果林(25)「せつ菜、お金貸してくれない?」
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代行
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:: EXT was configured 果林「別にいいわよ、そうだとしても恋人を放置して音信不通にする意味がわからないし。そこまでされる覚えはないわ」
果林「まぁ、エマから謝ってくるまで私は日本でのんびりするつもりだから」
かすみ「あー……なんて言えばいいか…」
果林「同情なんていらないわよ。進展があったら連絡してあげる、忘れてなければね」
かすみ「みんなそれぞれに事情があるんですね。かすみんも頑張らなきゃな…」
かすみちゃんがため息をついて机に突っ伏した。
現役アイドルの彼女にも色々と思うところがあるらしい。
店員「失礼します」
そうしていると、話のキリのいいところでビーフシチューが運ばれてきた。
食欲なんて無かったのに匂いを嗅ぐと美味しそうに思えてきて、しばらく無言でシチューを口に運ぶ。
かすみ「んー。おいひい」
果林「…かすみちゃんは仕事、順調なの?」
かすみ「そうですね〜…地方巡業も中々楽しいですよ。カーテン締め切ったバスにずーっと揺られたり、毎日コンビニ弁当を食べられたり」
かすみ「あと、たまに衣装が無くなるハプニングも起きますね。大体目星はついてるんで問い詰めてあげるんですけど」 果林「あら、かすみちゃんも皮肉なんて言うのね」
かすみ「あはは…そのくらい性格悪くないとやっていけないので」
果林「芸能界なんてそんなものよね。ところで、しずくちゃんは元気?」
かすみ「元気ですよ〜。今は頑張り時だからって休みなく働いてますけど」
果林「彼女は大学の劇団でスカウトされたんでしょ?それが今は、次の主演女優賞候補って…人生には運も必要なんだって思うわね」
果林「かすみちゃんだって素質あるんだから、タイミングがあれば遥ちゃんのようなポジションにいたかもしれないのに」
かすみ「…褒めてくれるのは嬉しいですけど、かすみんは歌もダンスも飛び抜けて上手くはないですから。他に可愛い子もいっぱいいますし……」
かすみ「だからかすみんに運があっても、今とさほど変わらないような気がします。でもしず子は違うんですよ」
かすみ「あの子は才能があるのに努力家なんです。欠点がないんですよ。だから運というよりは必然じゃないかなって…」
果林「ふぅん…私には精神的な面で不安定に見えたけど、それも昔の話かしら。今の彼女には当てはまらなさそうね」
かすみ「事務所に入ってからの稽古で相当鍛えられたみたいです。弱音を吐くこともなくなったのはちょっと寂しいですけどね」
果林「…そう」
時間の流れというのは本当に恐ろしいものだと、再認識する。 あんなに負けず嫌いだったかすみちゃんが、恋人とはいえ他人を高く評価していることに驚く。
それに、元から自己肯定感の低い子だとは思っていたけど、ここまで自分を卑下するような性格じゃなかったはずなのに。
それほどあの子に惹かれているのか、それとも絶対に敵わない相手だと認識しているのか。
もしくは自身の経験がそうさせているのか、酷く興味がわいた。
果林「ねぇ、あなたたちっていつから付き合ってるんだった?」
かすみ「うぐ…いきなりですね。ってか今聞きますか?シラフなんですけど」
果林「また愛に聞いてもいいんだけど、本人に確認するのが早いでしょ」
かすみ「もうっ……確か、高2の秋です。演劇部の出し物が終わったあと屋上に呼び出されて、そこで告白されました」
果林「向こうから?意外ね、てっきり逆だと思ってたから」
かすみ「しず子はああ見えて結構グイグイ系なので…ってそんな事はどうでもいいんですよ!」
かすみ「ちゃんと話したんですから、果林先輩たちの事も教えてください。お二人はいつですか?」
果林「私たちは……」
言葉に詰まる。
あれはいつだったんだろう。
色々な記憶が混在する中で、強く印象に残っているのはチョコレートだった。
学生時代にそれをもらう時といえば。 果林「バレンタイデーだったわ。高3の時にエマからチョコを渡されてね」
かすみ「へー…やっぱり当時の噂は本当だったんですねぇ…」
果林「噂って?」
かすみ「果林先輩、下級生から結構人気あったんですよ?美人なのに気取らないしクールでカッコイイって」
かすみ「バレンタイデーの日もチョコを持ってる同級生が何人かいました。でも、エマ先輩と付き合ったらしいっていう噂が密かに流れてきて」
果林「…なによそれ」
かすみ「だからみんな諦めたんですよ。噂が本当でも嘘でも…いつも一緒にいるエマ先輩には敵わないよねって」
かすみ「あっ!噂といっても限定的なもので、ほとんどの生徒は知らなかったと思います。真相を直接聞くわけにもいかないし、かすみんもずっと黙ってました」
果林「そりゃどうも…って言いたいけど、そういうのに目敏そうなしずくちゃんや歩夢にはバレてたかもね」
かすみ「んー…そもそも数年前にやった同窓会で同好会メンバーはなんとなく察してるかもしれません」
かすみ「それで、聞いていいかわからないですけど……エマ先輩が帰った後はどうしてたんですか?」
果林「……色々あったのよ。そのアパートは取り壊しになったから、今は別の場所に住んでるわ」
本当は水道光熱費に家賃さえ払えなくて追い出されたんだけど。
苦し紛れについた適当な嘘だったが、かすみちゃんは疑う素振りをみせなかった。 かすみ「そうですか…何か困ってたらうちに来てくださいね!しず子も家にいる時しかダメですけど、手料理くらいご馳走しますから」
果林「気を使ってもらわなくて大丈夫よ」
かすみ「だって家事スキル全く無さそ…苦手そうな果林先輩が一人暮らしなんて、大変じゃないですかぁ」
果林「ストレートに軽口が聞こえたから帰ろうかしら」
かすみ「あぅ…つい口が滑った」
果林「大体ね、今はせつ菜がやってくれるから困ってないのよ。そんなことより…」
かすみ「ふぇ?せつ…今なんて言いました?」
果林「ぁ、違っ」
かすみ「え!?せつ菜先輩と一緒に住んでるんですか!?」
果林「だから声が大きいのよ!」
かすみ「一緒にというかそれって同棲じゃ…」
果林「…ただのルームシェアよ。部屋を探してた時に、そういう流れになったの」
かすみ「なるほど〜…いや、なるほどで引き下がっていいのかわからないですけど」
果林「だからあなたが思ってるような関係じゃないってば」
かすみ「そっか、でもよりによってせつ菜先輩……」
果林「何よ?」 かすみ「ふぇっ?えーと、その……あっ、ごめんなさい」
突然、ポップな曲調の音楽が鳴り響く。
どうやら発信源はかすみちゃんの携帯だったようで、彼女はペコりと頭を下げてから席を立った。
随分とタイミングの良い電話ね、と内心で毒づいておく。
果林「…はぁ」
先程のよりによってせつ菜だという言葉の先が気になって仕方ないが、今は大人しく彼女の帰りを待つ他なかった。
烏龍茶の底にある氷をストローでクルクル回しながら時間をつぶしていると、仕切りのカーテンが左右に開かれる。
かすみ「すみません遅くなって」
果林「仕事の電話?」
かすみ「だったらいいんですけど。しず子ですよ、今日の夕食の話とか…今何してる〜とか」
果林「えっと…あなたたち毎日会ってるのよね?」
かすみ「はい。仕事でどっちかが遠征してる時以外は」
果林「…そう、別に何も言わないけど」
かすみ「じゃあそろそろ買い物をして帰らないといけないので、またの機会に…」
果林「ちょっと」 かすみ「ぐえっ」
首根っこを掴み、潰れたカエルみたいな鳴き声をあげたかすみちゃんを再びソファに座らせる。
何も言うことなく笑顔でアイコンタクトをすれば、バツの悪そうな顔をした彼女は渋々といった様子で口を開いた。
かすみ「さっきの話ですよね。せつ菜先輩の…」
果林「わかってるなら早く言いなさいよ」
かすみ「怒らないでくださいよ、絶対ですからね…!実は昔…その、りな子から聞いたんですよ」
かすみ「せつ菜先輩はエマ先輩の事が好きなんだって」
果林「…は?」
かすみ「りな子が!りな子が言うにはですけどね、せつ菜先輩はエマ先輩をよく目で追ってたらしいんです」
かすみ「もちろん、それだけじゃその感情がリスペクトなのかラブなのか判断つかないですよね?」
かすみ「ただ決定的だった出来事が、果林先輩たちが3年生だった時のバレンタイデーなんです。その日、りな子が目撃してるんですよ」
かすみ「せつ菜先輩が泣きながらチョコをゴミ箱に捨ててたのを…」
果林「それって……」 あまりの衝撃に呼吸をすることさえ忘れそうだった。
昔の話とはいえ、出てきた名前が問題だった。
せつ菜はエマが好きだった?
嘘の可能性もあったけど、璃奈ちゃんの観察眼ならせつ菜がエマを目で追っていたのは確かだろう。
とするとせつ菜にとって私は恋敵で、邪魔な存在でしかなかったはず。
むしろ、恋を蔑ろにされた憎い相手である可能性も高い。
なら今の私へ向けられた感情は何?
あの日、私に声をかけたのも本当に偶然だった?
エマと私が良好な関係じゃない事を知っていて、何らかの形で復讐をするのが目的なのかもしれない。
かすみ「果林先輩…あの、また連絡しますねっ」
不穏な空気を感じたのか、かすみちゃんはテーブルにお札を置いて足早に去っていく。
私はすぐに立ち上がる気分にはなれなかった。
果林「…ダメね。なんでも悪い方に考えてしまう」
恋愛は、ましてやそれが初恋なら、叶わないことの方が多いとされている。
だからそういう事実があったとしても、それは過去の話で今の彼女には関係ない。
それか時の流れが彼女に全てを忘れさせたのかもしれない。
今は、そう思い込むしか他なかった。 まだ謎がいっぱいあって全然キリよくないじゃないですかーやだー! ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています