ダイヤ「真夏は誰のモノ?」ルビィ「SUMMER VACATION」
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ーーーーー静真高等学校‐第二学年教室
ルビィ「え…お姉ちゃんが…?」
【黒澤ルビィ‐静真高校ニ年‐旧網元・黒澤家第十六代当主第二位継承資格者】
善子「誰からの?」
【津島善子‐静真高校二年】
花丸「さぁ…果南さんか、鞠莉さんだと思うけど…」
【国木田花丸‐静真高校二年】
ルビィ「うん…じゃあ…」ピッ
善子「誰?」
ルビィ「花丸ちゃん……」
花丸「え、おら?」
善子「いやずら丸、電話っていうのは…」
花丸「それぐらいわかるずら」
ルビィ「お姉ちゃんが…浦の星にいるって……」
花丸「え……」
善子「……?何でよ」
ルビィ「…わかんない、けど………」 ーーーーー旧浦の星女学院‐二階‐生徒会室
果南「最近聞いてた。浦の星に誰かいるって…ファンの人とか、なんかの業者の人かと、思っていたんだけど…」
【松浦果南‐ケアンズ留学センター‐スクーバインストラクター資格実習生】
ダイヤ「……ご迷惑をおかけしました。最近、疲れることが多くて…」
【黒澤ダイヤ‐某国立大学‐文教育学部生‐旧網元・黒澤家第十六代当主第一位継承資格者】
果南「……そういう事じゃないよ。私が聞いてるのは、何故ここに来たかであって…」
ダイヤ「何故って?どうしてそんな事を…」
果南「そりゃそうでしょう?浦の星は、もう廃校になって……」
ダイヤ「果南さん……私を馬鹿にしていますの?一緒に、この学校の最期を見届けたではありませんか」
果南「だから、聞いてるんでしょ?」 ダイヤ「え…」
果南「卒業して、Aqours も引退して、それで、今でしょ?」
ダイヤ「私は東京の大学へ行ったんです」
果南「じゃあどうしてここにいるの?それも、今日だけじゃないんでしょ?」
ダイヤ「おかしいですか?」
果南「ちょっと待って…わかんない、何?」
ダイヤ「妙なことを言っているのは貴女のほうでしょう……」
果南「ごめん…私正直、今ダイヤとちゃんと話せてる気がしない…ねぇ、ちょっと千歌のとこでも行かない?」
ダイヤ「…は?急に何ですの…?」
果南「とりあえず、ここから出よう」
ダイヤ「しかし、私には仕事が…」
果南「仕事?…って…」
ダイヤ「……」 ーーーーー静真高等学校‐第二学年教室
善子「なんで生徒会長が…」
花丸「もう生徒会長じゃないずらよ、善子ちゃん」
善子「わかってるわよ…で、今の自体は?」
ルビィ「果南ちゃん」
善子「は?あの人海外になんかインストラクターがなんだって言って渡航したんじゃないの?」
ルビィ「もう少し英語やってからだって…果南ちゃんは別に構わなかったみたいなんだけど、お姉ちゃんがね」
花丸「それで、そのダイヤさんが…」
善子「そうよ、なんで今更浦の星にいるのよ。おかしいじゃない」 月「どうしたの?」
【渡辺月‐静真高校三年‐生徒会長】
善子「ぁ…えと…」
ルビィ「ううん、何でもないの。ルビィ、ちょっと行ってくる」
月「…そう?」
ルビィ「うん」
月「もし何か困ってるとかだったら、いつでも言ってね」
ルビィ「……うん、ありがとう」
花丸「ルビィちゃん、なんだか強くなったずら」
ルビィ「そう?」
花丸「そんで善子ちゃんは……」
善子「ヨハネよ!うっさいわねぇ……まだ慣れてないのよ!私リア充っぽい人に慣れるの時間かかるんだから……」
ルビィ「一緒にイタリア行ったじゃん……」
善子「それは……」
ルビィ「それは?」
善子「それはそれよ!これはこれ!」
花丸「めちゃくちゃずら」 −−−−−旅館『十千万』
千歌「果南ちゃん……いきなり連絡あったけど、何……?」
果南「ダイヤがちょっとね……ていうか、なんで学校行ってないのさ」
千歌「三年は代休なの……東京にいるはずでしょ?」
果南「浦の星にいたらしいの」
千歌「え?なんで」
果南「本人に聞いてみたんだけど要領得なくて…そんで…」
千歌「ここに?」
果南「うん」
千歌「え、それも変じゃない?」
果南「まぁ…確かに…」
千歌「とりあえず私の部屋来てよ」 −−−−−同・2階高海千歌自室
千歌「ダイヤちゃん?久しぶり」
ダイヤ「あら千歌さん……?どうして学校に行っていないのですか!?」
千歌「代休なんだってばー」
果南「……それを言うならダイヤでしょ?」
千歌「そーだよ!なんで?なんでダイヤちゃんここにいるの!」
ダイヤ「私は学校なら先程までいました!なのに果南さんが……」
果南「あそこは浦の星でしょ。ダイヤが卒業した学校だよ」
ダイヤ「え……」 果南「だから何度も言ってるじゃん…ダイヤはもう、あそこの生徒じゃないの。ダイヤだけじゃなくて、あそこに生徒は誰一人いないんだよ」
ダイヤ「それは……え?それはわかっていますわ!!!」
千歌「うわっ!他のお客さんもいるからぁ!……ていうか…え?」
果南「……ね?」
千歌「ダイヤちゃん…なんかちょっと……」
果南「噛み合わない…」
千歌「っ………」
ダイヤ「何なんですの二人とも!!果南さんも!千歌さんも!私を……」 ダイヤ「………っ!!」ダッ
果南「ダイヤッ!!」
「千歌ちゃん!?今………!」
千歌「あ…………」ガラッ
果南「………………なんで」
千歌「梨子ちゃん、なんか、あのね…」
梨子「今、ダイヤさんが……?」
千歌「そう……なんでか、私も…」
梨子「なんで…?…東京で……」
千歌「わかんないんだよ……みんなわかんない」
果南「鞠莉………いや、鞠莉には……」
千歌「…ダメだよ。鞠莉ちゃんには言わなきゃ」
梨子「どこに行ったんだろう……」
千歌「家に帰った…のかな?」 −−−−−都道府県道17号線路上-『十千万』から約10m地点
ダイヤ「……どうして……………」
ダイヤ「私は生徒会長で………」
ダイヤ「いえ、もう、そうではない……?」
ダイヤ「大学…大学……東京の?」
ダイヤ「帰らないと………」
ダイヤ「……どこに?」
ダイヤ「ぁ……そう…氷川台駅前……4丁目…201号室?」
ダイヤ「そんなとこ知らない…………」
ダイヤ「暑い」 ーーーーー静真高等学校‐校門
ルビィ「じゃあね」
善子「果南とダイヤのとこ行くんでしょ?一緒に行くわよ、私も」
ルビィ「ううん、大丈夫。一人で」
善子「そう……?]
ルビィ「大丈夫。じゃあね」スタスタ
花丸「善子ちゃん、いくずら……じゃあね、ルビィちゃん」
善子「…………無理するんじゃないわよ」
善子「…………………」
善子「ねぇ、ちょっと冷たいんじゃない?」
花丸「?」
善子「ダイヤがわざわざ東京から戻ってきて、浦の星にいるなんておかしいじゃない。きっと何かあったのよ?あんたは気にならないわけ?」
花丸「気にはなるずら。でも、最近ルビィちゃんはどんどん成長してきてる。1人で、誰かに頼らずに動けるようになっている。オラはそれを、なるべく邪魔したくないずら」
善子「それは……それはわかるけど、だけど…私たちにとってだって、ダイヤは仲間じゃない」
花丸「その前に、ダイヤさんはルビィちゃんのお姉ちゃんずら。ルビィちゃんが1人で会うことを選んだんだから、それがきっと正しいんだと思う」
善子「…………ルビィは、成長してるって言うのかしら」
花丸「え?」 −−−−−旅館『十千万』
果南「最近、ダイヤとは会ってた?」
千歌「ううん、全く…驚いた」
梨子「話を聞いても、あんまり実感が湧かないわね」
千歌「そうだよね…あれは、うーん」
果南「…病気?」
千歌「……でも、ちゃんと喋ってはいるし」
果南「成立してなかったでしょ、あの会話」
梨子「だとしても、何の病気なのか…私たちには全然わからない」 果南「…でも、もし何か心の病気だったとしたら」
梨子「私たちにはどうにも出来ない、わね」
果南「いや、そうじゃない。確かにそうでもあるんだけど……」
千歌「!黒澤家……だもんね」
梨子「え………いや、でも…」
果南「黒澤家は“そういう家”だよ。あの家から心が病んだ人間を出す……それも、次代当主となる娘が。有り得ない。徹底的に隠蔽されるはず」
梨子「そんな!そんな時代錯誤な……」
果南「梨子、それが内浦なの。1年間過ごしただけだときっとわからない。黒澤家のような内浦の歪みを、梨子は理解できないだろうね」
果南「でも、私たちにとってはそれをすんなり受け入れてしまうような育てられ方を、生き方をしてきた」
梨子「そんな……」
千歌「仕方ないんだよ。仕方ないの…でも」 −−−−−黒澤家
ダイヤ「………!ん…?ここは……」
「お帰りなさい、ダイヤさん」
ダイヤ「!お母様……ただいま…?どうして私、ここに………?」
「道に倒れていたのを通りすがりの方が見つけて下さいました。質問をしたいのはこっちです、ダイヤさん。貴女は東京の大学に通っていたはずです。何故内浦に戻っているのです」
ダイヤ「私……私は浦の星女学院の生徒会長です!お母様まで…」
「何を……?」
ダイヤ「東京…?……いえ、私はそうじゃない…まだまだやらなくてはいけないことが、沢山、廃校も阻止して、ラブライブも優勝して………」
「ダイヤ………」 −−−−−黒澤家
ダイヤ「………!ん…?ここは……」
「お帰りなさい、ダイヤさん」
ダイヤ「!お母様……ただいま…?どうして私、ここに………?」
「道に倒れていたのを通りすがりの方が見つけて下さいました。質問をしたいのはこっちです、ダイヤさん。貴女は東京の大学に通っていたはずです。何故内浦に戻っているのです」
ダイヤ「私……私は浦の星女学院の生徒会長です!お母様まで…」
「何を……?」
ダイヤ「東京…?……いえ、私はそうじゃない…まだまだやらなくてはいけないことが、沢山、廃校も阻止して、ラブライブも優勝して………」
「ダイヤ………」 ダイヤ「!!!私、すぐに寮の部屋に戻りませんと!課題もたくさん残っていますし、今日の夜からは雨が…今の内に取り込んでおきませんと、制服が濡れてしまいます」
ダイヤ「お母様、お母様、私もう東京に戻りませんと。ここから大体20分程度でしょうか?すぐに、すぐに……生徒会の仕事がまだ残っているのです」
「……そう、西木野の家の者を呼びなさい。何人かはこちらに来ているはずです。えぇ、えぇ。ダイヤが。それと、ルビィが帰ってきたら私の部屋に呼びなさい。この場は任せます」
ダイヤ「お母様、聞いていらっしゃいますの!?私の!私の話を聞いて!!!!」
「………………」コク
ダイヤ「お母様……?…ゥッ」ドサッ バタッ
「座敷に連れていきなさい」
「……………………」ペコリ −−−−−和洋菓子屋『松月』
善子「だから、あれは“成長してる”って言えるのかって話よ。なんか、ただ無理してるだけのような気がするのよね」
花丸「無理してる…という風には見えないずら。それは善子ちゃんが、善子ちゃんの中だけで考えているだけ…黒澤ルビィは、姉の卒業という状況に強いられて変わっていく、という前提で考えているからそうなってしまう」
善子「……私の認識が間違ってる、ってこと?」 花丸「黒澤ルビィは、最初から黒澤ダイヤのような厳しさと孤高さをその小さな身体に隠していた……それがあくまで自然に現れただけで、決してルビィちゃんが無理をしている訳では無い、とマルは思う」
善子「そうかしら…私はあまり納得出来ないけど」
花丸「もちろん、今のはマルの解釈だから。善子ちゃんがどう思うかは、マルには関係ないずら」
善子「何よ、あんたも冷たいわね」 −−−−−黒澤家
ルビィ「ただいま」
「おかえりなさいませ」
ルビィ「お姉ちゃん、いる?」
「…ええ、奥座敷に」
「ルビィ………」
ルビィ「…お母さん」
「今、大学の方とお話しました。向こうのお友達とも何とか連絡を取れたので、その方々とも」 「最近、ダイヤは大学もきちんと行けていないようです。行っても何も用意していない、課題を出しても内容が支離滅裂。寮からも追い出されたそうです」
ルビィ「……なんで」
「平気で門限を破ってどこかへふらふらと行ってしまう…もしかしたら、こっちに来ようとしていたのかもしれませんが。それに寮生と共用のものをどこかにやってしまったり、人のものを自分のものだと思い込んだり…」
ルビィ「お姉ちゃん…」
「こんな時期に………」
ルビィ「え?」 「仕方ありません。元々東京からはそろそろ呼び出すつもりでしたし…1ヶ月程度早まっただけです。まぁ…こうなるとは思っていませんでしたが」
ルビィ「もしかして、こんな状態で…?まさか、やらないよね?」
「いえ、黒澤家当主代替わりの儀……近いうちに執り行います」
ルビィ「そんな……」 −−−−−同-奥座敷
ルビィ「お姉ちゃん?」
ダイヤ「ルビィ…みんな酷いんですのよ。私をみんなで…なんか…なんだか」
ルビィ「大丈夫。大丈夫だよ。お姉ちゃんがいってくれたもん。『ルビィはもう、何でもできるのですわ』って。お姉ちゃんを、絶対に不幸になんてしないから」 ーーーーー内浦ダイビングセンター-ウッドデッキ
バリバリバリバリ………!!!!!!!!
果南「!?」
バリバリバリバリ…!!!!
ビュォォォォォォオオオ!!!!!
果南「あ……!!」
鞠莉「ふぅ……ピンチになったらいつでも駆けつける…それが“小原家でしょ?”…」
果南「鞠莉…ダイヤが…」
鞠莉「ちかっちから全部聞いてるわ…浦の星に最近勝手に入っていた不審者の話も」
鞠莉「行こう、ダイヤのとこに」 −−−−−−−−−−
−−−−−−−−
−−−−−−−
−−−−−−
−−−−−
−−−−
鞠莉「どうして?」
「どうしてもです。ダイヤお嬢様に今、会うことは出来ません。お帰り下さい。いくら貴女がお嬢様の親友であろうとここを…!ルビィお嬢様」
果南「あっルビィ!ダイヤは…」
ルビィ「ありがとう。電話くれて。でももう大丈夫だから。鞠莉ちゃんまでわざわざ…ありがとう。でも、私に任せて。大丈夫だから」
果南「大丈夫じゃないでしょ…!あんな状態になってるのに……」 「違いますわ!そうじゃない!!そうじゃない!!ああああああ!!違う!違う!違う!」
鞠莉「…ほら!ダイヤの声じゃない!」
果南「っ!!!」ダッ!!!
「!?だから行かせるわけにはいかないと!」
果南「どけ!黒澤家の人畜がっ!」バシッ
「っ!?ぐっ…」 「………何をしているのですか?」
果南「……!」
鞠莉「ぁ…」
ルビィ「お母さんは中に居てよ。お姉ちゃんと一緒にいてあげてよ」
鞠莉「ルビィ……?」
「うわぁぁぁぁん……ぅぅう……ぁわ……う………ぅぅぁ」
果南「ほら……!ダイヤが…通してよ!会わせてよ、ダイヤに!」
ルビィ「幼馴染ってだけで、家族みたいな顔しないで」 鞠莉「!?」
果南「ルビィ…なんかおかしいよ、ルビィ」
ルビィ「おかしくなんかない。私は、お姉ちゃんを守るんだから」
鞠莉「ダイヤがそれを望んでるの…?私たちが、そしてダイヤが2年生や1年生、そしてルビィに望んだのは……」
果南「東京の大学で学ぶのだってダイヤがずっと望んでいたことだった。ここに帰ってくることをダイヤが本当に望んでいるわけがない」 「もう帰りなさい。貴女方がダイヤにしてあげられることは何もありません。どうせ近いうちにあの娘はこちらに戻るはずだった。秋の予定が、真夏になっただけです」
鞠莉「秋の予定……まさか!?」
「そうです。黒澤家の代替わりの儀式…第十六代目浜名主はあの娘…黒澤ダイヤとなります」
ルビィ「………………」
果南「無理でしょ…どういう状態かわかってないの…?あれは病」 「………………」ギリッ!
果南「!?」
「あの娘は、ダイヤは決して病気などではありません…………帰りなさい!」
鞠莉「代替わりの儀に使うのはうちのホテルがある淡島…絶対に使わせない。あんたの旦那の時は違う、あの島にはオハラグループが居る。外から来た私たちが、内浦の時代遅れな風習なんかに合わせる義理は無い」
「…まだ子供ね。いくらでも好きにしなさい。行くわよ、ルビィ」
果南「ルビィは…それで良いの?」 ルビィ「………………」
鞠莉「ルビィ!!」
ピシャッ!
鞠莉「絶対に止めるわ。このままじゃダイヤ、まともな治療も受けられず名ばかりの当主にさせられて、黒澤の屋敷に一生閉じ込められる」
果南「でも、どうするの?」
鞠莉「全員を集めるわ。千歌に連絡を取って」 −−−−−黒澤家-奥座敷
ダイヤ「ルビィ…さっきどなたか来ていましたの?」
ルビィ「ぁ……うん。果南ちゃんと、鞠莉ちゃんが」
ダイヤ「そうですの………」
ルビィ「うん…」
ダイヤ「最近ね、ルビィ」
ルビィ「うん」
ダイヤ「よく、ものを忘れてしまいますの」
ルビィ「それは、困ったね」 ダイヤ「そうなんですの…でも、私が困ってしまう事はそう問題ではなくて」
ダイヤ「みんなが、悲しそうな顔をしていますのよ。私は、みんなに、いつの間にか迷惑をかけているのかもしれなくて、怖いの」
ルビィ「そんな事ないよ、お姉ちゃんは大丈夫だよ」
ダイヤ「いいえ、大丈夫ではありませんわ…何となくわかるんですの。本来私は、ここにいるはずじゃない…そう、東京の大学にいたはず」
ダイヤ「でも東京の事なんて、何も覚えていない。わからない、なんにも分からない」 ダイヤ「ルビィ……?ルビィは、ルビィですわよね?私の大切な妹、貴女の事まで忘れてしまったら、私は……私はもう、自分の気持ちがわからない」
ルビィ「大丈夫。大丈夫。大丈夫だよ、お姉ちゃん」
ルビィ「(お姉ちゃんは、私に抱かれたまま寝てしまった。目が覚めた時、お姉ちゃんはいなかった)」
ルビィ「(私は1人でお姉ちゃんを探しに行った。何時間も何時間も探し回って、12kmも離れた沼津のカラオケ屋の前でふらふらと歩いているお姉ちゃんを見つけた)」 ルビィ「(異様な雰囲気のお姉ちゃんを、誰も助けてあげようとしなかったのだろうか。みんな、あんなに応援してくれたのに。最低だ。最低だ。沼津も、黒澤家も、私も)」
ルビィ「(お姉ちゃんはもう、自分がどれだけ動いたら疲れるかもわからない)」
ダイヤ「ルビィ…足が重いですわ」
ルビィ「(お姉ちゃんはもう、浦の星女学院の生徒会長ではない)」
ダイヤ「ねぇルビィ…聞いていますの?」 ルビィ「(お姉ちゃんはもう、Aqoursに華やかさと存在感をもたらしてくれる黒澤ダイヤでは無い)」
ルビィ「(お姉ちゃんは…)」
ダイヤ「ルビィ……あのね」
ルビィ「うるさいっ!今は….あ」
ダイヤ「どうして怒鳴るんですの…ルビィ、私は…」
ルビィ「ぁ…ぁあ…ごめんなさい、ごめんなさいお姉ちゃん」 ガラッ
「ルビィ、ダイヤの世話は貴女に任せます。くれぐれも次の日曜まで身体を傷つけないように」
ルビィ「次の日曜!?早すぎるよ!!」
「それは貴女が決めることではありません」
ルビィ「………………………」 −−−−−旅館『十千万』
鞠莉「集まってくれてありがとう…話っていうのは、ダイヤとルビィのこと」
善子「果南から大体の話は聞いたけど……どういうことなの?なんなのよ代替わりの儀って」
曜「そっか…善子ちゃんはずっと内浦の人じゃないもんね…あのね、黒澤家って色んなことしてるでしょ?本業の黒澤水産に黒澤興産、黒澤建設黒澤不動産…全部あの家がやってるんだよ。変だと思わない?」
善子「まぁ、そう言われれば….なんで?」 花丸「元々あの家は、網元っていうこの辺りの漁師を束ねる家だったずら。漁業だけじゃなくて色んなものを黒澤家が管理してて…その名残で漁業組合はほぼ黒澤家の意向で動いてるし…まぁ、それには反発している人の方が多いから、上手くいってるとは言い難いずらよ」
果南「そしてその黒澤家の当主は代々、“浜名主”という役職に就くんだよ」
善子「はまなぬし?」
千歌「はまのなぬし、だよ。今だとさっきの黒澤水産、それと観光業の黒澤興産。この2つをメインに取り仕切る最高責任者。それが黒澤家の浜名主」 善子「だけどダイヤ、………その、変になっちゃってるんでしょ……?そんなこと、出来ないじゃない……」
鞠莉「そう。だけど“あの黒澤家”から心を病んだ人間が出るなんて許されない。おそらく黒澤の息がかかった医者に見せ、薬やなんやを秘密裏に与えつつ、浜名主の名前だけ授けたあとは他にバレないようにあの家の中に監禁する」
果南「事実、私が聞いた昔の話だけど…そういう代もあったみたいだよ」
梨子「おかしいじゃない…どうしてそんなのがまかり通ってるの?」 花丸「それに関しては、『ここがそういう土地だから』としか言えないずら」
梨子「そんな……」
善子「じゃあ、どうするのよ。このままほっとくの?」
果南「まさか…その為に皆を集めたの。プランは私と鞠莉が立てた。みんなにはこの素案を読んで、是非協力して欲しい」バサッ 千歌「……………………」ジーッ
曜「……………」ペラペラ
梨子「………………」フムフム
花丸「………」サーッ ナルホド
善子「……………」フーン
千歌「でもこれ………」
鞠莉「そう。内部の人間の協力が必要」
果南「だから、来てもらった」 ルビィ「………………………」
善子「ルビィ!?」
花丸「………ルビィちゃん」
鞠莉「皆、もちろん断ってくれても構わない。でも、出来れば…」
千歌「……やるよ」
鞠莉「良いの?十千万に迷惑が…」
千歌「大丈夫、うちはそんなに弱くないもん!」 曜「私たちがやらないと、ダメじゃない?」
梨子「そうよ。当たり前よ」
果南「ほんとは、私たちだけで解決しないといけないことなのに…」
善子「何言ってんのよ。そんなもの、1つも無いわ」
花丸「マルたちの関係は、もうだいぶ前にはっきりしたはずずら」 鞠莉「ルビィも、良いの?」
ルビィ「……うん。お姉ちゃんが酷い目に合うのは、私も嫌だから」
千歌「……私?」
鞠莉「じゃあその案を叩き台にしてきちんとしたプランを立てる。後で全員に連絡する」 −−−−−133時間後-8月5日-早朝-気温25℃-夏日
−−−−−都道府県道17号線路上
鞠莉「現時間はマルヨンマルマル、曜、そっちはどう?」
曜『もう黒澤家の1部はフェリーのところに来てる。代替わりの儀の設営をするメンバーだと思うよ』
果南「結局、淡島を使わせないっていうのは無理だったの?」 鞠莉「もう少し粘れば行けたかもしれないけど…伝統と格式を重んじる黒澤家がそんな事をまさかしないとは思うけど、全然別の島でやりまーすなんて言われたら元も子も無いしね。それだったら介入しやすい淡島を使わせた方がマシよ」
果南「まぁそうか……千歌、そっちは?」
千歌『大丈夫。予定通り観光バスは出るよ』
果南「いけそう?」 千歌『3人潜り込ませるくらい、へーきへーき。でも、時間は遅れないでね』
鞠莉「簡単に言うわねー」
果南「!ルビィからの合図が出た、行くよ善子、鞠莉」
善子&鞠莉「了解!」 −−−−−黒澤家-裏口
ギィィイ
鞠莉「ルビィは上手くやってくれたみたいね…」
果南「奥の方では誰かが起きてるね……広いとこっちの音が聞こえなくてありがたいよ」
善子「こっち、だったわよね……」
ガチャ ガチャ
「ぁ………………………」
「………………………」
果南「暗いし…魚笠※1被ってるからよくわかんない」
善子「まぁ、私たちの作戦もそこを使ったものだしね」
鞠莉「ルビィ?作戦通り善子とダイヤを入れ替えるわよ?」 善子「バレないかしら……」
果南「大分寄せてるし、平気だよ」
ルビィ「お姉ちゃん、ほら」
ダイヤ「ん?……ぁあ、果南さん、鞠莉さん?」
果南「!そう!そうそう!ダイヤ、ちょっと一緒に行こう」
ルビィ「わ、似てる」
善子「絶対バレないわよ」 バタン!!!!!
「はぁ……ここまで頭が悪いとは」
ルビィ「…………………」
果南「…………何故、いつ!」
鞠莉「ダイヤ!行くわよ!!」
果南「ォォォラァァァアア!!!!」ブゥォォォオンン!
「ちっ!このクソガキ、金槌を!!」 鞠莉「ダイヤ!!」
ダイヤ「え…ぁ……」
善子「ルビィ!あんたも…ぅぉっ!」ドサッ
ルビィ「……………」
鞠莉「ルビィ!?何持ってるの!?」 果南「……!」
ルビィ「…………」ガツン!
果南「!?ぅ……なんで……」 ブシャァッ!! ボタ……ボタッ……
鞠莉「何してるのよ!ルビィ!!裏切ったの!?!?」 ルビィ「ルビィは最初から、お姉ちゃんの事だけを考えてる。最初から、私はそうだった」
「………………………」ガシッ
鞠莉「!?ちょっと!離してよ!!」
果南「失敗ね……完全に失敗した……」
果南「ごめん、ダイヤ……」
ダイヤ「鞠莉……果南………」 −−−−−淡島行き-内浦フェリー発着場
曜「遅いね……」
花丸「隠れたは良いものの、黒澤家が来ないなら……」
梨子「あ……!!来た!!」ジーッ
花丸「貸すずら!」バシッ 花丸「??ルビィちゃんと…あれは善子ちゃんじゃない!?」
梨子「え!?計画は既に破綻してるじゃない……」
花丸「善子ちゃんがダイヤさんと入れ替わったことがバレたのか、そもそも忍び込んだ段階で……?」
曜「いや、入れ替わり自体は1度成功しているのであれば、千歌ちゃんのとこからダイヤさんが奪還されてるはず…千歌ちゃんからの連絡が無いって事は、忍び込んだ段階で……」 梨子「どうするの?」
曜「予備の作戦を決行するか否かは、黒澤家侵入が失敗した理由による……」
花丸「もし、もしルビィちゃんの裏切りとかだったら…………」
曜「もしそうだったら、予備作戦もこの人数では実行不可能…ルビィへの接触も危険…」 梨子「そもそも、私たちが黒澤家が淡島へ向かうフェリーに忍び込んでいることもルビィちゃんにはバレてるのよ……」
花丸「降りた方が賢明ずらね」
曜「そうだね、急ごう………!」 −−−−−黒澤家-奥座敷
善子「ぅっ……くっ….ルビィのやつ!」
善子「よし……ふぅ…鞠莉!果南!?」
果南「うっ……ぁ……くそっ…ダイヤ……」
善子「ダイヤは行ったわ…ルビィと一緒に……」 鞠莉「Shit!…ルビィ……どうしてこんなことに……」
果南「失敗か…失敗ね」
善子「いいえ、まだよ」
鞠莉「もう無理よ……」
善子「…………果南、鍵借りるわよ」 果南「え?何の?」
善子「ジェットスキーの。それがあればいけるから、多分」
果南「いいけど……乗れるの?」
善子「乗れるわよ。いいから貸して」 果南「じゃあ…はい…ぅえぇっ!はぁっ…ぅっ…」
鞠莉「果南!…とりあえず、果南を小原家の病院に連れていくわ」
鞠莉「何か考えがあるんでしょ?あとは、頼むわ」
果南「……任せたよ」
善子「えぇ。当然よ」 −−−−−旅館『十千万』
千歌「……!?なんで!」
梨子「……千歌ちゃん……」タッタッタッ
花丸「顔向けできないずらね、なんか…….」タッタッタッ
曜「いや…まだ諦められない」タッタッタッ 千歌「どうして!!なんで…ダイヤちゃんは…」
千歌「もう観光バス行っちゃったよ!?3年生を東京に連れてけないよ!計画どうなってるの!」
キキィィィイ!! ガシャン! ウォッ! イテテテ
善子「大丈夫よ」
花丸「善子ちゃん!?」
善子「最後の手段よ。果南のジェットスキーで淡島まで飛ばすわ」 梨子「え……な……1人でなんて無理よ!乗れないでしょ?…免許ないよね?」
曜「果南ちゃんと鞠莉ちゃんは?」
善子「今は動けないわ….果南はちょっとやばいかも」
花丸「マルも一緒に行くずら」 千歌「花丸ちゃん…」
花丸「ダイヤちゃんじゃ無かった…止めるべきなのは、ルビィちゃんだったずら」
善子「ずら丸…」
花丸「それが出来るのは、やるべきなのはマルと善子ちゃん。だから行くずら」 梨子「で、でも…」
曜「どうする?」
千歌「私は、それで良いと思う」
善子「決まりね。行くわよ」
花丸「千歌ちゃん、自転車借りてくずら!」 梨子「行っちゃった…大丈夫かな」
曜「心配だけど…でも…」
千歌「するべきと思ったことをする。その先がなんであろうと、結局それなんだよ」
曜「そうなのかもね…少なくとも、私たちは」 −−−−−淡島-淡島神社-神楽殿
「良かったわね、なんとか滞りなく代替わりが出来そうで…」
「あんたみたいな分家の人間が、偉そうにそんなことを……」
「あら、代替わりの場で争いは厳禁よ」
「そうだったわね…祟られるわ、恐ろしい恐ろしい」
「そろそろよ、行きましょう」 −−−−−
−−−−
−−−
「ふぅ……行ったわね」
「案外早く着いたずらね」
「2人は……あそこずら」
「行くわよ……」
「待つずら」
「へ?」 「さっきの話を聞くに、この代替わりの場では争いがご法度らしいずら」
「だから何よ…まさか、あんたまで祟りとか言うわけ!?」
「逆ずら。あの人達はこの古臭い儀式を心から信じてる…ということは、よっぽどの事がない限り儀式の場で、それも儀式の最中なんかであれば……」
「誰も争いをしない……!?そこを突くってわけね」
「だから、もうちょっと待つずら」 −−−−−
−−−−
−−−
ダイヤ「お母様……私、帰りたい。帰ってスクールアイドルの練習をしなくてはいけませんの……」
「わかってるわ、でも、まずはこの儀式を終わらせなくっちゃね」
ルビィ「(やっぱりこの家はお姉ちゃんを、名ばかりの当主にして裏から動かし続けることしか考えていない……そして、当然ボロが出ないようお姉ちゃんは家から出さないはず…)」
ルビィ「(鞠莉ちゃんたちの案は、逃げたあとの事を考えてい無さすぎる…読んだけど、あんなんじゃ甘いよ。黒澤家は、隠れ家を見つけることなんて慣れている)」 ダイヤ「ルビィ…………」
ルビィ「どうしたの、お姉ちゃん。大丈夫だよ。私が一緒でしょ」
ダイヤ「ルビィ……」
「頼むわよ、ルビィ。浜名主を継ぐのはダイヤですが、貴女はその補佐役。浜名主介(はまのなぬしのたすく)となるのですから」 ルビィ「うん(名ばかりの当主の、さらに補佐役なんて、それこそ何の権限も与えられ無いに等しい…)」
「「神名負いの沖処女、神前に来たりて魚笠取るべし」」
「ほら、行きなさい。あとは、儀官殿の指示に従うんですよ」 ダイヤ「…………………」
ルビィ「大丈夫?お姉ちゃん」
ダイヤ「あの……えっと…私、あれが….」
ルビィ「………?お姉ちゃん?」
「早く行きなさい、2人とも」 「ずら丸…!始まったわよ!」
「行くずら!!」
花丸「「ちょっと待てぇぇえええええ!!!!」」
「「「「!!!!!!!!!!!!」」」」
「なんだ!?「誰だ」」「あ、あいつらは……「お嬢様方とスクールアイドルをやっていた……」「ここまで来たのか!?「くそっ!「おい待てっ、儀の場で争いは!!」」
「あのクソガキ共……!!」 善子「(さすが聖歌隊……声量が凄い…)」タタタッ
善子「ルビィ!!ダイヤ!!」
ダイヤ「……善子……さん?」
ルビィ「止まって」シャキン
「ルビィ!!儀の場で争いは……?え?」 ルビィ「これ以上善子ちゃんが、花丸ちゃんがこっちに近づいたら…私は私の喉を刺す」
ルビィ「私はお姉ちゃんを守るの。誰にも、邪魔させないの」
善子「何でよ……何で、そこまでして……それをされたら…」
「それが黒澤家だからよ。貴女にはそれがわからない」 花丸「意味不明ずら……」
「そうでしょうね。別に、わかってもらううとも思ってないわ」
善子「そもそもおかしいわよ、くだらない。こんなド田舎の因習、打って捨てられて当然よ。何が黒澤家よ、浜名主よ、馬鹿馬鹿馬鹿」
「黙りなさい。貴女のようなただの一市民に、黒澤家の事などわからない。伝統と、歴史と…」 善子「……そうよ。私は普通よ。死ぬほど凡人よ。特別な存在に憧れるほど平凡な人間よ。
その凡人が、貴女達をくだらないって言ってるの」
善子「旧時代的な封建制度に裏打ちされた家父長制、地元の名士?内浦の人間だけよ、そんな事言って…この家はヤクザよ」
善子「丘に居れないゴロツキ集めて偉そうにしてた連中の末裔じゃない。何が偉いのよ、何がよ…」 「…連れていきなさい。もちろん、後ろの女も」
花丸「うわっ…ぁ……もう」グッタリ
善子「何すんのよ!!離してよ!!」シュッ!
「ぅっ!………このクソガキ!!」バチン!
善子「痛ったぁ!!!何すんのよ!」
「……………!!ぁ…」ハッ!
「…………儀の場で争いはご法度……」 「「………………………………」」
「さて、気を取り直して。お願いします」
「………はい。………では、神前へ」
「右の者、これをもって神名を負わす。第十六代黒澤浜名主金剛。俗名、黒澤ダイヤ」
ダイヤ「………………」 「……同じく、黒澤浜名主介紅玉。俗名、黒澤ルビィ」
「両者、魚紋盃を交わして」
ダイヤ「…………」ゴクゴク パリーン!
ルビィ「…………」ゴクゴク パリーン! 「では、第十六代目浜名主挨さ…ぁ」
「え………………ぁ………私、黒澤ダイヤは……………黒澤家の名主として、その……ぇ…なんだったかしら……ぁ……ぁ……ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「ごほん、第十六代浜名主介挨拶」
ルビィ「…私、神名黒澤紅玉は、黒澤家の第十六代浜名主介として、浜名主である黒澤金剛を支えてゆきたい次第です。つきましては早速、皆々様にご承知頂きたい旨がございます」 「……?何を言っているのですか、あの子は突然」
ルビィ「………」ダッ! グサァッ!!
ダイヤ「ルビィ……!?…ぃ…ひっ!!っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ゛ぅっっ!?!?」ザシュッ!ダンッ! ザシュッ!ダンッ!ブシュァァァァアッッツ!!
善子「何してるの!?何を……ルビィあんた!!」 花丸「ダィ…ダイヤさんの足を…足の指を…?親指…刺した……いえ切り落とした…?」
ルビィ「…そこの者、黒澤家御定目、第八条を読みなさい」
「…?わ……私に言っているのですか…?私は貴女の母親ですよ…この黒澤家の…」
ルビィ「貴女は所詮嫁入り、元より黒澤の家の者ではない。何より私はつい先程神名を授かり、浜名主介役と相成った」 ルビィ「貴女がこれまで偉そうな顔をしていられたのは私たちがまだ歳を満たしていなかったゆえに代わりを埋めていただけのこと」
ルビィ「その上、子供を二人も産み、海に身を捧げてもいない非乙女が何を。早く読みなさい」
「………第八条、浜名主役名負うものの不具があらば直ちに役を他に変ふべし」 ルビィ「お分かりでしょう。姉上は今や白痴だけでなく、不具となった」
ルビィ「両の親指を失った人間はバランスが取れず、歩けない。御定目には絶対服従。それが黒澤家であったはずです」
ルビィ「よって姉上は浜名主の役を外れ、それは第二位継承資格者の私、黒澤紅玉のものとなる」
「ええからげんやめにゃあ、ルビィ。介おらんだら。浜名主は介ねぇとおやされるっけじゃ」 ルビィ「ですからお祖母様、もちろん浜名主介も任命します。この第十七代黒澤浜名主紅玉が…そう、私の補佐となる浜名主介は、姉上です…この決定に対する異論は意見として認めません」
ダイヤ「ゥッ…ぁ゛ぁィ…ルビィ……なんで…なんで…」
ルビィ「ごめんね、お姉ちゃん…私はお姉ちゃんが、名前だけの当主にさせられるのを見たくない…だから」
ルビィ「(私が全ての権力を握れば、この家で私に逆らえるものがいなくなれば。お姉ちゃんを脅かすものはいない)」 −−−−−168時間後-黒澤家-奥座敷
ルビィ「お姉ちゃん、私、お仕事してくるよ」
ダイヤ「………………」
ルビィ「お姉ちゃん、私、頑張ってるよ」
ダイヤ「……………………」
ルビィ「行ってくるね、お姉ちゃん。すぐ戻ってくるから」 −−−−−清真高等学校
「黒澤家のあれ、あの後、どうなったって?」
「2人とも、あそこにいたんでしょ?」
花丸「もう、そんなに噂になってるずらか……」
善子「関係ないでしょ、あんた達には」
花丸「ダイヤさんはショックで、声を失ったずら」 善子「花丸!!」
花丸「下手な噂だけが独り歩きするよりましずら」
善子「………ルビィも学校来てないでしょ?あの娘は浜名主の仕事で忙しいらしいのよ。私も詳しくはわからないけど…………」 ガタガタァガタガタガタッ!!!!
ルァンルァン!ルァンルァン!ルァンルァン!ルァンルァン!『緊急地震速報 大地震です 大地震です』ルァンルァン!ルァンルァン!ルァンルァン!ルァンルァン!
善子「うそっ!?何!?」
ガタガタガタッ!!!!
花丸「地震……」
ガタガタガタッ!!!!
曜「結構大きいよ…船が…」
ガタガタガタッ!!!!
千歌「大丈夫かなぁ」
ガタガタガタッ!!!!
梨子「早く机の下!早く!」
バタバタ ガタンガタンガタン ガタガタガタッ!!!!! −−−−−8月23日-14:32分51秒-南海トラフ沿いを震源域とする巨大地震が発生
“静岡県沼津市-震度6強” ーーーーー小原病院
ガシャガシャンガラッン!!!ガタガタガタガタガタッッ!!!
果南「!?地震!?」
鞠莉「結構大きいよ、動けそう!?」
ーーーーーー20秒後、沼津港大型展望水門『びゅうお』稼働 ーーーーー静岡県庁ー危機管理部危機対策課
「震度は六強、最大津波高は約十メートル。各避難所に再度受け入れ態勢の確認をお願いします」
「地震動による地盤の液状化、山崖崩れ、津波、宅地造成地の崩壊、出火等の被害が予想されます、被害対応シナリオを参照に各自直ちに行動してください」
「各市に連絡員、もう出たか!?」 ーーーーー沼津駅ー2番線下りー静岡浜松方面ー東海道本線車内
「どうなっ「早くしろ!」だ出れないのか」
『お客様にお知ら「キャーキャー騒いでんじゃねぇよ!」ます。線路の徒歩点検を行いますのでしばらくそのままお待ちください』「騒ぐなよ」ドン!ドン!「何して──」
『ご利用のお客様に繰り返「暗くてなんも見えねーぞー!」せします、ただいま地震が発生したためこの電車は当駅で…………』
−−−−−中部電力浜岡原子力発電所、同・大川発電所等、各発電所及び各変電所・浄水場・通信施設・下水処理場が停止 ーーーーー沼津市内防災無線
『10m以上の津波が予想されます。高台に避難してください』
『最寄りの津波避難ビルはセンシブル淡島、沼津市立内浦小学校、松濤館です』 ーーーーー伊豆の国市消防団第四分団・南江間・北江間両詰所に消防団長以下6名が集合
ーーーーー同・第一分団墹之上詰所に消防団長以下12名が集合
−−−−−自衛隊、前進目標を富士・滝ヶ原・板妻・駒門に設定
ーーーーー沼津港、重寺港、木負堤防半壊、のち沈下。広範囲に浸水(平均侵水域約2.3m) −−−−−災害対策本部(仮)
「『FUJISAN(ふじの国防災情報共有システム)』は?」
「通信トラブルです。回復まで4分」
「政府の現対策本部と連絡取れ、これは南海トラフだ。管内じゃ無理」
ーーーーー強い揺れにより内浦地区の住宅地は倒壊・火災発生(計16件) −−−−−災害対策本部
「第四地区吉田町、西浦地区平沢六丁目にて延焼火災8件報告」
「主要5道路、沼津、戸田、西浦、井田、それと富士山空港の被害状況確認」
「清水のコンビナートも」
「大瀬は?」「あそこは勝手にやる」「え…」
「後で面倒だぞ」 「非常発電回せ、沼津止まるぞ」
「避難勧告概ね終了しました、報告確認出来てます」
「富士山は」
「Lv1未満、地殻変動及び群発地震の発生は確認できません」
ーーーーー各指定避難地・津波避難ビルが受け入れ態勢整備。ただし──この時点で13ヵ所の避難所は機能せず(内担当者の負傷・死亡によるもの6件、残り7件は不明──) ーーーーー旧浦の星女学院−上空
バリバリバリバリバリ・・・・・・・・・・!!!!
鞠莉「こ…こんなに避難者が……」
果南「みんな……」 死者 10万900人
建物倒壊:31万9000棟
浸水面積:150.5平方キロメートル
断水 :340万人
下水道 :200万人
停電 :200万軒
ガス停止:20.万戸
1日の避難者数:90万人
一週間の避難者:110万人
災害廃棄物 :3100万トン
直接被害額 :19兆9000億円
のちに西日本大震災と呼称されるこの天災───。
東北太平洋沖地震にならぶ、10年代における歴史的国難であった─────。 −−−−−同時刻-黒澤家
ガタガタガタッ!!!!! ガタガタガタッ!!!!!
「お?」「地震か…」「デカイな」「ああ」
ルビィ「お姉ちゃん!!」ダダダダッ
ダイヤ「…………」
ルビィ「大丈夫?お姉ちゃん」
ダイヤ「はい…でもルビィ、私、お願いがあるのです」 ルビィ「!?お姉ちゃん…声が!!」
ダイヤ「私を海に、連れて行って欲しいのです」
ルビィ「え………」
ダイヤ「私はわかっているんですの!もう、みんなに迷惑をかけて、もう私は邪魔者で、ルビィの足枷で!もしそうでないとしても、そう思えてしまって、辛くて、色んなことを忘れて、迷惑をかけて、私は…私はもう……」 ダイヤ「せめて、海に還りたい。私はあのAqoursの始まりの場所で、せめてあそこでこの辛い時間を終わらせたい」
ダイヤ「一緒に、いってくれますか?」
ルビィ「(当然、私も行くしかない。お姉ちゃんは、歩けないんだから。私が車椅子を押してあげないとダメなんだから)」
ルビィ「…もちろん、行くよ」 「……行くって、どこへ行くんです?ルビィ、ダイヤ」
ダイヤ「海です」
「ダイヤ、貴女しゃべって……」
ダイヤ「お母様……私、ルビィと海に行きますの」
ルビィ「…………」ペコリ 「待ちなさい!ルビィ」
ルビィ「……?」
「死にに行くんでしょう、2人で」
ルビィ「…海を、見に行くんです」
「来なさい。黒澤家の女が、そのような服で最期を迎えるなどあってはならないこと」
「……あれを用意しなさい」 ガラッ
ルビィ「…………!それは」
【初代牟婁田雄辺作 本振袖 『朱天鶴』】
【同・『紅輪雀』】
「私が着付けます。皆は下がりなさい」 ダイヤ「………………………」
ルビィ「……………………あの」
「何も言わなくて結構です。しゃんと立っていればそれで」
ルビィ「……………………」
ダイヤ「……………………」
「………出来ましたよ。」 ルビィ「……………お母さん」
「2人とも、大きくなりましたわね。それに、一段と美人になりましたわ」
ダイヤ「!……お母様……」
ルビィ「!……お母さん」
「…………………」フフッ
ダイヤ・ルビィ「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
ガチャ バタン ガチャ バタン
「奥様。旦那様、大奥様を含め、大体の者は避難しました。急ぎましょう」
「…黒澤家の女は家を守るもの……貴女にだって、それくらいのことはわかるでしょう?」
「!はい、しかし…」
「ダイヤとルビィが帰って来た時、可哀想ではありませんか。誰もいなかったら、ね」 「しかし」
「わかったら早く行きなさい」
「…はい…では、ご無事で」
「…………えぇ」
「………………………………」
「ダイヤ、ルビィ…」
「なるべく早く、帰ってくるのよ……」 −−−−−都道府県道17号線路上
ダイヤ「ねぇ、ルビィ?」
ルビィ「なに?お姉ちゃん」
ダイヤ「久しぶりに、スクールアイドルの話をしましょうか」
ルビィ「!!うん!」 ルビィ「(私とお姉ちゃんは、それから、確かに何かを喋った。スクールアイドルのこと…だったと思うけど、違うかもしれない。私は、お姉ちゃんと話が出来ただけで嬉しかった)」
ルビィ「(不思議だよね。所詮、血が繋がっただけの他人なのに。こんなに嬉しいなんて)」
ルビィ「(私がそう独りごちた時、お姉ちゃんは海を見ていた。波を。波を待っていた。)」 ルビィ「お姉ちゃん………」
ダイヤ「何?ルビィ」
ルビィ「次の波にしよう」
2人でこうして、電車を待ちましたね。
黒澤ダイヤは、汗を拭いた。
ダイヤ「ルビィ。もう“私”だなんて、呼ばなくても良いんですわよ」
もう、頑張らなくて良いのかな?
黒澤ルビィは、涙を拭いた。
ルビィ「歩いていこうか、お姉ちゃん」 二人三脚のペアが、当日休んでしまって。
足の遅いルビィと組んでくれる人はいなかった。
学年など関係ありません、妹ですから!そう言って真っ直ぐ歩いてきてくれた。
ダイヤ「肩を組むのは、あの時以来ですわね」
運動会日和だった。夏の暑い日。今日と同じだ。 ザパァァァァァアアアン
ダイヤ「っ……」
ルビィ「っ……………」
あの時、何で2人で電車を待っていたんだろう。
そうだ、夏の思い出作りだ。
2人で、内浦じゃない海に行こうって…
結局、行ったのかな?
駅で待ってた思い出しかないですわね。 −−−−−−−
−−−−−
−−−−
−−−
ダイヤ「(ルビィ……ルビィ…ルビィ……)」
ルビィ「(お姉ちゃん…わかんないよ…水の中だもん…聞こえない、聞こえない……)」
ダイヤ「(ルビィ…ルビィ………ルビィ)」
ルビィ「(でもきっと、それはきっと……)」
ルビィ「(“ルビィ”の……名前……)」
ダイヤ「……………」ギュッ
ルビィ「…………………」ギュッ
ダイヤ「…………」
ルビィ「………」
ダイヤ「……」
ルビィ「…」
………………… 一分後、木負・津波避難タワー 浸水深7.0m
二分後、伊豆・三津シーパラダイス 浸水深1.0m
同分、内浦ダイビングセンター半壊。
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---- −−−−−次の夏、気温、31度。
鞠莉「チッ………瓦礫だらけね」
果南「ふ………鞠莉、もうこんな街にいなくたっていいのに。貴女の場所はここじゃないでしょ」
鞠莉「……あの旗は?」
果南「千歌が……ふらっと来て、あれだけ刺して帰ってったよ」
鞠莉「何のつもりよ……あんなの、過去の…….今更…」 果南「そうかもね。でもあれは…二人が1番幸せだった時でしょ」
鞠莉「そんなのっ!まだわからなかったじゃない!!もしかしたら…….ダイヤも全部治って、ルビィも普通の高校生に戻れて…」
鞠莉「それで、Aqoursのみんなでまた集まって、ハグゥとデスワとか言ってさ…何でよ…シャイ煮とか…またやれば良かったじゃない….堕天使も、普通怪獣も、なんで誰も、どこにもいないの!!」
果南「……鞠莉。私達は、それでも…」
鞠莉「わかってるよ、わかってるよ」 果南「………なんか、暑いね」
鞠莉「…夏だから」
果南「ルビィとダイヤがいる場所も、暑いのかな」
鞠莉「……くっ…何言ってんのよ…果南らしくない…」
果南「…ちょっと、何笑ってるの?……確かに私らしくはないけど」
鞠莉「ルビィとダイヤがねぇ…今までさんざん狭っ苦しく生きてきたんだから、なんかどっか広くて涼しいとこで休んでるんじゃないの?」
果南「そうだね…そう…だったらいいな」 −−−−−−−−−
−−−−−−
−−−−−
花丸「善子ちゃん」
善子「……あ…あんたね…何よ」
花丸「復興が終わって、街の機能が回復したら、漁業組合を中心にして黒澤家を訴えるって」
善子「今更ね…もう死んだのよ。ルビィとダイヤは、もう死んだの」
花丸「……そうだね、何にも意味無いずら」
善子「私達は、どうすれば良かったの?」 善子「私は何をして良いかわからなかった。だから、良いと思うことを全部やった」
花丸「おらは何をして良いかわからなかった。だから、善子ちゃんについていった」
善子「結果がこれ……か。誰も救われない。誰も」 花丸「……だけど、あのまま生きるより」
善子「!?…あんた…何言って…」
花丸「だってそうずら…家の人に色んな重荷を背負わされて、未来も勝手に決められて。頼りだったはずのマルたちも、2人を救うことは出来なかった。何にも出来なかった」
善子「……ずら丸っ!あんたは….」
花丸「そうだよ。さっきも言ったとおり、オラは自分からは何もしなかった。善子ちゃんと違って。ごめんね、こんな事言って。でも、でも…結局2人は死んでしまったんだから」 善子「そうね…そこに怒るのは、私が自己満足で2人を救おうとしてた証拠かしら」
花丸「それは……」
善子「良いのよ…そんな気がするから」 花丸「ルビィちゃんとダイヤさんは、どんなことを考えてたのかな。この海の中で」
善子「さぁ…そんなこと、一生私たちにはわかんないわよ。黒澤家の娘という立場にいつだって縛られて、あの二人が何者でもなくあれたのはあの海の中だけだった」
善子「そこで何を考えていたかなんて…到底わからないわ」
花丸「ひとつ分かるのは…その時の海だけは、あの二人だけの海だった」
花丸「あの二人しかいない、二人だけしか要らない海。海も、夏も、全部二人だけのもの。あの痛々しいほど熱い真夏の、その、最期の時だけはきっと………」 「SUMMER VACATION」
「真夏は、誰のモノ」 デュオコレクションvol.1
『SUMMER VACATION』収録曲、『真夏は誰のモノ?』の勝手な解釈をしてしまいました。
読んでくれた人、ありがとう。 読み始めぼく「はぇ〜」
読み終わったぼく「はぇ〜」 >>139
マジ?再読サンクス
今回のはあれの補完ver……地震の件と、着物の件を付け足したのよな。 果南が結局暴力担当だったり善子が急に水上バイク乗り出したり
全体的な作りに対してキャラ面が所々雑いな
面白かったけど 読みごたえあったわ
ところどころ気になる部分があったりしたけど オリジナルでやればという感想がまず出てきちゃう内容とキャラクターかな
それと補完されたっていう部分は蛇足だと思う >>146
これマジ?ただまぁ、あくまでAqoursの曲の曲の解釈だからな…前者に関しては否定させてもらうけど、後者は参考にするぜ。サンクス! >>151
説明しなくていーから!
さすがにストレートな解釈をそのままSSにしてるわけじゃないよ…抽象的にしてから具体的な部分を自分好みに置き換えてるわけで。 >>148
ひだまりPは俺も好きだけど、俺はひだまりPじゃないよ… 大作乙
好きな解釈じゃあないけど、嫌いな作風でもなかった なんとなくひぐらしっぽさを感じた
最後の地震の展開とかとくに 時刻とか場所のテロップの出し方が庵野秀明っぽい感じだった
シン・ゴジラとかエヴァとか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています