアイドルソングが好きなのよね」
果南「そうそう。衣装もフリルとかね。まあ鞠莉の曲はちょっとアイドルというにはハード過ぎたってものあるけど」 鞠莉「でも今回はAqours名義では無いからね。好き勝手やっていいってダイヤからのメッセージじゃないかしら? ロックは愛と自由の叫びだもの。広義のラブソングとも言えるわ」
果南「またそうやって都合よく解釈する……」
鞠莉「いいのよ! お祭りは楽しんだ者勝ちよ! シャイニーな楽曲に仕上がればダイヤだって文句は言わないわ。あの石頭もヘドバン間違いなしね」
果南「ヘドバンするダイヤ……、あははっ。想像つかないなー」
鞠莉「じゃあ、このデモを元に編曲を進めるから、果南は作詞を進めて。愛と自由とマリーへの想いをちゃーんと込めて頂戴ね」
果南「ふふっ、任せて。あ、衣装はどうする?」
鞠莉「そうね。しばらくは個人作業になるし、今から軽く進めていきましょうか。テーマは大人のハードロック!なんてどうかしら」
果南「格好良い系だね。曜やルビィたちが甘めで来るだろうからバランスは取れている、かな?」
鞠莉「もう、果南ったらまだそんなこと気にしてるの? いいのよ、今回のデュオトリオは個性のぶつかり合いだから、私たちらしさ全開で勝負しましょ」
果南「やれやれ、分かったよ。というかさ」
鞠莉「?」
果南「個性とか勝負とか言ってるけど、私たち以外のところは上手く進んでるのかな? 私と鞠莉は昔の経験で何とかなってるけど」
鞠莉「そうね。ダイヤのところはともかく、他のデュオは苦戦するでしょうね」
果南「やっぱりそうだよね。ルビィも花丸ちゃんも、函館の経験があるとはいえ、まだ一年生だし」
鞠莉「あら、私はあの二人は苦戦はするとは思うけど、あまり心配してないわよ」
果南「ありゃ、そうなの?」 鞠莉「確かにあの二人は普段、作詞も作曲もそこまで馴染みが無いけど、ルビィにはスクールアイドルへの強い憧れと理想があるわ。勿論知識も。ルビィは機会さえ与えられたら、最初怖じ気付いたとしても絶対にやりきると思う。
ねえ、私たちが一年の頃、覚えてるでしょ。三人で衣装を作ってた時」
果南「ああ、ダイヤの家で作業することが多かったから、よくルビィに手伝ってもらってたね。ルビィはあの時は……、中学二年生か」
鞠莉「ええ。あの頃のルビィは、とても楽しそうに、私たちの衣装作りを手伝ってくれたわ。まるで自分のことのようにこだわって、時には自分の意見も出してきた」
果南「ふふっ、おどおどしながらね」
鞠莉「そして実際に、衣装は各段に良くなった。私たちが帰ってから、ルビィが仕上げてくれたの。面識があるとは言え、二歳年上の姉の友達に、“こうした方がいいと思います”なんてなかなか言えるものじゃないわ」
果南「そっか、確かに」
鞠莉「そして花丸もいる。花丸はルビィのそんなところをよく知っていて、支えたいと強く思っている。花丸ならルビィが悩んだときに背中を押してあげられるわ」
果南「……」
鞠莉「果南?」
果南「いや、鞠莉って人のことよく見てるんだなーって」
鞠莉「もう、なんだと思ってたの? 仮にも理事長サマですからね」
果南「ごめんごめんっ。でも、ルビィたちは、ってことは……?」
鞠莉「そうね。曜と梨子はちょっと、どうなるか分からないわね」
果南「うーーん、ちらっと様子見る限りではだいぶやばそうだったね。曜なんか頭抱えてたよ。二人とも妙に会話も少ないし」
鞠莉「スキル的には問題なくても今回はテーマがね……今のあの三人にはハードかもね」
果南「ん? 三人?」
鞠莉「ダイヤも良かれと思ってなんでしょうけど、なかなか酷な試練を与えるわよね」
果南「ま、曜と梨子なら大丈夫だよ」
鞠莉「あら、根拠は?」
果南「あの二人だから」
鞠莉「ふふ、果南のそういうところ、好きよ」
果南「ありがと」
鞠莉「そんなわけでちょっと心配ではあるけど、私たちは可愛い後輩が頼ってくるまでは様子見でいいんじゃないかしら。自分たちで悩む時間もきっと大切よ。マリーたちは最高のロックナンバーを仕上げちゃいましょ!」
果南「承知しました。お嬢様」
鞠莉「うむ、くるしゅうない!」
果南「何それ? あははっ」
鞠莉「うふふっ。楽しいわね、果南。どこまでも付いてきてねっ」 ◇B-2
ルビィ「うーん、こんな感じかな」
花丸「うん、いいんじゃないかな」
ルビィ「よしっ、じゃあひとまず完成っ!」
花丸「やったね、ルビィちゃん!」
ルビィ「ふゅ〜、大変だったけどこれで一息だよ〜。お疲れさま、花丸ちゃん!」
花丸「うん、マルたちは作曲の方が不安だったからね。ほとんどルビィちゃんに考えてもらっちゃたけど、これが終われば一安心ずら〜」
ルビィ「うん! あとは、作詞と編曲と衣装と振り付けだけ……って、結構あったね。あはは……」
花丸「でも衣装はルビィちゃん得意だし、作詞はマルがちょこっとだけど千歌さんのお手伝いもしてるし、何とかなりそうだよ。時間もまだまだあるし」
ルビィ「曲の方はこれを元に作詞を進めて、変えなきゃってなったら歌詞に合わせて調整するってことで大丈夫だよね。理亞ちゃんにも聞いてもらおうかな。感想もらったら連絡するね。理亞ちゃんにダメって言われないといいけど」
花丸「大丈夫! ほんとに二人だけで作ったからマルも不安だけど、理亞ちゃんもいいって言ってくれると思うな。たぶん」
ルビィ「そうだよねっ、花丸ちゃんと二人で頑張ったんだもん。大丈夫だよね」
花丸「うんうん!」 ルビィ「ところで、作曲しながら考えてたんだけど、花丸ちゃん、聖歌隊に入ってるでしょ。せっかくだから、そんな感じのフレーズを入れたいなって」
花丸「えっと、混声のユニゾンってこと?」
ルビィ「そう!なのかな? 二人でラララ〜ってやつ」
花丸「確かに、クリスマスっぽくなるかも。でも、どこに入れるの?」
ルビィ「Awaken the powerを作ったときに理亞ちゃんが教えてくれたんだけど、イントロでしっとりさせて、そのあとぱっと明るくして変化をつけていきたいから、ルビィはイントロがいいと思う。その辺りは編曲しながら考えていこう?」
花丸「……」
ルビィ「? どうしたの?」
花丸「ううん、ルビィちゃんはすごいなって」
ルビィ「そ、そんなことないよ! それを言ったら花丸ちゃんの方が、コード進行とかも知ってるし、本も読んでるから作詞とかも」
花丸「ありがとう、ルビィちゃん」
花丸(ルビィちゃんのすごいところは昨日より今日、今日より明日を強く願っているところだよ。今できないことを、怖くても、悔しくても真っ直ぐ見つめて、前できなかったことを、乗り越えていく。前向きでひたむきで、誰よりも優しいところ。
千歌ちゃんたちに会えて、善子ちゃんに、理亞ちゃんたちに出会えて、ルビィちゃんの世界はどんどん広がっていく。二人きりの図書室から。あの頃からずっと、ルビィちゃんの輝きが、臆病なマルを照らしてくれるの)
花丸「えっと、作詞はどうする? 衣装はルビィちゃん、作詞はマルで案を作ってくる?」
ルビィ「うーんと、今回はね。花丸ちゃんがよければ、作詞も衣装も、二人でやってみたいの」
花丸「二人で?」
ルビィ「うん。もしかしたら、一人で出来るかもしれないし、その方が早いかもしれないんだけど……。でも、せっかく花丸ちゃんとの曲だから、二人でやってみたいの」
花丸「……うん。わかった」
ルビィ「ごめんね。ルビィの我が儘で」
花丸「ううん、マルもルビィちゃんと同じ気持ちだよ。ダイヤさんに感謝しなきゃ。こうやって、ルビィちゃんと一緒に、二人だけの曲を作ることが出来てよかった。
スクールアイドルって歌って踊ってだけじゃなくて、こういう喜びもあるんだね」
ルビィ「ふふっ、花丸ちゃん、まだ出来てもいないのに」
花丸「あっ……、思わずしみじみしちゃったずら」
ルビィ「……頑張って作らないとね。ルビィと花丸ちゃんの歌」
花丸「うん、大切に作ろう。いつか、この日々を色鮮やかに思い出せるように」 ◇@-2
鈍色の海を見ている。
ここ内浦の海は東京湾と比べて格段に綺麗で、初めて見た時びっくりしたのを覚えている。
春、不安と憂鬱とともに、浦の星にやってきた。
三人で初めて聞いた海の音。千歌ちゃんに手を引っ張られて唐突に始まった嵐のような日々。狭い世界で塞ぎ込んでいた私の目の前いっぱいに広がる青い世界。キラキラと輝く波間と、奇跡のような出逢い。内浦の海も自然も、温かい人々も、すぐ好きになった。
夏。駆け抜けるような日々は汗をぬぐう間もなく、笑い声と歓声と熱い太陽に照らされた。
初めての輝きに浮足立った私の手を、千歌ちゃんは優しく握って、私が目を背けていた過去の私も照らしてくれた。旋律は踊るように重なる。すれ違った後で同時に振り向いて、想いは一つになった。
暑い日々を熱く駆け抜けた季節は過ぎ、残夏の余熱を濡れた砂浜に想う。
二人と二人と二人は、堅く強く、どうしようもないほど三人となった。掛け替えのない出逢いは一生ものの宝石へと変わり、私はもしもを抱きしめながら、奇跡のような“今”に感謝した。
そうして、今は一人。大切なものをたくさん手に入れて、曇天の下、鈍色の海を見つめている。分かち難いからこそ、全てが大切だからこそ、一歩も動くことが出来ない。
傍から見れば綺麗な和音の三連符。安定した三つの和音は、どちらか一方が半音近い。完全な等距離の三つの和音はどこか不安定な響きを奏でる。不協和音を生むと分かっているだけの余分な半歩、余計な気持ち。
いっそこのまますべて凍ってしまえばいいのに。私の心ごと、キレイなままで、全て止まってしまえば——。
梨子(恋の歌、か)
どうして今だったんだろう。どうして私と曜ちゃんだったんだろう。どうしてよりにもよって、ラブソングなんて——。
言葉に出来ないこと。大切な、奇跡のようなこの今を壊しかねないのに、消し去ることは出来ない。貰ったものを否定したくない。あなたのくれたものを。こんなにも私を救ってくれたのに。
私が特別だからくれたの? あなたは優しいから、誰にでもそうなの? あなたが私にとって特別なように、あなたにとって特別になれますか? 一番にしてくれませんか?
夏に三人で見たスカイブルーとマリンブルーのボーダー。今は泣き出しそうな雲と、波の下でうねる灰色の海。こんなに結ばれてしまったから、境目を分けられない。切り離せない。大切だから、言えない。 千歌「曜ちゃーん、梨子ちゃーん!」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
梨子「もう、びっくりした……。そんなに走ったら危ないよ」
千歌「えへへ、ごめんごめん! 二人がいるのが見えてつい!」
梨子「千歌ちゃんも終わったの?」
千歌「うんっ。ダイヤさんと善子ちゃんとで作業をしてたんだけど、区切りのいいところまで進んだから、今日はここまでってダイヤさんが」
梨子「ダイヤさんってほんとしっかりしてるね。上級生に言うのも変だけど、進行とか計画とかすごく安心して任せられる感じがあって」
千歌「そうそう、そうなの! 一緒に作っててびっくりしちゃった。生徒会長〜って感じなの! これなら〆切とか気にしないでのびのび作業できそう」
梨子「あら、信頼して任せてたら一向に作詞を進めてきてくれないのはどなただったかな〜?」
千歌「あわわ、チカはほら、勢いでこうガーッとやった方がいいもの出来るタイプだから!」
梨子「ふふっ、冗談よ」
千歌「あ、もう!」
梨子「あははっ、ごめんね。信頼してるよ。もう少し早くあげてくれればこっちもハラハラしないで済むんだけど」
千歌「う〜、頑張るよ。でも、いつもは一緒に頭抱えてたから、こうやって別々に作ってみるのも楽しいね」
梨子「うん。スクールアイドルって、色んな学校でグループがあって、歌一つとっても色んな作り方があるんだなって思った。でも、悩んでばっかりで全然進んでないから千歌ちゃんのこと怒れないな」
千歌「うん、なかなか苦戦してるみたいだね。大丈夫そう?」
梨子「いつも詞先で作ってるから、今回もテーマと詞を先に決めようとしてるんだけどね。何か今回は色々考えすぎてこんがらがっちゃった」
千歌「大丈夫、梨子ちゃんと曜ちゃんならきっといい歌が出来るよ。ねっ、曜ちゃん」
曜「……」 千歌「? 曜ちゃん?」
曜「あ、ごめん、何でもないよ。ちょっとぼーっとしちゃってた」
千歌「そう? なんか変なカオしてたよ。歌のこと考えてたの?」
曜「……ぁ、うん、そ、そう」
千歌「よしっ、じゃあチカからプレゼント! ほいっ」
曜「わっ―—っと。ってみかんじゃん」
千歌「曜ちゃんも好きでしょ! 甘くて元気出るよ。みかん一個分のビタミンCも入ってて、美容にも健康にもいいんだよ。ね、寿太郎」
寿太郎(千歌)『ウン、オイシイヨ!』
曜「千歌ちゃんじゃん……、みかん一個分ってみかんそのものだし……。もう……」
千歌「やっと笑ってくれた。元気出た?」
曜「苦笑いだよ」
寿太郎(千歌)『チガウヨ! ニガクナイヨ!アマイヨ!』
曜「そうじゃなくって、もう。てゆーか寿太郎ほぼ平成教育委員会じゃん、ふふっ」
千歌「あははっ。寿太郎みかんは内浦の特産だからね。いつかAqoursでみかん大使になって、もっと全国に広めてやるのだ」
曜「昔から言ってるね、それ。あ、おいし」
千歌「でしょ。お使いの帰りに貰ったんだけどね、千歌も今日三つも食べちゃった」
曜「千歌ちゃんお使いに行くと毎回みかん貰ってたもんね。学校にまで持ってくるのは千歌ちゃんくらいだよ……」
千歌「食べる用と、非常用と、布教用と必要だからね。みかんアンサバダーの勤めだよっ。水面下ではJAなんすんがスカウトに動いてるんだとか」
曜「またおバカなこと言って……。あとアンバサダーね」
千歌「ええー?」クスクス
曜「あははっ」 梨子「……」
千歌「あ、ごめんね、梨子ちゃんも食べる?」
梨子「……え、ごめん、何だっけ」
千歌「あー、もう! 梨子ちゃんまで上の空! はい、ちゃんと食べて!」ギュッ
梨子「あ、おみかん……。ありがとう」
千歌「二人ともいつもと違う。やっぱり、曲作り、大変? 千歌でよかったら二人の話、聞くよ」
梨子「ありがとう、千歌ちゃん。えっと、曜ちゃん?」
曜「うん。そうだね。せっかくだし聞いてもらおうかな」
千歌「うんうん。たまには千歌に頼ってよ」 梨子「えっと、じゃあ。千歌ちゃんは曲のテーマとか、歌詞とかはどうやって考えてる?」
千歌「テーマ? えーっと……。今直面してる問題とか、乗り越えたいこと、その時感じてることをそのままテーマにすることが多いかな。
曲を作る前にAqoursで大体の方向性を話し合うことも多いよね。梨子ちゃんにも相談に乗ってもらったり」
梨子「うん……」
曜「……」
千歌「歌詞は、うーん。出来る限りその時思ったことを素直に歌詞にするようにしてるかな。ちょっと恥ずかしいことも、普段は言葉にしにくいこともそのまま。心の中を素直に」
梨子(心の中を、素直に——)
千歌「あとは、その時の自分なりの答えとか、“こうだったらいいな”っていう理想を少し膨らませてみたり、今の延長線上の自分たちを想像して作詞することも多いかな。自分が思ってないことは歌えないから、自分に正直にっていつも気を付けてるんだ」
梨子(ああ、やっぱり、千歌ちゃんはすごいな。自分に正直に言葉にするなんて、私が一番出来ないことなのに。それとも、言葉に出来ないことを考えちゃう私の方がおかしいのかな)
曜「……ねえ、千歌ちゃん。正直に、素直に言葉にすることが、誰かを傷つけたり、何かを壊しちゃうかもしれないときはどうすればいいのかな?」
梨子(——!)
千歌「えっ……?」
曜「ぁ、ご、ごめん、何でもない。ふと思っただけで。何言ってるんだろ、あはは」
千歌「ううん、私は難しいことは分からないけど……。でも、うん。例えば、千歌の想いが誰かを傷つけるとしても、心の中は消せないから——、きっと言葉にしちゃうと思うな。
輝きって、そういうことなんだと思う。その時の気持ちは、その時言葉にするしかないんだよ。間違ってても、あとで後悔するとしても、今の気持ちに嘘をつけない。無理に押し込めたり、捻じ曲げて違うものにしちゃったら、こころが可哀想だもん」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「それにねっ。もしも千歌が本当に間違ってて、誰かを傷つけるような歌を作ろうとしたら、曜ちゃんや梨子ちゃんが止めてくれるよ。でしょ?」
二人(——!!)
千歌「同じように、曜ちゃんと梨子ちゃんの歌が、誰かを傷つけたり、二人を苦しめるなら、千歌が止める。Aqoursのみんなも絶対止めてくれる。だから、絶対大丈夫だよ」
曜「……」
梨子「……」 千歌「あはは、何言ってるか自分でも分からなくなっちゃった。ごめんね」
曜「……ううん。ありがとう、千歌ちゃん」
梨子「うん。私たち、頑張るよ」
千歌「ほんとっ? 力になれたならよかった!」
曜「うん。たぶん、曲作りはまだまだ苦戦すると思う。でも、ちゃんと向き合うよ」
千歌「??」
梨子「うん、もう逃げない。あやふやなまま誤魔化して作ったりしない。向かい合って、しっかり言葉に、歌に、形にする」
千歌「——うんっ! 千歌、二人のこと、応援してる!」
曜「二人のこと?」
梨子「応援?」
曜・梨子「ぷっ、あはははっ」
千歌「ええーー? なんで笑うのーー!??」
曜「あははっ、ごめん、あんまり千歌ちゃんが面白いこと言うから。ね、梨子ちゃんっ」
梨子「うふふっ、そうね。そういうとこ、千歌ちゃんらしい」
千歌「えええーーー??」 ◇C-1
ダイヤ「それでは、ミーティングはこれで終了としますわ。問題があれば逐次報告と相談をお願い致します。一旦休憩とします。休憩後は全体練習です」
一同「はーい!」
善子「ねえずら丸、ルビィ。ジュース買いに行かない? 喉乾いちゃって」
花丸「いいよ。ね、ルビィちゃん?」
ルビィ「うんっ」
千歌「あ、千歌も!」
曜「私も行こっかな」
果南「あ、どうせなら買い出しジャンケンしようよ。小腹空いちゃったし肉まん食べたい」
千歌「肉まん!? 千歌も食べる!」
曜「私はおでんがいいかな〜」
鞠莉「Oh! ジャパニーズジャンクフードですネー?」
ルビィ「あわわ……、なんか大事に……」
梨子「あ、あはは」
ダイヤ「ちょっと! みなさん!」
果南「まあまあダイヤ。たまには一息入れてもいいんじゃない? ここしばらくみんな制作で張り詰めて集中してたし。わいわい何も考えない時間も必要だって」
ダイヤ「果南さんは自分がまったりしたいだけでしょうに……」
果南「よーし、じゃ、年功序列も良くないから学年ごとに勝負して負けた三人が買い出しね。ほら、ダイヤも。ジャンケン。まさか負けるのが怖いのかな〜ん?」
ダイヤ「……。ふっ、いいでしょう。見え透いた挑発に乗るのは癪ではありますが、勝負事に背を向けるのも黒澤家の名折れというもの」
果南(相変わらずチョロい……)
鞠莉(ストーンヘッド、いえ、ダイヤモンドヘッドというのかしら。将来が少し心配になるわね)
ルビィ(おねいちゃん……)
花丸(ナナチキ食べたい)
ダイヤ「行きますわよ! じゃーんけーん」
Aqours「ぽんっ!!」 ◇
善子「って! 結局ヨハネたちじゃない!!」
千歌「まさかトリオそのままになるなんて……」
ダイヤ「おかしい……絶対おかしいですわ……」ブツブツ
善子「やはり運絡みのゲームは良くないわ……アカシックレコードが逆位相になり、ヨハネに牙をむく運命なのよ。精霊結界の構築を急がなければ——。
げ、ずら丸ってばどんだけ食べるつもりなのよ。のっぽパン×3って何かの間違いよね。あんまんとチキンもあるし。ルビすけは——、ポテトか。ほんと好きね」
千歌「梨子ちゃんは、えっとシトラスティーだけ? もっとちゃんと食べないとダメなのだ! 千歌おすすめのスナックも買ってってあげよっと。あ、限定フレーバー出てる! これも買っちゃお」
ダイヤ「ちょっと千歌さん、そんなに買っても食べられないでしょう? お泊り会ではなく、あくまで休憩なのですから——」
千歌「あ! いいなそれ! Aqoursでお泊り会したい!」
ダイヤ「いえ、今はそういう話では無く——」
千歌「ね! 善子ちゃんもしたいよね、お泊り会!」
善子「ふっ、そうね。やぶさかではないわ。あとヨハネよ」
千歌「ね〜、ダイヤさん、お泊り会したいな……」
ダイヤ「くっ! 唐突に妹っぽい感じ出してくるのをおやめなさい!
……コホン、ま、まあ、このイベントが無事に終わったらそういうのもたまには良いかもしれませんね。みなさんに聞いてみる必要はありますが、わたくしとしても羽目を外しすぎなければ反対ではありません」
千歌「やったー! 打ち上げパーティだー!」
ダイヤ「あ、千歌さん! ですから買いすぎですよ!」 ◇
ダイヤ「もう、そんなに買い込んで——。節度を守って食べて、残りはきちんと持ち帰るようにしてくださいね」
千歌「はーい。えへへ、みんな喜んでくれるかな。お泊り会も色々決めないと」
善子「ふふ、全員で年越しの魔宴≪サバト≫。佳い響きね」
ダイヤ「まったく。すっかりその気になって。ちゃんと全デュオトリオが課題をこなし、ライブを成功させることが条件ですわよ。今日の報告でも順調と言えるのは鞠莉さん果南さんくらいだというのに」
千歌「うん。でもきっと大丈夫。ルビィちゃんも花丸ちゃんも、曜ちゃんも梨子ちゃんも。今はちょっと苦戦してても、最後は絶対素敵な曲を作ってくれるって、信じてます」
ダイヤ「はぁ。楽観的なんですから……」
善子「あ、曜さんと梨子さんと言えば」
千歌「?」
善子「千歌さん、あの二人に何か言った?」
千歌「うん? 何かって?」
善子「いや、なんか今までと雰囲気が変わったっていうか」
千歌「うーん。千歌なりの作詞方法とかは少し話したけど……。変わったかな、雰囲気?」
善子「まあヨハネも何となく思っただけなんだけど」
ダイヤ「いや、善子さんの仰りたいことは分かりますわ。わたくしもあの二人は少し変わったように見えます」
千歌「ダイヤさんも?」
ダイヤ「相変わらず苦戦されているようですし、交わす言葉が少なめなのは変わりませんが、何というか、お二人とも、覚悟が決まったように見えます。手探りながらも自分のやるべきことを見据えていると言いますか。悩んではいても、迷ってはいないというように」
善子「そう、そんな感じかも。悩み方が、“どうしたらいいか”じゃなくて“どうやってやろうか”って感じに見えるようになったわ。それで千歌さんが何か言ったんじゃないかと思ったんだけど」
千歌「うーん? 話した時にお礼はもらったけど、特別なことは言ってないかな。たぶん、二人が何か答えを見つけたんだよ」
善子「うーん、そうなのかしら」
ダイヤ「何にせよ、何かしらの光明が差したのは良いことです。良い方向に向かっているのであれば、お二人を信じるのみですわ。わたくしたちも負けないように曲作りを進めていかなければなりません。いいですわね」
二人「はい!」 千歌「曲作りもイベントも楽しみだし、お泊り会も楽しみだなあ! 楽しみいっぱいでいいですね!」
ダイヤ「期末テストもラブライブ本選に向けた果南さん発案の地獄の特訓もありますが……」
千歌「う……、それも楽しみ!」
善子「千歌さん……、強がりを……」
千歌「つ、強がりじゃなくて! 浦の星が廃校になっちゃうなら、テストも、練習も、何気ない授業や休み時間だってもう二度と無いんだよ? だったら楽しまなきゃ!」
ダイヤ「千歌さん——」
千歌「限られた時間だけど、限られた時間だから、全力で楽しんで、悔いなく頑張って、ラブライブで優勝する! そして浦の星の名前を残す! でしょ?」
善子「そうだったわね……この時間にも、限りはある」
千歌「だから、目の前のことも全力で楽しもうよ! 練習も、休憩も、みんなとの時間も」
ダイヤ「……ええ。そうですわね」
千歌「休憩しながらお泊り会の計画をしなきゃ。夜はみんなで布団に入って、たくさんおしゃべりしたいな」
善子「そうね。みんなでご飯作って、みんなで布団並べて」
千歌「そうそう! それで、内緒の話するんだ。誰のこと気になってる?とか」
ダイヤ・善子「——え?」
千歌「え……? 千歌、何かヘンなこと言った?」
善子「……はぁ」
千歌「無言でため息!?」
ダイヤ「まったく……、あの二人も苦労しますわね」
善子「さすがに同情するわ……」
千歌「え、なになになに!?」
ダイヤ・善子「はぁ〜……」
千歌「えええーーー!?」 ◇A-2
鞠莉「こんなところかしら?」
果南「そうだね。自分たちで言うのもなんだけど、だいぶいい感じ、かな」
鞠莉「じゃあこれでひとまず楽曲は完成! あとは衣装とパフォーマンスね」
果南「衣装案は大体固まってきてるから、生地と素材を探しながら練習の合間に衣装アレンジを進める、と。」
鞠莉「振り付けは果南、お願いね。今回はスタンドマイクで歌唱メインだから——」
果南「極力シンプルに、要所で煽りを入れつつ盛り上げるような感じだね」
鞠莉「OK、流石ね。うーん、やっぱり正統派ロックっていいわね〜。早く会場で歌いたいわ!」
果南「気が早いんだから……、でも、そうだね。鞠莉と二人で歌えることを思うと私もワクワクしてきた。背中合わせの振り付けも入れようかな」
鞠莉「いいわね! 歌割りは練習の中で決めていって、振り付けが固まってきたら振り入れね。ねえ、さっそく歌ってみましょ?」
果南「ふふ、そわそわしちゃって。すっかり気分はライブ本番だね」
鞠莉「あら、果南もでしょ? お姉さんぶっても隠しきれてないわよ〜?」
果南「ちぇっ、ばれたか。よし、最初は何も考えず二人で歌おうか。音量も上手さも気にせず、思い切り」
鞠莉「分かってるじゃない! さあ、行くわよ、マリーたちの歌、Sing-along!!」 ◇@-3
飛び込み台から水面までの距離は10メートル。
流石に下の景色がぼやけて見えることは無いけれど、調子が悪いときなんかは、くっきりと見えないことがある。何百回、何千回と飛び込んでも、恐怖はあるし、失敗したときは痛みもある。反面、調子が良いときは水面までくっきり見える気がする。
しっかりと見えないのは勿論、私の視力の問題では無くて、心の問題なんだと思う。調子が悪いときはきっと無意識のうちに目をそらしてしまっているから。目の前にずっとあって、ずっと望んでたもの。真っ正面からピントを合わせるのが怖くて、ぶつかるのが怖くて、目をそらしながら一番近くをうろうろしているだけだった。 子供の頃から私は器用だと周りに言われた。飛び込みを始めて、ママや先生が喜んでくれて、上達するのが楽しくて——。曜ちゃんは特別だよ。すごいと言ってくれる同年代の友だちに、見えない溝みたいなものを感じたのもその頃だった。仲は良いし、一緒に遊ぶけど、私はどこか別枠だった。渡辺さんをお手本にね。逆上がりが出来なかったり、運動会のダンスを特訓する“みんな”の仲間には入れなかった。私は特別になんかなりたくなかった。ただみんなの輪に入って、一緒に何かを出来ればよかったのに。
何が違ったんだろう? 私を“普通”にしてくれたのが千歌ちゃんだった。曜ちゃん、すごい! そう言って応援に来てくれても、溝は感じなくて、何の隔たりも無く褒めてくれた。
それからはずっと隣にいた。普通コンプレックスの千歌ちゃんと、特別扱いが怖い私。千歌ちゃんと一緒に何かをするのが私の夢になった。
そしてスクールアイドルに出会った。千歌ちゃんと一緒に何かを出来る! やりたいことをずっと探して見つからなかった千歌ちゃんは、自分だけの輝きを見つけて走り出した。
みんなに囲まれてても一人ぼっちだった私の手を取ってくれたように、思えば千歌ちゃんにはそういう力があるのかもしれない。梨子ちゃんにも、善子ちゃんにも、一人で悩んでいる自分を、ありのままの自分を、それが普通だよと受け止めて、“みんな”の一員にしてくれた。ルビィちゃんも花丸ちゃんもそう。外から私は違うと悩んでたのに、みんなの輪に入れてくれた。 初めて輝きを見つけた春からは激動の日々で。目の前にずっとあって、ずっと望んでいたもの。一番近く。私と千歌ちゃんの距離は変わってないのに、舞台は一変し、いつの間にかその居場所を見失っていた。運命の出会いって信じますか? まるで奇跡のように、二人は出逢い、物語は動き出した。
ずるい、と思う。憧れの地から颯爽とやってきて、可愛くて、お洒落で、気遣いも出来て、女の子らしくて。才能を持っていて、ちょっと傷ついていて、でも再び前を向いて。私が欲しかったそこは神様が用意した予約席だというように、二人はいつの間にか当たり前に“二人”になっていた。
気が付いたら二人を見ている。
一番近くで笑い合う顔を見たくなくて、目をそらす。思わず浮かんだ自分の気持ちから目をそらして二人に笑いかける。私って二人の邪魔なのかな? 二人は絶対そんなこと思わないの分かってるけれど。二人のこと大好きだけど。そんなことを考えてしまう自分が嫌いで、そこにあるものから目をそらす。真っ直ぐ見つめるのが怖くて、微睡む霧の中に自ら迷い込むように。 ◇
果南「お待たせ、こういうのも久しぶりだね」
曜「……うん」
果南「梨子は?」
曜「今日は解散。というか二人で考えても何も出てこないから各自で考えてこようって」
果南「ありゃりゃ」
曜「曲作りって大変なんだね。今まで千歌ちゃんと梨子ちゃんに任せっきりだったから、こんなに何も出来ないとは思わなかった。私って今まで何やってたんだろうって」
果南「曜だって衣装もダンスも練習メニュー作りもやってるよ」
曜「そうなんだけどね。……はぁ、なんで私と梨子ちゃんだったんだろ。千歌ちゃんと梨子ちゃんだったら今頃はとっくの昔に作詞も作曲も終わってたかもしれないのに」
果南「……」
曜「どうしたのさ」
果南「いや、こんな素直に弱音を吐く曜、珍しいなって」
曜「えー…、ひどくない? 可愛い妹分が珍しく頼ってるのに」
果南「自分で可愛いとか言うキャラだっけ? 妙にローテンションだし」
曜「もう考えすぎて疲れた……。自分に向き合うってしんどい……。それでも曲作りは全然進まないし」
果南「まあ曜は考えるより体を動かすタイプだからね」
曜「だから私以上に脳筋な果南ちゃんに教えてもらおうかと思って」
果南「は!?」
曜「え? なにそのリアクション」
果南「いやいや、私は鞠莉とのデュオでも歌詞担当だし、元祖Aqoursでも作詞してたから」
曜「う……、ちゃんとやってるだけに反論できない……」 果南「それで、何を悩んでるの?」
曜「ごめんね、果南ちゃんたちも楽曲制作あって忙しいのに」
果南「急に殊勝になるじゃん……。相当参ってるね。いいよ、私たちはほぼ終わってるし」
曜「え、もう?」
果南「昔取った何たらってやつ、鞠莉も私もね。可愛い後輩の相談に乗るのも先輩の仕事。鞠莉も今日は用事あるってどっか行っちゃったし、気にしなくても大丈夫」
曜「どっかって……。果南ちゃんはそういうの気にならないの?」
果南「え? 何で?」
曜「私は駄目だな。千歌ちゃんや梨子ちゃんが気になっちゃう。私の知らないところで何をしてるのか、勝手に考えて、もやもやしちゃう」
果南「うーん。それが相談?」
曜「違うような、そうとも言えるような。つまるところは、デュオ曲のテーマというか方向性が全然決まらないという話なんだけど」
果南「??」
曜「えーと、上手く説明できないんだけどね、ごめん、私が相談してるのに。
ある問題があって、それは簡単には解決出来ないの、多分。望みを叶えようとすれば誰かが傷つくし、今まで大切に築き上げてきたものが壊れてしまう。全部が大切だから、雁字搦めで一歩も進めないのに、それを叶えたいという気持ちは消せなくて、自分が我慢すればいいとは分かってるんだけど、うまくいかないの」
果南「……」
曜「余計なことを望まなければ問題は起きないのに、その余分なことをどうしても望んでしまう自分も嫌だし、開き直って望みに向き合うことも出来ず、結局見て見ぬふりをしちゃう自分も嫌なの。自分に素直に、正直に、ちゃんと向き合って、歌にしたいと思ってるんだけど——」
果南「上手く形に出来ない?」
曜「……うん。答えも出ないし、梨子ちゃんと一緒に歌うことを考えると、どうやっていいのかも分かんない。ずーっと考えてたら、なんか訳分かんなくなっちゃって。で、息が詰まりそうになって、海が見たくなって、果南ちゃんに相談したの」
果南「なるほどねー。それでびゅうおで待ち合わせ」 曜「ねえ、果南ちゃんはどう思う……?」
果南「んー、私には分かんないかなあ」
曜「は!?」
果南「てゆーか、考えてもきっとわかんないよ」
曜「えー…?」
果南「ねえ曜。悩むのってそんなに悪いこと?」
曜「ええ…? いいことでは無くない?」
果南「ジャージ持ってる?」
曜「急になに!? あるけど」
果南「よし、走ろう」
曜「何言ってんの!!?」
果南「悩んでるときはランニング! 今日は風も弱いし、夕日も見られそうだし、砂浜でいっか」
曜「いやいや、私、曲のテーマで悩んでるんだけど……」
果南「先輩命令! ランニングが嫌ならダイビングでもいいけど——」
曜「走ります」
果南「よろしい! じゃあさっそく着替えてレッツゴー! 往復10qね」
曜「ちょっとー!! やっぱり脳筋じゃーーん!!」 ◇
曜「はぁ…はぁ…、もう…無理…」
果南「でも走れたじゃん」
曜「果南ちゃんの、はぁ…、鬼…」
果南「すっきりした?」
曜「考える気力も無いんだけど……」
果南「それでいいんだよ。ほい、喉かわいたでしょ」
曜「あ、ありがと」
果南「曜は考えすぎなんだよ。私と同じで、もともと難しいこと考えるの向いてないんだし、体動かして頭空っぽにした方がいい案でるよ」
曜「果南ちゃん、ひょっとして馬鹿にしてる?」
果南「馬鹿でいいんだよ。その方がきっと自分の心に素直になれるよ」
曜「深いような浅いような……。でも、ちゃんと考えないと答えも出ないし……」
果南「別に無理に答えださなくてもいいんじゃない?」
曜「……え?」
果南「いいんじゃない、保留でも。曜も自分で言ってたじゃん。簡単には解決できないって。今すぐいい感じの答えが出せないなら、答えが出せないカッコ悪い自分のことを歌っちゃえばいい。つらいよ〜って」
曜「ええ…、そんなのアリ?」
果南「もっとシンプルに考えればいいんじゃない? 曜は今、曲作りと問題解決、二つを同時に考えてるからしんどいんだよ。曲作りの中で無理に答えを出そうとしてるから。
別にいいじゃん、情けなくても。全部が上手くいくなんて無いし、それでも何とか前に進みたいと頑張ってるから悩んでるんだよ。考えすぎは良くないけど、悩むこと自体は悪いことじゃないよ。悩みながら一歩ずつ進んでいけばいいんだよ」 曜「みんな……そうなのかな?」
果南「そうだよ。みんなカッコ悪く悩んで、うじうじして、決めたと思ってもなかなか実行に移せなくて、ようやく出来たと思ったら大間違いで——。失敗や後悔の中でやっと何かを掴んでいく。その繰り返し。そんなもんだよ」
曜「そっか。自分に向き合うってことに囚われすぎてたのかも。ちゃんと答えを出さなきゃって。立ち止まって悩んでる自分を認めることだって、自分と向き合うことなんだ——。
うん、ありがとう、果南ちゃん。何か、見えてきたかも」
果南「ふふっ。一つずつでいいんだよ。曜は不器用なんだから」
何でだろう。鼻がつんとする。優しく笑う果南ちゃんを見て、何故か涙が出そうになった。
霧の向こうを見ようとしてた。そもそも霧自体を直視できてなかったのに。それじゃあ答えなんて出る訳ないよね。霧を晴らすことはまだ出来ない。今はそれでいい。せめて霧を真っ直ぐ見つめて歌にしよう。
曜「果南ちゃんっ!」
果南「わっ! 曜とのハグは久しぶりだね。よしよし」
顔を見られたくなくて思わず飛び込んだ胸の中。優しく私のくせっ毛を撫でる感触。
果南「曜は変に真面目というか、器用に不器用だから。自分が我慢すれば、自分が他人に合わせれば上手くいくならそうしちゃう。それが器用に出来ちゃうから、誰も曜の本音に気付かない。悩んでも誰にも話さずに自己解決。曜は、我が儘を言ったり、甘えたりするのが下手なんだよ」
曜「やめて……」
果南「千歌や梨子にはいいところ見せたくてカッコ付けて。悩んでる自分を見せたくないって頑張るのはいいけど、今日みたいにローテンションで悩んでる曜も可愛いし、みんな受け止めてくれるよ」
曜「やめてって……」
果南「はいはい。あ、もうハグはいいの?」
曜「……帰る」
果南「ふくれてる曜も可愛いなあ」
曜「……はぁ。もう二度と果南ちゃんに相談しない。疲れた」
果南「まあまた曲作りに困ったらランニングには付き合うから」
曜「そこは相談のってよ! なんでランニングなの!」
果南「曲作りの相談は鞠莉とかの方がいいよ?」
曜「うそでしょ……? それ言うの?」
果南「ま、頑張りな。もしかしたら——、答えは歌が教えてくれるよ」
曜「何それ?」
果南「んー、馬鹿の特権?」
曜「馬鹿にしてる?」
果南「馬鹿でいいんだよ」
曜「なんか頭痛くなってきた……」 ◇@-4
鞠莉「チャオ♪ シャイニーしてる?」
梨子「鞠莉さん、すみません。理事長の仕事もあるのに」
鞠莉「可愛いリコの為だもの。マリーはいつだってノープロブレムよ。そ・れ・に、そういう時はありがとうの方が嬉しいわ」
梨子「鞠莉さん……、ありがとう」
鞠莉「楽曲のこと?」
梨子「うん……。曜ちゃんと手探りで考えてきたけど、全然見えてこないの。千歌ちゃんにアドバイスもらったり、覚悟を決めた気になったけど、実際に曲を作るとなるとぐるぐる悩むばかりで。二人で考えても埒が明かないし、他のみんなは形になってきてるのに……」
鞠莉「梨子……」
梨子「今までは千歌ちゃんやAqoursのみんながテーマを決めてくれた。そうしたらイメージが湧いてきて、メロディーとか、流れみたいなのが浮かんでくるの。グループとして、伝えたいこととか、夢とか叶えたいことがあって、Aqoursとして想いがひとつになって、それを千歌ちゃんが代弁してくれて、その一員として形にしたくて」
鞠莉「そっか、梨子は共感型の作曲家なのね。その曲に関してグループ全員の一致する気持ちを感じ取って歌にする。ベースボールでも使う表現だけど、チカっちとは本当に夫婦ね。でも、そういうことなら今回は——」
梨子「うん。デュオでラブソングって難しいね。曜ちゃんとも出会ってからずっと一緒にいるのに。二人で歌うラブソングなんだから、心をひとつにして歌いたいんだけど、私たちの同じ想いって何なんだろうって、見つけ出せなくて。
まだ作曲までも行けてないんですけど、鞠莉さんならどうするかなって」 鞠莉「ふふっ、青春ね」
梨子「笑い事じゃないんですけど……」
鞠莉「あら、マリーは素敵だと思うわ。相手が持つ、自分と同じ想いを探して悩むなんて。二人の共通点探しなんてロマンチックじゃない? 太陽と思い悩む二人。それだけでテーマとしては十分よ」
梨子「え——、太陽って」
鞠莉「でもごめんなさい、梨子。マリーの作曲方法はあまり参考にならないと思うわ」
梨子「鞠莉さん?」
鞠莉「私は基本的には曲先——メロディーを最初に作ってそこから詞をあてていく方が多いわ。今回もそうだったし。テーマは先に決めることも多いけど、まず聞かせたいメロディーやギターが頭に浮かんでくるの。マリーの曲を聞きなさい、ってね」
梨子「……」
鞠莉「もちろんどっちが正しいということは無いし、貴方が今悩んでいるのは作曲そのものじゃない。何をテーマに曜と二人の心をひとつにするか、どうやって歌という形にしていくか。その方法論、そうでしょう?」
梨子「う、うん」
鞠莉「そうねー。梨子は今、二人が一緒に歌えるテーマを探して悩んでいる。曜と一緒に頑張ってもなかなか答えは出てこない。じゃあ、一緒に歌わなければいいんじゃないかしら」
梨子「え!!?」
鞠莉「ビジネスでよく使う表現になるんだけど、梨子はグループとチームの違いって何だと思う?」
梨子「え、いきなり何ですか?」
鞠莉「まま、いいから♪」 梨子「え、…っと、何だろう。スクールアイドルはグループで、スポーツとかだとチームってよく言いますよね。試合に勝つことを目的にしているかどうかの違いでしょうか? スクールアイドルもラブライブの大会っていう目標はありますけど」
鞠莉「イエース! 色んな見方や意見はあると思うけど、チームは組織としての目的があって、グループは単に集団を指すことが多いわ。
スクールアイドルについては、パフォーマンス自体が手段では無く目的になるから、グループという表現が使われてるのかもしれないわね。大会や順位は大事だけど、それはあくまで結果として。重要なのはステージで観客やファンのみんなに何を見せられるか。アイドルだからね」
梨子「は、はぁ……」
鞠莉「組織論からすると、今のAqoursは、チカっちはリーダー、マネージャーはダイヤということになるけど、これは余談ね。Aqoursについて言えば、グループでありながら、他のスクールアイドルグループと比べるとチームとしての側面が強いわ。これは何故か分かる?」
梨子「Aqoursが廃校を防ぐ為に活動してきたからですか?」
鞠莉「ザッツライト! 優秀ね。廃校から守るため、浦の星の名前を残す為。——ゼロをイチにする為。他にもたくさん。私たちの前にはいくつもの試練やストーリーがあって、歌と共に成長してきた。スクールアイドルは目的でありながら手段でもあった。そしてチカっちや梨子、私たちは逆風に立ち向かうように曲を作ってきた。チームとしてね」
梨子「そっか……。今まで私はチームとしての曲を作ってきてたんだ。その時々のチームとしてのテーマを千歌ちゃんが言葉にしてくれたから」
鞠莉「チカっちはそこまで意識してないでしょうけどね。梨子が言う“想いをひとつに”っていうのは、チームとしての目的、テーマということなんでしょう。だけど今回は」
梨子「私と曜ちゃんは共通する目的を見いだせていない……。このデュオはチームじゃなくてグループになっている。だから歌を通して伝えたいことが無いんだ……」
鞠莉「きっといつも素敵な楽曲を作ってくれる梨子が苦戦しているのはその為ね。ただ、勘違いしないで欲しいんだけど、私は必ずしもチームになれと言っている訳では無いわ」
梨子「えっ…と、どういうことですか?」 鞠莉「グループとチームの違いについて話したけど、どっちが上ということは無い。実際に目的やテーマが無くても良い曲はたくさんあるし、アイドルソングとしてはむしろそっちの方が多いと思うわ。目的やテーマって一歩間違えれば押しつけがましかったり、説教じみて聞こえる時もあるしね」
梨子「は、はい」
鞠莉「頑張って曜とのデュオをチームにするか、グループとして作曲をする方法を考えるか。想いをひとつにすることが難しいなら、無理に一緒に歌わないっていうのもアリなんじゃないかしら?」
梨子「え、でもデュオなのに——」
鞠莉「ノンノン、いいのよ。別々のことを交互に歌ってもいいし、一人はコーラスやダンス担当でもいい。テーマなんて無視して感情のままに歌ってもいい。音楽は自由よ。デュオって言葉に囚われずもっと自由に考えてみたら?」
梨子「もっと自由に……」
鞠莉「大体、梨子も曜もお互いに気を遣いすぎなのよ。もっと我が儘言ってぶつかってもいいんじゃないかしら」
梨子「う……」
鞠莉「いっそ梨子で作詞も作曲も一人で済まして言ってやったら? 曜がノロノロしてるから作ってやったわ、私に従いなさい。これを歌いなさいって」
梨子「ええ……」
鞠莉「大丈夫よ。心配してるのは分かるけど、簡単には壊れやしないわ。奇跡の出逢いの大親友でしょ。——貴方たち三人は」
梨子(——!!)
鞠莉「マリーに言わせれば梨子と曜はそっくりよ。同じ太陽に惹かれて、お互いの思いやりと友情で前へも後ろにも進めずに一人で悩む二人。いずれはライバルだもの。ここでガツンと立場を示してあげたら有利かも」
梨子「ま、鞠莉さん! いったいどこまで——」
鞠莉「何が正解ということは無いわ。ただ二人で答えを出してほしい。色々言ったけど、これは梨子と曜のラブソングだもの。ね、梨子?」
梨子「……はぁ。鞠莉さんには敵わないなあ。オトナって感じ」
鞠莉「あら、光栄ね。二人の歌、楽しみにしてるわ♪」
梨子「うん。色々とありがとう。少し見えてきた気がする」 アニメ1期の曜ちゃんの心情を歌った曲って逢田さんが言ってたな 鞠莉「結局のところ私から言えるアドバイスはひとつよ。後悔しないよう、本音でぶつかって。今すぐは無理かもしれないけど、いずれその時が来るなら、それが相手を想った決断だとしても、一人で抱え込んで決めたりしないでね。相手が大切なら、喧嘩をしようとぶつかり合って、三人で答えを出すの。
それさえ出来れば、きっと大丈夫よ。どんな形になろうと、きっと変わらない未来がそこにはあるわ。そしたらまた、三人で新しい歌を作ればいい。
ふふ、どんな未来がまってるのかしらね?」
梨子(どんな未来が——)
鞠莉さんがあんまり楽天的に未来を語るものだから、私もなんだか心配してるのが可笑しくなってきた。ああ、もしかしたら未来は明るいのかも。私たちがそれを願えさえすれば。
灰色にうねる曇天の海のように見えたこれから先の未来。違う夏が来て、夢の色は変わっても、変わらず三人ではしゃいで笑う夏を夢見た。 ◇@-5
曜「ごめんっ。お待たせ、梨子ちゃん」
梨子「曜ちゃん、大丈夫だよ。さっそくなんだけど、楽曲作りに関して提案があって——」
曜「ごめん! その前にこっちからいいかな?」
梨子「え……? うん」
曜「私、数日Aqoursの活動をお休みしてもいいかな!?」
梨子「えっ」
曜「昨日よく考えてみたの。梨子ちゃんと一緒に歌を作って、自分に素直に正直になって、悩んでいることとか、色んなことに歌できちんと答えを出したいって思ってた。でも、考えてみると、私ってそんなに一度に色々出来るほど器用じゃなかったなーって」
梨子「……」
曜「悩みの中にいる自分のことすら真っ直ぐ見ることが出来なくて、それで誰かと一緒に答えを出すなんで、私にはまだ早かったみたい。
だから、ひとまず、テーマと作詞だけでも自分で作ってみようと思うんだ。やったことないし、そんなに簡単には出来ると思わない。だから、ちょっと部活動もお休みして、集中して作ってみたいの。不器用でも、私なりのラブソングを。
自信も無いし、もしかしたら、出来上がってみたらラブソングと言えないヘンテコなものかもしれないけど、その時は、梨子ちゃんが直してね」
梨子「曜ちゃん……」
曜「スクールアイドル部をお休みすることについては、さっきダイヤさんに許可を取ってきた。デュオで一緒の梨子ちゃんが許してくれるなら、チャレンジしてみたいなって。どう、かな?」 梨子「あ、あのね、曜ちゃん」
曜「?」
梨子「実は私も似たようなことを提案しようと思ってたの」
曜「え……? 梨子ちゃんも?」
梨子「うん、厳密には違うんだけど……、私たち、一緒に作ろうと思ってこれまで頑張ってきて、上手くいかなかったから、今度は別々に作ってみようかって、提案しようとしてた。
一回二人で別々に作詞をして、そこから二人でどんなのが出来るか、何が生まれるかを考えてみようかなって」
曜「二人で、別々に……」
梨子「うん。私たち、楽曲を作るにあたって、今まで二人で共通するテーマや答えを探して、見つけられずに停滞してきた。だからお互いで作ってから共通点を探すのもいいかもって思ったんだ。逆転の発想ね。二人で一緒に悩んでも駄目なら、あえてぶつかり合ってみるのもいいんじゃないかな。飛び込む前に悩むより、飛び込んでから考えようって」
曜「梨子ちゃん……それ私が言うやつじゃない……?」
梨子「ふふっ、曜ちゃんから提案してくれてよかった。ぼーっとしてると置いてっちゃうよ?」
曜「あー! またっ!?」
梨子「ふふっ」曜「あははっ」
曜「でも、共通点が見つからなかった場合はどうするの?」
梨子「それはその時考えましょう? 必ずしも二人でテーマが無くても、別々に歌ってもいいし、なんなら良い歌詞が出てきた方だけを採用してもいい。今までこういう勝負もなかったし、新鮮でいいじゃない」
曜「勝負かー。そういう風に言われると燃えてくるかも。思えば私は飛び込みの大会に出てたし、梨子ちゃんもピアノのコンクールに出てたもんね」
梨子「ふふ、もしかしたら、簡単なことだったのかも」
曜「そうだねっ。よーし、やる気出てきた」
梨子「そうね。期限は3日にしましょう。締め切りが無いと面白くないしね。それまでにお互いベストだと思う歌詞を作ってくること。いい?」
曜「ヨーソロー!」
梨子「じゃあ曜ちゃん、——コンペ開始よ」 ◇
果南「早速飛んでっちゃたね。大丈夫、梨子? ああなった曜は手強いよー?」
鞠莉「そうね、曜の武器は集中力だもの。ふっきれた曜がどんな歌詞を書いてくるか楽しみね〜」
梨子「見せませんからね」
鞠莉「ワッツ!? 梨子、そんな子に育てた覚えはありマセン!」
梨子「育てられた覚えもありません! 最終的に出来たものは見てもらいますけど、制作途中のものは見せられませんから」
鞠莉「ノー!! マリーはただ曜と梨子が心配で——。愛してるのデ〜ス」
梨子「愛してるなら信頼してください。鞠莉さんに育てられた可愛い後輩を」
鞠莉「うっ……」
果南「あはは、一本取られたね、鞠莉。ま、誰だって作りかけのものは見られたくないよ。まして曜も梨子も自分をさらけ出して歌を作ろうとしてるんだし、野次馬根性もそこまでだよ」
鞠莉「マリーは……、マリーはただ……」オウオウオウ…
果南「曜は帰っちゃったし、梨子はどうする? コンペっていうなら同じ条件にしなきゃだし、梨子もしばらく部活休みにする? ダイヤに言っておくよ」
梨子「いいえ、私は大丈夫です。私は体力もダンスもまだまだだし、全体練習も大事です。頑張らないといつまでも曜ちゃんに追いつけませんから」
果南「……そっか。分かったよ」
千歌「二人とも、何か答えを見つけたみたいだね」
梨子「千歌ちゃん……、うん」
千歌「この前は笑われちゃったけど……、頑張ってね。千歌、二人のこと、いつも応援してるよ!」
梨子「ありがとう。千歌ちゃん。待っててね。きっと素敵な歌を作ってみせるから。曜ちゃんと二人で、私たちの歌を届けて見せるから」 ◇B-3
花丸「うん、いいんじゃないかな」
ルビィ「……」
花丸「ルビィちゃん?」
ルビィ「う、ううん。ありがとう、花丸ちゃん。これで、作詞も完成! 曲作りは終わりだねっ」
頷くと、少し浮かない顔をするルビィちゃん。最近、ルビィちゃんはこんな顔をすることがたまにある気がする。なんでだろう? デュオとしての楽曲制作は初めてにしては順調で、鞠莉ちゃん果南ちゃんには及ばないまでも、しっかり形になってきてるのに。
曲作りの中で改めて分かった。やっぱりルビィちゃんはすごい。函館や今までの経験がしっかり活きて、ルビィちゃんの力になっている。ルビィちゃんなら、これからもっともっとすごいスクールアイドルになって、ルビィちゃんの心の中にある、キラキラした憧れでマルやみんなを照らしてくれる気がする。もっと自信を持ってほしいな。マルが背中を押してあげたいなって思う。 ルビィ「そ、そうだ。そろそろ衣装について考えなきゃって思うんだけど、二人で考えたいなって。花丸ちゃんはどんなのがいいと思う?」
花丸「衣装かあ。うーん……。いつも曜ちゃんやルビィちゃんがデザイン作ってくれてるよね」
ルビィ「ル、ルビィは曜ちゃんのお手伝いしてるだけだから……」
花丸「そんなことない。曜ちゃんも千歌ちゃんもルビィちゃんがいてくれてすごく助かってるって言ってたよ。アイデアも出してくれるし、この前はルビィちゃんの案で決めたって」
ルビィ「あ、あれはたまたま前見た資料でいいのがあって……、メンバーのバランスとかは曜ちゃんが調整してくれたし」
花丸「大丈夫、自信持って。ルビィちゃんの案なら絶対いいのが出来るよ。ルビィちゃんが思うままにデザインした衣装、二人で着てみたいな」
ルビィ「……うん。花丸ちゃんは、希望とかイメージとかある?」
花丸「マルは全然デザインとか詳しくないから。ルビィちゃんが考えた方が絶対素敵だと思う」
ルビィ「……うん。ありがとう、花丸ちゃん、ルビィ、考えてみる」
花丸「うんうん! それがいいよ、マル、楽しみにしてるね!」
ちょっと寂しそうな顔。ごめんね。でも、ルビィちゃんなら絶対大丈夫だから。ちょっと気弱だけど、決めたことは絶対やりきるルビィちゃん。マル、ルビィちゃんのこと、信じてるから——。
ルビィ「じゃあ、衣装の案は考えてくるね。ラフが固まったら相談するから花丸ちゃんもいい案があったら教えてね」
花丸「うん!」 ルビィ「それじゃあ、今日は曲も完成したし、まだ時間はあるから、振り付けを少しずつ考えていこっか」
花丸「う……、ダンスはちょっと不安ずら……」
ルビィ「あはは、ルビィもだよ。でも花丸ちゃんもルビィも、Aqoursに入って少しずつ難しいステップも出来るようになってきたし、挑戦してみよう? 困ったら果南ちゃんや曜ちゃんに聞きに行ってもいいかも」
花丸「うん! まだまだ時間もあるし大丈夫だよね」
ルビィ「はい、これが楽譜。コピーしてきたよ。間奏、Aメロ、Bメロ、サビごとに、ノートとかに書きながらそれぞれのイメージとか振りを考えていくのがいいかな」
花丸「わー、楽譜! こうやって紙になってるのを見ると、ちゃんと出来たって実感が出るね。これがマルとルビィちゃん、二人の曲——」
あれ?
改めてルビィちゃんが渡してくれた楽譜を見る。あれだけ時間をかけて作ったのに、旋律も歌詞も一枚の紙に収まっている。これが歌になって踊りもあって、スクールアイドルとしてのパフォーマンスになってお客さんに見てもらうんだからすごい。大切な曲だ。
でも、あれ?
すごく大切な曲。ルビィちゃんとマルで初めて二人で作った。振り付けも衣装もこれからだけど、これを二人でパフォーマンスするんだ。歌って、踊って、ルビィちゃんが言ってたように、お客さんに夢や希望を与えられるように。自分たちだけの力で作り上げる、ルビィちゃんとマルだけの歌。ルビィちゃんとマル、二人だけの大切な曲。
あれ、でも。
楽譜を見る。とても大切な曲になる。でも。
作曲はルビィちゃんが頑張って作ってくれた。作詞はルビィちゃんがすごくいい案を出してくれた。衣装はルビィちゃんがデザイン案を考えてくれる。振り付けはマルは苦手だけど、これからルビィちゃんと考える。マルは頷いていただけだった。ルビィちゃんにもっと自信を持ってほしいから。
いい曲だと思う。きっと他のみんなの曲にも負けないような。これがマルとルビィちゃん、二人の曲。
花丸ちゃんはどうしたい? ルビィちゃんはいつもそうやって笑いかけてくれた。
でも、あれ? おかしいな。
楽譜を見る。
この歌のどこにマルがいるんだろう……? 花丸「…………」
ルビィ「花丸ちゃん? どうかしたの?」
心配そうな顔。いつしか隣で見えてた、寂しげな顔。マルが頷くたび、ルビィちゃんのこと、傷つけていたのかな。
思えばルビィちゃんは、すごい曲を作ろうとか、上手くとか早くとか、他のみんなに負けないようにとか、そんなことは一言も言ってなかった。ただ一つだけ、
花丸「二人だけの曲を一緒に作りたい——」
ルビィちゃんが言ってたのはそれだけだった。
花丸「それなのに、マルは……」
ルビィ「花丸ちゃん?」
花丸「ごめん! ルビィちゃん!!」
ルビィ「あっ、花丸ちゃん!」
ルビィちゃんの顔を見ることが出来なくて。自分が心底嫌になって。その場から飛び出すことしか出来なかった。 ◇
ダイヤ「花丸さん? どうかしましたか?」
花丸「だ、ダイヤさん……、どうして」
ダイヤ「走っていくのが見えましたから。今日はデュオ曲の制作のはずでは? 何かトラブルでも——、花丸さん、もしかして泣いて——?」
ダイヤさんがマルの顔を見てハッとしたような顔になった。慌てて目元を隠すも、赤くなった目をしっかりと見られてしまっていた。
ダイヤ「花丸さん……」
花丸「ち、違うずら……、おら……」
ダイヤ「……いいのですよ。とりあえず、こんなところに一人でいないで、生徒会室に行きましょう。今なら誰もいませんから」 ダイヤ「はい、ほうじ茶です。あったまりますわよ」
花丸「あ、ありがとうございます……」
ダイヤ「廃校寸前とは言っても生徒会の予算は少しはあります。……雀の涙ですがね。おかげでお茶だけは苦労しませんわ。ふふ、数少ない特権ですわね」
花丸「い、いただきます……、あつっ」
ダイヤ「あらあら、ゆっくり飲んでください」
ダイヤさんの淹れてくれたお茶は美味しかった。熱めのお茶を湯吞に手を当ててゆっくりと飲み、ほうっと息を吐く。
ダイヤ「一息つけましたか?」
花丸「はい……。ちょっと落ち着けました。すみません、マル……」
ダイヤ「気にしないでください」
花丸「あの、聞かないんですか? 何があったか」
ダイヤ「あら、花丸さんが聞いてほしいなら聞きますわ。でも、話したくないなら無理にとは言いません。スクールアイドル部は部活動です。真剣にやれば意見がぶつかることも出てくるでしょうし、悩みも壁もあって当然です。仲が良いことと意見が合わないことは必ずしも相反するものではありません。時にはぶつかりながらも話し合って乗り越えていけば良いのです。まあ、大方ルビィがまた我が儘でも言って、花丸さんを困らせたのでしょうが……」
花丸「ち、違うんです!」
ダイヤ「花丸さん?」
花丸「ルビィちゃんは全然悪くないんです……。マルが……」
ジワ。思い出したら止まったはずの涙がまた出そうになって、下を向いて強く湯呑を握る。
花丸「ルビィちゃん……」
ダイヤ「……花丸さん」
マルがルビィちゃんを傷つけた。ルビィちゃんの背中を押すつもりで、一人、突き放してしまった。一緒にやりたいというルビィちゃんの声に耳を貸さずに。ルビィちゃんはいつだって、マルの小さな心の声に耳を傾けようとしてくれたのに。
もう逃げちゃいけない。これ以上マルの大切なルビィちゃんから離れちゃいけない。だから、辛くても、怖くても勇気を出そう。胸の中にしまわずに向き合って、言葉にしなくちゃいけない。
花丸「あの、ダイヤさん。マルの話、聞いてもらえますか?」 ◇
ダイヤ「そう、そんなことが……」
花丸「マルが余計な気を回してルビィちゃんのこと傷付けちゃった。ルビィちゃんは最初から一緒にやろうって言ってくれたのに。マルが……間違えちゃったの」
ダイヤ「……」
花丸「ルビィちゃんはマルにとって、大切なお友達で、スクールアイドルの仲間で、憧れだったのに。マル、ルビィちゃんのこと、ちゃんと見れてなかったのかな……」
ダイヤ「そうですわね、大事な友人のこと、ちゃんと見ているつもりでも、実はそうではなかった……。わたくしだって、覚えがありますわ。ありのままを見てる筈が、理想やコンプレックスや不安——そんなものが知らないうちに自分の目を曇らせてしまう。気付いたら一緒にいても心はバラバラになって、後になって思い知る。嫌になりますわね」
花丸「え……ダイヤさんも?」
ダイヤ「ふふ、しょっちゅうですわよ。近頃はようやくマシになりましたが、それだってこの先どうなることやら。もしかしたら自分では分かっている気になるほど、実態とはかけ離れていくものなのかもしれません。なんせ、ロケットのようなあの二人ですから」
花丸「そうなんですか? 果南ちゃんも鞠莉ちゃんも、ダイヤさんとは口では喧嘩はしても、心は通じ合っているように見えるけど……」
ダイヤ「あら、花丸さんとルビィも、わたくしから見たらそういう風に見えますわよ。もちろん善子さんも。そういうものは案外内側からじゃないと分からないように思います。それだって普段は気付かないものですしね。でも、そういう不理解やすれ違いを一つずつ乗り越えて、相手と自分の違うところを受け入れていくのでしょう」
花丸「……」 ダイヤ「それに、先ほど花丸さんは自分が間違えたと言いましたが、花丸さんは必ずしも間違っている訳では無いと思います」
花丸「え…、でも」
ダイヤ「ルビィは今回、花丸さんと二人で曲を作ろうとした。叶うなら、作詞も作曲も、衣装も振り付けも全て二人で。気持ちは分かります。ですが、仮にスクールアイドルとしての楽曲制作をこれからもやっていくとしたら、その方法が毎回通用すると思いますか?」
花丸「それは……」
ダイヤ「そう、よほど密にコミュニケーションが出来る環境にあり、時間的な余裕が無ければ厳しいでしょう。リーダーが自分一人で全部こなそうとするのも、メンバー全員が全ての作業に参加し均等に進めるのも、現実的には適切ではありません。本来はグループとして、ある程度の意思統一はしながらも、得意なメンバーに信頼して任せ、分業を行うのが正しい。
その意味では花丸さんは間違っていません。最初の話では、作曲が完了した時点で、お互いが得意な作詞と衣装制作に役割分担しようとしたのでしょう?」
花丸「でも、ルビィちゃんは二人で作ろうって言ってくれたのに」
ダイヤ「そうですね。今回はルビィは花丸さんと二人で一緒に作りたかった。
きっと、今わたくしが言ったようなことはルビィも分かってはいるのでしょう。でも、他ならぬ花丸さんとだから、どうしてもそうしたかった。我が儘だと分かっていても、遠回りしてでも」
花丸「うん……それをマルが——」
ダイヤ「それならばルビィもしっかりと言えばよかったのです。今回のことについて言えば、どちらかが間違っているということではありません。ただ、二人のやりたいことが違っていて、結果的に意思疎通が出来てなかっただけ。
花丸さんも、ルビィに自信を持ってほしいという思いやりでルビィに機会を与えたかったのでしょう? お互いが今回のことについてもっと心の中まで話をすれば、すれ違うことは無く、違うやり方が見つかったのではないですか?」 花丸「そっか。マルもルビィちゃんも、お互いのことを考えてたのは同じ。ただ、言葉が足りなかっただけ——」
ダイヤ「優しさや気遣い。それ自体は素晴らしいものですが、行き過ぎれば遠慮とも言えます。花丸さん、あなたのことはルビィが中学生の頃から聞いてました。ルビィも、きっとあなたも引っ込み思案で、話しかけたい、仲良くなりたいと思ってもなかなか出来なくて、それでも時間をかけて、おっかなびっくり仲良くなっていった——。
初めて親友が出来たんだって、それは嬉しそうに教えてくれたんです」
夕日の差すあの二人きりの図書室。出会ったころのルビィちゃんの笑顔、初めてはにかんだように二人で笑いあったことが鮮明に蘇る。
ああ、ごめんね、ルビィちゃん。あの二人きりの平和で落ち着いて閉ざされた世界から、二人はずいぶん変わった。マルはルビィちゃんと千歌ちゃんたちに誘われてスクールアイドルになって、見たこともないほど広く、キラキラとした世界に二人で足を踏み出した。
マルも同じ気持ちだった。気付くのが遅くてごめん。ルビィちゃんはずっと言っててくれたのに。
ルビィちゃんとマル、二人だけの歌を一緒に作りたい——。これは二人の我が儘だったんだ。 ダイヤ「先ほど花丸さんはルビィのことをちゃんと見れてなかったのかもしれないと言いましたね。そうではありません。
あなたが見てなかったのは自分自身。ルビィの背中を押すことが出来れば、自分はどうでもいいと考えていた。自己犠牲というよりは、最初から自分が勘定に入っていない。
あなたの誰かの力になってあげたいという姿勢はとても立派だと思いますし、それにルビィも、善子さんも、Aqoursのみんなもとても助けられています。
そもそもルビィがAqoursに入るとき、あなたに背中を押してもらったのですから。それはわたくしもです。あなたのおかげでルビィの気持ちに向き合えた。あんな目をしたルビィ、初めて見ましたわ。感謝しています」
花丸「そんな……、それはルビィちゃんが頑張ったからで——」
ダイヤ「あなたが思っている以上に、ルビィや善子さんはあなたのことを頼りにしています。次はもう少し、自分自身の心の声に耳を澄ましてもいいのではありませんか?
あなたがルビィにそうしてくれているように」
花丸「自分自身の、心の声……」
ダイヤ「スクールアイドルのパフォーマンスとは、憧れや夢、輝いている誰かを見て、自分もやってみたいと思った衝動が原動力です。誰かに憧れる気持ちが、スクールアイドルを輝かせるのだと思います。それを見てファンの方々もまた憧れや楽しさを感じる。
未熟でも、自信が無くても、それでいいではありませんか。あなたがルビィに憧れてくれたように、μ’sの凛さんに憧れたように、きっと、誰かから見た花丸さんは、とてもキラキラしていますわ」
花丸「そう、なのかな……」 ダイヤ「完璧な人などいません。たとえ傍からそう見えたとしても、人から見えないところで苦悩や努力や失敗もあるでしょう。
あなたは人のいいところを見るのは上手ですが、自分をそれと比べて過小評価してしまうことがあります。
ルビィのことを好きでいてくれるのは嬉しいですが、ルビィだって間違えることはあります。いいえ、むしろ甘えたがりで、すぐ泣くし、そのくせ頑固で、間違いだらけです。最近はちょーっと成長していますが、まったくもって、このままではぶっぶーですわ。わたくしは心配なのです」
花丸「だ、ダイヤさん……?」
ダイヤ「浦の星がどうなろうと、Aqoursがどうなろうと、来年度にはわたくしは卒業しています。おそらく内浦にはいないでしょう。ルビィが間違えた時は、花丸さん、あなたに叱ってほしいのです」
花丸「ええっ!? マルが、ルビィちゃんを叱る?」
ダイヤ「全てを肯定するのが友情ではありません。相手が間違った時は指摘するのも一つの形です。時には喧嘩をしてでも」
花丸「ルビィちゃんと喧嘩なんてしたら、マル悲しくて死んじゃうかも……」
ダイヤ「……まあすぐには難しいかもしれませんが、ルビィはきっと、花丸さんと二人で一緒に前へ進んでいきたいと考えていると思いますわ。一方的に背中を押してもらうだけではなく、自分も背中を押したい、一緒に歩きたいと」
花丸(——!) ダイヤ「話が逸れてしまいましたね。今回のルビィとのデュオで、花丸さんのやりたいことは見つかりましたか?」
花丸「……」
ダイヤ「きっと結論はすでに花丸さんの心の中にあるのでしょう? 花丸さんの胸の中にある夢、憧れ、やりたいこと。ルビィにくらい、少しばかりはぶつけてもいいのではありませんか?」
花丸「マルが、ルビィちゃんとやりたいこと……」
ダイヤ「おそらくルビィは体育館にいますわ。ダンスの練習でもしているのでしょう。予定が無い時や一人で帰るときはよくそうしています」
花丸「ダイヤさん……、ありがとうございます。マル、ルビィちゃんに謝って、ちゃんと気持ちを伝えなくちゃ」
ダイヤ「ええ、応援しています」
生徒会室から飛び出して、ルビィちゃんのところへ駆け出す。
謝って、伝えなくちゃ。そしてちゃんと話したい。マルのこと。ルビィちゃんのこと。
ルビィちゃんの夢がマルの夢だった。
でも履き違えていた。そこにマル自身はいなかった。
ルビィちゃんが夢を叶えるのを後ろから支える。それでいいと思っていた。
ルビィちゃんは一緒に夢を見ようって言ってくれたのに。
胸の中の小さなあこがれ。無意識の中一歩引いていた。自信が、無いから。でも——。
やっちゃって、いいの?
こんなマルでもいいのかな。心の中に耳を澄ます。あこがれがおずおずと背中を押して、勢いのまま走り続ける。
マルは臆病だから、立ち止まったらもう勇気が出ないかも。体育館まではもうすぐ。早くマルのほんとの気持ちをルビィちゃんに伝えたい。もう一秒だって一人で待たせたくない。
扉を開く。ステップの練習をしていたルビィちゃんの驚く顔。ああ、いてくれてよかった。
伝えて、今度こそ、一緒に作るんだ。ルビィちゃんとマル、二人だけの歌を。
「ごめん、ルビィちゃん! 気持ちも夢も一緒だよ!!」 すみません、本日はここまでとさせてください。
思ってたより疲れた…
こんなクソ長駄文に、ここまでお付き合い頂いた方いらっしゃいましたらありがとうございます。
残りはスレが残ってたら明日の夜投稿させて頂きます。
ここまでで全体の70%くらいです。
これでルビまるはひと段落し、次回はようりこのコンペの結果から始まります。
それではしばし失礼します。 支援、コメント、感想頂いた方ありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
それでは再開させて頂きます。
今日中には完結するかと思いますので、お付き合いください。 ◇@-6
曜「どう、かな」
梨子「……」
約束の3日が経った。
その間私は考えて考えて考えて——、知恵熱が出るくらい考えて何とか歌詞を作った。出来る限り自分に正直に、誤魔化さず、かっこ悪い自分も情けない自分もそのまま言葉にした。
正直言って、いいものが出来たかなんて自分では分からない。勝負だなんて言いながら、やったことは自分の嫌なところを言葉にしただけで、今になって思うと張り切って部室を飛び出した自分が馬鹿のようにも思える。
私たち以外に誰もいない教室。梨子ちゃんは見たことが無いくらい真剣な顔で私の自白めいた歌詞を読んでいる。完成した歌詞を改めて読み返すとうわー!って気になるから、誤字とかのチェック以外は読み返したり出来なかった。あまりの恥ずかしさにビリビリに破いちゃいそうだし。
他の人に見られたら死んじゃうかも。あれだけ二人で頭抱えて、悩み散らかしたんだから、梨子ちゃんならいいかというか、なんかもうどうにでもしてって感じ。悟り? 賢者タイム? まな板の上のアジの気持ち。お刺身は苦手だけど。 勝負と言うからには、梨子ちゃんの歌詞も見せてもらった。何か、すごいと思った。いい言葉が出てこないけど、すっと心に入ってきて、胸に迫ってくる何かがあった。
決して綺麗な気持ちばかりでは無いのに、全然嫌な感じはしなくて、歌詞を読んだ後は梨子ちゃんのことがもっと近くなった気がした。と同時に、やっぱりねというか、奇妙な諦めが宿った。そうだよね。でもしょうがないかあって。
でも、私の歌詞を見た梨子ちゃんも似たような気持ちかも。正々堂々の答え合わせ。
確かにこれは勝負だったし、お互いに自分から逃げずに向かい合った。梨子ちゃんの歌詞を見た時、まず思ったのは、適当な歌詞に逃げないでよかったということだった。梨子ちゃんはちゃんと本気だった。もし私がどっかのラブソングから適当に引っ張ってきたような歌詞で誤魔化してたら、きっとこの先一生梨子ちゃんに挑むことすら出来なくなってたと思う。
下手くそかもしれないけど、本心で書けた。本気のみっともない自分で勝負できた。そして梨子ちゃんもそうしてきてくれた。それってもしかしたらすごく——
梨子「曜ちゃん」
曜「は、はいっ!」
梨子「——ありがとう」
曜「へっ?」
梨子「ううん。こっちの話。歌詞、すごくいいと思う」 曜「ほんと!? よかった。歌詞なんて書いたこともないし、自分じゃよく分かんないし、人に見てもらうのも初めてだしですごく不安だったんだー」
梨子「そ、それで……」
曜「?」
梨子「どう、だったかな」
曜「そうだなー、初めてで大変だったから千歌ちゃんはすごいって改めて思った。辞書使ったのなんて小学生ぶりかも」
梨子「も、もう! 作詞の感想じゃなくて! 私の歌詞はどうだったかって聞いているの! このにぶちん!」
曜「に、にぶちん!?」
ぷんぷんと怒る梨子ちゃん。そりゃそうか。私が恥ずかしかったように梨子ちゃんも自分の本心からの歌詞を見られたんだから恥ずかしいよね。
曜「えっと、上手く言えないけど、すごくいいと思うよ。梨子ちゃんの歌詞」
梨子「あ、ありがとう……、でもそうじゃなくて、内容というか……」
曜「な、内容……」
言いたいことは分かる。私たちの歌詞は表現も気持ちも違うけど、似たようなテーマを書いている。千歌ちゃんと梨子ちゃんと私。他の人には分からないかもしれないけど、私たち二人には分からない訳がない。
え、この場でそれも話すの!? 歌詞書いてきただけでもうどうにかなりそうなのに?
曜「えーと、その件についてなんだけど」
梨子「う、うん」
曜「保留にしない?」
梨子「!!?」 曜「もう私、歌詞をみてもらっただけでいっぱいいっぱいと言いますか、これ以上どうにかしたら恥ずかしくて破裂しちゃう気がするの。だから、そこにはお互いノータッチってことでひとつ。てゆーか梨子ちゃんは恥ずかしくないの!?」
梨子「恥ずかしいよ!」
曜「ね? そこには触れなくても曲作りは進められる訳だし。もうほんと限界……」
梨子「う……、分かった。私もそうだし。淑女協定ね。誰かに見せない。歌詞の内容を聞かない。いじらない。詮索しない」
曜「うんうん! そうしよ!」
作詞って怖い。今、私と梨子ちゃんは誰よりもお互いに心の中を見せてしまっている。すごく恥ずかしくて逃げ出したいけど、同時に謎の安心感もある。どうせ知られちゃったんだからみたいな。雨に降られちゃって服を着たままシャワーを浴びるみたいな、ちょっと後ろ向きな諦めと連帯感。変なの。
梨子「このヘタレ」ボソッ
曜「ヘタレ!? 聞こえてるよ! “自分よ、しっかりしなさい”」
梨子「ちょっと! さっそく協定破ってるじゃない! “なんか つらい”曜ちゃん?」
曜「あー!!」
曜・梨子「あははっ」
同時に笑い合う。梨子ちゃんとは仲良しだけど、こんな風にいじり合ったりしたことなかった。こんな意地悪言う梨子ちゃんになら、少しくらい我が儘言っても泣き言ぶつけても文句言わない、よね? 私たち、これからもっともっと仲良くなれる気がする。
これからもよろしくね、梨子ちゃん。 ◇
梨子「それで、具体的な曲作りについてなんだけど」
曜「うん」
梨子「——一番と二番、一人ずつそれぞれに分けて歌おうと思うの」
曜「え……」
梨子「曜ちゃんの歌詞を見て思った。やっぱり、この歌は一緒に歌うべきじゃない。曜ちゃんは曜ちゃんの気持ちを、私は私の気持ちを歌おうよ。そんなデュオだってありじゃないかな?」
曜「でも、梨子ちゃん、コンペって——」
梨子「コンペは引き分け。曜ちゃんも分かっているでしょ?」
お互いが本気で歌詞を書いてきた時点で勝負は引き分け。梨子ちゃんはそう言いたいのだろう。
曜「最初からそのつもりだったの?」
梨子「方法の一つとしては考えてた。私たちの歌詞は結果的に同じテーマを歌っている。最初は共通点を探していいところを取りながら統合したいと考えてたけど、同じテーマだからこそ、別々に歌った方がいいと今は思ってる。チームじゃなく、ライバルとして」
曜「……」
梨子「曜ちゃんは一番、私は二番を歌う。この歌詞を元に私が作曲してくるから、メロディーに合わせて歌詞を整えていきましょう。大丈夫、そう時間はかからないと思う」
曜「分かった」
梨子「曜ちゃんは霧をモチーフにしての作詞だった」
曜「梨子ちゃんは雪や氷だったね。想いを凍らせたり、雪が覆い隠してくれるように」
梨子「霧の恋、凍らせたい想い。曲名は——」
曜・梨子「——Misty Frosty Love」 ◇C-2
ダイヤ「それでは、今回のミーティングはここまで。本番も近づいてきましたし、次回にはそれぞれの現状のパフォーマンスを披露してもらいたいと考えています。ダンスまでは難しければ、歌唱のみでも大丈夫です。そろそろ人に見られることを意識した動きに入っていきましょう。
みなさんある程度形になりつつあるかと思いますが、遅れているチームは進捗を、進んでいるチームは更なるブラッシュアップと必要があれば他チームへアドバイスをお願いします。
また、冷え込みも一段ときつくなってきましたので、体調管理も気を付けてください。休憩後はデュオトリオに分かれ、制作を続けていきましょう」
一同「はーい!」 花丸「はー、お腹空いたずら〜」
ルビィ「あ、ルビィチョコあるよ! ってあれ?」
善子「あんたお昼に全部食べてたじゃない」
千歌「チカもみかん切れて動けないのだ……」
梨子「もう、あんなに食べるから」
果南「よし、じゃあ買い出しジャンケンだね。私はチキンナゲットにしようかな」
曜「はい、私はチーズピザまんを所望するであります!」
ダイヤ「ちょっと果南さん! この前もそう言って練習どころではなくなったでありませんか!」
果南「まあまあダイヤ。練習だけがスクールアイドルじゃないんだよ。何気ない先輩と後輩の日常が良い信頼関係と良いパフォーマンスを築くんだって。それじゃ、前と同じで学年ごとに勝負して負けた三人が買い出しだよ。ダイヤ、連敗が怖いなら見てるだけでもいいよ?」
ダイヤ「……やれやれですわ。果南さんは黒澤家の娘が借りを返さずによしとするタマだと思ってましたの?」
果南(いつの日もチョロい……)
鞠莉(ちょっと極道っぽくなってるわね)
ルビィ(おねいちゃん……)
花丸(ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ食べたい)
ダイヤ「行きますわよ! じゃーんけーん」
Aqours「ぽんっ!!」 ◇
善子「って! またヨハネたちじゃない!!」
千歌「不思議なこともあるもんだねー」
ダイヤ「な、なんてことですの……」ブツブツ
善子「まずいわね……精霊結界の構築は済んだというのに、運命が繰り返すように収束してきている。“奴ら”はもうジュデッカまで到達している……? “審判の日”は近いというの? パンデモニウムにエルモの燈を灯して——、えーと」
千歌「淡島さん、その話長くなる?」
善子「津島よ! てかヨハネですので!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています