海未「エマと山と私と」エマ「登山だねぇ〜!」
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海未(今日はエマと登山に来ています)ザッザツ
エマ「気持ちいいねぇ」ザッザツ
海未「ええ、本当に」ザッザツ
エマ「〜♪」
海未(エマは山の緑衣に幼い少女のように目を煌めかせていて)
海未(本来なら私もこの大自然を楽しむはずだったのですが――)
エマ「懐かしい気分だよ、海未ちゃん」ザッザツ
海未「えっ、ええ! エマは山育ちですから、そうですよね」
エマ「〜♪」ぽよん ぽよん
海未(おっぱいが揺れてるんですよッ!!!!!!!)ジーーーッ 海未(凄い、すごいですよコレ、歩くたびに揺れてるんです)
海未(希や絵里で巨乳がぶるんぶるん揺れるなんて日常茶飯事、横目で盗み見るなんて朝飯前ですが――)
海未(これはいけない!! なんというか――そう)
エマ「んしょ んしょ」たゆん たゆん
海未(希や絵里の様に見知ったおっぱいではないからか――)
海未(より見てはいけないような気がして――見るんですけど――背徳感が募って!!)
海未(すごい興奮します!!!!!!!!!)
海未「いやぁ……良い眺めですね」
エマ「そうだね〜こうやって風が吹いて――」
エマ「木々が揺れて、さざめいて――癒されるね!」
海未(眺めが良いのは貴女のおっぱいで!!!! 揺れてるのは貴女のおっぱいですよエマ!!!!!!!) エマ「ん〜っ!」ノビーッ
海未(!?!?!?!?!??!??!?)
海未(エマが伸びをすると尋常じゃなく胸が突き出されてる!!!!!!???!)
海未「エッ↑(裏返る声)エマ!?(動揺と喜色の声)」
エマ「えっ?」
海未「大きいですね!?」
エマ「うん、山は大きいよねぇ〜」
海未(貴女の二つの山がデカいんですよ!!!!!! スイスの巨峰!!!!!!!)
海未「嗚呼、この山は最高です」
エマ「私もそう思うよ、海未ちゃん」
海未(何の羞恥プレイですかね!?!?!?! 自分のおっぱいを視姦されながら自分の胸の良さを誇るって!?!?) 海未「……ふぅ」
海未(い。いけませんね。ここは神聖な山。一度ハイドレーションで水を飲みましょう)
海未「――んぐっ んぐっ」
エマ「あ、私も水分補給しておこうっと」
海未「んぐっ!? ブホォァ!!!!!」
エマ「!? 海未ちゃん!? 大丈夫!?!?」
海未(それはこちらのセリフですよエマ!!!!)
海未(ついエマがチェストストラップにあるハイドレーションの飲み口に手をやったのでガン見しましたが――)
海未(ストラップのせいで胸がめっちゃ強調されているじゃないですか!?!!?!?!?)
海未(ってかもう胸がウェアをぶち抜きそうですよ!!!!!) エマ「んくっ んくっ」
海未(し、しかも――汗が、汗が――顎から滴る汗が――!)
海未(胸の上に落ちてるッ! 形が良すぎて前に突き出ているんですね!! 理解できますよ!!!)
海未「エッ↓(動揺)エマ!?(歓喜)」
エマ「? どうしたの?」
海未「(胸が汗を受け止めるって)すごいですね!?」
エマ「えへへ、山がきれいだとお水もおいしくて……ちょっと飲みすぎちゃったかな」
海未「いえもっと飲んでください!!」
エマ「う〜ん、でも飲み過ぎてなくなると困るし、また後にするね」
海未「また後でのお楽しみですね!?」
エマ「うんっ♪」ニッコリ
海未(かわいい)
エマ「?」 海未「む、中腹には沢歩きがあると聞いていましたが」
エマ「ちょっと沢を登らないとだめだね」
海未「ここは私が先導します。エマは後ろからきてください」
海未(後ろだとエマのお尻が拝めますが――先行すればおっぱいをガン見できるので先に行きましょう)
エマ「海未ちゃん気を付けてね」ギュッ
海未(うわ手を握られるとめっちゃ良い匂いするじゃないですか後おっぱいが大きい……)
海未「ここはカッコいい所を見せましょう!(無意識な発言)」ザッ
エマ「? 海未ちゃんはいつもカッコいいよ〜」 海未「エマ、今の場所なら多少濡れてしまいますが比較的楽に登れると思います」
エマ「うん、私も登れそうだよ〜。じゃあ行くね――」ぽよん
海未(おおっ!! 踏み出した一歩目からもう凄いッ!!)
エマ「んしょっ んっしょ」たゆん たゆん
海未(あれはもはや暴力ですよ)
エマ「んっしょ――あっ」
海未「えっ!!?」
海未(む、胸が少し突き出た岩に突っかかった!?!?)
エマ「あっ――あはは……恥ずかしいなぁ」
海未(恥!? バカな!! 誇るべき山でしょう!!!) 海未「大丈夫ですよ、エマ。エマはとてもきれいですから」
エマ「!! えへへ、そんなことないよ――」ポッ
海未「さあエマ、こちらの沢は少し斜面が急ですが手を掛けるところがありますから」
エマ「うん――きゃっ」
海未「エマ!! 大丈夫ですか!!!」
エマ「う、うん、大丈夫! 水が掛かってびっくりしちゃった……」
海未(なに、水――!?) その時園田に電流が奔った。
水がかかる場所、それはエマの体で一番前に出ている部分だ。
ならば、その場所とは――。
海未「おっ――!!」
海未(π!!!!!)
エマ「あ、あはは、ちょっとウェアが濡れちゃった――」
海未(凄いっ! 登山凄い!! 沢歩き凄い!!! エマのおっぱい凄い!!!!)
海未(ウェアが胸に貼り付いて――ただでさえパッツパツだったのに、これじゃあもうほぼ全裸じゃないですか!!!)
海未「え、エマ、大丈夫ですか」
海未(私は大丈夫ではありません)
エマ「う、うん、心配かけてごめんね! 早く上がるね」
海未「ゆっくりでいいですよ!」
エマ「そ、そうだね、焦っちゃダメ、焦っちゃダメ――」
海未(私、生きてこの山を降りられるでしょうか――) その後も海未はエマの二つの峰を眺めたり揺れる峰を眺めたりしながらトレッキングを続けた。
そして――。 〜山頂〜
エマ「山頂で食べるご飯は美味しいね!」
海未「エマも美味しそうなものを持ってますね――」
エマ「あ、このパン食べる? 美味しいよ〜」
海未「えっ! あ、ええ、も、もちろん戴きます! 私のお握りもどうぞ!」
海未(い、いけません、もうセクハラが思想だけでなく言葉として噴き出しそうですっ)
海未(深呼吸、深呼吸です――) 海未「すー……はー……。肺の奥まで染み渡る、冷たくて澄んだ空気……(煩悩が解けていくようで)たまりません……」
エマ「歩いてる時は暑かったけど、頂上は涼しくて気持ちいいね〜」
海未「(汗が胸の上に落ちるさまは芸術でしたよ)見てください、エマ。街があんなに小さく……」
エマ「ほんとだ! 随分登ったんだね。海未ちゃんと歩いてると楽しくてあっという間でわからなかったよ」
海未「くっ……、ありがとうございます、エマ! 私と一緒に登山をしてくれて!(おまけにこんな大きな山も見せてくれて!!)」
エマ「ええ!? いきなりどうしたの? 私の方こそ誘ってくれてありがとうだよ〜」
エマ「久しぶりに山の空気に触れられて、すごく嬉しいんだ」
エマ「最近ちょっと、その――辛い事があって、中々息抜きできなくって。だから、海未ちゃんが誘ってくれた時、本当にうれしくって」
海未「エマ……?」 エマ「心細い事があるとね――やっぱり山が、緑が恋しくなるの。私が生まれて育って、いつも隣に居たのはありのままの自然だったから」
エマ「海未ちゃんも山が好きって聞いて、私と同じように、山の自然が好きな気持ちを共感してくれる人が近くに居るって知って――」
海未「エマ、何があったんですか」
エマ「え……?」
海未「エマ――貴女、泣いていますよ」
エマ「え!? えっ、あ、あれ!? わ、私なんで泣いてるんだろう!?」
海未「エマ」
エマ「あ――」
海未「良いですよ、エマ。ここには私たちしかいませんから」
エマ「あ、あはは、そんな、私、ふぐっ」
海未「私の胸でよければ、お貸ししますよ」ギュッ
エマ「っぅ、海未ちゃん――っ」
海未(エマは肩を震わせていたかと思うと、静かに泣き出しました)
海未(いつも元気な彼女がこうも悲しむことがあるなんて。ニジガクの皆はこのことを知っているのでしょうか――) ――後日、虹ヶ咲学園、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会室前
海未(……おかしい。同好会室の前に誰もいませんね……)
海未(おまけに部屋に近づくにつれて、監視するような強い視線を感じます)
海未(……一体何が)
果林「あら? 海未ちゃん?」
海未「果林」
果林「こっちに来るって事は――前みたいに今日も弓道部の練習会?」
海未「いいえ、同好会の方へ顔を出しに――」
果林「同好会へ? 何かあったの?」
海未「――果林、貴女が一番エマに近い人ですよね」
果林「えっ? ええ。まあ――そうね」
海未「果林、貴女ならもう知っていることかもしれませんが――エマが先日、とても辛い事があったと」
果林「ああ、それ? 多分それ、同好会がなくなるからじゃないかしら」
海未「は――?」 海未「ちょっと待ってください、なくなる、とは一体!?」
果林「そのまんまよ。同好会はなくなる。代わりにスクールアイドル部が設立されたわ」
海未「ああ、格上げになったのですね。ではみんな同好会室ではなく部室に――」
果林「いいえ、部室には居ないわよ」
海未「……果林? 一体何が――何があったのですか」
果林「何があったも何も、これが事実よ。同好会はなくなる。現状同好会としての活動は学園そのものが禁じているわ」
海未「なんですって?」
果林「もしこの学園でスクールアイドルとして活動したければ、スクールアイドル部に入部しなければならない」
海未「果林っ」
果林「この後講堂でスクールアイドル部のライブがあるから、観に来るといいわ」
果林「じゃあ、私は行くから」スッ 海未「果林、待ってください!」
果林「――なに?」
海未「果林、貴女は今――同好会に籍を置いているのですか!? それとも、部活に――!?」
果林「……私は上を目指したい。その為なら、同好会を抜けるくらいはするわ」
海未「果林……」
海未(果林は去っていく。何度も見た、美しい姿勢はそのままで)
海未(私の手元に残されたのは、講堂でライブを行うというお知らせのチラシだけ)
海未(――そこには確かに、出演者欄に果林と――信じがたいことに、愛と栞子の名前もありました) ふつふつと湧いてくる感情は、そう、あの時のものと一緒。真姫が父上に部活を辞めるように言われた時と、同じ。
「果林ッ!」
「――なに?」
再度呼び止める私に、果林は鬱陶しそうに振り向きます。
「エマは泣いていましたよ!!」
悲しんでいたのです。エマは。大好きな山に来て、部外者の私にすら心中を吐露してしまうほどに!
「なのに貴女は、エマを悲しませている根源に所属するのですか!」
それは私の知る朝香果林ではない。
彼女は確かに『高みを目指す為であって、仲良しグループとしてなら入会しない』そう言っていました。
ですが、それ以上に彼女はこんな理不尽な事に屈するはずがない――。
それに、エマが大切にしている場所を踏みにじられて、黙っていられる果林ではない!
「答えてください、果林!!」
「――貴女には関係のない事よ」
「果林ッ!」
「煩いわね――!」
果林に襟を掴まれて、引き寄せられる。その時の果林は明らかに暗い憤怒に燃え上がっていました。
「私はあいつを許さない。エマの大切な場所を奪ったあいつを、私は絶対に許さない」 「私はランジュを叩きのめす為に入部したの。ランジュのプライドを叩き潰して、エマに土下座させてやるわ」
「そのためにはあいつにスクールアイドルとして勝たなきゃいけない」
果林の目に私は映っていません。彼女の視線の先には、ランジュという一人の人間が居るだけでしょう。
彼女の暗い決意は、決して理解できないものではありません。
「でも、今学園ぐるみで活動を禁じられているこの状況じゃ、どうしたって権力を持つランジュに勝てない」
だから今は、軍門に下る――と。
「今はいい。今だけはあいつのバックダンサーでもなんでもやってやる、でもね海未」
ですが果林。エマにとって大切なのは――。
「何が何でもランジュをエマに謝らせる。それだけは世界がひっくり返っても、決して覆らない決定事項なの」
貴女と一緒に競い合って高めあう同好会がエマの大切な場所であって――。
「同好会に私の居場所がなくなっても、裏切り者のレッテルを貼られても」
貴女が居れば、例え今の状況下であっても――。
「私はエマの大切なものを取り返す」
彼女は悲しくて泣く、なんてことはなかったのではありませんか――。 「ごめんなさい、海未」
果林はふっと息を吐いて、襟から手を離してくれます。
「果林、貴女がその『ランジュ』という人にスクールアイドルとして勝ったとして――」
「その後は、どうするつもりなのですか」
「さっきも言ったけど――かすみちゃんからは裏切り者って言われてるから、もうどのみち同好会に帰るつもりもないの」
「果林――」
「仕方のない事よ。私は実際――裏切ってしまったから」
「だから、もうじきに私のスクールアイドルとしての活動はもう終わりよ」
今度こそ私の前を去る果林。
「果林――っ」
一瞬振り向いた果林の表情に、私は彼女の決意の暗さを改めて認識しました。
寂し気に俯いた彼女の表情――。
「海未ちゃん、エマの為にここまで来てくれて、ありがとう」 タイトルに釣られエマπでおっきしたこの山脈……一体処理どうすればいいんだ? 熱い(下半身も)
お節介かもだけど、ーは「けいせん」で変換するといいよ── 璃奈「師匠……?」
ふと。歩夢たち同好会メンバーを探す私の前に現れたのは、私の弟子の璃奈。
海未「璃奈――っ!」
璃奈の後ろ。そこには『監視委員会』と書かれた腕章を持つ女生徒がくっついていました。
海未「璃奈、大丈夫ですか!」
璃奈「う、うん。平気。大丈夫」
監視委員「……」
海未「事態は聞いています、璃奈、愛が――」
璃奈「愛さんは悪くないの!」
海未「え?」
璃奈「愛さんは、悪くないの」
璃奈はただ静かに、無表情に呟きました。 海未「璃奈、私は愛を責める気ではなくてですね――」
監視委員「……」
ええい、鬱陶しい。なんですかあの監視委員とは。一体何の権限で璃奈を監視するというのです。
海未「……璃奈、少し」
璃奈「師匠……?」
璃奈の肩を軽く叩くと、璃奈から離れない監視委員を見つめました。
息を吸う。細く鋭く。大気から吸い上げた酸素を、全身の隅々まで行き渡るように。
海未「少し外してくれますか」
璃奈がぶるりと震えたのが分かります。
海未「監視するのは結構ですが、私が居る間は、璃奈に近寄らせはしません」
ほんの少しだけ、剥きだすのは敵意。外敵に向けるのは、鈍の殺気。
監視委員「ヒッ」
剣道ならもう四十回は打ち込んでますよ、私。
海未「璃奈、行きましょう」
璃奈「し、師匠……」 〜食堂〜
海未「彼女たち、確か監視委員、でしたか。に何かされていませんか? もしあったら言ってください。オトノキの三バカを送り込みますから」
璃奈「ううん、大丈夫、です。私はなんにも……ただ、今同好会に所属するメンバー皆には『スクールアイドル同好会監視委員』が着くことになってる」
海未「なんですって?」
璃奈「同好会の活動は禁止されていて……今は学内で集まることも難しい」
海未「はい!? で、ではまさか学園生活において監視委員が貴女達を監視していると!?」
璃奈「そう」
海未「し、信じられません……戦時の日本ですかここは……」
璃奈「ランジュという人が来てから、そうなった」
海未(ランジュ……冷静な果林が唾棄すべき相手と言わんばかりだった人ですね。スクールアイドル部のトップも彼女の様ですし)
璃奈「同好会の活動が禁止になって、監視委員がついて、果林さんが同好会を辞めて入部した」
璃奈「あっちの方が高みを目指せるからって」
海未「!」
海未(果林、何も言わず……エマの為に総て投げ捨てる覚悟なのですね……) 璃奈「その後……愛さんが部の方に籍を置いた」
海未「愛の考えは――理解、ですか」
璃奈「うん。愛さん、いつも言ってた」
――相手の事、何も知らないままだと否定も肯定も絶対に出来ない。理解しなきゃ、始まらないから。
璃奈「愛さん、私に教えてくれた。相手のことを知らずに否定することは、一番やっちゃいけないことだって」
海未「相手が先に同好会をよく知らないまま糾弾してきたとしても、ですか」
璃奈「うん。愛さん、迷ってなかった。ランジュって言う人を理解してから、行動するって」
璃奈「同好会の皆は、迷ってた。愛さんの言葉に、納得できない感じだった」
海未(愛の考え方は超然とし過ぎている。いいえ、人としてその在り方は尊いものです)
海未(その考え方は穂乃果であり、絵里であり。ダイヤや鞠莉もそうでしょうが、人の上に立つ人間が持つべき器の大きさです)
海未(しかし愛は総ての人間と共に『楽しい』を楽しむことを信条とする一個人として振舞っていました) 海未(将であるが故に将として振舞う絵里ならば、愛の考えは理解されるでしょう)
海未(ですが愛は将ではなく一兵士でした。他人から見ればそれは自由気ままで我儘。常人から理解されがたいものではあるでしょう)
海未「璃奈は。璃奈は、どう思いますか」
璃奈「私たちは部と同好会で別れても、ココロで繋がってる。一緒じゃなくても大丈夫。私の想いは愛さんに届いてる」
璃奈「愛さんも私のココロの奥の声を、地球の裏側からだって聞いてくれる」
海未(これは憶測ですが。璃奈が愛を信じてくれているからこそ、愛は果林とはまた違う思惑で飛び込んでいけたのでは、と思います)
海未「璃奈、成長したのですね」
璃奈「うん。愛さんと師匠がいるから、私は平気」
海未(……果林はエマの為。愛は理解するため。では、栞子は……?)
海未(ランジュのライブまでまだ時間はありますね)
海未「璃奈、この後予定は?」 璃奈「今日は――」
璃奈「屋上でみんなと落ち合う予定」
海未「そうですか……璃奈、気を付けて」
璃奈「師匠、ありがとう。師匠と話せてよかった」
席を立つ璃奈。愛ほどではありませんが、私だって彼女の僅かな感情の揺らめきを追うことはできます。
海未「璃奈!」
璃奈「?」
海未「同好会や愛だけではありません。私も――いえ」
海未「貴女達にはμ'sが居ます。音楽の現人神、生ける伝説、アキバドームの奇跡などなど……と大それたことをネットで言われているμ'sです」
海未「その内の一人、この園田海未は貴女の師匠であり味方です。それを忘れないでください」
璃奈「……海未さん」
璃奈「ありが、とう。みんなにも、つたえる」 海未「さて……」
海未(栞子。彼女にもまた聞いてみる必要がありますね)
海未(それからランジュ、という人のライブを見て――私にも何かできることを探しましょう)
海未(果林の怒り。愛の理解したいという言葉。璃奈の不安げな表情。エマの涙)
海未(エマ……ああ。エマのおっぱいを盗み見していた時間がもう遠い昔に思えてきました……)
海未(大きかったですね、エマ山……)
海未(こう、ぽよんぽよんと……すばらしい絶景で……)
海未(……あれほど立派なものを見せてもらった以上は、この身命を賭して。私は同好会に力を尽くします)
海未「……行きましょうか」 乙
熱い展開なのにエマぱいのくだりで台無しになってて草 おっぱいに尽くせる人に悪い人はいないってエロい人がいってた 海未ちゃんのキズナエピ見るとりなりーとの組み合わせがうれしい 〜生徒会室〜
海未「では璃奈、手はず通りに……こんにちは、栞子」
栞子「! こんにちは、海未さん。今日は弓道部の合同練習の日……ではないですよね?」
海未「ええ、少し寄ったもので。栞子は……これからスクールアイドル部のライブですか?」
ライブまで時間はあまり残っていません。開場までは時間はありますが、ステージに立つ者としてはあまり余裕がないでしょう。
ならば単刀直入に。
海未「ああ、なにかとやかく言うつもりはないのです、ただ」
栞子「ごめんなさい! ランジュの、決してランジュの行いは、到底許せるものでは無いと思います! ただあの子は不器用なだけで、決して――」
海未「落ち着いてください、栞子。私を見てください」
栞子「……!」
海未「私はまだ何も考えていないんです。それに今の同好会を取り巻く環境を知ったのは、ついさっきの事です」
栞子「海未さん……」
海未「さっきの口ぶりから、ランジュ、という人とは何かしらの縁故が?」
栞子「……私とランジュは、幼馴染なんです」 海未(幼馴染。それは私と穂乃果を結ぶもので、ことりとも、絵里とも、凛とも花陽とも結ぶ関係)
栞子「海未さんと穂乃果さん……とまではいかずとも、古くからの付き合いで」
栞子「彼女が行う部の設立も、同好会の活動禁止も、止めることはできませんでした」
海未「幼馴染の突飛な行動に苦労しているのですね、栞子も」
栞子「穂乃果さんは! ランジュの様に、その……傍若無人では」
海未「栞子はランジュという人の行いに、思うところがあるのですか」
栞子「……あの子の行いは、まず私が確実に止めなければなりませんでした」
海未「貴女達の部長、ではなく」
栞子「部長は今は短期留学中ですから、なおさら私が……幼馴染である私が、止めるべきでした」
海未「栞子がそう強く想っているのにもかかわらず、止められなかった、と」
栞子「……私が過去に行っていた行為は、ご存知ですよね」 海未(栞子が行っていた行為。生徒の自主性を重んじることなく、各自が持つ『適正』を見抜き――)
海未(『向き』『不向き』だけで全てを判断し、その道に進むことが幸福であると解く)
海未(彼女はとても強引でしたが……確かに救われた人もいる。決して褒められた行為ではないにせよ)
海未(それに一歩間違えば私は彼女と同じ道を進んでいたのかもしれません)
海未(私も栞子も、家業を継ぐにふさわしい才能を持ちながらも、継ぐことを良しとせず家を出た姉を持つ身)
海未(……私の姉は、両親とよく話し合い、そして私も家を継ぐことを幼いながらも使命とすることを肯んずりました)
海未(しかし栞子は姉の薫子を不幸であったと思っていた。それを間近で見ていた幼い彼女にとっては、才能を活かすことこそが幸せになる道だと信じ込んでしまっても……)
海未(それを責める気には、私にはなれません。それらは他者が容認できずとも彼女の信念であり、彼女にとっての正義だったのでしょう)
海未(その頃の苦しんで、それでも前に進もうと足掻く彼女から……今は随分と良い笑顔を浮かべることが増えて、喜ばしい限りですが)
海未「ええ。知っていますよ」 栞子「ならば海未さんは解るはずです。ランジュと私がやっていること、やってきたことは、全く同じことです」
海未「……貴方の行為は確かに傲慢で独善的でした。しかし貴女には貴女なりの信念があった」
海未「貴女の目が届く限り、貴女が過去に見た不幸を味わってほしくなかった。そういう想いがあったはずです」
海未「私が今知る限り、ランジュという人の行為と貴女の行為は、似て非なるものです」
栞子「確かに私は――傲慢にも、総ての生徒に『私の物差しで測った幸せな学園生活』を送ってほしいと願いました。その想いはあります。ですが……相手にしてみれば、同じことです」
海未「いいえ、違います」
栞子「救われた人が多少はいたかもしれません。ですが、傲慢で独善的な――」
海未「いえ、違うんです」
栞子「同じなんですよ!!!」
海未(栞子……)
栞子「同じなんです!!! 私は人の気持ちを考えることをせず、ただただ自分の物差しで、貴女はこうすべき、こうあるべきと決めつけて!!」
栞子「そんな私が、ランジュの行動を止められるわけないじゃないですか!! 私が同好会の皆にしてきた行為を押しのけて!!」
栞子「私の勘違いでスクールアイドルを毛嫌いして、いざ私の誤解が解けたら皆さんに許しを貰えて、私は今のうのうと楽しく活動して!!」
栞子「別の人が私と同じことをしたら、自分のやってきたことを忘れてランジュを糾弾するなんて、できるわけない!!!」
栞子「そんなの……それこそ、私はあまりに……人として……」 海未「栞子。それでも私は違うと言い張ります」
栞子「……聞きたくありません」
海未「確かに貴女には不徳の行為が多かった。同好会廃会に執着したり、強制的に転部させたり、入部に適性試験を設けたり」
栞子「そうです、私は独りよがりで、傲慢で」
海未「それらは不満を呼び、様々な人とぶつかりあったことでしょう」
栞子「そうです私は……それらの不満を切り捨てて……」
海未「……ですが栞子。貴女が救った人間は確かに居るのです。貴女の掲げた正義によって、救われた人も居るのです」
海未「少数かもしれません。大多数は反感を抱いていたかもしれません。それでも、貴女は確かに誰かに幸せを届けた」
海未「ならば私は、貴女の行為をすべて否定はできない。確かに救われて、貴女に感謝の気持ちを述べる人が居るのならば」
海未「私は今ランジュが行う行為と貴女が行ってきた行為が相似であるとすら言えません」
海未「栞子。胸を張りなさい。自分の行為を自分で悪だと断罪するのならば。確かに救えた人が居るのだから、その人の為だけに誇りなさい」
栞子「……っ」
後ろを向いて、袖で目を拭う栞子。合宿中でも、確かに彼女には何とかして溶け込もうとする努力の姿勢がありました。
遠慮がちで時々苦しそうにする瞳からは、罪の意識が見え隠れしていました。贖罪の意志もまた、痛々しいほど強く表れていました。 しかしニジガクの皆が許すと言ったのなら。
海未「貴女の居場所はスクールアイドル部ではありません。スクールアイドル同好会こそが、貴女のいるべき場所です」
栞子「でもっ、わたしは!」
海未「納得できませんか。ならば、部長に恩を返すときです。部長に誘われて入部したのでしょう」
栞子「わたしは……でも、皆さんを裏切って……」
海未「……ああ、そういえば」
私はスマホをポケットから取り出しました。
海未「璃奈、聞こえてましたか?」
璃奈『ばっちり。栞子ちゃんの鼻を啜る音も聞こえた』
栞子「……は」
海未「私の幼馴染に絢瀬絵里という人が居まして。頑固者には本心を語らせるべきであるとの教えです。こういう手法も使うのですよ、私」
栞子「な、あ。いま、の……ぜんぶ?」
海未「ええ。そっくり全部です。いやーこれも不徳ですかね?」
栞子「あ、あ、う。ああああ、あ」
驚くほど真っ赤に染まる栞子。 璃奈『栞子ちゃん。同好会の皆が、屋上で聞いてる』
海未「だそうですよ? ……元生徒会長、貴女はどう思いますか。現生徒会長の事を」
せつ菜『うおおおおお!! 栞子さん帰って来てください!! 私も同好会を廃部にしようとした間抜けなので!! 仲間ですよ!!』
歩夢『せつ菜ちゃん!? それ笑えないよ!?』
かすみ『せつ菜先輩は反省してくださいよぉ!』
彼方『帰っておいで、栞子ちゃ〜ん。彼方ちゃんたちは、栞子ちゃんの仲間だよぉ〜?』
栞子「……っ……ぐすっ」
海未「さて栞子、貴女が居ないと締まるものも締まりません。それに私、今から講堂に行ってランジュに会う予定をしています。何か、彼女に伝言はありますか?」
栞子「……っ」
海未「栞子?」
栞子「わたし、私……同好会に戻って……みんなに、みんなに謝ってきますっ」
海未「はい、行ってらっしゃい」
ぽんと彼女の背中を押せば、濡れた翡翠の瞳に迷いはなく。ただ決意の光が満ちる明るい翡翠が輝いていました。 生徒会室のドアが大きく鳴って閉まりました。一安心してスマホの通話を切ります。
海未「せつ菜……」
海未(大きいのはおっぱいだけじゃないのですね)
私はせつ菜のトランジスタでありながらグラマーなせつ菜のおっぱいを思い浮かべます。
……いえ、それでもやはり今の私の心を突き動かすのは。
海未「エマのおっぱいですね!! よし! ランジュという人に会いに行きましょう! うおおおおおおおおおお!!」
きっと今の私の瞳も。栞子に負けないほど決意の光に満ちた瞳をしていることでしょう!! 大丈夫か園田
ランジュのおっぱいを前にしても正常でいられるのか? 〜講堂付近〜
女生徒「きゃぁああああ! μ'sの園田海未ちゃんだ!!!」ドドドドドド
女生徒「ええええ!!! なんで!? なんでニジガクに居るの!!?」ドドドドドドド
海未「これは少し用事でして!」タタタタタタタ
海未(迂闊! 迂闊でした! 部活棟や食堂にいる時はスルーされていたから安心していましたが!!)
海未(講堂に近づけばスクールアイドルが好きな人は当然多いわけで!!)
女生徒「サインを! 海未さんサインを!!!」ドドドドドド
海未(μ'sの端くれとはいえそりゃこうなりますよ!!! 講堂前が大混乱ですよ!)
女生徒「海未ちゃん!!」
女生徒「海未さぁああああん!!」
女生徒「目線と投げキッスくださいいいいい!!」
海未「あれ(投げキッス)は絵里がやれって言ったんです!」 〜音ノ木坂学院 スクールアイドル部部室〜
絵里「へっくし! あ”〜……」スンッ
ニコ「絵里ちゃんってばくしゃみがおじさん臭いニコ〜」
絵里「……ん”っヴぅん……(咳払い)……ニコちゃん語尾がキツキツエリ〜(可愛い声)」
ニコ「あんた張っ倒すわよ!?」
真姫「ニコちゃんどうどう……ねえ、エリー風邪? パパに診てもらう?」
ニコ「真姫ちゃんのパパは脳のお医者さんだからちょうどいいニコ!」ベーッ
絵里「ニコも脳外科行く? ああ、ニコは小児科だっけ? そのちいさな お っ ぱ い だと」
ニコ「こんのぉおおおおおお!!!!」ムキー
真姫「……海未ちゃん今日は休みなのかしら」 海未「多い! 生徒数が多すぎる!! 流石超人気校!」
女生徒「海未ちゃんがニジガクを褒めてくれてる!!!」
女生徒「きゃあああああ!!!」
海未「皮肉ですよ!!!」
女生徒「もっと罵って!!」
女生徒「はぁあああん♡」
女生徒「海未様〜っ♡」
海未「藪蛇ィ!!!!!」
海未(しかし……このまま、このままでは!) ??「無問題ラ! 海未、こっちよ!」
海未「! あ、ありがとうございます!」サッ
女生徒「! 海未ちゃんが居なくなっちゃった……!?」
女生徒「あ〜ん海未様が消えた!」
女生徒「海未ちゃんの唇! あああああああ!」
ワイワイ ザワザワ
女生徒「でもそろそろ会場に戻らないと、また満席になっちゃう」
女生徒「そうだね……戻ろっか……」
ガヤガヤ……
海未(喧騒が遠くなっていく……ふぅ……他校でこんな騒動を起こしてしまうとは……猛省しなくては)
海未「すみません、危急を救っていただき、ありがとうございま……」 物陰から声をかけ、ドアの向こうへ連れ出してくれた少女の姿を園田海未は捉えた。
透き通るような、ともすれば白磁と互角にすら思えるような白い肌。
白い肌に妖しく存在する右目の泣き黒子が、彼女の美貌をより高めている。
美しく流れる白い髪は無機質なLEDの電光を受けて爛々と煌めき海未の視界を埋め尽くす。
白磁の肌もさることながら、突き抜けるほどの蒼穹を思わせる、空色の瞳。
きりりと上がった眦ときゅっと天に向く睫毛は長く、力強く人を惹きつける目をしていた。
白い肌に反して紅蓮の様に燃える紅色のチャイナドレスの丈と、金色の意匠が凝らされた黒いニーハイブーツは引き締まった太ももを、より鮮烈に目に焼き付かせる。
そして何より、その紅蓮のチャイナドレスをさらに彩っているのは、ウエストベルトでより強調された――。 海未(おっぱいがでかい!)
??「……海未? ちょっと――」
愛「あっれ!? 海未!? ランジュと知り合い!? なんでここに!? どしたの!?」
果林「……海未」
海未(愛、果林……二人とも、衣装を着こんで……ふたりともおっぱいが大きい……)
海未(そして愛の『ランジュ』という言葉、という事は。この目の前の女性こそが――)
海未「……失礼しました。改めて……私は園田海未。危ない所を助けていただきありがとうございます――ランジュ」
ランジュ「不谢、私はランジュ。鐘嵐珠よ。よろしくね、μ'sの園田海未さん」
海未(……鐘嵐珠。確かニコが呼んでいた雑誌には、香港で人気急上昇中の実力派スクールアイドル……そう掲載されていましたね)
海未(ショウ、ランジュ……)
愛「海未っちなんでココに? ランジュと知り合いなん!?」
海未「え? あ、ああ、これは少し、その、なんといいますか……」
果林「海未、それより栞子見てないかしら。あの子、もう開場してるって言うのにまだ控室に来てないのよ」 海未(……隠していても仕方ありませんね)
海未「栞子ならここには来ません」
愛「ええ!?」
果林「……そう」
ランジュ「! 海未、なぜ知っているの?」
ランジュの視線が私に突き刺さります。真っ直ぐ見据えてくるそれに、私は武術に覚えのある者としての自分を呼び起こされます。
立ち姿、わずかに見える太ももの筋肉の付き方、視線の向け方――この人……生粋の武術家です。
海未「私が、栞子を説得して同好会に戻したからです」
ランジュ「!」
愛「ええええ!?」
果林「……」
ランジュ「栞子が……ふーん」
海未「この件についてもですが、ランジュ。私は貴女と話が合って……」
ランジュ「わかったわ。愛、果林、二人は練習通り踊って頂戴。栞子の穴は気にしないで」
果林「……わかったわ」
愛「ほいほい、愛さんも了解〜」 海未「ランジュ、私を責めないのですか?」
ランジュ「責める? アナタを? おかしな話ね。どうせ同好会に戻っても、活動なんてできないんだからすぐ同好会に戻ってくるわ」
ランジュ「それにアタシと栞子は友達。気の迷いで戻ってしまっても、私は何度だって受け入れるわ」
ランジュ「栞子には、スクールアイドルとして最高の環境を用意して、最高に輝いてもらわなくっちゃ」
海未「……ん?」
海未(……あれ? 確かにこのランジュ、同好会を監視、活動を禁ずる委員会まで発足していますが……)
海未(部に移れば活動は全然全く認める……それどころが、最高の環境を用意すると? 愛、果林、ランジュと大きなおっぱいに囲まれている今の状況が既にもう最高なんですけども)
海未「あの、ランジュ。最高の環境というのは、貴女のおっ――どういう」
ランジュ「お? ……まあいいわ、最高の環境っていうのはね、作詞家、作曲家、振付師、演出家――このスクールアイドル部のクリエイティブを担当しているのはね、アタシが連れて来た各業界トップクラスのプロよ。そのプロに囲まれて、原石は磨かれ星として輝くの! このランジュと共にね!」 海未「え。それは同好会の皆が転部してきても同様に? いびりとかそういうのはなし? いじめたりはしない?」
ランジュ「当たり前じゃない。部にさえ入ればみんなランジュの友達、仲間よ。最高の環境で輝けるスクールアイドルなんて、最高じゃない?」
ランジュ「今までの同好会の活動には光るものがあった。愛も果林も、歩夢もかすみもしずくも璃奈もせつ菜も、エマも彼方も、みんな可能性に満ちた原石よ」
ランジュ「更に輝くために、高みを目指すには、最高の環境に身を置くべきだと思わない?」
海未(……何ですこの人!? でっかいのはおっぱいだけじゃなくて複数の要素に目を瞑れば器もそれなりにでかいですね!?)
海未「えーランジュ、そのですね、同好会の活動を禁止するとか監視するとか、そういうのはやり過ぎだとは思うんですけど……貴方もしかして」
海未「百パーセント善意でやってます?」 ランジュ「当たり前よ。アナタ、アタシを何だと思ってるの?」
海未「いや、もっとこう、新妻をいびる姑みたいな……取り合えず同好会の活動気に入らないから禁止! 的な……」
ランジュ「はぁ。まあいいわ。で、海未。貴女はどう? オトノキからこっちでスクールアイドル、やってみない? アタシは学校の壁なんて気にしないわ」
海未「いえ。私は穂乃果やことり、絵里たちと創り上げた『μ's』以外で活動を行う気はありません」
海未「それに、ここと同じようにプロを揃えた環境で、日夜厳しい練習に取り組んできたスクールアイドルグループが、いつもスクールアイドルの最高峰に存在できるわけではないという事を」
海未「私自身が証明していますから」
愛「おー……海未さん半端なーい……」
果林「……」 ランジュ「ふーん……流石はUTX学院のA-RISEを打ち破り、ラブライブで優勝したμ'sの園田海未ね。言う事に重みがある」
ランジュ「じゃ、アタシの考えとは相容れない?」
海未「貴女の行い総てを肯んずることはないですが……そうですね。最後の最後には、相反しますね」
ランジュ「そ。わかったわ」
――ランジュさん! 愛さん! 果林さん! 準備お願いします!
愛「海未っち、ランジュのステージ、楽しんで! さって愛さん、行ってきます!」
果林「ランジュ、行くわよ」
私に笑いかける愛と、どこまでも真剣な表情の果林。私は曖昧に笑って二人を送り出します。
ランジュ「園田海未。これからアナタに魅せるライブは、原石ではなく、星の輝きよ」
ランジュ「所詮石は石。でもね、星は違う――」
ランジュ「貴女の持つチカラ、スクールアイドルとしての結晶、ラブカストーン……それがどれだけ集まっても」
ランジュ「アタシの――ラブカスターには到底敵う筈がないってことを教えてあげるわ!」
海未(そう言って踵を返すランジュ。彼女のその表情は――恐ろしいほど、妖しい美貌が煌めいていました) 乙!
星は100個で10連、石は50個で11連
どっちが強いんだ 座席について開演を待ちます。
彼女の言った『ラブカスター』という言葉。そして今私の手のひらに乗る小さなピンク色の石――『ラブカストーン』。
この石はスクールアイドルだけが手にできる、己が力の結晶です。
力……といってもこの石自体に力はなく、持ち主が自己の心象風景を現実に侵食させ、一時的に現実を書き換える事が出来る『固有結界』を展開できることの証明です。
そしてランジュの言う星はラブカスターという、石を持つ者が更に才を磨き続け高みに至ったものだけが持つ力の証明……。
要するに、ランジュは私より高位のスクールアイドルである、ということ。正確には、より『現実を塗り潰す力』に長けているということ。
どうやら同好会の前に現れた相手は実際に強敵であるという事は、間違いなさそうです。
「この中に、ランジュの事嫌いな人いるかしら?」
暗くなった講堂に、数分前まで聞いていた声が響きます。煽りともとれる彼女の声に、観客は色めき立ちだして。
「ふふ、無問題ラ。一分後にはファンになってるからね」
「今日も、派手に行くわよ!」
「元気充電! 準備順調! いっくよーー!」
果林と愛が派手に名乗りを上げて――。
「すべてを、ランジュに委ねちゃいなさい――」 ぞくりと。彼女が左手を遥か空を向けて突きあがります。
虹ヶ咲学園の、いくら大きな学園とはいえ、何の変哲もない講堂。
それが、彼女のたった一つの声により、彼女の心象が現実を凌駕していく。
「支配してあげるわ!!」
一瞬、果林と愛の表情が強張る。いや、観客すらも一瞬彼女の世界に呼吸すらも奪われている。
空気の一片すら許さない。すべてが彼女の支配下にある。現実を塗り潰すなんてものじゃない。
文字通り、本当に彼女はここにいる人間すらも、支配している。
まぎれもなくあの歌とダンスの力で。
(心をも、引きずり込んでいる……!)
握られた拳に、さらに力が加わります。果林は……この人に勝負を挑んだのですね。 一曲目が終わり、それでもなお現実の浸食は収まらない。彼女の世界は今尚この空間を支配し続けている。
彼女が言っていた石と星の決定的な違い。この一曲だけで、ランジュの言う事は良く分りました。
「そして……愛も、果林も、ランジュより前で歌う事すら許されない、と」
二曲目が始まり、それでも愛も果林も、最初の一言から何一つ声を発していない。
大体察せます。果林の言っていた言葉の裏打ちにもなります。
ランジュに勝たねば、歌う事すらできない。彼女を越えて現実を侵食しなければ、まともに意見すらできない。
ニジガクのスクールアイドル部とは、そういうものであると。
「これ以上観る必要はありませんね」
二曲目が終わり、三曲目に入る前のMCで私は席を立ちました。
「ランジュこそが――最高のスクールアイドルよ!」
MCのその言葉は、彼女に背を向けた私に言っているようでした。 翌日 音ノ木坂学院 スクールアイドル研究部部室
凛「部が出来たから同好会の活動は禁止!? ぜんぜん意味が分からないよ!?」
絵里「それはまた……難儀なことに……」
ニコ「なにそれ! ニコ、そんなの全然納得できない!!」ガタッ
真姫「ニ、ニコちゃん落ち着いて! 海未ちゃん、それ本当なの?」
穂乃果「……そんなのってないよ……」
ことり「穂乃果ちゃん……」
海未「はい、すべてこの目で見てきました」
花陽「ニジガクの皆、練習もちゃんとできてないよね……絵里ちゃん穂乃果ちゃん、何とかならないかな……!?」
穂乃果「……絵里ちゃん、ことりちゃんのお母さんのところに行こう!」ガタッ
絵里「そうね。練習場所だけでも取り合えず確保しないと。ウチの屋上が広くて良かったわ。事情を話せばすぐ承認は降りるはず」ガタッ
ことり「ことりも一緒に行くよ!」ガタッ
真姫「わ、私も!」
希「じゃあウチはニジガクのみんなに連絡入れとかんと……」 海未「花陽、ニコ、二人にも聞きたいのですが……今の状況では彼女たちはライブすら開催できません」
海未「スクールアイドルとしてこれはあまりにも致命傷です。それに、今あの学園のスクールアイドルはランジュ一人が名声をほしいままにしています」
海未「なにか、効果的に同好会と部が全く違っていることが証明されて、それでいて再度同好会を盛り上げるような名案はありませんか?」
花陽・ニコ「「ゲリラライブ」」
ニコ「ニコ!」
花陽「だね!」
凛「ゲリラ……見通しの悪いトコでで奇襲不意打ちなんかをしながらライブをするのかニャ?」
海未「それはゲリラ戦です。ゲリラライブ……いつ、どこを秘匿して突如ライブを行うのですね」
ニコ「流石海未ちゃん、凛ちゃんとは違うニコ」
凛「ひどい……かよちん、ニコちゃんがいじめる〜!」
花陽「うんうん、ゲリラ戦をパッと説明できる凛ちゃんも十分賢いよ!」ナデナデ
凛「にゃあ〜かよちんのナデナデたまんねえ〜」
海未「いつとどこが秘匿されていれば監視委員には気付かれませんね」
ニコ「そう。でも同時に『その時間に何かがある』という事だけは必ずわかってないといけないニコ」 海未「告知をすれば人は集まるけれど、委員会にも気づかれる」
ニコ「告知をしないと噂も起きずに無観客ライブになってしまう可能性もあるニコよ」
凛「むむむ……これじゃあ八方美人ニャ……」
花陽「八方ふさがりだよ、凛ちゃん。……ニジガクのみんなはファンクラブをそれぞれ持ってるから、そこで告知するとかはどうかな、ニコちゃん?」
ニコ「そのファンクラブにランジュの息のかかった人間が居なければ、効果的でしょうね」
花陽「あ……その可能性が……」
海未「その辺りは、璃奈たちと話し合ってみます。こういう案もある、という事を彼女たちに提案したいだけですから……って凛、貴女どこに行こうとしているんですか」
凛「凛もニジガクにカチコミかけるニャ! ランジュって人とひとつ舌戦を……」
海未「止めた方がいいですよ。舌を噛んでおしまいです」
凛「遠回しにバカにされてるニャぁあああ!」
花陽「そんなことないよ〜凛ちゃんは賢くてかわいいよ!」ナデナデ
凛「にゃあ〜癒されるゥ〜!」 ニコ「……海未、ちょっとマジな話だけど……さっきの話を聞いてると……どうにも同好会の方が分が悪いのよね」
海未「……ニコ」
ニコ「向こうは圧倒的な権力と実力の二つを握るランジュ。おまけに練習環境はA-RISEレベル……ライブを観たでしょ、海未」
海未「はい。彼女は私たちが持つラブカストーンより上位の――」
ニコ「ラブカスターを以て、現実を侵食して観客を魅了しているのね」
海未「ええ、そうでした。果林はランジュを倒す、と言っていましたが――」
ニコ「石すら持たないスクールアイドルじゃ勝つのは夢のまた夢よ。ましてや仮にゲリラライブで成功を収めても、それは一時的なもの」
ニコ「ランジュの一度のライブで、すぐに巻き返されるのが関の山よ。現実を突きつけられて、心が折れて、部に行ってしまう子だって出るかもしれない」
ニコ「それでも、さっきの案を提示するの、海未」
海未「……根本的な解決はともかく、私自身今の状況に納得出来ません」 ニコ「私もよ。正直私も海未と一緒にニジガクに飛んでいきたいところだけど……監視委員ってのがある以上、他校の生徒が同好会の皆と一緒にうろつくのは目立つし……」
海未「私はもうランジュと出会って言葉も交わしましたし……もう時すでに遅しです」
ニコ「海未、同好会の皆を救って。スクールアイドルを志した子が、こんな風に活動できなくなるなんて……いやだから」
海未「わかっています。私自身、ニジガクには大きな借りがあります。それを返すまでは、この身命、賭して窮地を救ってみせます」
ニコ(……大きな借り……海未の事だから大方エマか彼方か果林か愛かせつ菜のおっぱいをガン見したとかでしょうね)
海未「あれ、なんですその目は」
ニコ「……何でもないニコ」
海未「……?」 〜お台場 とあるファミレス〜
海未「希から連絡が言っていると思いますが、練習場所に関しては心配しないでください」
かすみ「海未せんぱぁい……! ありがとうございますぅ!!」ガッシ
海未「いえ、礼には及びません」
歩夢「ううん、すごく助かるよ……正直もうどうしたらいいのか困り果ててたから……」
せつ菜「μ'sの皆さんには足を向けられませんね……」
彼方「ほんとだよぉ〜。彼方ちゃん達じゃ説得できなかったのに、栞子ちゃんをこっちに戻してくれたし〜」
栞子「あ、あの、その節は大変ご迷惑をおかけして……!」
海未「いいんですよ。私も姑息な真似をして、貴女の本心を言いふらしてしまったわけですから」
璃奈「栞子ちゃん、改めてごめん。私もずるいことした」
栞子「い、いいえ! こんな私の為に、その、うっ……うぅ〜……」
歩夢「わ、わぁ!? 栞子ちゃん泣かないで〜!」
せつ菜「栞子さん、とりあえずちょっと席外しましょう、お手洗いに!」 エマ「ねえ、海未ちゃん」
海未「はい?」
エマ「ちょっと二人でジュース、淹れに行かない?」
海未「わかりました。行きましょうか」
エマ「……」
海未「エマ、あの」
エマ「果林ちゃんとは、会った?」
海未(!)
海未「エマ……」
エマ「私が山で泣いちゃったときに、海未ちゃん……何かあったって察してくれたんだよね」
海未「……はい。エマが泣いている理由が知りたくて、先日から動き回っていました」
エマ「私の事を知りたい……ならやっぱり、果林ちゃんとは」
海未「はい。会いました。なぜ抜けたのかも、聞いてきました」
エマ「……私はね、果林ちゃんの歌とダンスが見たいの。私個人としては……もう部活に行って帰ってこないとしても」
エマ「果林ちゃんが選んだ場所でスクールアイドルを続けてくれて、高みを目指し続けて魅力的なスクールアイドルになってくれるなら、それでいいの」 海未(……)
エマ「でも……あそこは、あそこでは、果林ちゃんは歌えてない」
海未「エマ……」
エマ「私は、果林ちゃんのパフォーマンスが見たいの。ランジュちゃんのバックダンサーじゃない。果林ちゃんが、見たいの」
海未「あそこでは、ただ一人だけしか歌えない。そういうやり方を、貫いているようです。最もレベルの高い人間一人だけが、ステージで歌い踊る」
海未「エマも知っているでしょうが、果林はいずれ必ずランジュを上回って――」
エマ「メインとか、バックダンサーとか、ランジュちゃんがどうだとかじゃないの」
エマ「わたしはランジュちゃんより果林ちゃんの方がずっとすごいって思うから」
エマ「今の状況に、納得できないよ」
海未「エマ……エマ、果林はですね――」
かすみ「そうですよ! ランジュなんて全然すごくない!」
海未「かすみ?」 かすみ「そう……すごくなんてない……なんて、嘘です……。あの人が凄い人だって言うのは、わかります」
かすみ「あの人が圧倒的に歌も踊りも上手いのは、わかります。でも、でも……凄いスクールアイドルなんかじゃないですよ!」
海未「かすみ、落ち着いてください。私もランジュのパフォーマンスを観てきました」
海未「彼女は上手い。歌も踊りも、カリスマもある。練習設備もA-RISEレベルです。正直なところ――」
海未「実力だけで言えば、今のままでは貴女達ではランジュには敵いません。逆に愛や果林や栞子のレベルは、部に行った事で格段に力がついているはずです」
かすみ「! じゃあかすみんたちに部へ行けって言うんですか!?」
エマ「わたしは、絶対に行かないから」
海未「……そうですよね。そう言ってくれると思っていました。そこで、ニコと花陽から秘策を預かってきました」
エマ・かすみ「「秘策……?」」
海未「さあ、栞子が泣き止んできてから説明しますよ」
エマ「うん……」テクテク
かすみ「……」 海未「かすみ? 席に戻りま――」
かすみ「海未先輩。果林先輩、本当にかすみんたちを見捨てちゃったんですか……?」
海未「!」
海未(何と答えるべきでしょうか……ここでかすみに果林の本心を伝えてもいいのでしょうか)
海未(伝えれば少なくとも同好会の皆は果林に対しては安心できるでしょう。でも、そうしてしまえば愛一人が孤立してしまうかもしれない……)
海未(伝えなければ、少なくとも現状を維持できます。今伝えるのは不安定な皆に曖昧な希望を与えるだけになってしまうかもしれません)
海未(かすみに果林の本心を……)
>>112
伝える? 伝えない? >>伝えない
海未「かすみ、貴女はどう思いますか」
かすみ「……かすみんが、ですか」
海未「そうです、かすみはどう考えていますか?」
かすみ「かすみんは……果林先輩が、同好会を棄てちゃうとは、思えなくて」
海未「果林は仲良しごっこはしない、高みを目指せる場所に自身を置きたい――そう言っていましたよ」
かすみ「それはそうですけど! でもっ、でも! 果林先輩が……みんなで頑張ってきた同好会を棄てちゃうなんて、考えられません!!」
海未「……なら、貴女が今まで触れ合ってきた果林を信じてあげてください」
かすみ「え……?」
海未「もし何か起きて果林が今の部から抜けた時……かすみが『果林は同好会を棄てたわけじゃない』とまだ思えているなら」
海未「叩いてでも、引きずってでも、果林を同好会に迎えてあげてください」
かすみ「……海未先輩、やっぱり何か知ってるんですか……?」
海未「……私はただ、かすみが信じている果林を大切にして欲しいだけです」
かすみ「……」
しずく「海未さん、かすみさんもどうかしましたか? みんな席に戻ってきていますよ?」 海未「かすみ、戻りましょう……かすみ」
かすみ「……わかりました。かすみん、果林先輩のこと信じます。かすみんが果林先輩を信じていたいから」
海未「はい。信じてあげてください。あなたの知る果林を」
しずく「……?」
かすみ「しず子、戻ろ!」タッ
しずく「え? あ、かすみさん!?」タッ
海未「……」
海未(正しかった、と思いたい。ここでかすみにもし果林の本心を打ち明けても、彼女は混乱したかもしれません)
海未(かすみはまだ果林の心の中を……彼女が持つ激情を知らない。いま不安定なかすみにそれを打ち明けても……いい方向には転ばなかったでしょう)
海未「……良い判断でしたね」 栞子「先ほどは取り乱してしまい、大変申し訳ありませんでした……」ペコ
海未「いえいえ、お気になさらず……所で何の話でしたっけ?」
かすみ「かよ子とにこ先輩の秘策の話ですよぉ!」
歩夢「秘策? 何のお話?」
エマ「海未ちゃんが色々と考えてきてくれたみたいで……今の状況を打破するためのものなんだよね?」
海未「そうです。今の同好会は練習場所を確保することはできました。しかし練習場所だけでは――」
せつ菜「ライブが出来ません! 大好きを届けることができないのは致命的ですよ!」
海未「そうです。ですからライブをやりましょう」
しずく「えっ!? 監視されている今の状況で、ですか?」
海未「そうです。ライブをやります。それも通常の方法ではなく、部の不意を討つ方法でやります」
エマ「企画だけはこっそり建てて、突発的にライブをやるって事かな?」
彼方「ゲリラライブってやつだね〜」
海未「そうです、その通り。同好会はゲリラライブを行います」
かすみ「それが秘策……合宿で成長したかすみんたちのライブが遂に……!」 歩夢「だけど、告知なしでライブをしても……ファンの皆は集まってくれるのかな?」
せつ菜「……難しい所ですね。秘匿性の高さだけを考えれば当日ドン! でやってしまいたいところですが」
彼方「ゲリラライブをするにしても『その時間に何かが起きるかも』っていう雰囲気は要るよねぇ〜」
栞子「……ですが『同好会が何かする』という雰囲気が広まると、ええと、その」
かすみ「ランジュの邪魔が入るかもしれません! かすみんたち何も悪いことしてないのに〜!」
しずく「かすみさん、どうどう……」
海未「璃奈。貴女ならどうしますか?」
璃奈(愛さんなら何て言うかな……)
璃奈「……! 噂を流す、っていうのは」
彼方「噂かぁ、なるほど〜」
海未「そうです、噂を流すのです」
歩夢「あ……そういえば……」
かすみ「はい! ここに居ない人の思い出に浸るのは禁止ですよぉ!!」
歩夢「!? ご、ごめんかすみちゃん!? ってなんでわかったの!?」 海未「歩夢の幼馴染トークはさておき、噂の効力というのは絶大です」
エマ「確かに噂話って尾ひれがついて盛り上がったりするもんね!」
せつ菜「噂話同士で情報交換したり!」
しずく「名案です璃奈さん!」
璃奈「……ただ。噂も広がれば、監視委員の目がつくかも」
海未「そこに関しては私に任せてください。監視委員とはいえ数はそう多くありませんよね?」
栞子「一応生徒会の約二名が割りあたっていますが……噂を危惧してランジュが他の生徒を動員しないとは限りません」
海未「……ま、まあそこに関しても私に任せてください。取り合えずライブ会場の場所の噂は、ポイントを絞られないように流してください」
しずく「あ! 『誰がうわさを流すか』も重要ですよ!」
海未「そうですね。同好会の皆が流せば一瞬でランジュと監視委員に詰められてしまうでしょう」
かすみ「むむむむむ……でもどうしたら……」 璃奈「愛さんに頼んでみる」
せつ菜「ええええ!? 愛さんに!?」
海未「せつ菜、静かに」
かすみ「ひゃいっ! す、スミマセン……」
歩夢「確かにこの学園で一番顔が広いのは愛ちゃんだけど……」
エマ「愛ちゃんは部に移った子だよ、璃奈ちゃん」
璃奈「っ」ビク
海未「……」
しずく「愛さんの『理解したいから』っていうのは……わからなくもないんだよ、璃奈さん」
彼方「でも、だからって活動禁止を言い渡してきた部へ移るっていうのは……」
エマ「……私は、賛成できないかな……」
璃奈「ぅ……そ、そんな……!」 >>126
かすみ「ひゃいっ! す、スミマセン……」 ×
せつ菜「はいっ! す、スミマセン……」 〇 「待ってください先輩!」
愛の話になってから、沈黙していたかすみが声を出しました。やはり大声でしたが今回は黙ったまま行く末を見守ります。
「りな子!」
「っ!」
かすみの声に弾かれたように顔を上げる璃奈。その目にはまだなお、表情こそありませんが迷いの色が浮かんでいます。
「りな子は愛先輩の事、今も信じてるの?」
かすみの問いに私は内心ガッツポーズしました。クリティカルな質問です。
それを受けた璃奈は、顔を上げたままかすみだけでなく、席に座る全員に視線を向けます。
その目はただしっかりと前を見据えて。はっきりと口が開きました。
「私は、愛先輩を信じてる。私たちを裏切ったわけじゃないって、心から信じてる」
私の見間違いではなければ、璃奈の表情はいつになく自信に満ち溢れたものでした。 璃奈「お願い、みんな。愛さんを信じて。一緒に練習して、ライブをして、ご飯を食べて、皆で競い合って頑張った日の事」
璃奈「愛さんは、それを無碍にする人なんかじゃない。愛さんを信じて」
海未「……」
せつ菜「……愛さんは私のどんな話でも、どんな想いも何一つ取りこぼさず楽しそうに、真摯に聞いてくれました」
せつ菜「でも私は、彼女の『ランジュさんを理解したい』という想いを信じず、受け止めていませんでした……。今こそ、私の名誉挽回です。私は賛成です!」
歩夢「……私も。私も信じていたい。私が誘ったんだもん。私が信じなきゃ、だめだよ」
栞子「私も――愛さんだけは、私や朝香さんの様な暗い感情ではなかったはずです。真っ直ぐ前だけを見つめてランジュの前に立っていましたから」
エマ「え? それってどういう――」
海未「! エマ、彼方、しずく。三人とも――今一度、愛を信じてみませんか」
彼方「……わかった。彼方ちゃんも愛ちゃんを信じてみるよ〜」
しずく「わかりました。一番深い間柄の璃奈さんが言うなら。私も、愛さんを信じます」
エマ「……うん。私も、信じるよ」 海未「決まりですね。では早速オトノキで打ち合わせを行いましょう。ニコと花陽がいい相談相手になってくれます」
かすみ「決まりですね! 早速行きましょう!! の前に、このジュースを飲んでから……」
しずく「あ! かすみさん、それって」
かすみ「ぶっは! まっず!!」
璃奈「ヘンな色してると思ったら、ジュースを混ぜてたんだ……」
エマ「悪戯はほどほどにね、かすみちゃん……あはは……」
彼方「じゃあかすみちゃんは放っておいて、音ノ木坂学院へごー!」
一同「おー!」
かすみ「げっほ、えっほ! にが〜い……」ウエェ
海未(……ふぅ……。これで何とかまとまりました……)
海未(ですが、監視委員は二名ではないと思ったほうが良いですね。つまり、ライブが始まれば複数名の監視委員が来る)
海未(私も二、三人名なら抑え込む自身はありますが……四人、五人と増えれば……)
海未(私一人では監視委員の乱入を防げないかもしれない……ライブ中に監視委員が乱入してくれば、最悪の事態になりかねません)
海未(ライブ当日の事は、絵里たちに相談してみましょう。今日明日ライブをやるわけでもありませんし……) エマ「お〜い海未ちゃん、行かないの?」トテトテ
海未「! すみませんエマ、すぐ行きます」
海未(すごいですね、ちょっと歩くだけでたゆん、たゆんと……いや本当にすごい……こう、下から支えてあげたくなりますね)スッ
エマ「……? 海未ちゃん、胸の前で手のひらを上に向けて、何してるの?」キョトン
海未「え!? あ、これはその……新手の精神統一です!」
エマ「ああー! 日本の武道には心を静める動きがあるんだっけ」
海未「そうですそうです、そうなんです」
海未(……むしろ貴方が隣にいるともう大興奮が収まりませんよ私) 虹ヶ咲学園 スクールアイドル部部室
愛「っ、こう!」
コーチ「ハイ、そこまで!」パシン
愛「今のどうだった!? どうだった!?」
コーチ「素晴らしいです宮下さん。指先からつま先まで、意識できていますよ!」
愛「やったぜぃ! さすがは愛さん!」
ランジュ「愛は凄いわね。メキメキ実力を付けてきてる」
果林「そうね、愛はもともと運動神経がいいし、呑み込みも早いから」
ランジュ「それに比べて、貴女はどうも練習に身が入っていないようだけど?」
果林「そんなことないわ。一流だらけの環境に置いているんだもの、身が入らないわけないわ」
ランジュ「そう? 今の貴女は、アタシや愛とは全く違うものを見ている気がするのだけど」
果林「各自が目指すスクールアイドルの姿なんて、千差万別でしょう? 私とあなたの視線の先が違うのは当然よ」 ランジュ「まあいいわ。けれど果林」
果林「なにかしら」
ランジュ「もしアタシに勝とうとか、この部を乗っ取ろうとか考えているなら、さっさと諦めたほうがいいわよ」
果林「……」
ランジュ「ランジュのライブを最も近い場所から見ているアナタならわかるでしょ? ランジュのチカラを」
果林「……いいえ、私は勝つ。自分を高みに置くために、貴女は私の踏み台に――」
ランジュ「骗人的吧!」
果林「ぴー……なんて?」
ランジュ「……ごめんなさい。愛ならこの程度わかってくれたのだけれど」
果林「悪かったわね頭が悪くて! 中国語なんてわかるわけないでしょ!」 ランジュ「嘘ね、果林」
果林「なにが――」
ランジュ「アナタはアタシを憎んでる。同好会の活動を禁止して、あの子たちの活動の場を失わせたから。違う?」
果林「……」
ランジュ「負の感情では、貴女は星を得ることはできない。石すら手に入らないわ。今の貴女では、愛にすら勝てない」
果林「私は貴女を――」
愛「うおい二人ともぉ! なに仲良く話をしてるんだよぉ! 三人で合わせやるって言われてるぜ!」
ランジュ「……まあいいわ。果林、今のままじゃランジュには勝てない。それを理解しておいたほうが良いわね」
果林「……っ」 虹ヶ咲学園 カフェ
海未「璃奈も愛に似てきましたね」
璃奈「え?」
海未「この前同好会の皆の前で『愛を信じるべき』だといった時の璃奈の堂々たる態度。素晴らしかったです」
璃奈「あ、ありがとう。……どうしても愛さんの誤解を解きたかった。愛さんは私にとって……尊敬する、大好きな人だから」
海未「……いい人にめぐり合わせたことは、璃奈の人徳でしょう。そういえばそのボードも愛の提案でしたね」
璃奈「うん。感情を出せない私を助けてくれる、愛さんの発明」
海未(情報科というのにアナログな発明品に、なんとなく笑みがこぼれます)
璃奈「? 面白い事、言った?」
海未「いえいえ、二人の関係が良いな、と思っただけですよ」
璃奈「……照れる」 愛「おーい! ふったりとも〜!」
璃奈「愛さん」
海未「愛」
愛「お待たせ〜! 今日も海未はこっちに来てるんだね。やっぱり、同好会の為?」
海未「はい。同好会(のエマには)大きな借りがありますので」
愛「借り? 借りはむしろうちらの方が多いんじゃ?」
海未「そんなことはありません。むしろ今も現在進行形で……いえ、この話はいいです」
璃奈「愛さん、改めてお願いがあって」
愛「お願い? なんじゃらほい? りなりーのお願いなら、愛さんなんでも聞いちゃうけど」
璃奈「愛さん。今度同好会はライブをするの」
愛「! ほんとに!? でもどうやって? 監視委員がいるはずだよ!?」
海未「監視委員は私が何とかします。それよりも、ライブの方法ですが……」
璃奈「ゲリラライブを画策してる」
愛「ほうほう……なるほど。それで愛さんが学園中に噂を流すと。いいよ! やるやる!」 璃奈「愛さん……!」
愛「でも、愛さんが同好会に協力するってハナシをよくまあ今の同好会で通せたね! 海未が助力してくれたの?」
海未「まさか。璃奈が『愛さんは同好会を見捨てたわけじゃない』と強く圧したのです」
愛「りなりー! りなりーだけは愛さんの味方をしてくれるんだねぇ!!」ガッシ
璃奈「うみゅっ 愛さっ もがもが」
愛「可愛いなぁりなりー!」
海未(り、璃奈が! 愛のギャルおっぱいに挟まれて窒息死しかけている!! すごいギャルおっぱい!!! 私もエマのおっぱいに埋もれたい!)
璃奈「もごもご」
愛「まあでもさ、アタシも正直なところ同意を得るのは難しいかなぁって思ってたんだよね」 海未「確かに、同好会を潰そうとする勢力に移る行為は、如何なる理由があってもメンバーから見れば放棄されたと思われても否定はできませんよね」
愛「まぁねー。それでもさ、愛さんやっぱり考えるんだよ。それでもやっぱり、ランジュと友達になれるんじゃないかって」
海未「愛……」
愛「しおってぃーの時もそうだったんだけどさ、愛さん、なんでしおってぃーがあんな風に頑ななのか、ずっと知りたくて」
愛「そしたらしおってぃーのそれって勘違いだったわけじゃん? まああの子はアタシたちだけじゃなくて、学校全部を巻き込んじゃったから大きな騒動にもなったけど……」
愛「それでもしおってぃーの信念は少なくない人を幸せにした。悪意じゃなかった。ほんとのしおってぃー、あんなに良い子じゃん」
愛「しおってぃーよりも以前に、色んな人がいたよ。でも根っからの悪人なんてそう居ない。そりゃウマの合う合わないはあるかもだけど――でも」
愛「ランジュがどんなヒトなのかを知らずに対峙するなんて、アタシにはできないよ」
海未「……」
愛「同好会にアタシの居場所がなくなってるなら、それはアタシがやった行動が原因だから仕方ないかなって思う気もするし」 璃奈「! 愛さんの居場所は――!」
愛「それでもね。誰かを勘違いしたまま悪い奴だ、なんていうレッテル貼りだけは絶対にしたくないんだ、愛さん」
璃奈「大丈夫。愛さんがいつ帰ってきてもいいように私がいる」
愛「へへへ、ありがとりなりー。りなりーがいるから、部に移ってランジュの傍で活動できてるんだよ」
璃奈「わたしは愛さんが居ないと、いまもずっと独りだったから……今度は愛さんの為に頑張る番」ソッ
愛「りなりー……」ギュッ
璃奈「愛さん……」ギューッ
海未(この二人は付き合ってるんですかね?) 数日後 音ノ木坂学院 屋上
絵里「かなり仕上がって来てるわね、みんな」
エマ「合宿のメニューは凄かったもんね……」
かすみ「みてよまき子! この美しいステップを! ゲリラライブトップバッターに相応しい振付!」
真姫「しずくちゃん、今の貴女ならもっと歌唱の表現に幅が出せると思う」
しずく「ほんとですか!? わかりました真姫さん、今日練習の後レッスンを付けてください!」
スタスタ……
かすみ「あ、あれ……? し、しず子? まき子? か、かすみんを無視してどこへ……」
凛「かすみちゃんは凛と一緒にダンスの練習の特訓だよ!」
かすみ「ぐぬぬぬぬ……しず子をアッ! と言わせるためにもやってやりますよかすみんは!」
凛「早速練習ニャ!」
かすみ「がってん!」 ニコ「歩夢ちゃんせつ菜ちゃん、ゲリラライブの日程は決めてるニコ?」
歩夢「はい、この日の放課後にしようかと」
花陽「いいなぁ、花陽たちもこの日行けたら良かったのになぁ」
せつ菜「あ! この日はPrintempsのミニライブの日でしたね!」
絵里「ん〜? その日ってBiBiも別の学校でライブすることになってるのよね」
彼方「それは残念〜……」
穂乃果「じゃ、じゃあニジガク皆のゲリラライブを観れるのは海未ちゃん達だけ!?」
希「ウチもその日は久々に両親が帰って来て……あはは、プライベートを……それに凛ちゃんは陸部の助っ人って聞いてるよ?」
ことり「凛ちゃん最近陸上の方も張り切ってるもんね〜」
海未「……え?」
海未(ま、まさか……ニジガクのライブの助けが出来るのは……私だけ?)
璃奈「師匠。顔色が悪いけど、大丈夫?」
海未「大丈夫ですよ璃奈。四人だろうが五人だろうがなんのこっちゃありません」 海未(ま、まあ四人になっても少し敵意を向ければ委縮するような相手です。何のことはありません)
海未(大丈夫。大丈夫です……。大立ち回りすることもなく穏やかに終わらせられるはず)
海未(それに私たち九人でニジガクに現れてはそれこそ大騒動になりかねません)
海未(これは私一人で何とかなる問題です。いえ、もとはと言えば私がエマのおっぱいをガン見したからです)
海未(これは私が始めたこと。ならば園田家長女たるもの、この程度は乗り越えなくては!)
絵里「……」チラッ
穂乃果「……」チラリ
海未(うっ! 穂乃果と絵里に、左右から見られている……! む、無視はできない……せ、せめてどちらかに曖昧に笑うくらいはしないと怪しまれます……)
海未(ど、どちらかに笑いかけましょう……! それでうまい事いなしましょう……!)
>>152
穂乃果に笑いかける? 絵里に笑いかける? 安価間違えた
>>154
穂乃果に笑いかける? 絵里に笑いかける? >>穂乃果に笑いかける
海未「……」ニヤッ
穂乃果「海未ちゃん顔色悪いけど……大丈夫? 心なしか笑顔もひきつっているような……」
海未「は、ハハ、そんなことはありませんよ穂乃果」
穂乃果「そう? うーん、まあ海未ちゃんがそういうなら……」
海未「ハハハハ、嫌ですねぇ穂乃果は。私はいつでも元気満タン、調子順調ですよ!」
ワイワイ ガヤガヤ
絵里「……」スッ
希「あれ? 絵里ちどこ行くん?」
絵里「ん? ちょっと電話。気にしないで」スタスタ 音ノ木坂 校庭
かすみ「はっ……はっ……」
凛「かすみちゃん、本当にすごいニャ……体力もダンスもそうだけど……なにかこう、気迫が……」
かすみ「……今回のゲリラライブは、部長が居ない状態でやるライブなの。しかも今の同好会は、廃部の危機だし……」
かすみ「それにいつも部長がかすみんたちを見守ってくれてたから気にしてなかったけど……」
かすみ「不安なの。皆不安で不安でしょうがないから。だから、一番最初にステージに立つかすみんは、絶対に失敗できない」
凛「……かすみちゃん……ちょっと休憩してお話しするニャ」
かすみ「……え?」
凛「こーこ! ここ、座るニャ!」ニコッ
かすみ「……うん」 凛「凛のお話、ちょっと聞いてほしいなぁって」
かすみ「改まって……まあいいけど……」
凛「凛ってさ、体育会系出身だから勝ち負けにシビアって思われがちなんだけど……実はけっこう平和主義なんだ」
かすみ「……意外」
凛「でしょ? 中学の頃は陸上部だったんだけど、記録とか順位とか、そういうのどうでも良くって。全力で真っ直ぐ突っ走れたらそれでよかったんだ」
かすみ「……」
凛「そんな風に三年間陸上を頑張ってきたんだけど、最期の大会の時に、ちょっと凛の中で大事件があって」
凛「凛が三年生になって最後の大会だって普段通りに楽しく走ろうって思ってたんだけど。リレーに出たんだよね、凛」
かすみ「凛ちゃんは足が速いもんね」 凛「うん。愛さんには負けちゃうけど、喰らいついて行けるくらいには速いニャ! でも、その最後の大会の日はねちょっと違ったんだ」
凛「応援席には音中のみんなが居て。たっくさん応援してくれてたんだ。凛も気合が入るから、百メートル走と二百メートル走の記録は自己ベだったニャ」
凛「でもね、午後のリレーだけは違ったんだ。四人でバトンを繋ぐリレー。絶対勝てるよ! っていう声援。手作りの横断幕には『音中有終の美 優勝にその名を刻め!!』って書いてあって。凛、気付いたんだ」
凛「学院と一緒で、音中の統廃合の噂はずっとあって。『勝たなきゃいけない戦い』なんだって。そう気づいた瞬間、初めて凛、心臓の音ってこんなに早くなるんだって気付いたの」
凛「身体が動かない。上手く息ができない。鼓動がうるさい。心臓が耳の横にあるみたい。そうこうしている間に凛はいつも通り決めた十五歩の位置でテイクオーバーゾーンに入って、第三走者の子を待ってた」
凛「ただ歩数を数えて歩くだけなのに、足取りはふらふらで。でも体は重くて。それでね、凛、八人いる第四走者の中で、二番目にバトンを貰ったんだ。かすみちゃん、何位だったと思う?」
かすみ「……」 凛「二位だったの。それも、三位に距離を詰められてのゴール。一位の人に追いつくことすらできなかった。不思議でしょ。その後色々気付いたことはあるんだけど……」
凛「やっぱり勝負の世界なんだって。凛は勝つ人と負ける人がいるのは嫌だなぁって思いながら生きて来たんだけど、でも、それでも勝ちたいと思う瞬間があったの。そして凛は負けた」
凛「今までその世界に身を置いたことがなかったから、その重さと緊張に、実力を発揮できなかった」
かすみ「凛ちゃん……」
凛「でもスクールアイドルは違う。ラブライブは大会で勝ち負けがあるけど、かすみちゃん達のライブは――闘いじゃない」
凛「見ている人を笑顔にする。それがアイドル。だからかすみちゃん、笑わないと! 今の状況は同好会にとってきっと苦境だけど、観に来た人はそんなの知らないはず」
凛「かすみちゃん、かすみちゃんは無敵級にカワイイ女の子でしょ? だったら、かすみちゃんはその無敵級の可愛さを自分で信じて、笑顔で皆を笑顔にしなきゃダメだよ!」
かすみ「凛ちゃん……」
凛「凛のソンケーする先輩の魔法の言葉、教えてあげる――!」 音ノ木坂学院 音楽室
しずく「真姫さん、それで練習は――」
真姫「あー……えっと。その」
しずく「……?」
真姫「……しずくちゃん、同好会、抜けようとか思ってない?」
しずく「!!!!」
真姫「あー! あー! 違うの! 違う! 違うからね!? えーっと! 違うの!」
しずく「……」アゼン 真姫「……彼方ちゃんとエリーがこの前話してて。ちょっと聞いちゃったの。最近ずっと様子がおかしいって。もしかしたら、同好会と部の事で、悩んでるのかなって私、思って」
しずく「……彼方さんが?」
真姫「しずくちゃんを責めるつもりとかは無いのよ!? 二人とも抜けるとかそういう話はしてなくて――っていうかその、なに!? なんで笑ってるの!?」
しずく「いえ、真姫さんも、そんな風にパニックになるんだなぁって」クスクス
真姫「こほん。えーっと。その。私は昔全然素直じゃなくて。今もあんまり素直じゃないんだけど。……一度、μ'sを辞めそうになったことがあるの」
しずく「!」
真姫「μ'sが楽しくて。勉強をおろそかにしちゃって。小テストで六十八点をとったの。酷いでしょ? それで父親にスクールアイドルやってるのがバレて、こっぴどく叱られて、辞めろって言われて」
真姫「忘れないわ。屋上に行って、μ'sを辞めるって言った時。皆凄い引き止めてくれたの。辞めないでって。でも、それは私が招いたことだから。仕方のない事だから――臆病者の、私のせいだから」
しずく「それで……それで、どうなったんですか!?」
真姫「その次の日、みんながうちに来て、パパと話し合いに来たの。私を返して欲しいって。その時思ったの。私の居場所はここなんだって」 真姫「仲間がいる。海未ちゃんがいて、ニコちゃんがいて、エリーがいて。私はここに居ていいんだって。ここに居たいんだって」
真姫「入学当初はUTXの無試験編入枠を狙ったこともあったんだけど。今はもう、ニコちゃんと一緒にそんな野望は捨てたの。UTXの一流の先生と機材に囲まれるより、私はμ'sに居たほうが成長できる。そう確信したから」
真姫「実際私たちはA-RISEに勝ったわけだしね」
しずく「真姫、さん……」
真姫「しずくちゃん。かすみちゃんに負けてるって思ってるんでしょ。廃部の危機を乗り越えて。今また同好会の危機を乗り越えようと、あんなに頑張ってる。でもあなたは一度目の同好会廃部の危機の時、何をしていたの?」
しずく「わたし、は――」
真姫「貴女達同好会は、私達研究部とは違うかもしれない。μ'sの様な関係じゃないのかもしれない」
真姫「でも仲間でしょ? 互いを高めあう仲間なんでしょ? だったら、他の部活で修行してる場合じゃない」
真姫「一丸となって、同好会そのものを助けなきゃ。もし貴女が『ランジュの下で実力を付けて最高のスクールアイドル』になりたいなら私は止めない」 真姫「でも、貴女が『かすみちゃんに負けたくないから部で修行をする』為に行くなら、私は貴女を止める」
しずく「あ……ぁ……」
真姫「しずくちゃん、私とよく似てるの。頭が固くて、不器用で。その癖生真面目でやたら責任感が強くて。でも遠慮がちで甘えベタ」
真姫「なまじっか頭がいいから、ヘンに考えこんで私みたいに変な方向に飛び出しちゃう」
真姫「しずくちゃん、貴女が部活に行ってしまったら、もっと苦しくなるわよ。同好会もだけど、貴女も。頑固で不器用だから、部に入って我武者羅に頑張るでしょうね
真姫「でも生真面目で責任感が強いから、ずっと同好会を抜けたことに罪悪感を感じちゃう」
真姫「でも遠慮しいで甘えるのが下手糞だから、誰にも言えずに、自己嫌悪と一緒にまた練習に打ち込むの」
真姫「練習に打ち込めば打ち込むほど、また同好会を抜けたことを責めて。でも誰にも甘えられない――」
真姫「そういうのわかっちゃうの、私。頭がいいから。でも……今は違う。μ'sの皆に助けてもらったことを、今度は私がやる番。昔の私を見てられない。しずくちゃん――」
真姫「同好会に居て。同好会で、かすみちゃんの傍にいて。部に行かなくたってわかる。貴女はまた、かすみちゃんと肩を並べて競い合える」
しずく「な、ぜ……なぜ、そう、言い切れるのですか……」 真姫「何故って? ふふん。分からないのは、昔の私だからよ。いい? 教えてあげる。それはね――」
真姫「貴女にとって大切な仲間がいるからよ」
しずく「あ……あぁ……わたし……わたしは……うっ……ひっく……」
真姫「ほら、泣かないでよ……ああ、私ホント、こういうキャラじゃないんだけど……」
真姫「いい? 私の尊敬する先輩に教えてもらった、魔法の言葉があるの。いい? 一回しかしないから!」 凛とまきちゃんの尊敬する先輩…いったい何澤さんなんだ… 数日後 ゲリラライブ当日
璃奈「いいお天気」
しずく「ついに今日……ですね!」
かすみ「屈辱の日々も今日でおしまいです! みんなにどっちが本物か教えてあげますよ!」
彼方「今日の為にたくさん練習してきたもんね〜」
歩夢「流石に少し緊張するね……でも、それ以上にワクワクしてる私が居るよ!」
せつ菜「ようやく再始動、と言ったところですね! ね、栞子さ――栞子さん?」
栞子「……私も、私も……このライブに全力を尽くします。もう迷いません。私は私が出せる最大の力で、ステージに立ちます」
せつ菜「その意気です!」ニコー
エマ「海未ちゃん、本当にありがとう……忙しいのに駆け付けてくれて!」
海未「監視委員会の邪魔は私が絶対にさせません。エマ、貴女は貴女が出来る最高のパフォーマンスをしてください」
エマ「うん……うんっ! ありがとう海未ちゃん!」ギュゥ
海未「でっ!」ポニュン
海未(か!) 海未(同好会のライブまであと少し……私もニコから借りたレイバンと髪留めと……栞子に工面してもらった制服に着替えないと)
ランジュ「あら、海未じゃない?」
海未「ランジュ」
ランジュ「今日もこっちに来てたのね? やっぱり部に転部するつもりになった?」
海未「いいえ、まさか。私は音ノ木坂のμ'sの園田海未ですから。貴女はこれから……部活ですか?」
ランジュ「ええ、そうよ。果林と愛がいると少しは張り合いがあって良いのよ」
海未「あの二人はとても練習熱心ですからね」
ランジュ「同好会の皆も部に移れば練習どころかライブもし放題よ」
海未「しかし彼女たちはどうも貴女のやり方が好きになれないようですね。権力を振るって生徒会の実権も奪って、同好会の活動を規制するそのやり方が」
ランジュ「だって部に入れば最高の環境で練習できるのよ? 今の三流以下の環境よりよっぽどましだわ。ランジュの提案にどうして賛同できないの?」
海未「何故彼女たちが貴女のやり方に納得できないのか、本当にわかりませんか?」
ランジュ「あの子たちは理屈じゃないわ。感情で最高には届かない」
海未「理屈だけでは人の心を動かすのは難しい、ということを理解しないとあなたは一生誰からも理解されないままです。栞子が貴女の元を去った理由もわからないでしょう」 ランジュ「……海未。貴女はどうあってもアタシの邪魔をするのね」
海未「ランジュ。貴女こそ同好会を引き裂き、彼女たちを傷つける行為を止めないのですか」
ランジュ「アタシは最高のスクールアイドルを生み出したいだけ。それが理解できないなら、貴女もいつかアタシに支配されるわ」
海未「人の心が理解できない限り、貴女は絶対に最高の高みには届かない。私が居る限り、これ以上の横暴は許しません」
決裂。一瞬の間隙で、私たちの視線が絡み合う。私の隣を通り抜けるランジュ。
これ以上、私たちが言葉を交わす必要はありません。理解しあえない以上、どこかで必ず相対するときが来ます。 かっこいいままで終わったと思ったら途中になんか あったわ 虹ヶ咲学園 教室
海未「失礼します」ガラッ
エマ「あっ……と、海未ちゃんかぁ〜」
璃奈「師匠、中々溶け込めてる」
海未「ありがとうございます。先ほどざっと愛が流してくれた噂のポイントを見て回ってきましたが――」
かすみ「どうでした!? どうでした!?」
しずく「愛さん……」
海未「お見事でしたね。各所のポイントに人をそれなりに集めつつ、屋上に最も多くの人が割かれています」
彼方「うーん、流石は愛ちゃん、お見事〜」
栞子「監視委員の二人もポイントを絞れず困っていましたね。増員の気配も今のところはなさそうです」
せつ菜「噂が広まる早さは素晴らしい物でした。……私達の事を待っていてくれる人も、多かったようですね」
歩夢「なんだか嬉しいね。それだけで支えてもらってる感じがして……」
海未「……そろそろ時間ですね。監視委員の目もないでしょうし、屋上に向かいましょう」
「「おー!」」 海未「歩夢? どうかしましたか?」
歩夢「……でも、本当に私達見逃してもらえてるのかな」
海未「もうここまで来てしまっては後戻りはできません。たとえ邪魔が入っても、最後までやり遂げなければ――」
海未「同好会の存在そのものが、部に取り込まれてしまいます」
歩夢「それだけは駄目! あの子が守りたい場所だもの! 絶対に守る! 失くしなんてしない!!」
海未「歩夢……。ええそうです。部長の為にも何としてでもこのライブを成功させて、部と同好会が別存在であるという現状を理解してもらい味方を増やしましょう」
歩夢「うん――そうだよね、そうだよね……。私も頑張らなきゃ……!」
海未(……しかしこの嫌な感じ。首筋がピリピリする感覚。ひりつくような敵意に似た……)
エマ「海未ちゃん! おいて行っちゃうよー?」
海未「! すみません、すぐ行きます!」 屋上に集まった人の数は、掛け値なしに満員御礼と言ったところでした。
ライブが始まる直前の高揚感は、観客も舞台に立つ人間にも、どちらの心も擽るものです。
私も客席から少し離れて会場全体を見回していますが、特に怪しい人間も見かけません。
これならば――本当に何事も起きずに終わるかもしれない。
私がそう思った時。ステージに躍り出た一人の少女が私の視界に飛び込んできました。
「みんなお待たせー! スクールアイドル『同好会』のゲリラライブにようこそ!!」
観客がどよめき、盛り上がる。ここであってたんだ。かすみんカワイイ。黄色い声。私も右手に握ったラブライブレードを振ります。
「今日のトップバッターはかすみんですっ! みんな楽しんでいってくださいねーっ!」
ステージ上を所狭しと駆け回り、はちきれんばかりの笑顔で観客の心をつかんでいくかすみの姿には、ニコの姿が去来しました。
「今日は大切なお知らせも用意してます! みんなみんな、最後まで楽しんでいってね!」
瞬間。首筋の感覚が、背筋を駆け巡り鳥肌を立たせました。
固有結界。以前体感したランジュのそれが今、この学園内で展開されている――! 観客がざわめきだす。視線がかすみの方に向けられていない。各々隣の人間と驚いたように話したり、スマホを眺めだしたり。
まずい。絶対に不味い。今は何としてでもかすみに再度視線を向けさせなくては。
ありったけの力で腹筋を張る。足を肩幅に開き。
「かすみーーーーっ!! 今日も最高に可愛いですよ!!」
ありったけの力でかすみに声援を送る。かすみもステージ上で動揺しているようでしたが、私の声で何とか状況を収めようと努力します。
「わぁー! そこのあなたの声、かすみんにバッチリ届きましたよ! とっても嬉しいです!!」
その声に答えるかのように私はブレードを振ります。
これで――! 「講堂でスクールアイドル部が緊急ライブをするんだって!」
ステージ上のかすみから反射的に目を反らしてしまいます。この言葉の後の、かすみの表情を私に――見る勇気はありませんでした。
彼女達は努力に努力を重ねてきました。虐げられてきた日々の中での研鑽が、どれほど辛く苦しいものか、私には理解できます。
結果を出せなければ、努力は無駄だといいます。ですが、誰かに踏みにじられていい努力などない。
舞台袖の彼女たちがどんな表情をしているのか、想像したくもありません。
例え多少強引であったとしても。私は私にできる力を使ってでも。
「一射入魂――」
固有結界。例えランジュのそれが強力であったとしても。講堂と屋上では距離がある。ここに限定するなら、私の方が彼女の固有結界を上回る!
ならば、私に許されたこの力で彼女の結界を弾き飛ばし、ここの人間をかすみに釘付けにさせる。だってそうしなければ、彼女は――。
「ブルー……」
「スクールアイドル部のライブもやるみたいですけど――同好会だって負けませんよ!!」
ラブカストーンを握りしめた手が緩み、視線がかすみへと向きます。
「かすみんたち、みんなと楽しい時間を過ごすために今日まで頑張ってきました!」
彼女はたった一人なのに。どうしてあそこまでまっすぐでいられるのでしょう。
今も観客は一人、一人と席を立って彼女に背を向け去っていくというのに。彼女はどうして向日葵のような笑顔を浮かべられるのでしょう? 「みんな! かすみんたちの超超超レベルアップした歌とダンスと笑顔で! 最高の時間をお届けしますよ!!」
それはあまりに美しい言葉で。
「そこのアナタ! もっと前に来て良いんですよっ! ど真ん中でかすみんの笑顔を受け止めてください!!」
それはあまりに魅力的な発言で。
「後ろの人たちもかすみんと一緒に笑顔! 笑顔ですよ!」
それはあまりに健気で。
「ふっふっふっ! 今残ってる人はお得ですよ! パワーアップしたかすみんを一番最初に見られるんですからっ!!」
それはあまりに、悲しくて。
「ほらほらっ、折角ですし遠慮せずに前の方にどーぞどーぞ! こんなチャンス、次はないかもですよ!」
一瞬、彼女の目じりが眩く光りました。いつか私が書いた詩に、涙は青春のダイヤモンド、というものがありましたが――。
私はこんな涙が見たいんじゃなかった。もうなりふり構っていられません。
(かすみ――!)
まだ間に合う。まだ大多数は屋上にいる。まだ塔屋に入ってはいない。 「っ!」
全速力で塔屋に駆け、戸の前に立ちふさがる。
「待ってください! かすみのライブを聞いてください!」
ありったけの声で叫びます。
「どうして!? 部のライブに行かせてよ!」
「邪魔しないでよ!」
「かすみのライブを! せめて一曲だけでも聴いてから!!」
「どいてよ!」
私が背中で隠すドアノブに、生徒たちがこじ開けようと群がります。
「ぐ……」
拳は振るえない。生徒たちに圧迫され息が詰まる。普通の女生徒の力じゃない。
彼女達の目は、もう既にランジュのライブを観ている人と同じ、魅了された目をしています。 (魔性の女……ッ!)
「邪魔!」
「ぅぐっ!」
更に戸に押し付けられて、本当に息が……。
「あなたどいてよ!」
「ぁ……が……」
生徒たちの罵声が遠のいていく。意識が遠のくなんて、ここ最近経験した記憶はありません。
「ら……ぃ ぶ か す み」
視界が明滅する。息ができない。それでもここだけは通さない。死んだって構うものか。
かすみの曲を一つ聞けば、こんな、こんな、こんな――。
意識を失う瞬間、遠のく音の中聞こえたのは、とても大きな爆音と。
「海未ちゃん、だめっ!」
かわいらしいエマの声だけでした――。 「かすみんのこと、もっともっと近くで見てくださいね……っ!」
思わず声が湿ってしまいました。いけませんいけません、アイドルたるもの、かすみんはいつだって笑顔でいないと!
「歌もダンスも……部の方が上かもしれないけど。かすみんはまだまだかもしれないけど……それでも!」
ああ、駄目だな、泣いちゃうな。視界がどんどん滲んでくる。
それでも視線をなんとかステージ上から屋上全体に走らせると、塔屋で海未先輩とファンの人たちがもみ合っていました。
そうです。全然関係ないはずの海未先輩が、あんなに、あんなに頑張っているのに! かすみんが泣いちゃダメ!
「みんなが応援してくれる限り! かすみんは――負けてないんです!!」
「だってかすみんのライブは――かすみんしかできないもん!!」
「かすみんが一番かわいくて……かわいくて……す、すてきにっ なれ、る……ばしょ……だから……っ!!」
ああ、それでも。それでもやっぱり。かすみん、とっても――悲しいです。
視界が百パーセント滲みそうになった時――。とても大きな、空気を切り裂く音が鳴り響きました。
かすみんも、席に残ってくれたファンの人も、塔屋で騒ぐファンの人も、みんな驚いて空を見上げます。 「ヘリ……コプター?」
ヘリコプター。ピンク色と。白色の。二色の。どぎつい色の。
じゃあこれは羽音ですかなるほどー。ニジガクの屋上ってヘリポートありましたっけー?
かすみんびっくりー。なんて。そんなことを考えていると、ヘリコプターのドアがガラッと開いて。
「かすみちゃんが世界で一番かわいいよ!!!!!!!」
せつ菜先輩もびっくりするくらいの大きな声が、ヘリコプターの羽音すらもぶち抜いちゃいました。
え?
「うそ」
……あの人が出てきた、なんて。
だってまだ、あの人は留学中で。
「うそ」
「だから、かすみちゃーん!! がんばれーっ!!!!」 世界で一番応援してほしい人からの声援を受けられるなんて。
辛いときはずっと隣に居てくれたあの人が。今、地球の裏側から駆け付けてくれるなんて。
「かすみちゃんの歌と! ダンス!! 私にも見せて!!!」
歌える。踊れる。視界は飛び切り明快だから。
今ならかすみん、ランジュにだって負けない。
今のかすみんは無敵。無敵です! 超絶誰より一番です!!
「聞いてください!! かすみんの……かすみんの全部を込めた、さいっこーのライブをするから!!」
「ここに居るみんな! かすみんと一緒に盛り上がってくださーーーーーーーーーーーーーい!!!!」
ヘリコプターの音なんて聞こえない。ここはかすみんのステージです。かすみんの心の中を映す、かすみんの世界しかここにはありません。
いつの間にか握りしめていた、きらきら輝くハート型の石を空に放って。
届け。かすみんの全力。ここに居る人みんな、かすみんしか見えなくさせてやりますよ!!
「――聞いてください。無敵級*ビリーバー」
だからみていてください、先輩。かすみんのさいっこーに可愛いところ。 お台場 病院内 病室
海未「……ん」
エマ「! 海未ちゃん! 海未ちゃん!?」
海未「う……ここは……? あ、エマ──!?」
エマ「海未ちゃんっ!」ギュウッ
海未「え、エマ!? あ、あの!? えっと!? 大変嬉しいのですが、えっと一体!?」
エマ「海未ちゃん、自分が何したかわかってるの!?」ガバッ
海未「え、っと……同好会のライブ中に、部の方もライブをかぶせて──」
海未「そうです! かすみ、かすみのライブは!? エマ、かすみはどうなったんですか!?」
エマ「……海未ちゃん……もうちょっと自分の事を……」ボソッ
海未「……エマ?」 エマ「……ライブは──ライブは、大成功だったよ」
海未「! よし! よし! さすがかすみ! 見事です、よく部から視線を惹き付けましたね!」グッ
エマ「最初は私達もどうしたらいいかわからなかったんだけど……鞠莉ちゃんが部長を連れてきてくれたの」
海未「……部長を? 鞠莉が? 一体どういう……? 部長はまだ留学中では?」
エマ「そのことについては……絵里ちゃんから伝言をあずかってます! よく聞いてね?」
海未「……絵里から?」
エマ『海未ちゃん、穂乃果ちゃんの目を誤魔化せても私から視線を反らした時点で駄目よ。どうせ一人で何とかしようとしたんでしょう。こういう時は私を誤魔化さないと』
エマ『だからそんな海未ちゃんの為に、頼りになる沼津の金髪と部長さんと三人で電話したの。一時帰国って形だけど、あの子には戻ってきてもらう事にしてる』
エマ『こんな状況で部長が何も知らないなんておかしな話じゃない? 部長ならきっと貴女ではできないことを成し遂げてくれるはず』
エマ『海未ちゃん、よく反省するように』
エマ「だって」
海未「……完全にお見通しでしたか」
エマ「海未ちゃん」 海未「エマ?」
エマ「海未ちゃんが私たちの為にこんなに頑張ってくれたこと、とっても嬉しいんだよ? 感謝してもしきれないくらいに」
エマ「でもね──海未ちゃん、死にかけたって事、わかる?」
海未「!」
エマ「もちろん海未ちゃんがあそこにいてくれたから、かすみちゃんが歌うまで屋上にファンの皆を釘付けに出来たんだよ?」
エマ「でも──それでも、どうしてあんな風に自分を投げ出せちゃうの? 私にはわからないよ……海未ちゃん……」
海未「……昔からそうなんです。穂乃果と家出したときも。真姫の為に真姫の父上とやりあった時も」
海未「小学生のころ、穂乃果が家出するといって、私と一緒に神社で野宿を敢行しようとことがあるんです」
エマ「え」
海未「実にあっさり警察の方に保護されたのですが、穂乃果だけが上手く逃げて私だけが保護されたんです」
海未「穂乃果は物音をお化けと勘違いして先に逃げていたし、私も警察に捕まって逮捕されると思いこみ、足がすくんで動けなかったんです」
海未「逮捕なんてされずに私は社務所で保護されていたのですが、穂乃果が見つからないと嘆く警察の方が『この神社に泥棒が逃げ込んだらしい』と漏らしたんです」
エマ「!」 海未「その時の私、どうしたと思いますか?」
エマ「え、と。泣き出した、とか……」
海未「社務所を飛び出しました。小学生の頃の私の思う泥棒っていうのは、殺人犯とあまり変わらない『悪者』でした」
海未「穂乃果が死んでしまうかもしれない。殺されてしまうかもしれない。当時の私は『穂乃果がたいへん』という想いだけでしたが──」
海未「今思えば、それは穂乃果が死ぬことへの恐怖であり、同時になんとしてでも助けなければいけないという使命感でした」
海未「不思議ですよね。警察の方に捕まると思った時は動けないくせに。穂乃果が危険だと分かった時は、警察の人が捕まえられないくらい素早く身体が動く」
海未「……結局穂乃果は私達が最初に隠れていた場所で涙と鼻水だらけで蹲っていました。その時に私分ったんです」
海未「私はこういう人間なんだって。だから、エマたちの為に体を張ったのも、同じことなんです」
海未「──誰かを救う。誰かを助ける。もし私に出来ることがあるなら、すべてやる、と」
エマ「……海未ちゃんっ」ギュッ
海未「おっぱ!? え、エマ、あまりそう抱き着かれますと大変うれしいといいますかいえ今のは失言ですねこれはいやあハハハハ」
エマ「だめだよ……海未ちゃん、無茶しないで……」ギュゥゥ
海未「……エマ……」 エマ「私、私のせいで、海未ちゃんが死んじゃったらどうしようって、ずっと不安だったんだから……」
海未「エマの責任? 何を言うのですか、これは私の選択の帰結であり、あの時塔屋から逃げることも──」
エマ「海未ちゃんを巻き込んだのは、私のせいなんだよ!? 私が海未ちゃんにあんなこと言ってなかったら、海未ちゃんはこんなことになってなかった!」
エマ「私が、私が弱いから、海未ちゃん……ぐすっ 海未ちゃんが、こんな……もし死んじゃったら……」
エマ「私が海未ちゃんを、死にそうな目に、ひぐっ」
海未「エマ……」
エマ「穂乃果ちゃんの事は解るよ? ずっとずっと、幼馴染なんでしょ? 真姫ちゃんのこともわかるよ? 同じ部の仲間だからって」
エマ「でも、でも、私たちは友達だけど……普通はこんな風に、身体を投げ出せないよ……どうして……?」
海未「……エマ、それは──」
海未「……」
海未(どうしよう。エマのおっぱいが最高だから、というのがある意味事の始まりなんですけど……どうしましょう)
海未「……えっと、エマ」
>>204
正直に話す? 誤魔化す? >>誤魔化す
海未「エマが私の『友』である以上、私が命を賭ける意味はあります」
エマ「え……」
海未「エマの悲しい顔を見たくはなかったのです」
海未(おっぱいの事はもちろんありますが、これも私の本音です)
海未「貴女にはいつも笑っていて欲しい、そのためならなんだってします。この身命、賭してでもあなたの笑顔を取り戻す。それだけですよ、エマ」ニコ
エマ「ぅ、あ……そんな、そんなの──ずるいよ」
海未「え!? あ、ずるいですかね!? いやこれは結構本音に近い部分なんですよ! 嘘ではありません!」
エマ「えへへ、でも──うれしい、海未ちゃんにそう言ってもらえると」ニコッ
海未「かわいい」
海未(しまった脳を介してない発言!)
エマ「え!? も、もう、そんなことないよ! そ、れ、に! 結局あんなに無茶するのは駄目! わかった?」
海未「き、肝に銘じます!」 海未(そういえば確かに……私、希や絵里のおっぱいで巨乳は慣れ切っているのに、どうしてエマの事になるとこんなになるのでしょう?)
海未(そりゃもちろんエマのおっぱいは希や絵里以上の大きさです。ですが、数値的な迫力は愛の方が上ですし──)
海未(いいものを見たという感情があります。そのためにお礼として動いているというのももちろんあります)
海未(……エマの悲しそうな表情を見たくない、笑っていて欲しい……それはある意味、私の中でおっぱい並みに重要なことなのでしょうか……?)
ガラッ
璃奈「師匠!!」
エマ「璃奈ちゃん!」
海未「璃奈!」 璃奈「師匠、良かった……。鞠莉さんのヘリで連れていかれた時はどうなるかと思ったけど、本当に、良かった……」
エマ「璃奈ちゃん、ライブお疲れ様。私が抜けた分のカバー、ありがとう……」
璃奈「大丈夫。部長が指示を出してくれて上手くいった。部と同好会が違うって事も発表できたし、今はその話で学園中持ち切り」グッ
エマ「そう……じゃあ、ライブだけじゃなくて、部と同好会の事も上手く話が通せたんだ……」
海未「良かったですね、エマ、璃奈。私も頑張った甲斐がありました」
璃奈「師匠は無茶しすぎ。って、エマさんが飛び出していったから、それで気付けたんだけど……」
海未「……ああ、やっぱり最後に私を呼んだのはエマだったのですね。声が聞こえていましたよ」
エマ「! き、聞こえてたんだ……」
海未「はい。とても優しくて、眠りにつけそうな声でした」
璃奈「師匠、それは意識を失ったから」
海未「……」
エマ「……海未ちゃんは反省してください」
海未「はい……」 璃奈「それに愛さんも部を辞めた」
エマ「!」
海未「……そうですか。ランジュとはやはり」
璃奈「監視委員も活動禁止も元々愛さんの中では容認できなかったこと、っていうのは前から話をしていたけど」
璃奈「部が噂に併せてライブをするってことになって、愛さんはずっと同好会のライブに重ねて部がライブすることは承知できないって話になって揉めた」
エマ「……愛ちゃん……」
璃奈「で、愛さん抜きで果林さんとランジュさんの二人で今日のライブがあったらしくて……愛さんは今日付けで部を辞めたんだって」
エマ「か、りんちゃん……」
璃奈「愛さんは今同好会の皆と一緒に居る。部長がみんなの話を聞いて、みんなで話し合ってる」
エマ「……そう、なんだ」
海未「エマ、果林の事はひとまず……愛のことについて、もう一度考えてくれませんか」
エマ「愛ちゃん……」 璃奈「エマさん、愛さんは同好会を裏切ったわけじゃないの。ただ、愛さんは『根っからの悪い人なんていない』って考えがあって、それで──!」
海未「……」
璃奈「それで、それで……だから、お願い、します。愛さんを、怒らないで。嫌いにならないで。裏切り者だなんていわないで」
璃奈「どんな人にも分け隔てなく優しく接する愛さんだから、私も救われた。今ここに居るのも、愛さんのお陰だから、その愛さんの優しさを──」
エマ「──あんなに冷たい態度をとっちゃったけど……許してくれるかな?」
璃奈「!」
海未「エマ……!」
璃奈「うん、うん! 愛さんも謝りたいって言ってた! 実際に同好会を抜けたこととか、そういうの! だから!」
エマ「……愛ちゃんの駄洒落、久々に聞きたいね──」
海未「ええ、みんなで苦笑いするのも楽しみです」
璃奈「部長だけは笑うと思う」
三人「「「あはははははは」」」 ターイーヨーフリソソグヨー サイコーアイガサンサント
ハロハロー ハロハロー ココロカラノスマイル
璃奈「! 愛さんから電話だ」
海未「屋上の庭園に出ましょうか」
エマ「うんっ」 病院 屋上庭園
璃奈「もしもし、愛さん──」
海未「これで同好会もかなり持ち直せますね」
エマ「学校の皆も今のこの歪な状況を分かってくれたみたいだし、これから挽回できるよね」
海未「ええ。みんなの努力のお陰です」
エマ「もちろん海未ちゃんのお陰でもあるんだよ?」ニコ
海未「えっ、あ、ああ! ありがとうございます、エマ」ドキッ
海未(お、おかしい。なぜでしょう、エマの顔を直視できない……やけに心拍数も上がる……さっきからなんだかおかしいですよ私。エマは私の友達、そのはずです)
エマ「でも……果林ちゃんは、ライブに出たんだね……私達のライブの時間も知ってたはずなのに……」
海未「エマ……」
海未(これ以上エマに悲しい気持ちになってほしくはありません。果林の気持ちを、エマに伝えなくては)
海未「エマ、果林はですね──」
璃奈「あ、愛さん!? 愛さん! 愛さんっ!!」
エマ「璃奈ちゃん?」
海未「……どうしたのでしょう」 海未「璃奈、一体どうしたのですか?」
璃奈「愛さんが……愛さんが、みんなが……」
エマ「どうしたの璃奈ちゃん? 何があったの?」
璃奈「愛さん、電話に出たら急に私がどこにいるのかって。凄い焦った声で。病院に居るって言ったら、学校に来ちゃダメだって叫んでて」
海未「……それで?」
璃奈「後ろの方で凄い悲鳴みたいなのが聞こえて、かすみちゃんとせつ菜さんの声が聞こえてて」
エマ「悲鳴!?」
海未「それで、愛は?」
璃奈「その後愛さんが『みんなこっち!』みたいなことを叫んだあと、愛さんも悲鳴を上げて……あげて……電話、切れちゃった……」 エマ「え……」
海未「エマ、璃奈、二人は病院に居てください」クルッ
エマ「ど、どこに行くの海未ちゃん!?」
海未「ニジガクに行きます。一体何があったか確かめに行かなければ」
エマ「じゃ、じゃあ私も──」
海未「いいえ、エマはここに居てください。愛が何か避難誘導をしていたように聞こえますし、学園内に危険が起きているようです」
璃奈「海未さん、私は一緒に行く」
海未「璃奈、貴女もです。エマと一緒に病院に──」
璃奈「ここから学校まで結構距離がある。でも私のバイクならすぐに着く」
海未(……確かに、急ぎたい気持ちはある……背に腹は代えられない──ですね)
海未「璃奈、この際貴女がいつ免許をとったかは聞きません。緊急事態です。メットは二つありますか?」
璃奈「用意してる。璃奈ちゃんスーツのメットを流用すればいい」グッ
エマ「二人とも……」 璃奈「エマさんはここに居て。私たちなら大丈夫。師匠が居てくれる。無事に帰ってくる。無茶もさせない」
エマ「……」
海未「エマ、私たちを信じてください」
エマ「……」コクン
璃奈「師匠、先に降りてバイクの準備をしておく」タッ
海未「頼みました。私もすぐ行きます──エマ」
エマ「海未ちゃん、約束……してくれる?」
海未「はい。エマとの約束は、必ず守ります」
エマ「内容聞く前から……海未ちゃん、無事に帰って来てね」
海未「承知しました。必ず」
エマ「帰ってきて、何もかも元通りになったら──海未ちゃん、私海未ちゃんに伝えたい事があるの。だから絶対、無事に帰って来て」
海未「わかりました。──必ず聞きに戻ってきます、必ず帰ってきます。では!」タッ エマ「海未ちゃん……璃奈ちゃん……無事に帰って来てね……」 〜虹ヶ咲学園〜
海未「これは──固有結界が、学園そのものを包み込んでいる……!?」
璃奈「なにこれ、頭が、ぼーっとする……」
固有結界。この結界はランジュのもの。学園全体に結界を展開することで、学園内の人間を魅了しているといるのでしょう。
建屋の外に居るだけでこの濃さならば、同じくラブカストーン、或いはスターを持たない人間は即座に魅了、洗脳されてしまいます。
愛が避難誘導したり悲鳴を上げたりしたのは、この結界に巻き込まれたか、何かしら起きたか……。
海未「──一射入魂! ブルーアモール!!」
今この状況で璃奈まで魅了されてしまうわけにはいかない。私もまた結界を展開して璃奈の身を護ります。
璃奈「う、海未さん、その衣装……?」
海未「これが固有結界、かすみがあの時やった力と同じものです。もちろん、璃奈の頭をぼんやりさせたものも、同じものです」
璃奈「愛さんたちは、まだ学園の中に?」
海未「……そう考える方が妥当でしょう。かすみと一緒に居るなら、彼女が同好会の皆を守ってくれるでしょうが……」
海未「果林が果たしてどうなっているか」
璃奈「海未さん、行こう!」
海未「璃奈、私から離れないように!」 学園内に突入すると、私を見かけた生徒たちが一様に襲い掛かってきます。
璃奈「! 海未さんっ!」
海未「任せてくだ──さい!」
手に持った弓を番え、女生徒を狙います。射は結果を手繰り寄せるもの。中る動きから構えを導き出す!
駆けながら近寄る生徒に鏃を向けます。
射る、という感覚より、離す、という感覚。限界まで引き絞られた弦が乾いた音を立てて虚空を貫き、女生徒に突き刺さります。
璃奈「海未さん!?」
海未「大丈夫です、あれも私の固有結界の一つですから! 私の固有結界が解けるまではゆっくり眠れるはずです、行きますよ!」
璃奈「う、うんっ」
璃奈の手を引く。固有結界の強さは──講堂から。
ランジュは一体何を。この学園を乗っ取るつもりなのですか。そうまでして、自らの考えを押し通すつもりなのですか。
魅了された目をした女生徒たちを矢で射抜きながら突っ走ります。 〜虹ヶ咲学園 講堂〜
果林「はっ……はっ……」
ランジュ「ふふ。実力は確かについたみたいだけど……もうずいぶんと消耗しているわね、果林?」
果林「ほざいてなさい……今すぐにでも……その薄ら笑いを……ッ」
ランジュ「アタシをどうするって?」
果林「がっ──!」
衝撃。気道が締まる。一瞬視界が暗くなったかと思うと講堂に転がされる。
こつん、こつんと講堂に響くランジュの靴音。果林は歯を食いしばって膝を叱咤する。
ランジュ「オトモダチの為に、なんてそんなふざけた理由でアタシに勝とうだなんて、本当に愚かね」
果林「う、ぐっ」
自身よりも強力な固有結界に中てられて、それでも果林は身体を起こす。
ランジュ「へえ。まだ立てるんだ? やっぱりランジュの用意した環境は最高ね!」
果林「同好会で練習した方が──もっと、上だったかもね……」
ランジュ「へぇ? じゃあ試してみる? アタシの──」 「は、ぁ っ」
きゅっと。さっきの衝撃とは違い、静かに、けれどより強固な勢いで気道が締まる。
ひゅう、ひゅう、とわずかに呼気が漏れ出る程度で、吸う事も吐くことも満足にできない。
「ランジュに歯向かうなんて、アナタ、本当に愚か」
「はっ あ かっ」
くるしい。 いきができない。 えま。 わたしじゃ。 かてない。
「じゃ、果林。貴女も支配してあげる──」
まずい。 この ままじゃ わたし── 「ランジュ!!!」
講堂の扉を蹴り飛ばす。壇上に居るランジュを認めると、座席を蹴り飛ばしながら舞台へと身を躍らせます。
視界の隅で蹲る果林を見て、璃奈に叫びます。
「璃奈、果林を!」
「うんっ!」
通路を迂回して果林に駆け寄る璃奈を見つつ、私はランジュの前に立ちはだかります。
「やっと来たのね、海未」
「ええ、叩きのめしに来ましたよ、ランジュ」
もう散々に私たちは言葉を交わしあってきました。
突き詰めた結果が。
『正しいからそれに従うべきだ』
『正論では人は動かない』
ただそれだけの単純な問題です。
故に、私たちはもう言葉を交わすことは無い。
拳を握る。左肘を引く。右肘は前に突き出す。
ランジュも同じように構えをとります。
言葉で理解しあえない以上、私は私の全力を以て。彼女は彼女の全力を以て。
打ち倒す他にはない。 身体を寄せてきたのはランジュ。左。目で捉えられる。躱す。視線の隅で動く右脚を見逃しはしない。
振りぬかれる脚。上体を反らす。もう一周。左脚を右脚で撃ち落とす。勢いは殺さない。打ち下ろす様に右手を頭部に打ち込む。
左腕。弾かれて、距離を取る。
「っふ」
「はぁーっ」
お互いに呼吸をする。強い。が、勝てない相手ではない。彼女も手練れだが、武術という一点ではこちらが一枚上手だ。
更に深く息を吸って、吐く。構え方を攻めに切り替える。それでも自分からは踏み込まない。
白い髪が揺れる。攻めの構えに対し、彼女も同じく攻めの構えを崩さない。であれば。
頭の中で五つ数える。数え切ると、わずかに拳を動かす。誘い。ランジュの足が微かに動き、止まる。
呼吸の乱れ。屈んで、踏み込んだ。小さく構え、懐に潜り込む。足と足の間に自身の脚を置く。
彼女の胸と私の顔が接近し、そのまま拳を脇腹に撃ち込む。肘。左腕を鳩尾に潜り込ませる。
「!」
左腕に走る感触が人を打った時のそれではない。 ランジュ「確かに単純な殴り合いじゃ、アタシは勝てない」
海未「固有結界──!」
ランジュ「アタシの本気、見せてあげるから──」
ランジュ「Queendom」
海未「っ!」 固有結界の衝撃で吹っ飛ぶ。一回転、二回転、それで舞台に降り立つと、璃奈を見る。
唇をキュッと結んで私から目を反らさない彼女に、うまく笑えたかどうかはわかりません。
「支配される感覚、わかる?」
「ええ。この体の重さ、最悪の感覚です」
「拳を交えるのに、四肢が上手く動かないなんて……かわいそうね?」
「ハンデにしては随分甘いほどですが」
「言ってくれる!」
突っ込んでくるランジュを目が捉えられない。直感で頭を下げる。
髪をかすめて脚が虚空を裂く。反撃に移るなど考えない。すぐさま次の打撃に備えて、身をかがめて──。
「!?」
「海未さ──」 背後。ランジュが立っているのは、璃奈の目の前。
「璃奈──っ」
しまった。矢を──!
「間に合いましたぁっ!!」
講堂に鳴り響く轟音。そして爆炎。
「炎!?」
「せつ菜☆スカーレットストーム!! です!!」
場に似合わぬ、可愛くて大きな声と単語。講堂の入り口を見ればペッカペカの笑顔。
「せつ菜!!」
「とう!」
彼女も大きく跳躍すると、一跳びで舞台に降り立ちます。
「間に合いましたね、海未さん」
「せつ菜、貴女もラブカストーンを……」
「スカーレットカレッジ、優木せつ菜──ここに参上、です!」 海未「せつ菜、貴女体は上手く動きますか?」
せつ菜「いえ、正直めっちゃ重いです……。結界の中心部はさすがにきついですね!」
正直な感想の方が助かります。
ランジュ「二人……さすがに面倒ね」
爆炎が白い風で吹き飛ばされる。現れるのは傷ひとつないランジュ。
せつ菜「えぇっ!? 今の私の全力ですよ、あれ!」
海未「……せつ菜は璃奈と果林をお願いします」
せつ菜「……助力したいのですが……私には有効打がない以上、そうした方が良いですかね……?」
ランジュ「場所を変えましょ、海未」
海未「珍しく意見が一致しましたね、ランジュ」
白い風が吹いて、彼女は姿を消す。
せつ菜「消えた……」
海未「屋上、ですね」 せつ菜「璃奈さん、果林さん、大丈夫ですか!」
璃奈「私は平気。果林さんも大丈夫みたい」
果林「せつ菜……」ヨロヨロ
せつ菜「そうですか……良かった!」ニッコリ
果林「……私を責めないの?」
せつ菜「責める? なぜです? 私たちは仲間じゃないですか! 助け合って当然です!!」
果林「私は、いの一番に同好会を抜けて、部に……。それを責めても、文句を言う人間は……」
せつ菜「責める人間を、私は許しません!」
果林「!」
せつ菜「果林さんはエマさんの為に総てを失ってもいいと決意して、同好会を去った。違いますか?」
果林「……」
せつ菜「だったらそれのどこに果林さんを責めるところがあるというのです!? 私たちは互いを高めあうライバルであり、かけがえのない仲間じゃないですか!」
果林「せつ、菜……」
せつ菜「果林さん、私達は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一員です。仲間であり、それ以前に、友達じゃないですか!」 海未「せつ菜。ここは任せます。私はケリをつけに行かなくては」
せつ菜「任されました! 海未さん。どうか同好会を、虹ヶ咲学園を救ってください!」
璃奈「海未さん、無茶は絶対にしないで」
果林「海未ちゃん、ごめんなさい。結局何もできないままで」
海未「果林、私とあなたは友達じゃないですか。苦難に共に立ち向かってこそ、人の誉れです」
果林「……海未ちゃん……ありがとう」
海未「いえいえ、どういたしまして。──それでは、行ってまいります」タッ
せつ菜「私たちも行きましょう。かすみさんたちと合流しないと」
璃奈「愛さんもそこにいる?」
せつ菜「ええ。間一髪で助け出せましたから」
璃奈「……良かった」
果林「ふふ……みんなに会うのがこんなに怖いなんて、思わなかったわ」
璃奈「果林さん? どうしたの?」
果林「なんでもないわ──海未ちゃん、後は……お願いね」 走る、走る走る。階段を三つ飛ばしで駆けあがり、塔屋の扉を蹴り飛ばす。
「ランジューーッ!!」
「園田海未ィ!!」
全速力の勢いを殺すことなく、屋上を駆けてランジュの顔に拳を放つ。
彼女の鼻に私の拳が届くよりも先に、ランジュの拳が私の脇腹に突き刺さる。
私の拳は彼女の肌に触れることすらかなわず、けれど彼女の拳は私の脇腹を抉りぬいた。
「ごっ あ"っ!?」
体の動きが鈍い。真っ赤に燃える鉄の棒が、脇腹に刺さったような感覚に呼吸が止まる。
ランジュに近づけば近づくほど、彼女の結界の影響を強く浴び──体はより鉛を纏う。
「正しいでしょ!? ランジュが!!」 脚。彼女の軌跡を直感で読んで側頭部で両腕を交差させる。腕の上からでも脳天が揺れて吐き気が催してくる。
「最高のスクールアイドルを作る!! そのためには最高の環境を与えられるべきなの!」
「スクールアイドルは環境だけが決まるものでは──お"、がっ」
脚を振り払い、彼女の鳩尾めがけて振りぬいた拳が叩き落とされ、逆に鳩尾に衝撃が走る。
「すべての人間が奇跡を起こせると思わない事ね!!」
肘。微かに見て取って、けれど防ぐ動きが間に合わない。床に手をついて肘を避ける。そのまま転がって距離を取る。
「私たちは奇跡など、起こし、て──いません!」
もう一度踏み込む。更に姿勢を低く、這うように、けれど迅速に奔る。今度は拳ではなく、掌底。狙うは顎。
「私たちは私たちに出来る最善を尽くしただけです!」
右腕を掌底で叩き落とす。すぐさま左腕を彼女の右腕に這わせる。 「同好会の最善は、同好会に存在しない!」
彼女の腕を掴もうとした左腕に肘が刺さる。痺れる痛みなど。この距離で外しはしない。
「傲慢なっ!」
再度振りぬかれた脚は、上体を反らして躱す。振りぬかれた脚が地に着くより先に、彼女の襟を両手でつかむ。
体を鞭のようにしならせ、反らす。そのまま上体を勢いよく起こして──額を彼女の鼻っ面に喰らわせる。
「!!」
「彼女達の最善は彼女たちが創る! それを分かるんですよ、ランジュ!」
固有結界。私の額はそれに激突し、ランジュを後退させ、真っ向から睨む。
つう、と額から液体が流れるのを感じつつ、歯を食いしばる。
もう一度右手で掌底を作り、地面すれすれから跳躍しながら顎めがけて放つ。
「プロに囲まれた環境を、最善と呼ばずしてなんと呼ぶのかしら!?」
掌底は阻まれる。身を引いて躱すランジュは、大きく左腕を引いて。左脚が踏み込まれる。
「スクールアイドルは遊びじゃない!!」
「──ぁ」
身体の中から嫌な音と感覚が奔った。掌底で振り上げたがら空きの脇腹に、体重を乗せた一打をまともに受ける。
呼吸とも悲鳴ともとれない呻き声。 衝撃を殺せるわけもなく、受けた圧をそのまま全身で呑み込み後ろに吹っ飛ぶ。
捨てられた空き缶の様に地面を転がり、中身の液体が飛び出すかのように血を口から吐く。
「がっ、はっ」
「結局同好会なんて、ただのぬるま湯でしかないの。皆もっと輝ける。スクールアイドルとして輝ける才能を持つのに、それを燻ぶらせるのは、罪」
「そうは思わないの、園田海未」
ランジュの言葉は確かに正しいような気がしました。
身体をわずかに動かせば、全身に火がついたような熱い感覚が私を襲います。
μ'sがA-RISEに勝てたのは、たまたまだったのかもしれない。
遠くない未来に廃校になる浦女。Aqoursがラブライブで優勝し浦の星女学院という名を刻めたのは。
年々減りゆく後輩たちに希望を見せたのも、奇跡だったのかもしれない。
同好会の皆が切磋琢磨しあっても、ランジュが言う最高のスクールアイドルの形にはたどり着けないのかもしれない。
あの環境に身を置けば、愛や果林や、栞子は確かに急速に実力を高めた。
ならば、本当に彼女らの事を想うなら、皆部に移ったほうが良かったのでは。
彼女の言う事は、正しいような気がしました。 「海未、私はただ最高のスクールアイドルを生み出したいの。その為にランジュが踏み台になったって構わない」
「そもそもランジュは踏み台になんてできないほど高い場所に居るけれど──」
「ランジュはあの環境で、今の力を手に入れた。スクールアイドルであるなら、皆きっと望むはず。そう思うでしょ。海未」
或いはそうかもしれません。ランジュの歌は、ダンスは、声は、その凛とした魅了する瞳は、紛れもなく実力。
それを否定することはできません。
「正しい、のかもしれません」
燃えるような激痛が私の四肢の自由を奪う。
彼女の言う事は確かに正しい。
「あの環境に身を置けば──きっと、あなたの言う、最高のスクールアイドルに、なれる──」
「だったら!」
でも、貴女のそれは、ただ、貴女にとっての正しい、それだけなのです。
「けれど、彼女たちの望むスクールアイドルには、なれない」 ──あなたが応援してくれるから、私はスクールアイドルをやってるの。
──世界で一番かわいいかすみんだから、スクールアイドルになって皆を笑顔にしないと罪ですよね!
──演じることも、私。この己という私自身を、スクールアイドルを通して表現したいんです!
──ここはみんなが本気でいる場所。私が本気で高みを目指せる場所。こここそが私の居場所なのよ。
──愛さん、みんなが楽しいって笑える世界を作りたいんだ。それが今の愛さんの夢!
──彼方ちゃんは遥ちゃんに歌ってるところが好きって言われたからスクールアイドルをやってるんだよ〜。遥ちゃんの笑顔の為ってわけさ〜。
──私の好きを人に押し付けず、みんなの『大好き』を誰も否定しない世界を作る、それが私の野望です!!!
──優しい気持ちを伝えて、伝えられて、どんどん繋がって、広がって、世界中が優しい世界になる……これからもそんなライブをしていきたい!
──みんなとつながりたい。たくさんの人に気持ちを伝えて、心を通わせて、繋がりたい。それが私の願い。
──私は今まで否定してきたものすべてを、もう一度理解したい。だから私は、皆に許されたからこそ、ここに居られるんです。 彼女達は最初から彼女の言う最高なんて求めちゃいないんです。端から、観ている場所が違う。
ぽたり、と赤い血が床に落ちます。私から流れ出る血潮が、身体を冷やします。
「彼女たちの夢をカタチに出来るのは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長が居て、十人のスクールアイドルが居て──」
震える両腕が上体を支える。
「彼女たちが仲間でありライバルで居られるあの場所以外、あり得ないんですよ」
力の入らない力を込めて、下半身を支える。
「貴女が用意する環境では、彼女たちの目指す最高には決してなれはしないんですよ、ランジュ」
ぽたりぽたりと滴る血を舌で舐めて、立ち上がる。
「鐘、嵐珠──故に私は、貴女を否定する」
「……だったら、ここで終わりよ。園田海未」
白い風が吹いた。違う。ランジュ。ランジュが体を寄せて来た。そう思った時にはもう、彼女の膝が私の胴に撃ち込まれた後だった。 部長「せつ菜ちゃん! 果林さん! 璃奈ちゃんも! みんな無事だったんだね!!」
せつ菜「皆さんもご無事で何よりです!」
璃奈「愛さん!」バッ
愛「りなりー! よかった、りなりー……」ギュッ
歩夢「果林さん、その怪我……!」
栞子「果林さん、こちらへ! せつ菜さん、貴女も怪我をしています!」
せつ菜「私は大した怪我では──」
しずく「えっと、確か鞄の中に消毒と……!!」
果林「……」
彼方「ほ〜ら果林ちゃん、そんなに暗い顔してないで、ここに座った座った」
果林「……私は、皆を捨てて部へ行った人間よ」
せつ菜「! さっきも言いましたが、私たちは──」
かすみ「そうです。果林先輩は、裏切り者です」
璃奈「かすみちゃん──!」
愛「……」
かすみ「せつ菜先輩が創って、先輩が守った同好会を捨てた、裏切り者です」
果林「そうよ。私は裏切った。こんな私が、やっぱり貴女達の輪に戻れるわけがないのよ」 歩夢「待って! 待ってください! 果林さん、かすみちゃん、本気で言ってるわけじゃないんです! ね、そうだよね、かすみちゃん!」
かすみ「……」
果林「……」
歩夢「そんな……あなたも、あなたも何か言って!」
部長「……他に何か言いたいことはあるかな、みんな?」
一同「……」
かすみ「裏切り者です、果林先輩は、かすみんたちを捨てた、裏切り者なんです……」
果林「……」
かすみ「……そう、思おうとしてきました」
部長「……」
かすみ「でも、どう考えても裏切ったなんて本当には思えなかったんです!」
果林「かすみちゃん……?」 かすみ「何度もそう思いました! 果林先輩も、愛先輩も、しお子も! みんな裏切ったって!!」
かすみ「でも心の奥底で三人を信じてるかすみんがいるんです! 最後に遺るのはいつだって皆を信じてるかすみんなんです!」
かすみ「実際に、しお子は自分の過去の行いを悔しいって思ってるから、ランジュの事を責められなくてどうしようもなくなっただけだった! かすみんはしお子を許します! みんなも許してます!」
かすみ「愛先輩の言ってる事、わかんなくもないんです! でももっとちゃんと説明してほしかった!! りな子だけにそんなわかる風に言ったってずるいだけです!」
かすみ「それでもやっぱり、裏切ったわけじゃなかった! それならかすみんは愛先輩を許します! みんなも許してくれました!!」
かすみ「だったら、だったら、だから! 信じるしかないじゃないですか!! かすみんの信じてる果林先輩を、信じたいじゃないですか!!」
かすみ「果林先輩! 答えてください!! 果林先輩は──本当に、本当に、かすみんたちを裏切ったんですか!?」
果林「私は──わたし、は」
部長「果林さん、嘘は駄目ですよ。ちゃんと私たちを見て、本当の事を教えてください」
せつ菜「果林さん……」
果林「私は、ランジュが、許せなかった。エマの居場所を壊したあいつが許せなかった。一秒でも早く、エマの幸せの場所を取り戻したかった」
果林「だから私は、部に移って、ランジュを打ち倒して、部を廃部にしたかった。それだけが、私にとって、たった一つのやり方としか思えなかったの」
果林「かすみちゃん。私は──私が部に言った理由は、ランジュを倒す為。エマの場所を取り戻す為……それだけなの」 歩夢「かすみちゃん……」
かすみ「……」
しずく「かすみさん……私も、私も──部に、移ろうと考えた事があったんです」
かすみ「しず子も……?」
彼方「!」
しずく「私、このままじゃかすみさんに負けちゃうって。だから、なりふり構わず、かすみさんに勝つ為に部に行こうって考えて」
かすみ「かすみんに……?」
しずく「うん。でも、真姫さんに言われて私の考えは間違ってるって気付かされて。かすみさんに勝つ為には、なおさらココにいてかすみさんと競い合わないといけないって」
しずく「私、ずるいよね。ずるくて卑怯で……それに比べたら、果林さんはすごくて──」
かすみ「でもしず子は留まったじゃん。果林先輩は、かすみんたちに相談もなしに、移ったんだから」
しずく「かすみさ──」
果林「しずくちゃん、貴女と私は決定的に違うの。私は一人勝手に行動したの。だから──」
かすみ「だから、落とし前は付けてもらいます!」グッ 果林「!」
歩夢「かすみちゃん、駄目!」
せつ菜「かすみさん!」
栞子「かすみさん、暴力は──!」
かすみ「えいっ」
ペシッ
果林「っ……え?」
璃奈「でこ……」
愛「ぴん……?」
かすみ「絶対に、ちゃんと、かすみんたちに相談してくださいよね!」 せつ菜「び、びっくりしました……」
彼方「今のうちに果林ちゃんに言いたい事があったら言っておくんだぞ〜?」
果林「彼方……もう、ほんとに……」グスッ
かすみ「な、なに泣いてるんですか、果林先輩……」グスッ
歩夢「良かったね……これで無事に同好会も元通り──」クルッ
エマ「──」タタタタッ
部長「今の──エマさん?」タッ
歩夢「え、ちょ、ちょっと──みんなから離れちゃ……あっ、待って!」タッ 彼方「話は戻るけどもせつ菜ちゃん、今どうなってる感じなのかなー?」
せつ菜「今ランジュさんが展開している『固有結界』のお陰で、学園内の『ラブカストーン』を持たない人間はみんな魅了されてしまっています」
せつ菜「でも、かすみさんと私は『ラブカストーン』を持っているので、同じように結界を展開して、ランジュさんの結界の影響を防いでいます」
せつ菜「とりあえず私たちのそばに居れば影響を受けることはありません」
しずく「そんな……! では、どうすれば今の状況を……」
璃奈「海未さんがランジュさんを止めに行ってくれてる」
愛「そっか、海未っちが……ぶちょー、アタシたちは何か……あれ? ぶちょー?」
栞子「歩夢さんも居ませんよ!?」
せつ菜「……え」
せつ菜「ええええええええええええええええええええ!?」 「海未ちゃんっ」
階段を駆け上って、開きっぱなしの塔屋から身を躍らせる。視界に飛び込んでくるのは──。
「海未ちゃんッ!!」
地面を転がる海未と、息を切らしながら海未を見下すランジュ。
「エマ・ヴェルデ……どうしてここに」
「海未ちゃん、海未ちゃんっ!」
ランジュの言葉は耳に入らないようで、エマは海未へと駆け寄る。
海未はひゅうひゅうと細く息をしながら、僅かに目を開いた。
「あ……え、ま……」
「海未ちゃん、どうして……どうして!?」
エマが海未を抱え起こすと、力なく、それでもエマに視線を合わせる。
「……え、ま、が……」
「わたし……? わたしなの……? わたしのせい……?」
私のせいで、海未ちゃんがこんなに怪我をしてる……?
だったら……。だったら! 「ランジュちゃん……もう、もう止めて! 海未ちゃんを傷つけないで!」
「え、ま……だめ、で──」
「エマ、貴女もアタシの邪魔をするの? だったら──」
海未を抱き抱えたまま、エマはランジュに懇願する。
それでもランジュは止まらない。海未とランジュの闘いは、どちらかが負けを認めるまで続く。
「エマ、アナタも!!」
白い風。踏み込んだランジュが、海未とエマに一気に距離を詰める。
「!」
エマはぎゅうと海未を抱きかかえ、強く目を閉じる。
海未だけはもう傷つけさせはしない。同好会の為に、エマの為に傷ついた海未を、もう離しはしない。
「エマさんっ!」
「な──!?」
来るべきに衝撃に備え、エマが全身に力を込めた瞬間。
ランジュの動揺と自身を呼ぶ声に、エマはわずかに目を開いた。 声。それも聞き覚えのある、耳に馴染みのある声。
そしていつまでも届かない衝撃に、エマは体を起こし、目を開ける。
「あ……は、な?」
淡い桃色の花。幾重にも重なる花弁たち。花の名はガーベラ。
大きなガーベラの花が、エマと海未をランジュとの間に割り込んでいた。
「で、きた……?」
後方。塔屋。エマは視線を巡らせる。
「あゆむ、ちゃん……!?」
「上原歩夢!? アナタも……アナタも、固有結界を!?」
エマとランジュの声に、ガーベラを咲かせた少女が大きな声で叫ぶ。
「エマさん! あの子の方を見て! 私達が今日歌ったステージ!」
ランジュがガーベラの花に自身の結界を乗せて拳を振るう。ガーベラの花に衝撃が走るたび、歩夢は身を震わせる。
「ステージ……あ、部長……?」
エマがさらに視線を巡らせると、ステージの上にはギターを担いだ部長が立っていた。
「エマさん! ランジュちゃんを止めよう!」
「で、でも……止めるって言っても……!」
「固有結界だよ! スクールアイドルだけが持つ、自分の心のカタチ! それを表現するの!」
「でも、私は、私は……!」
「歌って! エマさん! エマさんの歌で、皆を救うの!」 「歌……」
「エマさん! エマさんはどんなスクールアイドルになりたくて日本に来たの!?」
「私は……」
優しい気持ちを伝えて。伝わる気持ちをどんどん広げて、世界中を優しさで溢れさせる。そんなスクールアイドルになりたい。
「歌って! エマさんなら、歌える! 私がギターで一緒に歌うから!」
「エマさん……っ! 歌って……!」
部長と歩夢の叫びに、エマはぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと開く。
「海未ちゃん……私、海未ちゃんを護るよ」
「え、ま……」
刹那。窓ガラスが割れるような破砕音の後、ガーベラの花が散った。
ランジュの拳が歩夢の固有結界を打ち破り、今にもエマたちに噛みつこうとしている。
「歩夢ちゃん! 音楽お願い!」
「うんっ!」
ステージに飛び乗る歩夢は、そのまま舞台袖へと突っ走る。 「みんな、皆纏めて、打ち破ってあげるから!!」
怒号に似たランジュの声に、けれどエマはもう視線を外さない。海未を優しく寝かせると、すっと立ち上がる。
すぅ、と大きく息を吸う。心の内側。自分のスクールアイドルとしての、あり方を。
「エマさん、曲の題名は──」
わかるよ。曲名が、歌詞が、もう、心の中につたわってくるから。
「未来ハーモニー」
鐘の音が、鳴り響いた。 エマに眠る心象風景。ランジュの世界に、たった一つ、侵食する小さな点。
──Brand New Brand New World……
──Brand New Brand New World……!
「っ!? どうして!? ランジュの結界に、孔が!?」
──つい うつむきたくなるような 景色まだ続いてるけど
──縮こまってちゃらしくない 瞳を開ければ 見えてくる
エマの足元から生まれていく光に、まず海未の体が包まれていった。
──新しい予感がするの ドキドキして 眠れないよ
──ずっと 寂しかったけど もう 一人じゃないよ
輝く草原色の光が、確実に世界を彩っていく。
そして歩夢もエマに沿うように、コーラスを重ねていく。
──It's alright, will be alright
──ヒカリを目指して……
「だったら、だったら! エマ! アナタをここで──!」
激昂するランジュ。歩夢も部長も、海未も視界になど入らない。穿たれた穴、これがひどくランジュのプライドを傷つけた。
一気にエマへと距離を詰めるランジュ。それでもエマは、歌うことを止めない。
──出発! Ready go! ランジュの拳。伸びていくその先には、エマの鳩尾だった。
「!」
けれど、拳はエマに届くことは無い。
──歩いていこう ギュッとずっと 虹が待ってるよ
──夢見る度 色が増えていく
「──エマだけは、傷つけさせはしません」
ランジュの拳には。
「な、に……!?」
海未の手がしっかりと喰らいついていた。
──やっと来れたね きっともっと
──奇跡を信じていくよ
「死にぞこないがぁあああ!!」
「──っ!」
掴んだ手が乱暴に振り払われる。ほぼ同時に海未も立ち上がった。
流れていた血は止まっている。折れた腕の痛みも、抉られた胴の吐き気もない。エマの歌が海未を守り続けている。
ランジュの拳を弾き、側頭部まで跳ね上がってくる脚を振り払い、海未は一歩詰める。
──響く ハーモニー 空へ届け
──そう心のまま
見える。もうランジュの結界に囚われる海未ではなかった。エマの世界。エマの心象風景。
彼女のそれに背中を押され、海未はランジュの殺意をいなし続ける。
「く、ぅうう!!」
「う、おおおぉおおおおお!!!」
渾身の力を込めて、海未もまた固有結界を展開する。エマのそれと同調するように。ランジュを圧し返す。
──楽しみだね ミライ描こう 「ランジュを、ランジュを舐めるな……舐めるなぁあああああ!!」
「!」
「きゃっ──」
「わっ──」
「歩夢、部長──!!」
圧し返されたランジュもまた、呼応するように腹の底から絶叫する。
今までにないほどの結界の圧に、歩夢と部長は大きく仰け反る。
「く、それでも──!」
──Brand New Brand New World……
──Brand New Brand New World……!
エマは苦悶の表情を浮かべつつも歌い続けている。新しい世界を呼び続けている。
エマが歌う事を止めないのなら、海未は立ち続けることができる。
「その歌を、止めろ──!」
「止まるものか──!!」
踏み込んでくるランジュに、海未は備える。エマの苦悶の表情に並んで、ランジュの結界に穿った孔が少しずつ萎んでいく。
一瞬四肢が重くなり、海未が背筋を凍らせたその瞬間。 ──いつか願った瞬間が
──始まる…!って感じたんだ
──こんな出会いもあるんだね
エマの声でもない。歩夢のコーラスでもない。それでも聞き覚えのある、三つの歌声。
「彼方ちゃん……せつ菜ちゃんも……!?」
「璃奈……!」
歩夢を支える彼方。部長を支えるせつ菜。そして海未の隣まで駆け付けた璃奈が、そこに居た。
海未に璃奈は大きく頷くと、ぐっとランジュの方を見る。
──踏み出してね ほんと良かった!
海未も一歩を踏み出す。ランジュの肘を躱すと、一歩を踏み込む。
身体が急接近し、仰け反るランジュ。けれど海未は拳を振るわない。
海未を追随するかのように輝く草原色の光に、ライトピンク、すみれ、深紅、純白の光が付随し始める。 ──新しい音が聞こえる
太陽のようなオレンジ色が。
──ワクワクして 止まらないよ
無敵色のパステルイエローが。
──まだ知らない明日へと
蒼穹に似た水色の光が。
──風はもう輝いてる
海のように真っ青な青い光が。
海未を包んでいく。
「栞子ちゃん! 歌って!! 私と一緒に!」
エマの声。ステージの傍でたたずんでいた栞子は、弾かれたようにステージへ上る。そしてエマと共に声を合わせて。 ──It's alright, will be alright!
翡翠色の、決意を秘めた強い光。
──扉を開いて… 出発!
──Ready go!
海未がまた、一歩を踏み込んだ。
拳を躱し、膝を受け止め、脚を上体を反らして躱し、それでも尚歩みを止めることは無い。
「なんで、なんでっ!」
「これが彼女たちの想いです! 彼女たちが目指す未来なんです!!」
──みんなでいこう そうさもっと
──ミライ奏でるよ Oh Brand New World
──目覚める度 夢が咲いていく 広がっていく
「彼女たちはライバルですが、互いを高めあっていく仲間で──」
「っ!」
「それぞれに目指すべきスクールアイドルとしてのカタチがある!!」
──もう迷わないよ ずっとずっと
──奇跡を叶えていこう
──Wish wish, wish wish!!
──繋ぐハーモニー 空へ届け どこまでも遠く
「そのカタチが紡ぐ想いは、貴女にも負けはしない!!!」
海未はもう拳は振るわない。ただ彼女たちの歌を聴き、ランジュを食い止め続ける為に体を投げ出す。 「それでも、それでもランジュはぁああああ!!」
「認めろぉおおおおおお!!」
──気づけば涙
──あふれちゃう時もある
──そんな時は今日をね
──想い出せばいいんだ!
猛烈な虹色の光に、ランジュの目がくらむ。
「きゃああああああ!」
「今だ──!!」
ランジュがよろめいた瞬間──彼女のラブカスターが海未には見えた。
もう一度、渾身の力で海未は弓を創り出す。ブルーアモールの白き弓。
──Brand New Brand New World...
──Brand New Brand New World...!
「みんな! 海未ちゃんに、海未ちゃんに力を!!」
エマの声。海未は頷いて矢を持たずに弓を番えた。 ──歩いていこう ギュッとずっと
──虹が待ってるよ 夢見る度
──色が増えていく 広がっていく
──やっと来れたね きっともっと
十色の虹。番えた弓に、矢として光が収束していく。
──奇跡を信じていくよ 響く ハーモニー 空へ届け
──そう心のまま 楽しみだね ミライ描こう
九つの自分を呼ぶ声が、海未を包む。
「師匠!」
隣で叫ぶ璃奈の声。
「海未ちゃん!」
強く自身を押す、エマの声。
十一の光が、海未を包む。 「一射入魂」
一瞬の静寂。見据える先には、ランジュのラブカスター。己の存在すべてを賭けて。
「正射、必中」
心を込めて。正しい想いで射られた矢は、必ず。
──Brand New World…!!
中る。 かすみ「あた、った……?」
せつ菜「ランジュさんの、ラブカスターが……砕けた……!」
歩夢「すごい……あんな小さいものに……」
部長「中てられるんだね……」
璃奈「師匠! 師匠、やった!!」
海未「……終わった……。これで、やっと……」ドサッ
璃奈「師匠……師匠!?」
エマ「海未ちゃん!!」
彼方「あ、あれ……? 海未ちゃん、倒れて──」
果林「海未……!? みんな行きましょう!!」 エマ「海未ちゃん、海未ちゃん!!」
海未「……信じていました……。貴女達の力なら、きっとどんな困難にも打ち勝てると……」
エマ「海未ちゃん! どうして、こんなになるまで……!」
海未「……どうせ、もう私は長く、持ちません……ならば……本当の事を……」
璃奈「海未さん……そんな……」
海未「エマ……ほんとうは私、ただの下心だったんです」
エマ「……した、ごころ……?」
海未「エマのおっぱいが大きいなあという、邪な感情だったんです」
璃奈「……」
璃奈「えっ?」
エマ「知ってたよ……海未ちゃん見てくるなぁって……」
璃奈(えぇ……?) エマ「でも、そんなことで、そんなことで、こんな……」
海未「……エマのおっぱいに、勝るものはありません……それは希よりも、絵里よりも、鞠莉よりも、果林よりも」
海未「大きくて、美しく、えっちでした……」
璃奈(えぇ……?)
海未「だから私は、決めたのです。こんな素晴らしいものを持っているエマを悲しませた問題は」
海未「必ず命に代えても解決すると」
璃奈(えぇ……?)
エマ「いやだよ……海未ちゃん、死なないで……!」ギュッ
璃奈(人が死のうとしているのに微妙に悲しくならないのは何……!?)
海未「ああ……抱きしめられるとおっぱいに中って……興奮します……」
璃奈(……海未さん……)
エマ「いやだよ……海未ちゃん、海未ちゃん……!!」
海未「エマ……どうか、どうか幸せに……」
璃奈(勢いあまって海未さんの隣に来てなければ……こんなこと知らずに看取れたのかなぁ……) しずく「海未さんしっかり!」
栞子「海未さん! 今、今救急車を呼びましたから!! 海未さんっ!!」
果林「海未! 海未、しっかりしなさい! 海未っ!!」
彼方「海未……ちゃん……!」
せつ菜「息が……脈も……!」
エマ「……」
璃奈(……どうすればいいのかな私)
愛「りなりー……大丈夫、海未っちが死ぬわけないよ」ギュ
璃奈(……愛さんのおっぱいも観てたんかな……観てたんだろうな……)ギュ
歩夢「海未さん……そんな、死なないで……! どうしよう! 海未ちゃんが……あなたは何か思いつかない!?」 部長「どうしよう……はやく、救急車を……!」
ヨーコソアズナランドヘー
部長「こんな時に電話!? 絵里さんから!?」ピッ
絵里『あ、もしもし? どう? 海未は? 元気に頑張ってる?』
部長「え、絵里さん! 海未さんが、海未さんが死んじゃいます!! もう、脈も息も!!」
絵里『えーまた? あー、ちょっとエマちゃんに代わってもらえる?』
部長「えっ、あ、はい……エマさん、絵里さんが……」
エマ「……もしもし」
絵里『あー、海未が死にかけてるのよね』
エマ「……うん……」
絵里『じゃあ耳元でこうささやいてあげて──』
エマ「!? え、ええっ!?」
絵里『海未にご褒美だと思って、ね? それできっと大丈夫だから。じゃ! あとはよろしく〜!』プッ
エマ「え、ええ!?」 果林「エマ、絵里はなんて?」
エマ「……みんな、ちょっとあっち向いてて……」
一同((……?))クルッ
璃奈(あ、なんとなく察した……) エマ「う、海未ちゃん……」
海未「……」
エマ「おっぱい、揉ませてあげる……よ///」
一同(!?!?!?!?)
海未「……」
海未「……」
エマ「う、海未ちゃん……?///」 海未「マジですか?」ムクッ
一同「「「「えええええええええええええええええっ!?」」」」クルッ
璃奈「……璃奈ちゃんボード『やれやれ』」スッ
ランジュ(……アタシ、こんなヤツに負けたのかぁ……あーあ……でも……)
ランジュ(……なんか、良いなぁ……同好会のやり方も……) 後日 虹ヶ咲学園
璃奈「師匠、身体はもう大丈夫なの?」
海未「はい、エマのおっぱいを──もがっ」
璃奈「海未さんの性的嗜好が周知の事実になったからと言って、公言しないで変態」
海未「変態とは失礼ですね。貴女も愛のおっぱいに惹かれたクチでしょう? わかりますよぉギャルのおっぱいいいですよね!」
璃奈「次言ったら本気で引っ叩く」
海未「ひぇっ」
その後のお話になるけれど、実際にあの後海未さんは雄たけびを上げながら、実に優しい手つきでエマさんのおっぱいを揉んでいた。
いやまあ実際命を賭けて頑張ってくれたのだから、エマさんがいいならそれでいいかなとも思うのだけれど。
私の中のカッコイイ海未さん像が結構崩れたのも事実だ。
果林さんなんかは結構ノリノリで海未さんを誘惑しているけれど、その内襲われたらあの腕力では抵抗できないんじゃないかと思う。 エマさんはというと……。
エマ「あっ……うみ、ちゃん///」
海未「エマ! 今日も立派ですね!! 大きくて素晴らしいです!!!」
海未さんを見るたびに赤らめている。
海未さんもセクハラを隠さなくなって、そろそろ本格的に誰かが殴らないといけないんじゃないかとも思う。
っていうか声の大きさがせつ菜さん並みで本当にうるさい。
璃奈「海未さん、本当に止めた方がいいよそれ」
エマ「そうだよ! わ、私だけにしてくれるなら……いい、けど……///」
海未「私も決めたんです。エマ以外のおっぱいは見ないと!」
エマ「海未ちゃん……!」
海未「エマ……」
ぎゅっ
海未「でっか!!!!!」
璃奈「……なんでこんな人を師匠と呼んでしまったのだろう……」
昔の私をぶん殴ってやりたい。 果林「どうしてあなたがまたここにきてるの!?」
栞子「す、すみません果林さん!!」
せつ菜「いやー部室に向かう時に会いまして」ペカー
ランジュ「同好会のやり方を学びに来たのよ!」
かすみ「帰ってください!! 虹ヶ咲学園が部を認めても、かすみんたちはやられたことは忘れませんから!!」
歩夢「せつ菜ちゃんも一緒に来る辺りすごい溶け込んでるよね……」
せつ菜「ランジュさんとのスクールアイドル談義はとても為になりますよ!」
しずく「せつ菜さんはポジティブというかなんというか……」 ガラッ
??「ランジュ! いい加減にしなよ!!」
ランジュ「ミア!! ミアもここで勉強していきなさいよ! 未来ハーモニー、べた褒めだったじゃない!!」
ミア「!? ちょ、ちょっと何言ってんの!?」
部長「え! ほんと! ミアちゃんちょっと私とお話ししようよ!!」
ミア「止めろ! シャラップ! あっ、こら! 私を膝に乗せるな!」
歩夢「……どうして……?」スン
愛「あ、歩夢……?」ビクッ
彼方「みんな〜お菓子持ってきたよ〜」 ワイワイ ガヤガヤ
海未「……騒がしい部室ですね」
璃奈「海未さんも相当騒がしい」
海未「……まあ、これがみんなで勝ち取った未来ですから」
エマ「海未ちゃんも、だよ?」ニコ
海未「私は……ええ、そうですね。私も、力を尽くしました」
璃奈「……糖度が強すぎる……コーヒー淹れてくる」スッ
海未「? 璃奈は何を怒っているんでしょう?」
エマ「うふふ、きっと喜んでるんだよ。海未ちゃんが元気で!」
海未「そうでしょうか? ……それにしてもエマ、なんというか……その」
エマ「?」 海未「エマが、また元気に笑ってくれて、嬉しいです」
エマ「……うん。果林ちゃんや、みんなでまた、スクールアイドル活動が出来て、とっても嬉しいの」
海未「私もですね、その、おっぱいとかそういうの関係なく、エマが笑ってくれて……とても嬉しいです」
エマ「海未ちゃん……! 海未ちゃん……えっとね。覚えてるかな、病院での事……」
海未「……あ、確か……伝えたい事があるって──」
エマ「うん……海未ちゃん。私ね、海未ちゃんに伝えたい事があったの」
海未「えっ!? そ、それは一体!?」 璃奈「コーヒー淹れて──愛さんも呑む?」
愛「んー、愛さんはいいや。……でもまあ、これで一件落着だね」
璃奈「うん……みんな元に戻ってよかった。愛さんとも、愛さんとも、また一緒に活動できて、嬉しい」
愛「りなりー……うん。やっぱりアタシも、りなりーと一緒じゃないと、嫌だなって思ったよ」
璃奈「愛さん……!!」
愛「へへっ、りなりー、愛さんは愛してるよ、りなりーのこと!」
璃奈「愛さんだけに……!」 海未「あの、伝えたい事とは……」
エマ「うん、あのね。海未ちゃん、私──海未ちゃんの、海未ちゃんのことが──」
璃奈「エマさん海未さん、コーヒー淹れて──」ドンッ
かすみ「あっ、ごめんりな子!」
璃奈「あっ」
ドテッ
海未「あっ」
エマ「あっ」
ビシャッ
海未「!!!!」ジュッ
エマ「海未ちゃん!?」
「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
果林「か、彼方!! 何か拭くもの! 水!!」
彼方「あいあいさ〜」
愛「う〜ん二人とも熱々だねぇ」
璃奈「あ、あつあつのコーヒーだけに……熱々……ハハ……」
海未「うああああああああエマ、おっぱい揉ませてくださいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
海未「エマと山と私と」エマ「登山だねぇ〜!」 完 園田は最後まで園田だったw
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