果林(25)「せつ菜、お金貸してくれない?」
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代行
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:: EXT was configured せつ菜(24)「えっ。またですか?」
果林「仕事に行くのにタクシー代の持ち合わせが無くて困ってるのよ」
せつ菜「タクシー?でも大抵の場所なら電車やバスで…」
果林「私はモデルなのよ?厄介なファンに見つかったらどうするの?」
せつ菜「……そうですよね」
果林「別にいいでしょ?借りるだけなんだし」
せつ菜「でもこの前もそう言って…お金だって返してもらったこと…」
果林「……はぁ。そう、せつ菜は私のこと嫌いになっちゃったのね」
大袈裟にため息をつけば、せつ菜は弾かれたように顔を上げた。
せつ菜「い、いえ…!わかりましたっ!1万円で足りますか?」
果林「ありがと。好きよ、せつ菜」
彼女の頭を撫でて、腰を抱き寄せる。
これだけで大人しくなってくれるのだから、ありがたい。
せつ菜「あぅ…気にしないでください…//」
果林「じゃあ行ってくるわ。あなたも気をつけてね」 ◆ ◇ ◆ ◇
果林「ふーっ……」
眼前にもくもくとあがる煙を眺めていると、嫌なことも忘れられる気がする。
仕事も無いのに嘘をついて外出するのも、昼間からこんな場所で酒を煽るのも、私にとっては日常になっていた。
店主「へぇ。煙草なんて珍しい」
果林「悪い?私だって吸いたくなる事くらいあるわよ」
店主「いいや、様になってると思ってね」
果林「あらそう。なら一杯サービスしてくれない?」
店主「こりゃ参ったなぁ。ま、お姉さんはお得意様だし…特別にこれをどうぞ」
テーブルに置かれたのはワイングラスだった。
ふわりと柑橘系の匂いがして、その透き通るような紺碧に吸い込まれそうになる。
その瞬間、彼女の姿が走馬灯のように頭に浮かんだ。
果林「……ない」
店主「ん?」
果林「いらない。それ嫌いなの」
店主「でも食い入るように見てたじゃないか。どうしたんだい急に」
果林「悪いけど、もう帰るわ」
店主「あぁ…わかったよ。何かすまないね」
果林「気にしないで。また来るわ」
あの香りと色は、ブルーキュラソー。
甘いカクテルだけど私の中では苦い思い出でしかない。 ───
エマ『これ、美味しいよ。飲んでみない?』
果林『なぁに?いきなりね』
エマ『フルーティーな味がしてさっぱりするんだ〜』
果林『エマは好きなの?このカクテル』
エマ『うん!だって、色が綺麗だもん』
果林『色?エマは青が好きだったのね』
エマ『果林ちゃんの瞳の色と同じでしょ。だから私、このお酒が好きなんだ』
果林『っ……//ずるいわ。そんなの』
エマ『お誕生日おめでとう、果林ちゃん。今年も一緒にいれたら嬉しいなぁ』
果林『…バカね。ずっと一緒よ』
エマ『えへへ。大好きだよ、果林ちゃん』
───
彼女の姿が、声が、遠くなっていく。
胸にナイフを突き立てられたような、そんな感覚に襲われる。
果林「…なんで、私を置いていったのよ。エマ」
頭が割れるように痛い。
これ以上外を彷徨く気にもなれなくて、帰路に着くことにした。 ◆ ◇ ◆ ◇
果林「ただいま〜…って、誰もいないわよね」
せつ菜から渡されている合鍵を使い、アパートの一室へと足を踏み入れる。
廊下にハンカチが落ちていて、今朝は珍しくドタバタしていたのかしら?なんて想像してしまう。
果林「うーん…いつもせつ菜に任せるのも悪いし、たまには私が…」
そうブツブツ言いながら、昨日からそのままになっている食器を洗っていく。
そういえば、私がここに来た時よりも皿やコップが増えたなと思う。
果林「これは…去年のクリスマスに買ったもので、こっちは……いつだったかしら」
せつ菜はペアの食器を好んだ。
私は特にこだわりなんて無かったから、彼女が買ってくるものを使ってた。
そのうちに数が増えて、新たに収納場所を作ったりもしたっけ。
果林「さ……次は洗濯ね。面倒だけど…」
カゴに入ったままの服やタオルを洗濯機へと放り込む。
洗剤と柔軟剤は目分量で。
後はスイッチを入れるのみ…だったのに、見慣れないものが目に止まった。
果林「……へぇ。これはあの子を問い詰めなきゃね」 ◆ ◇ ◆ ◇
「…さん……果林さんっ」
果林「ん……?」
せつ菜「果林さん、こんなところで寝ていたら風邪をひきますよ」
果林「せつ菜…?あれ…今って」
せつ菜「もう夜ですよ」
彼女の背後にある時計に目を凝らすと、時刻は9時だった。
どうやら私はあれから眠ってしまっていたらしい。
果林「ふわぁ…おかえり、せつ菜。今帰ったの?」
せつ菜「はい」
果林「学校の先生ってのは本当に忙しいのね」
せつ菜「やりがいはありますけど、仕事はいつも山積みなんです」
果林「私もあなたが先生だったら、もう少し勉強が好きになれたかもしれないわね」
せつ菜「そ、そうですか…?えへへ。嬉しいです」
私の目の前で恥ずかしそうに微笑む彼女は、教育大学を卒業後、公立高校の先生になっていた。 国語科の教員免許をいくつか持っていて、今は主に現代文を教えているらしい。
もちろん中川菜々として。
果林「いつも思うんだけど…思春期真っ只中の生徒達は大変よね」
せつ菜「何がですか?」
果林「こんなに魅力的な先生がいたら、授業どころじゃないでしょう」
せつ菜「ひゃっ……///」
不意をついて抱き寄せ、改めてジロジロと彼女を観察する。
小柄な体格に、細身だけど豊満な身体。
髪は艶やかな黒髪で、眼鏡をかけている。
そんな、属性がこれでもかと詰め込まれた若い女教師。
果林「ねぇ、告白されたことくらいあるんじゃない?」
せつ菜「あ、ありません…よっ…//」
彼女を腕の中に閉じ込めたまま、眼鏡を取って、鼻先が触れるほど顔を近づける。
果林「ふぅん…でもこんな風に動けなくされたら、何をされても…」
せつ菜「んぁ……ぅ…」
薄い唇を強引に開かせて、熱っぽい口内を味わう。
歯列を舌でなぞってやるとびくんと肩が震えた。 その反応を楽しみつつ、舌と舌を絡ませて唾液を流し込めば、せつ菜はごくんと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。
果林「ふふっ…いい子ね」
せつ菜「んーっ…!」
蕩けそうな顔をしてるくせに、抗議のつもりなのか背中を叩かれる。
そんな満更でも無さそうな彼女をソファに押し倒した。
せつ菜「果林さ……今日はもう、」
果林「我慢できないって?」
素早く服の中に手を入れ、滑らかな肌の感触を楽しむ。
そして、膨らみに指先が触れた瞬間。
せつ菜「ダメですってば…!」
果林「へぶっ!」
クッションが顔にクリーンヒットした。
いつ投げられたのか全く見えなかった。
そういえば同好会で合宿をした時も、こんな事があったような気がする。
せつ菜「明日も仕事なんです…!早くお風呂に入りたいので!」
果林「でもせつ菜、気持ち良さそうだったじゃない」
せつ菜「ぅ……以前にもそうやって流されて、遅刻しそうになったんですからね!」
果林「はいはい悪かったわ」 せつ菜「もうっ。反省してませんよね」
果林「してるわよ、これでも」
あの時は彼女を強引にベッドに連れ込んで好き勝手した結果、丸一日口を聞いてもらえなかった。
それでも一日で済ませてくれる辺り、せつ菜は優しい。
果林「そういえば食器洗いと洗濯しておいたわ」
せつ菜「それはありがとうございます」
果林「でも洗濯しっぱなしで干すの忘れてた。いつの間にか寝落ちしてたから」
せつ菜「そうでしょうね。でも大丈夫です、さっき私がやっておいたので」
果林「本当は夕食も作ろうと思ってたのよ。だけど洗濯機のガコンガコンって音を聞いてると、まぶたが重くなって……あっ」
そこまで言って、唐突に思い出す。
彼女に問い詰めるべきことがあったと。
果林「…あの下着、なに?」
せつ菜「え?」
果林「洗濯カゴに入ってたセットアップの下着よ。それも、派手なレースが付いた真っ赤なやつ」
せつ菜「あ゙っ……」
果林「私のじゃないんだけど。何か知ってる?」 せつ菜「さ、さぁ…そんなものありましたか?」
せつ菜は昔から嘘をつくのが下手だ。
わかりやすく目が泳いでいるのに、シラを切るつもりらしい。
それならこっちにも考えがある。
果林「私、洗濯したって言ったわよね?その時には下着があって、今この部屋にはそれが干されてない」
せつ菜「………」
果林「つまり、洗濯物を干した人が怪しいと思わない?」
せつ菜「あぅ………あれは私のです…」
果林「ふーん…ねぇ、あのいやらしい下着は誰に貰ったの?」
せつ菜「それは…」
顔を赤らめてモジモジするせつ菜。
まさか親密な関係にある男から貰ったもの?
それとも同僚の女教師?
もしかして本当に生徒だったり?
どんな答えが飛び出してきてもいいように、少し身構える。 せつ菜「自分で、買いました……//」
果林「へぇ自分で……え?」
せつ菜「果林さんが、言ってくれたじゃないですか……///私にはこういうのが似合うって」
せつ菜「だから恥ずかしいのを我慢して、勢いで買ったんです」
果林「そ、そうだったの」
せつ菜「でも正直困っていて。着るタイミングが難しいというか、なんというか…」
今日洗濯カゴに例の下着が入っていたのは、おそらく彼女が昨日これを着ていたということになる。
そういえば昨日は祝日で、せつ菜は仕事が休みだった。
─と、いうことは?
果林「もしかして、私に下着を見てもらいたかったの?それが昨日だったってこと?」
せつ菜「うぅ……///」
果林「なるほど、襲われるのを期待してたわけね」
せつ菜「皆まで言わないでくださいよっ…///」
果林「でも私、昨日は体調悪くて寝込んでたわ…ごめんなさい」
せつ菜「謝らないでください…!虚しいので…」
果林「ふふっ。せつ菜って、可愛いところあるわよね」
せつ菜「もう…!私、お風呂に入ってきますからっ」
彼女の背中を見送ってから、私はもう一度横になった。
視界に入るのはすっかり見慣れてしまった白い天井。
この部屋に寝泊まりするようになって、早くも1年が経とうとしている。 ◆ ◇ ◆ ◇
次の日。
目覚めると、いつものようにせつ菜の姿は無かった。
果林「まだ9時なのに…暑いわね」
気怠い身体を起こし、重い足取りでキッチンへと向かう。
そして冷蔵庫の中にある野菜スムージーをコップに注ぎ、だらだらとテレビを見ながらこれを飲む。
これが最近のルーティンになっていた。
アナウンサー『それでは、次の芸能ニュースです』
アナウンサー『女優の桜坂しずくさんが主演を務める映画、春情ロマンティックの舞台挨拶が昨日お台場シネマで行われました』
アナウンサー『会場には主題歌を担当する近江遥さんもサプライズ登壇し、来場者を熱狂させました。本日はその模様を一部お届けいたします』
果林『あ……』
知っている名前が二つも出てきたから、思わず息を飲む。
そこにはかつてスクールアイドルとして競い合った彼女たちがいた。 司会者『えー、まさかのサプライズでしたね!凄い大歓声でした!』
遥(23)『ありがとうございます!嬉しいですっ♡』
司会者『近江さんはソロアイドルとしてご活躍されてきて、今回初の映画主題歌を担当されるとのことですが、このお話をいただいた時の心境は?』
遥『えっと…まずはびっくりしました。小説家としてもご活躍されてる監督さんに、今をときめく女優の桜坂しずくさんが主演の映画だと聞いて、もうどうしようって』
司会者『あはは。それを近江さんが言っちゃいますか?』
監督『ほんとだよ!遥ちゃんもデビューからオリコン上位をキープしてるトップアイドルなのに』
司会者『今回の歌も、青春と恋愛がテーマの今作にピッタリですよね』
遥『そんな、ありがたいです…えへへ…』
近江遥は少し大人びてはいたが、高校生の時よりも可愛らしい顔立ちをしていた。
プロのメイクやスタイリストが付くとこんなにも変わるのかと思う。 司会者『えー聞くところによると、近江さんと桜坂さんはお知り合いだとか!少しお話いただけますか?』
しずく(23)『そうですね、私は高校時代にスクールアイドルもやっていたので。その時に何度かご一緒させてもらいました』
司会者『そうだったんですか!まさかの繋がりですね〜』
遥『ライバル校同士だったんですけど、私の姉がしずくさんと同じ学校で…本当に楽しい日々でしたね』
しずく『はい。またこうして同じ舞台に立つことができて、とても嬉しく思います』
対して桜坂しずくは別人だった。
といっても、外見が変わったわけじゃない。
立ち振る舞いや話し方から溢れ出るオーラが、全く異なったものになっていた。
私がよく知っている二つ歳下のあどけない少女は、もうどこにもいない。
果林「っ……」
これ以上、彼女の張り付いた笑みを見ていられなくてテレビの電源を落とす。
それでも胃のむかつきを抑えられなくて、味のしない野菜ジュースの残りを流し台に捨てた。
果林「みんな、変わってしまうのね」 虹ヶ咲学園を卒業してから7年が経過した。
地元の同級生の中にはもうすぐ結婚式を、なんて子もいる。
果林「っふう…」
煙草に火をつけ、肺を煙で満たす。
部屋で吸うなと後からせつ菜にとやかく言われるのはわかっていても、止められなかった。
『果林さんへ。朝食の残りがあるので良ければどうぞ。お仕事頑張ってくださいね。菜々』
冷蔵庫に貼ってあるメモには、彼女なりの思いやりがあった。
高校生の頃は独創的な作品を生み出していたせつ菜も、"余計なことをしない"と学習したらしく、人並みの料理の腕になっていた。
でも、それさえ今の私には毒でしかない。
果林「……」
ビリッ
半分に破いて、次はまたその半分。
ビリッ
それを繰り返すとメモはどんどん小さくなっていく。
細かくなったそれをゴミ箱に捨て、私は今日も行くあての無い旅に出かけた。 ◆ ◇ ◆ ◇
果林「…ほんと、ついてないわ」
神様なんて信じてないけど実は本当にいるのかも。
局所的な大雨に見舞われ、頭のてっぺんから足先までずぶ濡れになってしまった。
果林「そういえば……あの時もこんな感じだったわね」
それは1年前の今日のような雨の日。
傘を無くした私は、建物の軒先で今みたいに雨宿りをしていた。
───
『果林さん…ですか?』
果林『えっ』
せつ菜『あ、あの…私です。中川……いいえ、優木せつ菜です』
名前を言われなければ誰かわからなかったと思う。
私の思い出の中にいる彼女は、優木せつ菜としての姿が強かったから。
傘の下にいる人物は、生徒会長の中川菜々を少し大人っぽくした女性だった。
果林『あぁ……せつ菜、なの』
せつ菜『驚きました。こんなところで再会できるなんて』 果林『…そうね。あなたたちの学年が成人式を迎えた時にした同窓会以来だもの』
せつ菜『私、あれから誰とも会えてないんですよ。皆さん忙しそうで』
果林『私もよ。高校の時はずっと一緒にいたのにね』
せつ菜『仕方ないですよ。それぞれの人生がありますから』
そう寂しそうに笑うせつ菜は、仕事帰りなのかスーツ姿だった。
それに比べて私は部屋着に近い服装で、おまけに雨でずぶ濡れ。
果林「久々に話せてよかったわ。じゃあ、私はこれで…」
恥ずかしさでいたたまれなくなり、適当に会話を切り上げて立ち去ろうと思った。
せつ菜『果林さん!』
果林『なによ、私急いでて…』
せつ菜『私の家ここから近いんですよ。良ければご飯食べていきませんか?』
果林『近いって…いや、でも』
せつ菜『あっ!!帰りを待つ人がいるなら大丈夫ですっ』
果林『………なんで?』
せつ菜『はい…?』
果林『なんで、私に優しくしてくれるの?』 せつ菜『そんなの…決まってますよ。果林さんのことが好きだからです』
果林『………』
せつ菜『ち、違いますよ…!?同好会の仲間として、大好きですから!』
赤面しつつ早口で捲り立てるせつ菜が何だか可笑しくて、私もつられて笑ってしまう。
─そして、私は彼女の手を取った。
───
果林「あーあ…もう走って帰ろうかしら」
毛先についた水滴を指で弾き、曇り空に悪態をついても雨があがる気配すらない。
かといって、このままずっと店の軒下で雨宿りをしていても仕方ない。
だから思い切って足を踏み出した、その時だった。
「そこのおねーさんっ!」
背後から、わざとらしい猫なで声。
果林「は…?」
「可愛いですねぇ。芸能界とか興味ないですかぁ〜?」
台詞だけでなく、フードとマスクで顔を隠しているのが最高に胡散臭い。
声の高さと背丈の低さからして、女性スカウトマンといったところか。 果林「お生憎様。私もう事務所に入ってるから」
「あれれ?そうだったんですか〜いやぁ残念ですねぇ〜!うちならもっと楽しいことできるのになぁ〜」
果林「ねぇ、腹が立つからそれやめてくれない?耳がキンキンするのよ」
「へっ?こんなに可愛い声なのにぃ!?…あ、じゃなくて」
果林「もうっ、あなた何なのよ!?いきなり声掛けてきて謝罪もないとか…どこの誰なの?」
「ひっ、ごめんなさい〜!そんなに怒らないで…!」
果林「…は??」
「ほら、私ですよぉ!よく見てくださいっ」
慌てた様子で目の前の人物が距離を詰めてきた。
愛らしい顔には未だに幼さが残っていて、月日の流れを微塵も感じさせない。
果林「かすみ、ちゃん…」
かすみ(23)「ひゃ〜怖かったぁ。果林先輩ってば、怒った時の迫力が昔より増してません?」 果林「悪いのはそっちじゃない。騙すようなことして」
かすみ「それは謝ります…ごめんなさい。たまたま見かけたから、嬉しくなっちゃって」
果林「…それで、何をしてたの?遊び?」
かすみ「うぐ…失礼ですねぇ!今から買い物ですよ、もう少し先に安いスーパーがあって」
果林「ふぅん。食事は全部かすみちゃんが作ってるの?」
かすみ「まぁ大体は…?向こうは忙しいですからね〜」
同窓会にて、付き合っていることを愛にバラされていた2人だったが、どうやら今でも仲良く同棲しているらしい。
──正直、羨ましいと思った。
果林「そういえばあなたの恋人、今朝テレビで見たわよ」
かすみ「あぁ舞台挨拶のやつですか…」
果林「どうして顔が暗いのよ」
かすみ「だって、かすみんが同じ舞台に立ちたかったですから!」
果林「…へぇ。遥ちゃんに嫉妬してるわけね」 かすみ「そりゃしますよ、同業者ですもん。悔しいけど人気では適わないし……」
果林「まだアイドル続けてたの?」
かすみ「バリバリ現役ですってば!そういう果林先輩こそ、モデル続けてるんですか?」
果林「まぁ……一応ね」
かすみ「あの、ここじゃなんですし…そこのお店入りませんか?」
果林「え?いや私は」
かすみ「行きましょうよぉ〜可愛い後輩がお願いしてるんですからぁ〜」
果林「後輩って何年前の話よっ」
駄々っ子のように粘るかすみちゃんに右腕を引かれ、ズルズルと店内へ連行される。
平日の昼間ということもあって、他の客は疎らだった。
店員「いらっしゃいませ。2名様ですね、お席の方が…」
かすみ「あ、個室とかあります?それも周りに人がいない所がいいんですけど」
店員「はい。ご案内いたしますね」
かすみ「空いてて良かったですね、先輩っ」
果林「あなたねぇ…」 かすみ「そういえば知ってますか?ここのビーフシチュー美味しいんですよ。テレビでもよく取り上げられてて…」
彼女に出会ってから始終ペースを乱されている私は、全てを諦めてソファに腰掛けた。
…もう疲れた。
こうなれば他愛もない話をして、さっさと別れよう。
かすみ「ビーフシチューのランチセット2つください!飲み物はカフェオレと?」
果林「…烏龍茶」
かすみ「で、お願いしま〜す♡」
店員「かしこまりました」
もはや突っ込む気すら起きなくて、窓の外を遠い目で見つめる。
かすみ「果林先輩、高校の時からずっとモデルのお仕事続けてるんですね」
果林「まぁね」
かすみ「エマ先輩はお元気ですか?」
果林「…さぁ、どうかしら」
かすみ「へっ?」
果林「元気だといいわね。スイスでも」
かすみ「うえぇぇぇっ!?!?」 x年後にキャラがやさぐれてるSSは当たり率が高い印象
続きも期待 記号は違うけど名前(年齢)と報告は一致
あっちは地の文は無かったけど地域名は一致か
もしもあれを書いた人と同じなら読まざるを得ない 果林「ちょっと、静かにしてよ…」
個室だとしてもどこで誰が聞いているかわからない。
かすみちゃんは慌てて自身の口を抑え、周囲をキョロキョロ見渡してから顔を寄せてきた。
かすみ「エマ先輩スイスに帰っちゃったんですか…!?」
果林「そうよ」
かすみ「いつ!?」
果林「大学を卒業してすぐ、くらいね」
かすみ「ってことは3年前…!?かすみん何も聞いてませんよ!」
果林「他の子も知らないと思うわ」
かすみ「そんな……私たちは同好会の仲間じゃないですか」
果林「昔の話でしょ。いつまでも仲良しこよしじゃいられないのよ」
かすみ「でもっ…!」
果林「もう連絡さえ取り合ってないんだから、あなたみたいに気付かなくても無理ないわ。所詮はそんなものよ」
吐き捨てるようにそう言うと、かすみちゃんの目に悲しげな影が過ぎった。
…少し言い過ぎてしまったかもしれない。 かすみ「じゃあ果林先輩は知ってるんですか…?エマ先輩が帰った理由を」
果林「知らないって言ったら?」
かすみ「えっと……エマ先輩と果林先輩は恋人同士なんですよね?」
果林「かすみちゃん、想像で物事を語るのは良くないわよ」
かすみ「確かに想像かもしれませんけど…距離感とか、触れ方とか、雰囲気を見れば、親友以上の関係なのかもって思いますよ」
果林「…あなたに何がわかるのよ」
かすみ「かすみんにも、大切な人がいますから」
嫌に真面目な顔をしたかすみちゃんがこちらを真っ直ぐ見据えてくるものだから、咄嗟に目を逸らす。
相手が歳下とはいえ、無言の圧力にさらされるのは耐え難い居心地の悪さを感じた。
そうして追い込まれた私は、諦めて事実を吐露する。
果林「………はぁ。そうよ、付き合ってるわ。今もね」
かすみ「今も?じゃあなんでエマ先輩は…」
果林「喧嘩したのよ。酔ってたからあまり覚えてないけど実家に帰るくらいだから、相当怒ってるんだと思うわ」
かすみ「うーん。あのエマ先輩が喧嘩くらいでそこまで怒りますかね…」
果林「あの日は確か……朝から頭が痛くて、気分も最悪だったの。だから私が酷いこと言ったんでしょうね」
かすみ「そうだったんですか…何かすみません」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています