絵里「車が壊れた…」
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prrrr… prrrrrr…
ピッ
希『はいは〜い』
絵里「希、今どこにいるの?」
希『どこって、もうとっくにホテルに着いてるよ〜』
絵里「そうなの?」
希『エリチこそ遅いやん。何かあったん?』
絵里「よくわからないのだけど、車が動かなくなったわ」
希『なんやどっかぶつけたん?』
絵里「知らないわよ。突然速度が落ちてきて、そのまま…』
希『どの辺?』
絵里「わからないわ。でも海岸沿いだから近くまで来てると思うけど…」
希『んー、もうちょっとでにこっちも到着するから、エリチは現在位置が分かるような目印でも探しといて』
絵里「こんなことならGPSとかそういう機能ちゃんと使っとくんだったわ」
希『ややこしいからいらないって言ってたくせに』
絵里「うるさいわね。とにかくまたかけ直すわ」
希『はいよ〜』
ピッ… カタッ
絵里「ふぅ…」ジロ…
絵里「このポンコツっ」ガンッ!
絵里「いった〜〜っ」
タッタッタッタ…
果南「ん?」
絵里「カッコだけで外車なんて選ぶもんじゃないわねぇ…ハァ」
果南(旅行客かな?……金髪デニムパンツにサングラスって、映画にでてきそうな人…)
絵里「ん……あ、ねぇ!」
果南「え!?」ドキッ
絵里「いきなりごめんなさい。あなた地元の人?」
果南「そうですけど…」
絵里「よかったらここがどこだか教えてくれないかしら?」
果南「え……内浦ですけど」
果南(声も綺麗……絶対美人だなこの人)
絵里「内浦…って、沼津のどの辺?」
果南「この辺りはだいたい真ん中かな」
絵里「真ん中……」
果南「はい」
絵里「真ん中って言えば伝わるかしら?」
果南「え?」
絵里「つれにどこにいるのか場所を伝えるのに、それで大丈夫?」
果南「たぶん曖昧すぎて無理じゃないかなーと」
絵里「どうしよう?」
果南「と、言われても…なにかあったんですか?」
果南「車の故障ですか」
絵里「そうなの。ポンコツで困ったものだわ」
果南(クラシックカーのようだけど、高そうだなー)
絵里「旅行先のホテルに友達がいるんだけどね、場所がうまく伝えられないからレッカーも呼べないし…」
果南「旅行先か……この辺りのホテルですか?」
絵里「この道をとにかくまっすぐ行くとあるホテルらしいのよ。目立つからすぐわかるって」
果南「ふむ……ホテルオハラですね?」
絵里「ああそう、確かそんな名前だったわ!」
果南「なるほど了解。なんとかなると思いますよ」
絵里「えっホント?」
prrrr…… ピッ
果南「ああ鞠莉? ちょっとお願いがあるんだけど…うん、今ね…」
絵里(どういうことかしら?)
果南「うん…そう、たぶんその途中で見つかると思う……私はこの後店の手伝いがあるから」
ピッ…
絵里(高校生に見えるけど…)
果南「えっと、なんとかなりました」
絵里「え!?」
果南「少しすればここに牽引車が来るんで、一緒にホテルへ向かってください。この場合レッカーかな?」
絵里「ちょっとまってどういうこと?」
果南「ホテルオハラに知り合いがいて、ホテルの地下に設備もあるから車の調子も見てもらえそうです」
絵里「最近のホテルってそんな設備まであるの?」
果南「さあ? あそこだけかもしれませんけど」
絵里「ほえー」
果南「場所が場所だけに、あると便利ではあるみたいですけどね」
絵里「そうなのね」
果南「それじゃ私は用事があるので」サッ
絵里「待って、何かお礼を……」
果南「そんな大したことしてないですし、いいですよ」
絵里「でも、なにかしたいわ」
果南「んー……あ、それなら……」
-ホテルオハラ ロビー待合所
希「お、やっと到着やね」
にこ「初日からついてないわね」
絵里「ほんとよーまったく…」ドサッ
希「カッコつけてマイカーで行くとか言うから」
絵里「それは別にいいでしょ。実際ドライブするにはいいところだし」
にこ「ご自慢の車は?」
絵里「ここの整備工場に預けてあるわ」
希「え、どゆこと?」
絵里「そういう反応するわよね」
にこ「ここってあれでしょ、遠方から来るお客さん用にそういう設備や施設があるらしいじゃない」
絵里「専用の海底トンネルを使ってるって言ってたわ」
希「へ〜」
にこ「それより今日はもう外でれないんだし、夕食の後に明日の計画決めちゃわない?」
希「そうやね。行って見たいとこはたくさんあるし」
絵里「あ、それなんだけど……ちょっといい?」
にこ「ん?」
絵里「二人ともダイビングとか……興味ある?」
希「ダイビング?」
にこ「真冬になに言ってんのよ」
絵里「冬は冬で見どころがあるらしいのよ」
希「それでもこの寒空の中、ちょっときついんとちゃうかなぁ」
にこ「興味ないわけじゃないけど、それなら夏にやりたいわ」
絵里「…………」
希「エリチはダイビングがしたいん?」
絵里「したい……というか、それがお礼になるならって感じ」
にこ「どういうことよ…」
希「なるほど、そのお世話になった子の家がダイビングショップを経営していて…」
にこ「オフシーズン中は売上が寂しいのでよかったらどうかと…」
絵里「そうなのよ」
希「じゃあエリチは明日ダイビングということで」
にこ「せいぜい楽しんでらっしゃい」
絵里「え、一緒に行ってくれないの!?」
希「寒いし」
にこ「私は水族館に行く」
希「あ、うちもにこっちと一緒に行こうかな」
絵里「薄情者っ」
-翌日 淡島
絵里「いい天気だけど、やっぱり海沿いは寒いわねぇ……」
タッタッタ…
絵里「あれ、あそこで走ってるのって昨日の……」
果南「…………」タタタ…
絵里「ん、そういえば昨日も走ってたような…」サッ
果南「……っと」タッ
絵里「ジョギングでもしてるのかな?」
タッ! ダン、ザッ…
絵里「ん……踊りだした……?」
タタンッ… ザッ
果南「っ……とっ……ほっ」トトッ
絵里「………………」ジー
トトンッ、サッ、ザッ…
果南「はぁ……ふぅ……んしょっ」タッ
絵里「………………」ジー
タッタッタッ、バッ……
絵里「このダンスは……」
果南「……はぁ、ふぅ……ん?」チラッ
絵里「…………」ジー
果南「わぁっ!?」ビクッ
絵里「!?」ドキッ
果南「あ、あれ昨日のお姉さん?」
絵里「ああごめんなさい、驚かせちゃって」
果南「いえ…それはまぁ……はは……」
絵里「…………」
果南「その、見てました?」
絵里「ええ。ダンスの練習をしていたようだけど」
果南「はぐぅ……恥ずかしい〜…」
絵里「とても上手だったわよ」
果南「はう……」
絵里「ねえ、もしかしてだけど…」
果南「ん?」
絵里「あなたって、スクールアイドルをやってるの?」
果南「えっ!?」ドキッ
絵里「ああ、違ってたんならごめんなさい」
果南「ど、どうしてそう思ったんですか?」
絵里「さっきのダンス、一人で踊る振り付けじゃなかったように見えるし、目線も遠く全体を見渡すようにしていたから…」
果南「…………」
絵里「それにとってもステキな笑顔だったわ。それってとっても大事な要素じゃない?」
果南「スクールアイドルの……ですね」
絵里「あなたくらいの年でそういう練習をしているのならって想像だけど…」
果南「すごいですね。お姉さんの言う通りですよ」
絵里「やっぱりそうなんだ」
果南「はい。スクールアイドル……やってます」
絵里「そっかぁ〜。スクールアイドルかぁ……」
果南「練習してるところを見られるのは、ちょっと恥ずかしいですね」
絵里「ああ、ごめんね。たまたま見かけて、そのまま見惚れちゃって…」
果南「え…あ……ども…///」
絵里(可愛い……二年か三年生かな?)
果南(やっぱりすっごい美人さんだった……というか、どこかで見たような?)
果南「あ、車は大丈夫でした?」
絵里「今整備中だって。こんなところでもできるなんてすごいわね」
果南「金持ちの考える事はよくわかりません」
絵里「まぁそのおかげで助かったんだけどね」
果南「お姉さんは一人で何してるんですか?」
絵里「つれと観光に来たんだけどね、今日は水族館に行くって別行動よ」
果南「水族館行かないんですか?」
絵里「あなたがダイビングなんてどうかってすすめてきたんじゃない」
果南「え、あ、あぁ……ホントに……?」
絵里「今は客足が寂しいからぜひって言ってたじゃないのよ」
果南「いやまぁそうなんですけど、まさかホントに来てくれるとは思わなかったです」
絵里「えーなによそれー」
果南「いえ、あの、来てくれるのは嬉しいです。お客さんが少ないのはホントなので」
絵里「あなたはお店の従業員なのよね?」
果南「親の手伝い程度ですけどね。今はこっちが優先なんで」タッ
絵里「スクールアイドルか…………ん?」
果南「ん?」
絵里「今の時期って………もしかしてラブライブにでるの?」
果南「あれ、知ってるんですか?」
絵里「ええ……あれ、でも確かもうじきあるのって本戦だったような…」
果南「はい」
絵里「………え、でるの? 本戦?」
果南「まぁ……はい」
絵里「え〜すごいじゃない!」
果南「っ///」
絵里「あ、じゃあさっき練習していたのって本戦用のダンスだったの?」
果南「はい。なんか二曲必要だってことらしいので」
絵里「あー優勝したらアンコールでその場でもう一曲やらないといけないからね」
果南「できるかどうかも分からないのにみんな準備はしておくんだそうです」
絵里「未発表曲が前提だからね」
果南(……詳しいな)
絵里「ふむ……となると少し事情が変わってくるかなー」
果南「?」
絵里「っと、こんな感じだったかしら…」
スッ…… サッ タタンッ
果南「え…!?」
クルクル ダンッ タタン… ストッ
果南(さっき私が踊っていたステップ……もしかして覚えて……いや、それよりも…)
タタタン タタタン タンタン… ババッッ!
絵里「〜♪ 〜♪」
果南(キレイ……同じステップなのにこんな風に見えるなんて……)
……トンッ
絵里「……っと…ん、どう?」
果南「え……あ、えっと……すごかったです」
絵里「それだけ?」
果南「とてもキレがあって、キレイに見えました」
絵里「そう感じてくれたんだ、ありがとっ」
果南「でも、どうしてあのダンスを?」
絵里「さっき見させてもらったからね」
果南「あんなにあっさりと完コピされるとちょっと複雑な気分です」
絵里「そこは私がすごいってことで、ヘコまなくてもいいわよ」
果南「自分で言うんですね……って、確かにすごかったです。でも……」
絵里「ん〜?」
果南「何が違ったんだろう。私とお姉さんのダンス……」
絵里「あなたのダンスも十分すごいわ。ラブライブ優勝を狙うグループのレベルだってわかるし」
果南「……………」
絵里「でも、何度やっても絶対の自信になんてならないし、時間の許す限り練習はする」
果南「はい……」
絵里「それでも拭え切れない、ずっと纏わりつく緊張と不安の中で、少しでも高みを目指す…」
果南「…………」
絵里「限られた時間の中で……か。いいわね、スクールアイドル」
果南「あの、もしかしてお姉さんは……」
絵里「ねえ、よかったら昨日のお礼、違う形にしてもいいかしら?」
-夜
にこ「はぁ? ダンスレッスン?」
希「エリチが?」
絵里「そうよ。可愛いスクールアイドルと出会っちゃったからね〜」
にこ「スクールアイドル!?」ガタッ
希「おや、懐かしい響きやねぇ」
絵里「昨日お世話になった子がスクールアイドルをやっていてね、もうじきあるラブライブに出場するんだって」
にこ「もうすぐって……決勝大会じゃない」
希「最近のラブライブってすごい競争率なんやろー?」
にこ「参加校が年々増えてるらしいからね。地方大会を勝ち抜くのも大変なのよ」
絵里「この辺ってことは静岡代表ってことよね?」
にこ「その子が地元の高校生ならそうなるわね」
希「なんやエリチ、敵に肩入れか〜?」
絵里「なによ敵って」
希「東京勢は応援せんの?」
絵里「別にどこかを贔屓して見てないわよ」
にこ「昨今は東北や北海道に強いとこが多いのよ」
絵里「強い弱いとかいう基準なの?」
希「採点基準は昔からようわからんとこあるけどね〜」
絵里「そうね……でも……」カタッ
にこ「わかってないわね〜希」
絵里「明確な基準がないからこそ、自分達を表現するための最高のパフォーマンスを模索する。それがいいんじゃないの」
希「ん……ま、そうやねぇ」
にこ「学生競技の醍醐味よね〜」
-次の日
絵里「はい、おはようございます」ザッ
果南「お、おはようございます…」
絵里「ん…元気だしていきましょっ」キリッ
果南「は、はぁ…」
果南(なんかお礼にダンスレッスン受ける事になったけど……すごいやる気だなぁ)チラッ
絵里「それじゃ軽くストレッチからはじめましょ」
果南(でもこのお姉さんに感じたあの感覚……あれがわかれば私は……)
絵里「さっ、時間も少ないしやるわよ……えーっと……」
果南「…………?」
絵里「今さらだけどあなたの名前、聞いてなかったわ」
果南「あ……私もお姉さんの名前知らないです」
絵里(て、スクールアイドルならもしかして私達の事知ってるかも?)
果南(でもなんか見覚えはあるような気はするんだけど…)
絵里「………………」
果南「私は松浦果南。浦の星女学院の三年です」
絵里「あ、ああ……松浦さんね。三年生だったの」
果南「はい」
絵里「私は……えっと……」
絵里「あ、亜里沙よ」
果南「アリサ…さん」
絵里(亜里沙の名前で誤魔化しちゃった……)
果南(名前聞いてもピンとこないし、気のせいかな?)
絵里「それじゃカナン、始めるわよ」
果南「はいっ」
――
―
てっきりコレ系のネタスレかと
女『車のエンジンがかからないの…』
男『あらら?バッテリーかな?ライトは点く?』
女『昨日まではちゃんと動いてたのに。なんでいきなり動かなくなっちゃうんだろう。』
男『トラブルって怖いよね。で、バッテリーかどうか知りたいんだけどライトは点く?』
女『今日は○○まで行かなきゃならないから車使えないと困るのに』 タンッ タタンッ ザッ
絵里「……‥…」
クルクルクル… タンッ
果南「ハア…ハァ…ふぅ……」
絵里「ん……振り自体はそこまで複雑ではないのね」
果南「裏技っぽい奇抜なのは予選でやっちゃったから…」
絵里「そうなの。でも複数で魅せるフォーメーションとしてならいいんじゃない」
果南「正直、今の私達にできる最高をやったつもりだったけど……」
絵里「………ん?」
果南「お姉さんの……アリサさんのダンスは、特別綺麗に見えた……同じ振り付けなのに…」
絵里「それは単純な理由ね」
果南「わかるんですか?」
絵里「私がダンス講師をしている先生だからよっ!」ビシッ
果南「せ、先生だったんですか…」
絵里「小さなダンスサークルだけどね」
果南「は、はぁ……あんまり違いはわかりませんけど」
絵里「本職ってことよ」
果南「…………それはわかりますけど、でも……」
絵里「単純なレベルの差ってだけじゃ納得できない?」
果南「私がまだまだだっていうのは解ってるけど……ラブライブの決勝にはもっと上手いグループがいる…」
絵里「そうね」
果南「そしてそんなグループでも優勝できるとは限らない…」
絵里「技術の問題だけじゃないからね」
果南「それもアリサさんは分かっているなら、どうしてダンスレッスンなんて…」
絵里「それも単純な理由ね。あなたに可能性があるからよ」
果南「可能性って……私がそんな短期間でアリサさんのようになんてとても…」
絵里「私のようになる必要はないわ。ラブライブ決勝には今のカナンの実力でも十分通用する」
果南「それってどういう意味ですか?」
絵里「私とカナンでは、実は大きな差はないのよ。ようは背負っているものの差ね」
果南「背負っているもの……」
絵里「ダンスのその先にあるものに対して、あなたが目を反らせないでいるから……かしらね」
果南「その先……ラブライブ優勝………」
絵里「そうね。カナン、あなたはラブライブ決勝大会にでるのは初めて?」
果南「はい」
絵里「そう。予選会には?」
果南「それはあります。でも……」
絵里(敗退……か…)
果南「私達三年は次の大会が最初で最後…だから……」
絵里「それよ」
果南「え?」
絵里「カナンが気負っているもの。最初で最後、負けたら終わり……負けた事がある分余計に意識しちゃうわよね」
果南「それは……そうだけと……」
絵里「どんなに明るく振る舞っても、最後の最後でその一線が切れないでいる。知っている分、よりリアルにね」
果南「…………」
絵里「だから私のレッスンはただ一つ……カナンの不安を自信に変えてあげる事」
果南「自信……」
絵里「あなたのダンスの中で、いくつかある細かい部分を修正するわ」
果南「それが自信になる…のかな?」
絵里「カナンがこのレッスンをやり遂げられれば、必ずなるわ」
果南「アリサさんのほうがものすごい自信ですね…」
絵里「ふふ、私の本気のしごきは怖いわよ?」
-夜
希「で、ダンスレッスンのほうはどうなん?」
絵里「細かい修正案を示しただけで、本格的なのは明日からよ」
にこ「あんた、旅行中ずっとそんなのやってるわけ?」
絵里「これはこれで楽しいからいいのよ」
希「それにしても、ラブライブ決勝か〜」
にこ「懐かしいわね」
絵里「そうね。思い返してみればホント、無茶ばかりしてたわね」
希「でもうちらって、結局最後まで無敗やったやん?」
にこ「公式ではそうね。辞退はしたけど」
希「そういう意味でも、やっぱり負けを意識しなかったっていうのは幸運やったんやね」
絵里「そうかもしれないわね」
にこ「優勝は目指してたけど負けたらどうなるかなんて、結局私にもわからなかったわ」
希「すごい集団だったってことかな?」
絵里「怖いもの知らずがただ暴れただけよ」
にこ「この私がいるのよ、当然じゃない!」
希「さすが人気配信者やね」
絵里「え、あの動画配信って人気あったの?」
にこ「失礼ね、あるわよっ!」
希「あ、そういえばなんで偽名なんて使ったん?」
絵里「え、だって数年前とはいえ今の私と名前でもしかしたら元μ’sだってバレるかもしれないじゃない」
にこ「バレちゃダメなの?」
絵里「恥ずかしいわ」
希「なんなんそれ」
にこ「あぁ、そういえば昔の動画のどれかだかで、ミスってるのがあるとか言ってたっけ」
絵里「そうよ。先生ぶってえらそうな事言っといてあんなものは見られるわけにはいかないのよ」
希「ミスってのもあれやろ、言われてもよくわからん拘りレベルの小さいやつやろどうせ」
絵里「わかる人にはわかるのよ。あぁ……なんであんなものが永遠に残るのかしら…」
にこ「先生も大変ね」
希「でもその子らのグループって九人なんやろ?」
にこ「私もちょっと見たけど、なかなかのもんじゃない」
絵里「そうね。レベルは十分だと思うわ」
希「そんなグループの一人だけを今さらどうにかする必要があるん?」
絵里「あるに決まってるじゃない」
-次の日
タッ タタタッ タンッ!
絵里「はいストップ」
果南「ハァ、ハァ……」
絵里「カナン。あなた足腰が強いのね、体力も相当なものみたい」
果南「え…まぁ、毎日色々やってるし……」
絵里「でもダンスは自己流……だから全部身体機能で補う傾向にある」
果南「それがダメということですか?」
絵里「ステップやターンのほとんどを脚力とバランス感覚でカバーしている」
果南「ん? そういうものなんじゃ……?」
絵里「普通に踊る分にはまぁ十分よ。ただ、カナンが感じたあなたと私の違いはそこにあるわ」
果南「……………」
絵里「まずターンに関して、ステップからの流れを意識しすぎて脚で回ろうとしているわね」
果南「はい…」
絵里「ターンは腰で回るの。下半身と上半身それぞれのバランスでね」
果南「腰……」
絵里「下から持ち上げるのでもなく、上半身で引っ張るのでもない。直前のステップに流されないで、軸一本で回るの」
果南「んん?」
絵里「例えばそうね……カナンっ」
果南「はいっ」
絵里「つま先だけで立って、足腰を深く曲げることなく飛んで見て」
果南「え、ええ!?」
絵里「そして着地前に綺麗に一回転するの。360度綺麗にね」
果南「………………」
タッ クルッ …トンッ
絵里「んー…260度ってところかしら」
果南「はぁ…ふぅ……むぅ……」
絵里「一回転までもう少しね。はい、もういっかい」
果南「はいっ」
タッ クルッ トッ
果南「………くっ」
絵里「回るための時間稼ぎに高く飛ぼうとしても変わらないわよ。ジャンプ到達点でクルっと回る、これだけ」
果南「はぁ……難しい……」
絵里「基礎を自己流でやっていた分、窮屈に感じるでしょうね」
果南「ん……もう一回……」タッ
―――
――
絵里「………………」
タンッ クルッ トッ タンッ クルッ トッ
タンッ クルッ ザッ タンッ クルッ …ザッ
果南「はぁ、はぁ、もうちょっと…」
絵里「楽しそうね」
果南「え?」
絵里「単純動作の繰り返しなのに、どんどん楽しくなってきてない?」
果南「ま、まぁ……はい」
絵里「どうして?」
果南「んー……」
果南「今まで複雑なステップとかあっても、わりとすぐ出来るようになってたんですけど」
絵里「まぁカナンの運動能力なら色々できそうね」
果南「でも、やっぱり私よりすごい人なんてたくさんいて、自分の世界がいかに狭かったかって思い知って…」
絵里「ふむ………」
果南「だけどアリサさんのこの特訓をきっかけに、私はもっと先へ行ける……レベルアップできるって思うとつい」
絵里「なるほどね」
タッ クルッ ……ストッ
果南「………あ」
絵里「ん、今ほぼ回りきったんじゃない?」
果南「で、出来ました?」
絵里「そうね。正直今日一日かかるかなと思っていたのに、たいしたものね」
果南「あ、ありがとうございます」
絵里「ふふ、いい笑顔ね。それじゃおもしろいものを見せてあげるわ」
果南「ん?」
ス… タンッ クルッ ストッ
果南「え…さっきの一回転……でも……」
絵里「んー、350度ってところかしら?」
果南「…………?」
絵里「私はこれで綺麗に一回転なんて、できないわよ?」
果南「は、え、ええっ!?」
果南「でもこれがアリサさんにあって私にないものなんじゃ?」
絵里「私はできるなんて一言も言ってないし、カナンに必要な事とも言っていないわ」
果南「えっと……どういうことですか? さっきいかにも専門的な説明もしていたのに…」
絵里「ターンのコツとして言ったのは本当よ。でもこれができるからといって、あなたが私に見た印象は得られない」
果南「じゃあどうして…」
絵里「あなたが思うスゴイ私は、あなたが出来る事が出来ない。それはあなたが本来もっている実力の一つ…」
果南「私が……」
絵里「カナン。あなたはもっと自信を持っていいわ。この私が保証してあげる」
果南「アリサさん……それがこの特訓の目的?」
絵里「笑顔っていうのは、伝染するの。同じステージ上の仲間にも、会場のお客さんにも」
果南「はぁ…」
絵里「その笑顔をもっとステキなものにするのは、あとは内からくる自信に満ち溢れた自分自身なのよ」
-夜
希「アイドルは人を笑顔にさせる……偉人の名言であったね」
絵里「そうね」
希「それで、ダンスレッスンは終わったん?」
絵里「そのつもりだったんだけど、明日は明日で細かい部分をもっと見て欲しいって言われて」
希「頼りにされてるやん、先生」
絵里「きっともう大丈夫よ。あの子達なら」
カチャ
にこ「ふぃ〜やっぱリゾートホテルの設備って最高ね〜」ホクホク
希「お、本家や」
絵里「本物だわ」
にこ「んー?」
-次の日
絵里「はい、おはようございます」ビシッ
果南「おはようございます!」キリッ
絵里「それじゃー今日は……」
果南「あの……絢瀬絵里さん」
絵里「……………」
果南「……ですよね、μ’sの」
絵里「ふ、ふふ……よく気がついたわね」
果南「あ、やっぱり…」
絵里「ふぅ、あれだけ動画が出回ってちゃさすがにバレるか……」
果南「いえ、動画は見た事ないんですけど…」
絵里「あら、じゃあどうして?」
果南「最近まであんまり他のスクールアイドルとか見てなかったというか、興味なかったんですけど」
絵里「にこや花陽が聞いたら正座させられそうね」
果南「友達に一人スクールアイドルの、特にμ’sの熱狂的信者がいて、いくつか画像を見せてもらったことがあったんです」
絵里「信者って、もう随分昔の話なのに……」
果南「それで私自身最初に会った時、どこかで見た覚えがあるなーって思ってて、昨日ふいに思い出したんですよ」
絵里「そうだったの。ごめんなさいね、騙すつもりはなかったのよ」
果南「やっぱり今でもおっかけみたいな人はいるんですか?」
絵里「さすがにもう昔の私と今の私を重ねてみる人はいないわ。あなたのお友達が今の私を見ても幻滅させちゃうでしょうね」
果南「……いえ、きっとそんなことはないと思います」
絵里「そう?」
果南「はい。だって、私は絵里さんのダンスに見惚れました。綺麗だって、目が離せなくて」
絵里「ん……」
果南「それに昔の絵里さんじゃなく、今の絵里さんのようになりたいって思えたんですから」
絵里「…………」
果南「だから………絵里さん?」
絵里「んっ……なんでもないわ。ありがとう、カナン」
果南「いえ……」
絵里「さっ、レッスンは今日で最後だけど、時間いっぱい徹底的にやるわよっ!」
果南「はい!」
-夜
にこ「明日帰るまでの時間、まだ行ってないところあるー?」
希「めぼしいところは行ったかなぁ」
にこ「絵里ー、あんたはどっかないの?」
絵里「………」
希「エリチ?」ヒョコッ
絵里「わぁっ!?」ビクッ
にこ「スマホで何見てんの?」スッ
絵里「あ、こら!」
希「ん、写真……エリチと、これは誰?」
にこ「あ、確かスクールアイドルの…」
希「これが例の一番弟子?」
絵里「そんな大袈裟なものじゃないけど、まぁそうね」
にこ「あらら、いい笑顔しちゃってまぁ」
希「このツーショット可愛いやん。デカイし」
にこ「デカイわね」
絵里「もう、勝手に見ないの」サッ
希「んっ…。それでエリチは明日行きたいとことかあるん?」
絵里「ええあるわよ。三人分で予約しておいたから」
にこ「私らも? どこいくの?」
希「………はっ!?」
絵里「レッスンは車のお礼のつもりだったんだけど、なんだかこっちも貰っちゃったからね。あらためてお礼よ」
にこ「……まさか」
希「はぁ、仕方ないなぁ…」
-東京 とある宿泊施設
果南「〜♪」ニコニコ
鞠莉「カナン、さっきから何を楽しそうに見てるの?」
千歌「スマホの画像?」
果南「な、なんでもないよ。今日撮った観光写真っ!」
ダイヤ「まぁ、明日が本番だというのに呑気なものですわね」
果南「今さら何をどうしたってやる事は変わらないからね」
曜「なんだかカナンちゃん、雰囲気変わったね」
梨子「あ、私もそう思ってました」
果南「そう? 私は特になにもしてないけど?」
花丸「変わったというか、吹っ切れた感じずら」
果南「はは、そうかもね」
善子「なんかあったわけ?」
果南「んー、あったといえばあるかなー?」
ルビィ「え〜気になる」
鞠莉「なになに、白状しなさ〜い?」
果南「そんな大した事じゃ……あ、やっぱり大した事かも?」
ダイヤ「どっちですの?」
果南「はは、じゃあちょっとみんなに明日の秘訣とともに話してあげようかな」
おわり
μ'sとAqoursのss増えて欲しい。
面白かった>>1おつ 乙!μ'sとAqoursのSS、良いねぇ。良かった! おつ
ダンスコーチ一人占めとか果南ちゃん贅沢ですなあ おつ!
このssがSSラブライブの最後の更新だったよ バトンを渡すとかそういう雰囲気の有るSSに弱いんだ コピペのクソアホ絵里ちゃんかと思ったらかっこよかった 乙です、素晴らしい
絵里も果南もスクールアイドルに真剣に向き合う姿が見れて良かった >>69
あのサイトのトリを飾ったのがこの綺麗なSSで良かったよね ダンス周りの特訓、なんか良かった
我流の天才を超一流が育てる系好きだからかな 終ったSSばかり伸びて現行SSが伸びない可哀想な作者 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています