【SS】ことり(18)「今日からあなたの専属メイドになることりです。まりちゃんよろしくね♡」鞠莉(11)「ふんっ…」
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あらかじめ、あったもの。 6/7
ことり (あ、でも、そっか。だから──)
──鞠莉ママ「今は服作りをしているようデスが、メイドもキライではないのでショウ。いい勉強だと思って頑張りなサイ」
──ことり「そ、そんな勝手なあ…」
──ことり (あれ?服飾の学校にいるって言ったんだっけ…)
ことり (初めから、知ってたんだ…ことりのこと)
ことり (だったらそう言ってくれたらいいのに、待ち合わせの日とっても怖かったんだから…) ムゥ
鞠莉ママ「ミナミはあなたのことをとても心配していまシタよ」
鞠莉ママ「連絡をくれる回数が減った、元気がないのではないか、まだ──気になっていることが残っているのではないか、とね」
ことり「!」
鞠莉ママ「聞けばちょうど学校も休みの時期だというので、いいvacationになればと思ってワタシの帰国に合わせてコトリにも来てもらったというわけデス」
ことり (そんな田舎のおばあちゃんの家に帰るのについていったみたいなノリじゃなかったけど…) あらかじめ、あったもの。 7/7
ことり (でも、そうなんだ。お母さんに心配かけて、小原さんまで巻き込んで──私…)
鞠莉ママ「だから、一日だって無駄にしているヒマなどないのデスよ。せっかくのsummer vacationを布団の中で過ごすなんて、ダメ、ダメ、デース」
鞠莉ママ「あなたが体調不良で倒れただなんて知れたら、ミナミからオオメダマを喰らってしまいマスから」テヘペロ
ことり「小原さんってば…」クス
鞠莉ママ「ゆっくり休んで、早く治して。作っていない、本当の笑顔をまた見せなサイ」ポン
ことり「ぁ……」
ことり「はい…」///
鞠莉ママ「ではワタシは行きマス。オネボウなコトリに代わってマリのおやつを用意しておかなければ」スク
鞠莉ママ「また後で顔を見にきマスから。お休みなサイ、コトリ」
ことり「──お休みなさい、小原さん」
キィ… バタン── 他人本位な嘘同士 1/8
家野「…」
『まりお嬢様:ちょっとおそくなります』
『まりお嬢様:船は自分で呼ぶからお迎えはこなくて大丈夫です』
家野 (先ほど船が向こうへ行ったのはお嬢様ですかね。間もなく戻ってくるはずですし、一応表で様子を見ておくとしましょうか) スタスタ…
ブゥゥゥ…
船頭「お嬢ちゃん一丁!」
家野「やはりお嬢様でしたか、お帰りなさいませ」
まり「ただいま」ヨット
家野「お嬢様、一つお話ししておくことがあります。ことりさんのことなのですが、」
まり「気分悪いんでしょ」
家野「! ご存知でしたか」
まり「朝、ちょっとね。気になったの」
まり「だからね、いえのに教えてほしいことがあるんだけど」ガサ
家野「それは──」 他人本位な嘘同士 2/8
ニュル…
鞠莉ママ「………っ、…フゥ」
鞠莉ママ「…できまシタ!」
料理長「奥様、これは…」
鞠莉ママ「今日のマリのおやつデーース!」
デコレーションケーキ ドドーーーン
料理長「お誕生日はもう過ぎましたが…」
鞠莉ママ「育ち盛りの女の子にはこれくらいの甘いものが必要なのデス!」
料理長「ええ…」
鞠莉ママ「おや?いつもなら帰ってきている時間だけど、まだマリは帰らないのかしら」
家野「奥様、お嬢様がお帰りになりました」ヒョコ
まり「ただいま」ヒョコ
鞠莉ママ「oh, 待っていまシタ!さっそく手を洗ってきなサイ、このspecial cakeを一緒に──」
まり「ママ、今日はおやついらないから!」
鞠莉ママ「!?」ガーンッ…
家野 (またこんなものをお作りになって…)
料理長 (どうするんですかこれ…) 他人本位な嘘同士 3/8
ことりの部屋
コンコン
ことり「!」
「起きてる?」
ことり「はい、起きてます。どうぞ」
キィ…
まり ヒョコ
ことり「あっまりちゃん、お帰りなさい。えっとね、これはね」アセ
まり「わかってる。気分悪いんでしょ。いいから寝ててよ」
ことり「…うん」 他人本位な嘘同士 4/8
まり モジ…
ことり「? うつったりするやつじゃないから大丈夫だよ」
まり「うん、そう、ならいいんだけど」
まり「…ごはんは?」
ことり「お昼前から寝てたから、食べてないんだぁ」
まり トコトコ…
まり「だったら、ほら、これ、あげる」コト
すりおろしりんごのハチミツがけ
ことり「わあ…!えっ、まりちゃんが?」
まり「べ、別に。たまたまりんごが余ってたから、い、いえのが作ってくれたの。持っていってあげなさいって、まりがって」ゴニョ
ことり「そっか」
ことり「ありがとう」エヘヘ
まり「い、いいから早く食べたら?」プイッ
ことり「うん。いただきますっ」 他人本位な嘘同士 5/8
ことり シャムシャム…
まり ジー
ことり「食べやすいし、とっても美味しい」
まり「!」パァ
まり ハッ
まり「そ、そう。後でいえのに言っといてあげる」
まり「まりが言うから、ことりは余計なこと言わなくていいからね」
ことり「はぁい」シャム… 他人本位な嘘同士 6/8
まり「…どうしたの?風邪?」
ことり「ううん、風邪じゃないんだよ。ほら、咳は出てないでしょ?」
まり「うん」
ことり「えっとね、たまに…なるんだ。私は普段軽い方なんだけど、何ヶ月かに一回だけ、熱が出ちゃうことがあるの」
ことり「だいたい一日で引くし、付き合い方にも慣れてるから。心配しなくても明日には元気になるよ。ありがとう」
まり「そ、そう。それならいいけど」
ことり「でも、怒られちゃった。小原さんにも家野さんにも。体調が悪いのを隠しておくのはよくない、って」
まり「………言っとくけど、わたしも怒ってるからね」
ことり「えっ!?……ごめんなさい」
まり「うん、許してあげる」
ことり ホッ… 他人本位な嘘同士 7/8
ことり「ごちそうさまでした」カラン
まり「晩ごはんの準備はいえのがするからって、ことりは休んでなさいってママが言ってた」
ことり「小原さんはしないんだ…」
ことり「うん、わかった。お言葉に甘えようかな」
まり「寝る?」
ことり「少しだけ」
まり「やっぱりきついんじゃないの」
ことり「…少しだけ」
まり「ねえ、ことり」
ことり「なに?まりちゃん」
まり「わたしには、隠しごとしないで」
ことり「──────」
ことり「…うん。ごめんね」ナデ…
まり「うん…」ギュッ 他人本位な嘘同士 8/8
コンコン
家野「ことりさん、体調はいかがですか。食事ができたので、食べられそうなら──」キィ…
ことまり スゥ…スゥ…
家野「お姿を見かけないとは思っていたけれど、やはりここにいらしたのですね」
家野 (奥様から伝染るものではないだろうと言われているし…) スタスタ
空の器
家野 (お腹もまるっきりの空っぽというわけでもないようですし) スッ
家野「また、後で参りますね」ヒソ
キィ… バタン── 仁義なき覇権争い 1/2
十日目
ことり「おはようございます、小原さん。家野さん」
鞠莉ママ「オハヨウ。もう良さそうデスね」
ことり「はい、無理もしてません」
家野「おはようございます。それならばよかった」
ことり「ご心配おかけしました」ペコ
まり「おはよう、ママ。いえの。ことりも」
鞠莉ママ「オハヨウ、マリ」
家野「おはようございます、お嬢様」
ことり「まりちゃんおはよう。昨日はありがとう」
まり「な。んの、こと?元気になったんならちゃんとフルーツのおやつ作ってよね。昨日は約束守ってくれなかったんだから」プイ
鞠莉ママ「マリ。おやつならばspecial cakeがありマス」
ことり「あ、ごめんねまりちゃん。今日はおやつ作れないんだぁ」
まり「え、なんで?」
ことり「だって今日は…ねえ」ニコッ
まり「………………まさか…!?」ハッ 仁義なき覇権争い 2/2
お昼過ぎ
ことり「やーーでーーすーー!ことりも絶対まりちゃんの応援に行きますー!」
鞠莉ママ「Noooo!! マリのハレスガタを見るのはワタシデース!コトリはおとなしくマリのおやつを作っていなサイ!」
ことり「小学校の場所だってかなんちゃんに教えてもらったし道も調べましたもん!」
鞠莉ママ「ハグゥの言うことなど信じてはいけまセン!海に引きずりこまれマスよ!ワタシがどれだけ頑張ってこの時期にvacationを取ったと思っているのデスか!!」
家野「お二人で行けばよいのでは」
ことり「こんな格好でいいのかなぁ」ソワ
鞠莉ママ「こんなのはどうデスか?」っ喪服
ことり「黒あんまり好きじゃないからイヤです!」
家野「色の問題でしょうか」
ことり「それじゃあ行ってきます」
鞠莉ママ「このコは大瀬崎までヨロシク」
船頭「えっ」
ことり「小原さん!!」チュン!
家野「仲良くなさってください」
ブ…
ブゥゥゥゥン…
家野 (いいな、私も行きたいな) チェー
十日目:今日はまりちゃんの授業参観です! 二人行く道 1/4
鞠莉ママ「歩いて行きまショウか」
ことり「はい!」
テクテク…
ことり「小原さんって歩くんですね」
鞠莉ママ「どういう意味デスか?」
ことり「運転手さんがいて車で運んでもらったりするものなのかなーと思ってました」
鞠莉ママ「頼めばクルマを出してくれる者くらいはいマスが、ワタシを運ぶために貴重な人材を使うのはムダというものデス」
鞠莉ママ「歩けば済むし、busだってtrainだってあるのだから。人材は大切に使わなくてはね」
ことり「へ〜、素敵な考え方ですね」
鞠莉ママ「そ、そうデスか?普通のことでショウ、これくらい」ゴニョ 二人行く道 2/4
鞠莉ママ「淡島の居心地はどうデスか?」
ことり「はいっ、もう最高です!自然がいっぱいで気持ちいいし、ホテルのお仕事も楽しいです。なによりもまりちゃんがいるので♡」ウットリ
鞠莉ママ「よほどマリを好いたようね」
ことり「このまままりちゃんの専属メイドになっちゃいたいくらいですもん」
鞠莉ママ「ハハハ、それはマリも喜ぶでショウ。イエノはイヤかもしれまセンけどね」
ことり「あー、うう…まりちゃんの専属メイドは家野さんのお役目ですもんね…」シュン
鞠莉ママ「第二のマザーとも言うべき存在デスからね」
家野「くしゅんっ」
※ 専属メイドではありません。 二人行く道 3/4
ことり「ここを曲がった先だってかなんちゃんが言ってましたよ」
鞠莉ママ「ホントなのデスかね」
ことり「嘘をつく理由がないような…」
鞠莉ママ「前に行ったときはそうでシタが、今も同じとは限りまセンからね」
ことり「どうして小原さんはそんなにかなんちゃんを信じてないんですかぁ」
鞠莉ママ「ハグゥと遊ぶようになってから、マリがイタズラっ子になってきたのデス。夜に部屋を抜け出したこともあるのデスよ」
ことり「へ、そうなんですか?全然そんな風に見えないし、私が来てからは一度もそんな素振りなかったけど…」
鞠莉ママ「ワタシが帰ってきているからでショウね。ハグゥとデスワもそれをわかっているので夜に来ないのでショウ」ヤレヤレ
鞠莉ママ「それに、今はコトリもいマスから」
ことり「私ですか?」
鞠莉ママ「いいコでいたいのだと思いマスよ。マリだけでなく、ハグゥもデスワも」
ことり「夜にお部屋に来たって、抜け出したって、悪い子だなんて思わないですけどね」ボソ
鞠莉ママ「!? コトリまでそんなことを言い出すのデスか!?」
ことり「あっやっ冗談です嘘ですごめんなさい!ちゃんと叱りますっ!」アワワ 二人行く道 4/4
鞠莉ママ「やっと着きまシタね」フー
ことり「ぽつぽつ他の保護者さん達も入っていってますね」
チラ…チラ…
鞠莉ママ「なんだか見られていマスね?」
ことり「小原さん目立ちますからね」
鞠莉ママ「メイド服のコトリも目立っていると思いマスけどね」
ことり「メイド服で来てる保護者さんはいませんね」キョロ
鞠莉ママ「いるはずがないでショウ」
鞠莉ママ「…コトリ、飲み物を買っておきまショウか」
ことり「校門の傍に自販機あるのっていいですね。私買いますよ」スス
鞠莉ママ「お金は出しマス。ワタシはcocoaで」
ことり「はーい。私はミルクティーかなぁ」ポチ
鞠莉ママ ソロ…
ことり「自販機の冷たいココアって美味しいですよね。私は結局いつもミルクティーにしちゃうんですけど、ココアも好きで──…って、あれ?小原さん…?」
鞠莉ママ「マリの一番乗りはワタシデーーース!!」ダッシュ!
ことり「あーっ!あーっ!?ちょっ、やだ、嘘ずるい小原さん!待って!小原さんが言うから買ったのにひどい!私が先です〜〜っ!!」タタタ… 的なね。
やっとここまで戻ってくることができました…
前スレのスクスタ時空というのも、恐らくですが私が書いたものだと思います 隠れた名スレに当たっちゃったなこれ
楽しみに待ってると同時に別れの時が辛そう このSSに出会ってなかったら、いまごろコロナってました 内浦限界バトル 1/11
五時間目──
先生「はい、今日は前から話していた通り、みんなの授業をご家族が見にきてくださっていますね」
児童達「「「………」」」
先生「先生は色々と考えました。みんなのどんな様子を見てもらおうかなって」
保護者達「「「………」」」
先生「国語で作文を書いてご家族の前で読んでみようか、算数で一つ難しい問題に挑戦してみようか。音楽で綺麗な合唱を聴いてもらうのもいいかもしれないな」
先生「たくさん考えて、決めました。今日の授業参観は、」
児童達 ゴクリ…
先生「ご家族の皆さんも交じってのドッジボールをやります!!」
児童達(体操着)「「「いぇーーーーーーーっ!!!」」」フウーッ
保護者達「「「!!!??」」」ドヨッ
──体育! 内浦限界バトル 2/11
体育館
先生「それではみんなは出席番号でAチームとBチーム、Cチームに分かれて、ご家族の皆さんはそれぞれのチームに入ってもらいましょう。試合の順番は…」
ことり「ドッジボール、ですって」
鞠莉ママ「dodge ball... デスか…」
ことり「何年ぶりくらいですか?」
鞠莉ママ「そうね、に──……」
鞠莉ママ「…五年ぶりくらいデース」
ことり「高校生の年齢ですよ、それ!」チュン!
鞠莉ママ「マ、こんなこともあるかもしれないと」ヌギ
鞠莉ママ「準備は万端デーーース!!」バァァァン
ことり「あーーっ!お母さんがランニングとかするときによくしてる格好ーー!」
ことり「ずるい!なんで運動向きのお洋服なんか仕込んできてるんですか!」
鞠莉ママ「アリトアラユル状況を想定できなくては、経営などママなりまセーン。ママだけに!」チッ、チッ、チッ
ことり「私こんな服なのに〜!」
児童達 (((あの人やばそう…))) ザワ… 内浦限界バトル 3/11
まり「ママ!」
鞠莉ママ「マリはA-teamなのデスね」
まり「うん、ダイヤも一緒よ」
ダイヤ「ごきげんよう、まりさんのお母様」ペコ
鞠莉ママ「…ゴキゲンヨウ」
鞠莉ママ (デスワは大きな家の子だし礼儀は正しいのよね。ハグゥと一緒でなければおとなしいのだけど──)
ダイヤ「こっここここここ、ここここっここここ、ことっ、ことりさんっ、も!ご、ごきげんょ…こんにち、ご…」
ことり「こんにちは、ダイヤちゃん。おんなじチームだね。頑張ろうね!」
ダイヤ「ひゃ、ひゃいっ!」フニャ
鞠莉ママ (あっるぇーーーーー???) 内浦限界バトル 4/11
男子「えいっ」三○ ヒュン
まり「ことり!ボール来るわよ!」
ことり「きゃあ!」サッ
まり「え?」
Σ まr○三 ビシッ
まり「ぎゃふんっ」
鞠莉ママ「マリ!!」
ことり「うわあごめんねまりちゃん!そんなところにいるなんて思わなくて!」
先生「顔はノーカン!小原さん平気ですか?」
まり「ギャグパートだったから平気です…」フラ
先生「よし、続行!」
ダイヤ「あら?ボールはどこでしょう、まりさんにあたって跳ねかえって…」
鞠莉ママ「hey, boy. カクゴはできていマスね──?」ユラァ
ダイヤ「スポーティな格好のおばさまが復讐に燃えていますわ!」ンマー!
鞠莉ママ「必殺!ギルティ☆ダイナマイト!」≡≡○ ビュンッ
Σ 男s○≡≡ ゴッ
男子「ふぐぅっ!」
先生「胴体(トルソー)!有効!!」ピッ
鞠莉ママ「URYYYYYYYYYYYY!!!」
児童達 (((あの人やば…))) ザワ… 内浦限界バトル 5/11
鞠莉ママ「なんとか勝ちまシタね」フゥ
ことり「結局外野から戻れませんでしたぁ」
まり「あなたボール見失うの早すぎたわよ」
鞠莉ママ「真後ろから両手の下投げであてられていたものね」
ことり「だってえ…」
ダイヤ「くっ、ことりさんをお守りすることができず悔しい限りですわ…」
ことり「そんな、ことりが弱かっただけだよダイヤちゃん!気にしないで!」
まり (弱かったわね)
鞠莉ママ (弱かったわね)
まり「少し休憩したら、BチームとCチームの試合を見ておかなくちゃね」
ダイヤ「かなんさんはCチームでしたね。味方のときは心強いですが、戦う相手となると気が重い──」
先生「試合終了!Cチームの勝ち!」
ダイまり「「──え…?」」 内浦限界バトル 6/11
ザワザワ…
まり「え、あれ…?二試合目って始まったばっかりじゃ…」
ダイヤ「五分と経っていないはずですが…」
ダイヤ「あ、あの、今の試合はどうなったのですか?」
男子「見てなかったのかよ黒澤〜」
男子「またあれが発動したんだよ!」
ダイヤ「あれ?…というと、まさか…『あれ』ですか!?」
男子「うわー、あいつとやりたくねー」
まり「ダイヤ?どうしたの?」
ダイヤ「…まりさん。あれを…」スッ
まり「…?」
かなん ダムダム…
まり「かなん…?」
ダイヤ「ドッヂボールをあんな風にダムダムできる人など、そうそういるものではありません。今日の試合──荒れるかもしれませんわね…」ザワ… 内浦限界バトル 7/11
先生「AチームとCチームの試合を始めます。礼」ピッ
「「「お願いしまーす」」」
先生「ではボールじゃんけんをしましょう」
男子「勝てよ!絶対勝てよ!」
ダイヤ「ここでじゃんけんに負けることは、そのままチームが試合に負けることにもつながりますわ!」
男子「そんなこと言っても…じゃんけんって運じゃんか…」
鞠莉ママ「すごいデスね。全員とても真剣…」
ことり「それだけ、小学生にとってのドッヂボールって大きなことなんですよ。それに今日は──」
保護者達 ザワザワ… ソワソワ…
ことり「絶対に負けたくない闘い、なんだと思います」
「「ボールじゃんけん、じゃーんけーん………」」 内浦限界バトル 8/11
先生「市原くん、矢上くん、アウト!」ピッ
一同「「「……………!!」」」
かなん ダムダム…
男子「お、おい…またボール松浦に戻っちゃったぞ…」
男子「早く奪わないと、このまま全滅するって…」
男子「だったらおまえキャッチしろよ」
男子「むちゃ言うなよ…」
かなん スッ
男子「! ま、また来るぞ!」
男子「絶対ボール奪え!もう松浦に戻すな!」
かなん ブンッ
ゴオオオオオッ ≡≡≡≡≡≡○
男子「ひっ…!」
──バシッ バシッ
先生「棚元くん、榊くん、アウト!」ピッ 内浦限界バトル 9/11
ことり「ぁ…また、ボールかなんちゃんに…」
まり「もう三回連続で、一度に二人あててかなんにボールが戻ってるわよ…」
ことり「じゃんけんでボール取られちゃってから、一回もこっちから投げてないね…」
まり「あんなのずるじゃないの…」
ダイヤ「あれこそが、かなんさんの必殺技ですわ」スッ
ことり「ダイヤちゃん!」
まり「まだ生きてたのね」
ダイヤ「ええ、なんとか。というか、おそらくかなんさんがあえてわたくし達はあてないようにしているのだと思います。わたくし達というか、女子ですかね」
まり「そういえば、さっきからあたってるのは男子だけね」
ことり「あんな速さのボール、女の子だったら痛くて泣いちゃうかもしれないよね…」
まり「ってか、なに、必殺技って」
ダイヤ「…」
ダイヤ「──『夏の大三角(トライアングル・シューティングスター)』」 内浦限界バトル 10/11
ダイヤ「かなんさんがゾーンに入ったときだけ使えるという、ドッヂボール中の必殺技」
ダイヤ「みとれるほどの美しいフォームから放たれるボールは、一人を討って軌道を変えて、さらに一人を討ってからかなんさんの手元に戻る」
ダイヤ「一瞬のうちにえがかれる三角形は夏の夜空に輝く三つの星座のごとく。あまりの勢いにボールを受けた男子が吹っ飛んで尻もちをついてしまうその姿は流れ星のごとく」
ダイヤ「わたくし達の中では知らない子はいないその必殺技は、いつからかそんな風に呼ばれていましたわ」
ダイヤ「あの状態のかなんさんにボールが渡れば最後、こちらの男子が全滅してしまうまで──流星群がやむことはありません」 内浦限界バトル 11/11
まり「そんな…ってことは、もう…」
ダイヤ「試合の途中でこうなったのならばまだ取り返しようがある場合もあるのですが、相手のチームは誰一人アウトになっていない。最初からこれでは、勝ち目は…」
鞠莉ママ「気弱なことを言うのではありまセン」ザッ
ことり「ここは私達の出番みたいですね」ザッ
ダイヤ「!」
まり「ま、ママ…?ことりも…」
鞠莉ママ「dodge ballをあんな速さで投げる人間など見たことがない。小学生ならば怖くて当然デス」
ことり「男の子でも太刀打ちできないんじゃ、女の子にはどうしても荷が重いですもんね。でも、それなら──『女性』がどうにかすればいいんです!」
鞠莉ママ「………ワタシは女の子なのでやめておきマース」ススス
ことり「あっ!わ、私だって女の子ですもん!小原さんずるいっ!」チュン!
鞠莉ママ「HAHAHA, 冗談デース!」
ことり「もうっ…」
ダイヤ (おばさまが…女の子………??)
鞠莉ママ「さて、それでは──反撃といきまショウ」コキコキ
ことり「はいっ!」 放課後好々爺 1/10
ダムダム… ダムダム…
かなん (相手のチーム、残ってる男子は四人)
かなん (高橋くんの右肩、浦川くんの左脚、それでコースは見えた)
かなん (悪いね、ダイヤ。まり。ことちゃん)
かなん (あと二球で──終わりにするから!)
かなん ブンッ
ゴオオオオオッ ≡≡≡≡≡≡○
かなん「──────」
高橋「うわっ!」バシッ
かなん「………!!」
ダイヤ「!」
まり「!」
ことり バッ…!!
一同「「「!!?」」」ザワ 放課後好々爺 2/10
────バシィィッッ
ダイヤ「こ、ことりさん!」
まり「ことり!」
ことり「あ痛ったぁい…!」ヨロ…
かなん「こ……っ、ことちゃん…!!」
ことり「…小原さんっ!」ハァ
鞠莉ママ「イエス!」ダッシュ!
かなん「!?」ハッ…
「ま、松浦の『夏の大三角』が…止まった…」
「ボールが…」
鞠莉ママ ズザザザ…
………パシッ
「こっちに来た…!」
鞠莉ママ「ここからはour turnデース」ニッ っボールと 放課後好々爺 3/10
鞠莉ママ「高橋ボーイ!ボールから目を離さない!」
鞠莉ママ「浦川ボーイ!out zoneに近づき過ぎデス!」
鞠莉ママ「womenは二人、girlsは三人で固まって!ボールを全体で受け止めて確保するのデース!」
三○
○====
≡≡≡≡≡≡○
○)))……
ことり「す、すごい…」
ダイヤ「コート全体を見渡す広い視野、的確な作戦と指示。先ほどまでの一方的な差がどんどん縮まっていますわ…」
まり「ママが本気になったらこんなものなんだから!」ヘヘン
ダイヤ「さすがの手腕には感服ですわ。でも、やっぱり一番の原因は…」
かなん シュン… ←外野
ダイヤ「ことりさんにあててしまったことで、かなんさんがすっかり落ちてしまったことでしょうね」
まり「そうね…」
鞠莉ママ「コラ、そこ!ボールと敵に集中していなサイ!」
ことり「ぴっ!ご、ごめんなさぁい!」
まり「とにかく今は勝つことだけ考えましょ!」
ダイヤ「は、はい…!」 放課後好々爺 4/10
鞠莉ママ「ハァ……ハァ………」
坂井(敵)「はぁはぁ……ふぅ…」
鞠莉ママ「ギルティ☆ダイナマイト……っ!」==○ ビュッ
坂井(敵)「…っ、ああ!」パシッ
まり「キャッチされたわ…」
ダイヤ「さすがに速度が落ちていますからね…」
まり「内野に残ってるのはママと坂井くん、それぞれ一人ずつ。ボールもお互いにキャッチし合うから、外野からも手出しできない…」
ダイヤ「っ、もどかしい…!外野でボールを回して翻弄すればよいのに!どうしてこちらへボールを下さいませんの?」
まり「それは坂井くんも同じね。なんでお互いにボールを投げ合うだけなのかしら、体力も残ってないはずなのに…」
ことり「それが、誇りなんだよ」
ダイヤ「!」
まり「誇り…?」 放課後好々爺 5/10
ことり「そう。ここまで戦い抜いて、そして内野に一人きりになった自分の誇り。そして、同じようにたった一人になるまで残ってた相手に対する誇り」
ことり「小原さんも坂井くんも、自分自身の手で決着をつけたいんだよ。誰の手も借りずに、自分だけの手で──!」
ダイヤ「ことりさん…」
まり (よく、わからないんだけど…) ドーン
ことり「! 坂井くんが投げるよ!」
まり「ま、ママ!頑張って!」
ダイヤ「最後までお気を確かに!」
「がんばれ坂井!」
「ママさんがんばって!」
鞠莉ママ「来なサイ…!」
坂井「て、やぁあ…っ!」≡○ ヒュンッ
………
……
… 放課後好々爺 6/10
先生「せいれーつ!」
児童達 ゾロゾロ…
先生「みんな、お疲れさま。ご家族の皆さんもお疲れ様でした」
先生「どのチームもとても頑張っていましたね。入学してきたばかりの頃はあんなに小さくて頼りなかったあなた達が、こんなに…たくましく、動き回っている姿に…先生はっ…」ウッ
まり「先生泣いてない?」
ダイヤ「先生は、昨年度赴任してきたはずですが…」
ことり ウルウル…
まり「って、ええ!?なんで貰い泣きしてるの!?」ギョッ
先生「すみません」ズビ
先生「どのチームも頑張ったけど、勝負事なので結果はつきましたね。見事二勝して──Cチームの優勝でした!拍手!」
パチパチパチパチ……
「やったなー坂井!」
「すごかったよ、坂井くん」
坂井「えへへ…」
先生「特に最後の試合はすごかったですね。頑張ったチームメイトと、素敵な試合をしてくれた相手チームのみんなにも向けて、全員でもう一度大きな拍手!」
パチパチパチパチ!
先生「それでは五時間目の体育はこれで終わります。ホームルームをするので教室に戻りましょう」
児童達「「「はーーい」」」 放課後好々爺 7/10
帰り道…
鞠莉ママ「ハァ…」トボトボ
ことり「まだ落ち込んでるんですか?」
鞠莉ママ「だって!ワタシがもっと踏ん張っていれば、マリをwinnerにすることができたのデスよ!」
まり「わたしは楽しかったし、ママがカッコよかったから満足よ」
鞠莉ママ「そう言ってくれるのは嬉しいデース」ニコ…
まり「ママ…」
ことり「なかなか深刻だね…」
ことり (この日のためにお仕事を調整してお休み取ったんだって言ってたもん。すごく惜しかっただけに、悔しい気持ちもきっとすごく大きいよね…)
ことり (これが国語や算数だったなら、小原さんがこんな気持ちになっちゃうこともなかったのにな…)
まり「ママ、今日はママが作ってくれたごはんが食べたいわ──」
「まりのお母さん!」 放課後好々爺 8/10
ゴオオオオオッ ≡≡≡≡≡≡○
鞠莉ママ「!?」
ことり「お、小原さんっ!」
鞠莉ママ「クッ、ナンノコレシキ…!」
鞠莉ママ バシッ
ことり「な、ナイスキャッチ」ホッ…
まり「ちょ…ちょっと、危ないじゃない!なにするのよ──かなん!」
かなん ニッ
かなん「とうっ!」シュタッ
かなん「カモン、おばさん」クイクイ
鞠莉ママ「…ホウ、いい度胸デスね」
ことり「え?え??小原さん、ここ校門の前ですよ」アセ
かなん「運動場ならいいでしょ!」タタタタタタ
鞠莉ママ「受けて立ちマース!」ダッシュ!
ことり「えっ、あっちょっと小原さん!かなんちゃん!」
まり「二人とも待ってー!」タタタ… 放課後好々爺 9/10
「すみませんな、うちのじゃじゃ馬が」ヌッ
ことり「あ、あなたは…?」
松浦爺「これは失礼、松浦と申します。果南の祖父をやっとりますわ」
ことり「かなんちゃんのおじいさんですか!初めまして、えっと…」
松浦爺「ことさんですかな。果南がうちでよく話しとる」
ことり「は、はい。小原さんのところでメイド…使用人のお手伝いをさせてもらってます、南ことりです」
松浦爺「小原さんは相変わらず元気だな」
ことり「そうですね」
松浦爺「もう何年前になるか、ホテルオハラを建てるっちゅうて挨拶に見えたとき。その頃からパワフルなお嬢さんではあったがな、果南に付き合ってやれるのは凄いことだ」
ことり (お、お嬢さん…そうだよね、松浦さんからしたら小原さんなんてまだまだひよっこだよね)
松浦爺「わしも若くないんでな、ドッヂボールは見学させてもらうだけだったが、終わってから果南を叱りつけてやったんですわ」
ことり「叱った、ですか?」
松浦爺「おう!試合の途中でやる気をなくすなんてバカタレのすることだっちゅうてな。果南が最後までやっとけば、小原さんなんか目じゃなかったろう、ってゲンコツくれてやったわ。かっかっかっ!」
ことり「げげげゲンコツ!!?」 放課後好々爺 10/10
松浦爺「そしたら先生の話が終わるやボールを借りてきよってな、『リベンジするから見てろ』と抜かす」
松浦爺「小原さんに勝てなかったら晩メシは食わせんと言うとるからな、しばらくはああやっとるはずですわ。ま、わしはジャングルジムでもやって気長に待つとしますか」グッグッ
ことり「ジャングルジムはなさるんですか!?」
松浦爺「ことさんも?」クイクイ
ことり「や、私は、その、大丈夫です。かなんちゃん達の応援でもしてます」
松浦爺「そうか。残念」
松浦爺「勤めは小原さんのところだろうが、果南とも仲良くしてやっとくれな。あれも相当あなたを好いとるようだ」
ことり「はい、私もかなんちゃん大好きですから!」
松浦爺「かっかっかっ!」ヒョイヒョイヒョイ
ことり (するする登ってくー!!)
<ことちゃーん、こっちおいでよー!
<コトリ、ジャッジをしなサイ!ジャッジを!
<ねえ、いつまでやるの?
松浦爺 ニカッ
ことり フフッ
ことり「はぁーい!」タタタ… まごころクッキング 1/11
十一日目、土曜日
♪
鞠莉ママ「おっと電話デス。Hi, this is Ohara...」
ことり ジッ
まり「どうしたの?」
ことり「ううん、やっぱりお仕事の電話は英語なんだなーと思って」
まり「当たり前じゃない…っていうわけでもないか」
ことり「そうなの?」
まり「うん」
まり「だってママ、イタリアでもお仕事するし、お仕事の相手はドイツの人だったり中国の人だったりするもの。だからいつも英語なわけじゃないわよ」
ことり「そ、そっちかあ…」
まり「今電話をくれたのがたまたま英語圏の相手だったんでしょうね」
ことり「ことりなんか、まだまだイタリア語もうまく喋れないのに…」
まり「ママってばすごいでしょ!」ドヤッ まごころクッキング 2/11
鞠莉ママ「Sorry, 出かける用事ができてしまっタわ」
家野「あら」
まり「えーー!ママ、今日土曜日よ!?」ブー!
鞠莉ママ「スミマセン、なかなか会えない人なのデスが、たまたま日本に来ているのだと…」
鞠莉ママ「マリ。イエノの言うことをキチンと聞いて、いいコにお留守番を──」
家野「! 奥様、」
ことり「?」
まり「大丈夫」
まり「わたし、もう五年生よ。ママがお仕事で忙しいことくらいわかってるから」
まり「このお休みだって頑張って取ってくれたのよね。一日くらい我慢するわ」
鞠莉ママ「マリ…」ホッ
鞠莉ママ「一日なんて言いまセン、afternoon-teaには戻りマス!」バッ
家野「運転手は待機させておきます、奥様もご支度を」ササッ まごころクッキング 3/11
ブ…
ブゥゥゥゥン…
まり「行っちゃった」
ことり「行っちゃったねえ」
まり「あーあ、せっかくの土曜日くらいママと遊んであげようと思ったのに。やることなくなっちゃったわ」プー
ことり「ね、まりちゃん」
まり「なに?」
ことり「ことり、いいこと思いついたんだけど」
まり「そうなの。よかったわね、頑張ってね」
ことり「違うの!まりちゃんも一緒に!」チュン!
まり「え〜」
ことり「小原さん、午後には帰ってくるって言ったでしょ」
まり「言ったわね」
ことり「だからさ、ことりと一緒に──おやつ作って待ってない?」ニコッ
まり「…!」
まり「や、やる!」
ことり「それじゃ、美味しいおやつ作って小原さんビックリさせちゃおう!」
まり「うんっ!」 まごころクッキング 4/11
まり「なに作るの?」ソワソワ
ことり「ふっふっふ…ことりはね、こんな日が来るんじゃないかと思って用意してたんだよ」ゴソゴソ
ことり「じゃじゃーん!」っメモ サッ
『まりちゃんと作る!おやつレシピ』デーン
まり「ええ…」
ことり「さーさーまりちゃん、お菓子作りはやること多いんだよ。てきぱき動かないと小原さんが帰ってくるまでに間に合わなくなっちゃうんだから!」
まり「わ、わかったわよ。…でもまりお菓子作るなんて初めてだからなにから始めたらいいかわかんないけど…」
ことり「はい」っメモ
『作業手順(まりちゃん)』
まり「…………ことりは?」
ことり「こっちだよ」っメモ
『作業手順(ことり)』
まり (用意よすぎ…きもちわる…)
ことり「さー、がんばろー!」
まり「お、お〜!」 まごころクッキング 5/11
ことり「まりちゃんはニガテなお菓子とかある?」
まり「ニガテなお菓子?考えたこともないけど…ことりはあるの?」
ことり「私はねえ、辛いのがダメなんだぁ」
まり「辛いの?」
ことり「唐辛子とかハバネロとか、そういうのあるでしょ。ちょっと食べただけできゃあってなっちゃう」
まり「ああ、そういうお菓子もありなのね。てっきりケーキとかシュークリームとかのことかと思ったわ」
まり「んー………あ、一つあるかも」
ことり「なになに?」
まり「なんていうお菓子か知らないんだけど、なんか…お仏壇に飾ってあるやつ」
ことり「お仏壇?」
まり「うん。かなんと辻宗さんに行ったときにおばあちゃんがくれたんだけど、すっごく甘くて、っていうかたぶんあれただの砂糖だと思うのよね」
ことり「…らくがんかあ」
ことり「らくがんは、そうだね。ことりもあんまり好きじゃないかなあ」
まり「ねー。仏様にあげたものなんだからまり達が食べるべきじゃないと思うわ」プンスコ
ことり「そーだそーだ!」プンスコ まごころクッキング 6/11
ことり「よーし」キュ
まり「なに、そんなに気合い入れて」
ことり「ここがね、ことりの作業の中で一番大事な部分なの。慣れてても気を抜いちゃいけないから頑張ろうって思って」
まり「ふうん。…見ててもいい?」
ことり「うん!でも飛んで顔についちゃうかもしれないから少し離れててね」
まり「わかった」ススス
ことり パラ
まり「…ことり!?それ塩よ!?砂糖はこっち!」
ことり「あっううん、お塩でいいんだよ。こうやってほんのちょっとだけ入れておいたら卵白が固まりやすくて、泡立つのが早くなるんだ。お砂糖は後から入れるの」
まり「へ、へえ…そうなの…」
ことり「まぜるよ〜」カチ ウィィィィィィン
まり「………………へ〜…」ジー
ことり「う〜ん、このくらいでいいかな。そしたらまりちゃんがふるってくれたお砂糖を入れます」サラサラサラ
ことり「いっぺんにバンって入れたらせっかく立てた泡が潰れちゃうから、こうやって優しく全体にね」
まり「うん」
ことり「それじゃまたまぜま〜す」カチ ウィィィィィィン
まり ジー
ことり (興味津々。可愛いなあ♡) まごころクッキング 7/11
ことり「まりちゃんがかなんちゃんとダイヤちゃんと仲良くなったときのこと、聞きたいな」
まり「えっ」
まり「別に、面白くないわよ。普通だし…」
ことり「それでもいいの。ね、聞かせて?」
まり「………」ムゥ
まり「特別なことなんてなにもなかったわよ、転校したばっかりのわたしにかなんがすぐ話しかけてくれたの。『髪の毛きれいだね』って、なでてくれたの」
まり「わたし、それがびっくりしちゃって。日本に来る前は、お金持ちばっかりのスクールにいたから、そんな風に気軽にしてくるコなんかいなかったもの」
まり「でも、そういうの慣れてなかったから、ちょっと怖い、なに考えてるのかわかんない、ってさけてたの」
まり「でもかなんってば、休み時間のたびにわたしの席まで来て一人で色んなこと楽しそうに話すの。ダイヤはうんとかそうですわねって言うだけだったけど、必ず一緒に来たわ」
まり「かなんのことちょっと怖かったけど、他にお話しする友達もいないし、いつも声かけてくれるから…嬉しかった」
まり「それでね、わたしの誕生日にね、二人がヘアゴムを二つくれたのよ。これ」
まり「誕生日なんか教えてないのになんで、しかもなんで二つ、って思ったら、かなんが『先生に教えてってお願いしたんだ』って。ダイヤが『お母さまとおそろいにしてください』って」
まり「髪の毛なでられたとき、びっくりしてとっさに『ママと同じ自慢の髪』って言ったのを覚えててくれたみたいでね」
まり「ああ、この人達と仲良くなりたい、って思ったの」
まり「…それだけ!面白くないでしょ!」プイッ
ことり「ううん、そんなことないよ。とっても素敵な想い出だなって思う。二人のこと、大切にしてあげてね」
まり「ことりに言われなくってもそうするもの!ほら、手が止まってるわよ!」
ことり「はーい」 まごころクッキング 8/11
ことり「それじゃ焼こっか」ピピ
まり「そんな短くていいの?」
ことり「うん、まずはね。この後、何回かに分けて焼くんだよ。その間にもすることあるから頑張ろうね」
まり「…お菓子作るのって、大変なのね」
ことり「そうだね。慣れてなかったら段取りもわかんないし、途中でいっぱいいっぱいになっちゃうかも」
まり「ことりは随分慣れてるのね」
ことり「あはは。昔からたくさん作ってたからね」
まり「うちに来る前もどこかでメイドやってたの?」
ことり「えっ!メイドさん…やってなかったことはないんだけど………ううん、ただ普通に、友達にあげたり部活に持っていったりしてたんだよ」
まり「げ、こんな面倒くさいこと好きでやってたの!?」
ことり「めんどくさくないよぉ!手順は多いし時間もかかるけど、食べてくれる人のことを考えながら作ってる間って、すっごく楽しいから」
ことり「まりちゃんも。やること多くて大変だったと思うけど、イヤじゃなかったでしょ?」
まり「……」
──まり『ことり、これどうするの?』
──ことり『下にクッキングペーパーを敷いて、このくらいの高さで…トントントン、って』
──まり『あ、ありがと』
──『いただきマス。………so delicious!! さすがマリ!』
まり「…うん、楽しかった」
ことり「えへへ、よかったぁ」
ことり「もうひと頑張り、しようね!」
まり「うん!」 まごころクッキング 9/11
ことり ペロ
ことり「うん、いいと思う」
まり「ほんと?」
ことり「ガナッシュが冷めたら生地に絞り出して、冷蔵庫に入れておいたら完成。小原さんが帰ってきたら食べられるくらいになってるはずだよ」
まり「わぁ…!」パァ
ことり「疲れちゃったね、冷めるまで休もっか」
まり「すごいわ、ことりもいえのも。毎日こんなことやってるなんて」
ことり「あはは、普段はもう少し簡単なものが多いよ。でも今日はまりちゃんとの初めてのお菓子作りだったから、やった、頑張った、って思えるものがいいなと思って」
まり「ママに食べてもらうのが楽しみだわ」ワクワク
まり「〜♪」フンフン
ことり「…」
ことり「まりちゃんって、お星さま、好き?」
まり「え?星?なんで?」
ことり「あっううん、たいした理由はないんだけど…」 まごころクッキング 10/11
まり「好きかキライかだったら好きよ。キラキラしてきれいだもの」
まり「でも、理科で習うのはニガテ。よくわかんないわ」
ことり「そっかぁ。ことりのお友達…に、ね、お星さまに詳しい子がいるんだよ。なんでも知ってて、科学館の職員さんみたいに色んなことを教えてくれるから、その子がなぞる人差し指を追ってお話を聞いてるだけでどんどん引き込まれていっちゃうの」
ことり「ことりもお星さまのことなんかよくわかんなかったけど、その子と星空を見るのは好きだったなぁ」
ことり「いつか、まりちゃんも会ってみてほしいな。そしたらきっとお星さまのこと、好きになれると思うよ」
まり「…色んなお友達がいるのね、ことりには」
まり「わたし、流れ星を見てみたいわ。知ってる?流れ星を見つけてお祈りしたら、お願い事が叶うんだって」
ことり「へえ、そうなんだ。ことり、流れ星は見つけたことないな。まりちゃんだったら流れ星にどんなお願い事をするの?」
まり「そうねー、やっぱり大好きな人達とずっと一緒にいられますように、ってことかなぁ」
ことり「…うん。すごくいいね。私も、そう願いたいな」
まり「ところで、なんで突然星の話?」
ことり「えっ!?」
まり「……………!まさかあなた、まりの部屋に入ったりした?」
ことり「えっっっ!!?し、してないよ!なんで!?」ギクゥッ
まり「ほんとに!?なんでそんなに動揺してるの!?」
ことり「ど、動揺なんてしてないよ。あ!ガナッシュ冷めたかな、様子見なくちゃ!」ガタ
まり「あっちょっとことり!!」ガタ まごころクッキング 11/11
パタン…
ことり「冷えたら出来上がり!」
まり「やったーっ!」
ことり「小原さんが帰ってくるのが待ち遠しいね」
まり「うん。いっぱい食べてもらうわ!」
ことり「四人でも食べきれないくらい作っちゃったし、明日かなんちゃん達に持っていってあげたらどうかな?」
まり「わ、それいいわね。きっと喜ぶわ」
ことり「う〜ん、それじゃことりは小原さんが帰ってくるまで少しホテルのお仕事を手伝ってくるね」
まり「あー、そうよね。じゃあまりは宿題やってるわ」
ことり「えらいっ!…あ。ところで、かなんちゃん達がくれたヘアゴムって、小原さんはどうしてるのかなあ?」
まり「つけたことは一回もないわよ」
ことり「そうなんだ…」
まり「でも、机の一番上の引き出しに入ってる。ちっちゃな箱に入れて、大切にしてるわ」
ことり「…うふふ。そうだよね」 ブレイク ブレイク スタイル 1/6
鞠莉ママ「オォ………ォ…」
まり「じゃーんっ、どうママ!?ことりと一緒に作ったのよ!」
マカロン テテーン
まり「どう?どう??」
鞠莉ママ「──────」カタカタ
ことり (あ、これ感動のあまり大宇宙感じてるやつだ)
※ ことりも大宇宙の経験者だよ!
鞠莉ママ ──ハッ
鞠莉ママ「イエノォ!!スグに coffee を!!」
家野「ご用意できています」カチャ
鞠莉ママ「マリ、コトリ、座りなサイ。スグに頂きまショウ!」
まり「うん!」
ことり「はい!」 ブレイク ブレイク スタイル 2/6
まり「こっちのがココア味で、こっちが抹茶。これはね、えへへ…コーヒー味よ」
鞠莉ママ「こんなにたくさん、大変だったでショウ」
まり「それがことりったらすごいんだから!レシピほとんど見てないのに、次から次に色んなことやっちゃうの。まりが聞いたこともすぐ教えてくれるのよ!」ニコニコ
鞠莉ママ「ホウ…」
鞠莉ママ「アリガトウ、コトリ」
ことり「いえいえ。まりちゃんとお菓子作りできてとっても楽しかったですから」
鞠莉ママ「…おや、マリはなにを飲んでいるの?」
まり「ホットミルクよ」
鞠莉ママ「ホットミルク…!?」
家野「奥様はこちらを」カチャ
鞠莉ママ「アラ?紅茶?」
家野「召し上がるとおわかりになるかと思いますが、やや濃い目の味になっています。ハイマウンテンの浅煎りでもいいのですが、私はウバの方が合うと感じましたので」
鞠莉ママ「そう、イエノがそう言うのなら文句はありまセン。マリはホットミルク、ワタシは紅茶。なんだか不思議な光景ね」 ブレイク ブレイク スタイル 3/6
四人「「「「いただきます」」」」
パク…
鞠莉ママ「...Fine Del Mondo...!!」
まり パァ
鞠莉ママ ス…
鞠莉ママ「…なるほど。ウバの渋味と非常に match しマス」
ことり「アフタヌーンティーって言うからには、お菓子によっては紅茶を合わせるのもいいですよね」
鞠莉ママ「そうね」
まり ソワソワ
鞠莉ママ「? どうしたのデスか、マリ」
まり「ねえママ、一緒にコーヒー味の食べましょ」
鞠莉ママ「言われなくても、ぜひ」ヒョイ
まり「せーので食べるわよ。せーのっ」
まり パク
鞠莉ママ パク
モシャ…モシャ…モシャ…
鞠莉ママ「これもとても美味しいわね。coffee がかなり濃いけれど、マリは平気なの?」
まり「うん、ミルクと合わせたらちょうどいいわ」ゴク ブレイク ブレイク スタイル 4/6
鞠莉ママ「そう、ミルクと合わせるために濃くしてあるのデスね」
鞠莉ママ「ワタシも coffee を飲まなくても満足なほど濃いけれど、マリも食べられるならば──」
ことり ニコニコ
鞠莉ママ「……なんデスか、ニヤニヤして」
ことり「に、にやにやしてないですもん!」
まり「きもちわるい」
ことり「まりちゃんまでぇっ!!」
まり「…あのね、ママ。コーヒー味をこんなに濃くしたのはことりが考えてくれたことなのよ」
鞠莉ママ「ハイ?レシピがコトリのものだというのなら、当然のことでショウが…」
まり「そうじゃないの」
まり「まりが、ママとコーヒーブレイクを楽しめるようにって。考えてくれたのよ」
鞠莉ママ「エ──…?」
ことり「まりちゃんは、まだコーヒーを飲むのは難しいかなって思うんですけど。お菓子ならこれくらい濃くても食べられるみたいだから」
ことり「一緒にコーヒーを飲めないのなら、一緒にコーヒーを『食べる』コーヒーブレイクにしちゃえばいいんじゃないかなって、思ったんです」
鞠莉ママ「────………!!」 ブレイク ブレイク スタイル 5/6
──鞠莉ママ「まずは好き嫌いデスか。マリは coffee がニガテなようで…」
──ことり「小学生ですよね!?飲めなくて普通だと思いますっ」
──鞠莉ママ「でもワタシはマリと coffee break を楽しみたいのデース!」イヤイヤ
──ことり「ふええ……小原さんの願望じゃないですかあ…」
鞠莉ママ (私が言ったほんの些細なことを、ずっと気にしてくれていて)
──鞠莉ママ「ワタシの tiramisu は coffee の風味が強く感じマスね」
──家野「奥様の分とまりお嬢様の分とで、分量を変えて作っていらしたようですよ」
鞠莉ママ (そう、この子は…マリと実際に会うよりもずっと前から、私達のことを一生懸命に考えてくれていて。ここにいる間も、きっとずっと考えてくれていたのね)
──鞠莉ママ「コトリは kitchen でなにをしているのデスか?」
──家野「お嬢様のおやつを作っているのだと思っていましたけど、どうかしましたか?」
──鞠莉ママ「umm...ワタシが覗いたら、とても慌てた様子で追い出されてしまったのデス」
──家野「あら」
鞠莉ママ「…………」 ブレイク ブレイク スタイル 6/6
まり「ごちそーさまでしたっ」
家野「どの味も、とても美味しかったですね」
鞠莉ママ「エエ」
家野「日持ちはそんなにしませんよね。残った分はどうしましょうか」
まり「あ、それ明日かなん達に持っていくの」
家野「そうでしたか。では簡単にラッピングをしてから冷やしておきますね」
まり「ありがとう!」
ことり「私、洗い物してきますね」ガタ
まり「あー、お菓子作り楽しかったわ。ちょっと面倒くさかったけど、ことりがちゃんと教えてくれるならたまにやってみてもいいわね。ねえママ、なにか作ってほしいお菓子ある?よくわかんないけど、ことりなら作り方知ってると思うから一緒に作って……… …ママ?」
鞠莉ママ「コトリ、イエノ!こちらへ来なサイ!」
鞠莉ママ「…マリ、話しておくことがありマス」
まり「…?」 >>210
おお!そうなんですか!
気が向いたらそちらの方もひとつ… 離れて欲しくない…
ことりちゃん鞠莉ちゃんの専属メイドになって欲しい🥺 ロリーはロリの中でもトップクラスの可愛さだから是非映像化してほしい 残酷な通達 1/8
十二日目、日曜日
ことり「……」
家野「保冷剤は入れていますが、黒澤さんのお家に着いたら、おやつの時間までは冷蔵庫に入れさせてもらうんですよ」
まり「わかってる、ありがと!」
鞠莉ママ「わざわざハグゥとデスワァに分けなくても、ワタシがみんな一人で食べるのに」ムスー
まり「ママってば、そんなこと言わないの!」
家野「果南さんを呼びにいかれている間に、船の準備をしておきますからね」
まり「うん、ちょっと呼んでくるわ!」
ことり「まりちゃん、
まり「あ。そうだいえの、今日、四時くらいにお迎えにきてもらってもいい?」
家野「わかりました」
ことり「あ、わ、私お迎え行こうか!?」
まり「………ことりは運転できないでしょ?運転ができる人に来てもらうから、大丈夫よ」ニコッ
ことり「そ、そっか…そうだね…」
家野「……」
鞠莉ママ「……」
まり「じゃあ呼んでくる!」タタタ 残酷な通達 2/8
かなん「いってきま〜す!」ノシシシ
まり「いってきます」
ブ…
ブゥゥゥゥン…
ことり「………」
家野「ことりさん」
ことり「あ、いえ、大丈夫です。昨日、覚悟はしてたので」
家野「…そうですか」
鞠莉ママ「コトリ、」
ことり「はい」
鞠莉ママ「…イエ、なんでもありまセン」
家野「ホテルのことは時間があれば、で構いません。ことりさんは先にご自身の整理をされてください」
ことり「ありがとうございます、そうしますね」スタスタ…
家野「寂しくなりますね。あっという間の二週間でした」
鞠莉ママ「そうね」
──鞠莉ママ「コトリがウチを出るとき、少しでも別れをイヤがってくれたら、それで成功デス」
鞠莉ママ (「これで成功デスよ」なんて、とてもじゃないけど言えないわね……) 残酷な通達 3/8
──鞠莉ママ「…マリ、話しておくことがありマス」
──まり「…」
──家野「…」
──ことり「…」
──鞠莉ママ「ワタシは、明後日出発しマス」
──ことり「!」
──まり「あ…そうよね、もうそんなにたっちゃったんだ」
──鞠莉ママ「それに伴って、コトリも…明後日でウチを出ることになるわ」
──まり「ぇ………」
──家野「あっ、そう…でしたね…!」ハッ
──鞠莉ママ「毎日とても真剣に頑張ってくれて、ホントウに感謝していマス。明後日の昼前にはウチを出ることになるので、明日いっぱい楽しく過ごしなサイ」
──家野「すっかり馴染んでしまっていました。まるで昔からご一緒しているようで、それでいてこれからもご一緒していくかのような気持ちでいましたね。寂しいことですが、あと一日、よろしくお願いします」
──ことり「はい。私も、なんだか変な気持ちです」 残酷な通達 4/8
──鞠莉ママ「それで明日デスが、せっかくならば四人でどこか出かけて──」
──まり ガタ…
──家野「お嬢様?」
──まり クルッ
──まり スタスタスタ…
──鞠莉ママ「マリ?どうしたの?」
──まり「お部屋に戻るわ。ちょっと寝る」
──家野「え、っと…」
──鞠莉ママ「今スグでなくてもいいでショウ。明日どうするかだけ決めたら、dinner までは自由に…」
──ことり「まりちゃん、明日…」ソッ
──まり「さわらないで!!」パシッ
──ことり「…っ!?」
──鞠莉ママ「マリ!なにをするのデスか!」ガタッ
──家野「お嬢様、どうかなさいましたか──」
──まり ポロポロ……ボロ…ボロ……
──鞠莉ママ「マ、リ…」
──家野「お嬢様…」
──ことり「まり、ちゃん…」 残酷な通達 5/8
──鞠莉ママ「マリ、どう…したの……」
──まり「………っぱり……」
──まり「…やっぱり、いなくなっちゃうんだ……」グシグシ…
──鞠莉ママ「…………!!」
──まり「ことりも、まりを置いて……行っちゃうんだ…」グズ
──ことり「まりちゃん、わたし…」
──まり「わかってたことだもん、いいわ。平気。そういう約束だったもんね」
──まり「大丈夫だから。ちょっと、疲れたから寝るだけ」
──まり「おやすみなさい」
──まり スタスタスタ…
──家野「……お嬢様、お部屋までご一緒します」タタッ
──ことり「わたし…」ヨロ…
──鞠莉ママ「…スミマセン、コトリ」 残酷な通達 6/8
──ことり「小原さん…」
──ことり「まりちゃん、『やっぱり』って…『ことりも』って…」
──鞠莉ママ「…ワタシのせいなのデス。イエ、ワタシ達のせい…デスか」
──鞠莉ママ「ワタシも夫も家を離れがちだった、とは話したわね。今はこれでも昔よりずっと長くマリと一緒にいられている方なのだけど、今よりもっとずっと幼いマリをイエノに任せて仕事仕事と飛び回っていた弊害が、……ああいう形でマリの心に傷を残してしまったのデス」
──鞠莉ママ「一人、家に置いていかれること。親しい相手が離れていくこと。それを強く怖がるようになりまシタ」
──ことり「……ぁ、だから…あのとき…!」
──ことり「その……今日はちょっと、船に乗るの、は…」
──まり「………」
──まり「…ことり、あなたも…私のこと…」
──ことり (咄嗟に抱き締められて、よかった)
──ことり (…でも結局、寂しい思いをさせちゃうんだ)
──ことり グ… 残酷な通達 7/8
──鞠莉ママ「ホントウのことを言うと、コトリ、マリがここまであなたに懐くとは思っていなかったのデス」
──鞠莉ママ「家族以外に心を開く、そのきっかけになる。その程度の変化があればいいと、思っていたの」
──鞠莉ママ「それが、まさか…」
──鞠莉ママ「ごめんなサイ。マリにも、コトリにも、つらい気持ちを味わわせることになってしまいまシタね…」ハァ
──ことり「…ううん、私は。まりちゃんの気持ちに比べたら、なんてことないです」フルフル
──鞠莉ママ「…」
──ことり「…」
──鞠莉ママ「コトリ」
──鞠莉ママ「アツカマシイお願いだとはわかっていマス。でも、どうか…明後日までは、マリのことを…」
──ことり「当たり前です」
──ことり「私、まりちゃんのこと大好きだから。明後日までなんて言いません。これからずっと、もし二度と会うことがなかったとしても、ずっとまりちゃんのことは愛し続けます」
──鞠莉ママ「アリガトウ…コトリ、アリガトウ……」
──ことり「それに、私もう自信あるんです。まりちゃんに好きになってもらえた自信」
──ことり「一度好きになった相手を本当にキライになっちゃうなんてこと、ないって知ってるから。大丈夫です──私も、まりちゃんも…!」 残酷な通達 8/8
家野「………おはようございます、小原家の家野です。ええ、ご無沙汰しています。先日はありがとうございました」
家野「はい、そうです、今日もこれからまりさんが果南さんとお邪魔するのですが、おやつを持たせているので冷蔵庫に入れさせておいていただいてもよいですか?…はい、ありがとうございます」
家野「それと、申し訳ありません、厚かましいお願い事で恐縮なのですが、二人が到着したらおにぎりかなにかを出していただけませんか。…ええ、実は昨日少しありまして、まりさんが昨晩の夕飯と…今朝も、はい……すみません、ありがとうございます」
家野「四時には迎えの車を寄越しますので、はい、なにかあればご連絡ください。はい、よろしくお願いいたします。それでは」
家野 フー…
鞠莉ママ「アリガトウ、イエノ」
家野「いえ。果南さん達と一緒であれば、食べてくださるでしょうからね」
鞠莉ママ「だといいのデスが」
家野「あまりお気を煩わずに。まりお嬢様は強い方です、今日は私がとびきりに腕を振るってお夕飯を用意しますので、きっと大丈夫ですよ」
鞠莉ママ「…そうね。そうよね…」
家野「はい」 辛いよ...
毎年長期休みにことりちゃんとまりちゃんが遊んで大人になるとこまで想像した 二週間という積日 1/2
まりの部屋
キィ…
ことり「入るね」
お返事は当然ない。
かなんちゃんとダイヤちゃんのお家へ行っているのだから、当たり前のこと。
部屋の中を触ってしまわないように、入口に立ってただぼうっと視線をさまよわせる。
それだけでもふわりと届くまりちゃんの匂い。
眠るまりちゃんの髪を撫でた。指がくすぐったくなるくらいさらさらだった。
お風呂でまりちゃんの身体を洗った。ボディソープがいらないくらいすべすべだった。
船の中でお膝に乗ってくれたこと。バスの中で膝枕をしたこと。目をつむるだけで、じんわりと体温を思い出す。
小原さんに向けた満面の笑み。家野さんに対する優しい笑顔。ことりにいじわるを言って、にやっと笑う。
楽しいこと、嬉しいこと、恥ずかしいこと、いやなこと。好きなこと、キライなこと、したいこと、してほしくないこと。
二週間なんて、きっと嘘だ。私達は、ずっとずっと長い間、一緒に色んなことを分かち合ってきたんだ。そう思えるくらい、数えられないほどの想い出と感情で溢れている。
そう思えるくらい、愛している。 二週間という積日 2/2
視界がぐにゃりと歪んで、滲んで、喉がきゅっと苦しくなって。今のうちに、まりちゃんがお家にいないうちに、全てを出し切ってしまおう。
その場にしゃがみ込んで膝を濡らす。
声はできるだけ抑えようとするけれど、しゃくる音、喉が鳴る音、鼻をすする音、漏れる息。
ここがプライベートフロアでよかった、なんて、頭の片隅でいやに冷静な自分が思う。
────────。
ひとしきり理性を忘れていた間、誰も通りかからなかったのは幸いだった。
目が赤くならないように、袖口でとんとんと叩くようにして最後の雫を拭う。
もう四時を過ぎたはず、まりちゃんが帰ってくる。
お夕飯を作りながら、家野さんとなにを話そう。
長く息を吐いて、立ち上がる──その寸前。ふと気づく。
ことり「………あれ…?」
下の階から「奥様!!」と聞こえてくるのと、ほとんど同時だった。 ちいさなはかりごと 1/3
黒澤邸前
使用人「お嬢様がお世話になりました」ペコ
黒澤母「いえ。鞠莉さん達はとてもよい子ですので、いつでもいらしてくださいな」
かなん ジーッ
黒澤母「…果南さんもね」
かなん「!」パァァ
ルビィ モジモジ…
黒澤母「ルビィさん。言いたいことがあるのでしょう」
ルビィ「…おやつ、ありがとう。おいしかった」
まり「うん。ことりに伝えておくわね」
ルビィ「ことりちゃん…」シュン
黒澤母「明日で発ってしまわれるとは、残念ですね。またぜひ内浦へいらしてほしいものです」
まり「…伝えておきます」
ダイヤ ジッ
かなん チラ
まり コクン… ちいさなはかりごと 2/3
まり「あ、ねえ。帰りに、寄ってほしいところがあるんだけど」
使用人「はい?」
まり「ことりにお別れのおみやげ買いたくて。ね、いいでしょ?」
使用人「はあ、そうですね。まだ時間も早いですし、家野さんに連絡しておけば大丈夫でしょう──」スッ
まり「あっ、い…いえのにはもう伝えてあるの!実はこっそりお金も預かってて」
使用人「あら、そうなんですか。それなら安心です」
まり「かなんも、まだ時間平気でしょ?」
かなん「うん、うん、もちろん平気だよ。だ、ダイヤは?」
ダイヤ「わ、わたくしも…ことりさんへのお礼の品を選ぶのに、ついて…いきたい、です…」オソルオソル…
黒澤母「!」
黒澤母「…ええ、構いませんよ。そういうことならば、私からも少し出しましょう。お財布を取ってくるので待っていなさいな」ススス
ダイヤ ホッ…
かなん b グッ
ルビィ「!」
かなん「あー、ルビィはお留守番してよっか。私達がちゃんと選んでくるからさ」ポン
ルビィ「ぅゅ…」 ちいさなはかりごと 3/3
黒澤母「鞠莉さん、家野さんからは幾らほど?」
まり「え!?えーっと……に、にせんえん…くらい…」
黒澤母「? そうですか。では私からも同じだけお渡ししておきましょう。ダイヤさん、なくさないよう」
ダイヤ「は、はい。……ありがとうございます…」ギュ…
使用人「それでは行きましょうか」
黒澤母「よろしくお願いいたします」
まり「かなん、ダイヤも。後ろに乗りましょ」
かなん「うん」トトト
ダイヤ「行ってきます、お母さま。ルビィ」
黒澤母「行ってらっしゃいな」
ルビィ「いってらっしゃい」
バタン
使用人「どちらへ行きますか?沼津駅の辺りでいいですか?」
まり「ううん、行ってほしいのはね──」
まり「パノラマパークの方なの」 知っていること、見えているもの 1/4
ホテルオハラ、私用厨房
家野 (よし、現場の方はもう大丈夫そうですね。今のうちにお夕飯の下準備、……ことりさん、声をかけた方がいいかな)
家野 (最後のお夕飯作りだし、きっとご一緒なさりたいですよね。自室にいらっしゃるでしょうか) スタ…
家野「………」
『16:32』
家野 (お嬢様のお戻り、随分と遅くないですか?)
家野 (45分には向こうへ渡ったはずだし、道が混んでいたとして、それに黒澤さんと少し話し込んだとして。それにしても…こんなに遅くならないのでは)
家野 (念のため連絡しておきましょうか──)
──♪
家野「! はい、家野です。ちょうど連絡しようと思っていたところでした。帰りが遅いようですが、今どちらに………ええっ!?」 知っていること、見えているもの 2/4
家野「奥様!!」タタッ
鞠莉ママ「何事デスか、騒々しい」
家野「今、お嬢様を迎えにいった山岸から連絡があったのですが…」
鞠莉ママ「…どうかしたの?」
家野「まりお嬢様が──逃げ出した、と…!」
鞠莉「なんデスって…!?どういうことなの、詳しく説明なサイ!」
ことり「なにかありましたか…?」オズ…
鞠莉ママ「コトリ、ちょうどよかった。イエノ!」
家野「は、はい。メイドの山岸にお嬢様のお迎えへ行ってもらったのですが、今その山岸から連絡があり、まりお嬢様と果南さん、それにダイヤさんの三人が『逃げ出した』とのことです」
ことり「逃げ出した…?」
家野「慌てていてあまり話が要領を得ませんでしたが、まりお嬢様のお願いで三人をパノラマパークの辺りへ連れていったところ、少し目を離した隙にロープウェイに乗り込んでしまった、という事態のようです」
鞠莉ママ「………っ、また…ハグゥとデスワァが…!!」ギリ…
ことり「……………」 知っていること、見えているもの 3/4
鞠莉ママ「イエノ、スグに車の手配を!現場で手透きの者も使うので多めに用意させなサイ!ヤマギシにはロープウェイの麓で待機させておくように!」
家野「はい、すぐに!」
ことり「ちょっとだけ!…いいですか?」
家野「! な、なんでしょう。ことりさん」
ことり「パノラマパーク、ってどういう場所ですか?」
鞠莉ママ「それは行きながらでよいでショウ、まずは追いかけるのが最優先──」
ことり「教えてください」
鞠莉ママ「!? …イエノ」
家野「はい…正式名称は伊豆の国パノラマパークといい、伊豆の代表的な観光施設の一つです。観光の根幹となるのは葛城山の山頂へ至るロープウェイで、山頂からは富士山や駿河湾、伊豆の町並みが一望できます。喫茶店やアスレチックなどもあり、複合的な…」
ことり「星は──星は、見えますか?」
家野「は、星…ですか?そうですね、見えるかどうかでいえば、かなりよく見えるはずです。ですがロープウェイが17時までの運行なので、天体観測で訪れることはそうそうないかと…」
ことり「………」
家野「ことりさん…?」
鞠莉ママ「コトリ、なにが気になるのデスか。こうしている間にもあの二人といることでマリがどんな危険な目に遭うか──」
ことり「小原さんは、お家に残っていてください」
鞠莉ママ「…なにを言い出すかと思えば」 知っていること、見えているもの 4/4
鞠莉ママ「ワタシ以外に、カナンとダイヤを叱れる者がいるの!?コトリがちゃんと叱れマスか!?」
鞠莉ママ「これまでもちょっと抜け出すようなことはあった。イタズラだと思って見逃してきたけれど、今回はもう許しまセン!きちんと叱って、もうマリを余計なことに巻き込まないよう──」
ことり「決めつけないでください!!」
鞠莉ママ「………っ!?」
ことり「今まで、まりちゃん達が…かなんちゃんとダイヤちゃんが、どういう風に悪さしてきたか、私は知りません。でも、今回のことがかなんちゃんとダイヤちゃんが言い出したってどうして決めつけられるんですか」
鞠莉ママ「それは、だって…」
ことり「もし二人にお説教をして、『悪いのが二人じゃなかった』とき、小原さんは責任を取れるんですか?かなんちゃんとダイヤちゃんの心に──そして、まりちゃん達の友情に」キッ…
鞠莉ママ「………っ…」タジ…
ことり「家野さん、私も行きます」
ことり「誰を叱るべきなのかはっきりしたら、ちゃんと私が叱ります。もしかしたらまりちゃん達が入れ違いで帰ってくるかもしれないから、小原さんはお家で待っていてあげてください」
鞠莉ママ「…………わかりまシタ」
ことり「行きましょう、家野さん」
家野「は、はい」 シャイニーを探して 1/4
ゴトゴト…ゴトゴト…
<お嬢様ーっ!まりお嬢様〜〜っ!!
ダイヤ「どうするんですの?おおごとになっていますわよ!」
かなん「あきらめる…?」
まり「イヤ!!」
まり「流れ星にお祈りできなかったら、きっとだめになっちゃう…!」
っ〔星座☆早見盤 北半球版〕と ギュ…
『間もなく、山頂駅に到着します…』
三人 トコトコ…
職員「あ。ねえキミ達、保護者の人は?下で心配してるって連絡があったんだけど…」
まり「!」
ダイヤ コクッ
かなん グイ
三人 ダッシュ!!
職員「あっちょっと、待って!」 シャイニーを探して 2/4
かなん「空、遠いね…」
ダイヤ「もっと星がよく見える場所は?」
かなん「わかんない…」
まり キョロキョロ
まり「…あっち!」
ダイヤ「方向は!?」
かなん「この上、行ってみよう!」タタタ シャイニーを探して 3/4
まり ハァ…ハァ…
かなん「くもってる、ね…」
ダイヤ「そんなあ…」
かなん「…これで確かめなきゃ、まだわかんないよ!」っ早見盤 サッ
まり「貸して!」
まり (星──星──星が見える方向──) スッ、スッ、スッ…
ダイヤ「………」ドキドキ…
かなん「………」ドキドキ…
まり「………」スッ、スッ、スッ…
…ポツッ
かなん「! 雨…」 シャイニーを探して 4/4
ダイヤ「そんな…これじゃお祈りできませんわ。これじゃ…」
まり「来たのに…」
まり「せっかく、来たのに…」ジワ…
かなん「………っ、泣かないで!」
かなん 早見盤と彡 パシッ
かなん キュキュ…
まり「かなん…?」
ダイヤ「かなんさん…?」
かなん「ほら!」
まり「わぁ…!」
かなん「これで大丈夫!」
https://i.imgur.com/Yu87CSb.jpg
かなん「祈ろう、まり!ダイヤ!」
まり コクン
ダイヤ コクン
お星さま。どうか、どうか──わたし達の願いを── 歩く大人 1/6
家野「山岸さん!」タッ
山岸「あっ、家野さん…!申し訳ありません、私が傍についていながらこんな失態を…」オロオロ
家野「それは後で話しましょう。まりお嬢様達は上に?」
山岸「はい、三人ともロープウェイで…」
家野「係員の方には話したんですか?」
山岸「話しました。山頂駅で引き留めてくださるとのことだったのですが、どうやらそこでも引き留めることができなかったようで…」
家野「そうですか。では私が、」
ことり「家野さん、私が行ってきてもいいですか?」
家野「ことりさん…」
ことり「山から降りてくるときには、ロープウェイはここに停まるんですよね?だったらここには誰か残っておいた方がいいと思いますけど、いざってときに運転できない私じゃあまり役に立たないかもしれないので」
ことり「それに、逃げ回るまりちゃん達を追いかけなくちゃってなったら、…少しは鍛えておいた足腰が役に立つと思うので」
家野「…わかりました、そういうことならことりさんにお願いします。山岸は念のため他の者と連携してここ以外の登山口にそれぞれ付くようにしなさい」
山岸「は、はい!」タタタ
家野「ことりさん、よろしくお願いします」
ことり「………はい…!」 歩く大人 2/6
係員「では出発します、ご注意ください」
バタン
ゴトゴト…ゴトゴト…
約7分間の空の旅。
眼下に拡がる伊豆の景色は、と丁寧なアナウンスが流れるけど、少しも頭に入ってこない。
ゆったりと移ろう雄大な自然が今だけはもどかしくて、おとなしく座っていることすら難しい。
このロープウェイには、二つ、制約があるらしい。
一つは登りの最終乗車時間が16時半であること、そしてもう一つは小学生以下の子どもだけでの乗車が不可であること。
行きがけ家野さんに説明されたその制約は、言われれば当然というか、ふと意識しなければ気にも留めないような些事でしかない。
けれど、今回はそのどちらもまりちゃん達はきちんと把握していて、その上できっと利用した。
なんでかな、わかっちゃう。私達も同じだったよ。
必死でいたずらしようとするときって、普段の何倍もずる賢くなっちゃうんだよね。
そして、必死でいたずらしようとするのは譲れないことがあるときばっかりだってことも──わかってるんだよ。 歩く大人 3/6
『間もなく、山頂駅に到着します…』
ゴトン、と大きく揺れて扉が開く。
係員「小原さんですね。下の者から連絡を貰っています」
ことり「無理を言ってすみません」
係員「いえ、こちらこそすみませんでした。私が声をかけた途端、走っていってしまって、追いかけることができませんでした」
ことり「子どもたちがどっちへ行ったかわかりますか?」
係員「向こうの道をまっすぐ走っていったと思います」
ことり「ありがとうございます、できるだけ早く子どもたちを連れて戻ります。……あ、そうだ」
ことり「星が一番よく見えるのは、どの辺りですか?」 歩く大人 4/6
まばらにすれ違う人達の視線を浴びながら、足早に歩く。
私と同じ方に向かう人はいない。
当然だ、だってもう間もなくロープウェイの最終運行時刻になってしまうから。
家野さんが話をしてくださっているから少し過ぎても大丈夫だと思うけど、できるだけ早く戻らなくちゃ。
ばか。
茶寮があって、神社があって、足湯があって、展望ソファがあって。
すっきり晴れたお休みの日をこんなところでのんびり過ごせたらとっても気持ちがいいだろうな。
今は眺める余裕もないけど、左手にはアスレチックもあるみたい。
ふと抜けると、木材で組まれた展望台が現れた。
ことり「!」
駆け寄って、登る。
ことり「まりちゃん!かなんちゃん、ダイヤちゃん!?」
人は誰もいなくて、私の呼びかけに応える声もない。
どんよりとした空は、淡島から見るよりもずっと遠くて、手を伸ばす気にさえなれない。
視界の端──
ずっと伸びるパノラマパークの奥、小さな三つの影が見えた。 歩く大人 5/6
深い木々に囲まれたボードウォークを踏みしめる。
山の上だなんて嘘だぁ、と言いたくなるような光景。
ばか。
ちょっとしたウォーキングにはぴったり、でも体力作りのランニングをするには向いてないかもしれない。
こんな穏やかな空間で走っていて微笑ましいのは子どもだけ、高校生や大人が走っているのは少しみっともなく映っちゃうはずだ。
難しいことはなんにも考えないで走り回っていてくれたら、どんなによかったか。
それなら私はいつもの調子でいられただろう。
ばか。
うるさくしちゃだめだよ、なんて笑いながら追いかけることができたはずなのに。
無邪気な子どもに振り回される頼りない保護者でいられたはずなのに。
ばか。
でもね、私は大人なんだよ。
少なくとも今この時は、大人でなくちゃいけないんだよ。
ばか、ばか、ばか、ばか、ばか。
いつもみたいに頼りない笑顔で振り回されるわけにはいかないの。 歩く大人 6/6
木々を抜けて、視界がひらけて、二つ目の展望台。
寄り添う影。
もう、ずっと前から目が合ってる。
近づいてくる私から視線を逸らさないまま、三人はぎゅっと抱きしめ合って、ただただ私を見つめてる。
カチ、バサ──
黒く大きな傘で三人を包んで、私は。
ことり「帰るよ。まりちゃん、かなんちゃん、ダイヤちゃん」
お願いだから、心配させないでよ────ばか。 雲の下で涙と祈りを 1/7
ダイヤ「こ、ことりさん…カサは、ここまで…ささずに来たのですか…?」
ことり「うん、速く歩くのに邪魔だったから」
かなん「ことちゃん、濡れちゃってるよ。ことちゃんも入って」
ことり「帰ったらお風呂に入るから、大丈夫だよ」
ことり「ほら、帰るよ。もうロープウェイだって止まっちゃうんだから」グイ
まり「いや!だって、だって──まだ…ちゃんと……」
ことり「…」
ダイヤ「まりさん…」
かなん「まり…」
ことり「みんな心配してるんだよ。小原さんは怒ってた。かなんちゃんとダイヤちゃんも、お家の人に話してないよね」
かなん「…ことちゃん、まりはね」
ことり「わかってるよ」
ことり「お星さまにお祈りしにきたんだよね」
まり「!」
ダイヤ「ご存知だったのですか…」
ことり「…うん」
まり っ〔星座☆早見盤 北半球版〕と ギュ…
まりちゃんのベッドの下から、小テストが──星座の早見盤がなくなっていたから。 雲の下で涙と祈りを 2/7
ことり「ねえ、まりちゃん」スッ
まり ビクッ…
かなん「ことちゃん──
ことり ス
ことり「お星さまにお祈りしようって、かなんちゃんとダイヤちゃんを誘ったんだよね?」
ことり「まりちゃんが、誘ったんだよね?」
まり「…………」
ことり「大好きな人達とずっと一緒にいられますようにって、お祈りしたかったから」
まり「…………」
まり コクン…
ことり ハァ…
ことり「それはね、間違ってるよ」
まり「…っ」
ダイヤ「!」
ことり「私だってお友達は大切だよ、ずっと一緒にいたいって思ってる。お星さまにお祈りしたことだってある。まりちゃんにも──まりちゃん達にも、みんなのことずっと大好きでいて、仲良くしててほしいって思う」
ことり「でも、こんなやり方をしちゃだめだよ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています