千歌「――私と卓球、しませんか!?」 [無断転載禁止]©2ch.net
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果南「……本当に大丈夫なの?」
千歌「やってみようよっ! 卓球なら千歌達でも出来そうじゃない!? 長い間やってたしかなり得意だし!」
千歌「スクールアイドル兼、卓球!」
果南「うーん……」
千歌「だってだって! 可能性は二倍なわけだよ! スクールアイドルだけで有名になれるかもしれないけど、スクールアイドル卓球をすればそっちで有名になれるかも……」
千歌「オリンピックを目指すような人達は普通の競技としての卓球をするわけだから、すっごい上級者はいないと思うんだ! ねね、それなら再開してもなんとかなると思わない!?」
果南「まあ……」
果南(半分くらいお遊びの卓球ってこと、かな?)
果南「千歌の言うことが本当なら、まあそうかもしれないけど……」
千歌「よしっ! じゃあ曜ちゃんも誘って来る!!」
果南「え!?」
千歌「――卓球! しに行こうよ!」 ◇――――◇
梨子「……」ドキドキッッッ…
ダイヤ「梨子さん……あなたに回すことに、なってしまって」
梨子「い、いえ」
梨子「花丸ちゃんが繋いでくれたんです……わ、わたしがそれを無駄にするわけには」
鞠莉「気負いすぎたらだめよ、大丈夫……あなただって練習してきたんだから」
梨子「は、はひっ……」
鞠莉「さいっこうの舞台なんだから、楽しんできて!」
梨子(追い込まれてるだけだよぉ……うぅ、ううん、これもいいプレッシャーになるって信じて……)トコトコ…
鞠莉「そ、そっちは相手のコートよー!」
梨子「!!」
梨子「ごめんなさいごめんなさいっ!!」////
梨子「はぁぁ……」
梨子(よし、試合前の練習……相手のひと可愛い……強そう……)
梨子(勝てるのかなあ……ううん、勝たなきゃ……)
カツンカツン
梨子(よしラリーは出来てる……出来なきゃだめなんだけど……)
梨子(これに勝てば……) 梨子(ラバーは……えっとこれは確か……クセのないオーソドックスなテンションラバー、両面とも。ラケットは……よっちゃんのと一緒。てことは球離れは早め……棒球が出てくるかも)
梨子(ダイヤさんが言ってた! 道具見るところから試合は始まってるって!)
梨子「よろしくお願いします。よろしくお願いします」
梨子「ふう……」
梨子(サーブ、どうしよ……私は他の人みたいに色んなサーブは出せないし……)
梨子(下回転、上回転、ナックル……あとあんまりかからない長い横回転くらい……)
梨子(ううん、シンプルに考えるなきゃだめ! 一発目、リスクを下げてバック側中距離の下回転で)キュパッストンッ
千歌「あちゃー、いきなりサーブミス」
梨子「ぅ……」
梨子(な、ななににやってるの私っ!)ガチガチッ
梨子(落ち着いて落ち着いて)グルグル…
キュパッッ
梨子(入った!)
相手のバックサイド、台から少し出るくらいの長さで出したサーブ。これは相手の出方を見るためのもので、実力が高い人ならば台から出た瞬間撃ち抜いてくる。それはAqoursの中でよくやられてるからわかっていること。 アニメでもこれくらい嫉妬ファイヤ〜しても良かったかもな
こっからようちかりこもっと仲良くなれそう でも対外試合とかをすると意外と打ってくる人って少なくて、ツッツキで繋いでくる人の方が多い。台から出るボールを思いっきりドライブしてこないならまだこっちにもチャンスがあるってこと!
梨子(よしっ)
相手は私の望んだ通り、打ってくる気配を見せず、ふんわりと浮き上がった絶好球がバックハンド側に着弾する。
千歌ちゃんのお母さんが口酸っぱい程に言っていたことがある。
ダイヤさんやルビィちゃん花丸ちゃんみたいな守備型の戦型の人に主に言っていたことなんだけれど――チャンスボールだけは確実に決めること。
何度も何度も、私も言われた。
ふんわりと浮き上がった球を思いっきり叩くことが出来るだけで相手はとりあえず返すという方法が封じられる。相手はリスクを上げてレシーブをしなくてはならなくなる。
反対に絶好球を決めきれないことが何回かあるだけで、とりあえず返しておくという戦法が使えるから、相手の選択肢が広がってしまう。選択肢の増加は心の余裕を生み出して冷静にプレーに集中出来て、勝ちに繋がっていく。
今回の絶好級は私の得意なバックハンド! 絶対、決める!!
梨子「っふ!!」
梨子「ぁ……」
オーバーミス……うぅ、なんで。
千歌「ぁあ……もったいない……」 力入ってたかな……、ああって声が観客席から聞こえる……。
私の試合、見られてる……?
Aqoursは前回のラブライブで決勝トーナメントに出場してるから……注目が集まってる、のかな……。
ということはここで勝てばまた注目される……責任重大……。
梨子「……」ガチゴチ…
千歌ママ「まずいなあこれ……」
果南「なんで梨子ちゃんあんなにミスしてるの? 相手のレベルは正直全然高くないはずなのに……梨子ちゃんでも十分勝機はあるはず……」
曜「……この空気感かな」
千歌「だいぶ上まで来たから試合してるところが少ないんだね、だからこの体育館にいる色んな人が梨子ちゃんの試合見てる」
曜「ああ、取られちゃった……」
梨子「はぁっ……はあ……」
5-11……なんで、なんで。
多分相手の実力はそこまで高くない、私でも十分やれるくらいの相手だと思うのに……。
千歌ちゃんが言ってたみたいに、実力が離れすぎると強さを認識出来ないとか、そういうこと? いや、そういうことじゃないはず……。
ダイヤ「落ち着いて、梨子さん」
梨子「……っ」
ダイヤ「今のあなたは極端に冷静さを欠いていますわ」
梨子「え、あ……」
鞠莉「大丈夫、緊張しちゃうなら今がどういう場面なのか考えなくてもいいから。自分がどういうプレーをしたいのか、それだけ考えて次のセット、やってみて」
梨子「……は、い」 ルビィ「だ、大丈夫勝てるよ!」
ダイヤ「さ、行ってらっしゃい」
ダイヤさんと鞠莉さんが技術的なアドバイスをくれなかったってことは……今の私の技術だけで十分勝算があるってこと、だよね?
反対にアドバイスされたのは、今まで受けたことがあんまりないメンタル面のこと……。
どうしよう、てことは私はこの会場の空気に呑まれそうになってるってこと?
「0-3」
だめだ……。全然打てない、相手はどっちかと言うと守備的な選手。ツッツキで繋いでくるミス待ち卓球だけれど、そのツッツキもAqoursのみんなに比べたら全然精度は高くないし……それなのに。
身体が重い……。
足が動かない。
どんなプレーが、したいか……?
わかんない……でも勝ちたい……勝ちたい。
「3-9」
スコアは酷い……正直もうこのセットは無理。だったら……自分がしたいこと、練習でしてきたことだけやってみよう……。
今日の状況とかを考えて柔軟に対応するなんて私には出来ない。今日の私はバックもそうだけど、フォアのミスが酷すぎる。
相手もそれをわかってるからフォアにツッツキを集めてくる。それを全然決めきれてないから沼にはまったみたいにもがいてる。
入らないくらいだったら、得意なバックを振った方がまだ精神的にも余裕が持てるはず……。
梨子(私はフォアはからっきしだけどバックは何回も褒められた……だったらそれをやりきったほうがいい!!) ――私のフォア前に短めのサーブ! 軌道は下回転、回転はそんなに強くない。だったらここは……ツッツキで繋がないで……。
梨子「っ!!」ギュインッッッ!!!!
フォア前に来た場所、そこに身体の正面を持っていく。球の左横を、思いっきりバックハンドで弾き擦る!
鞠莉さんから教えて貰ったチキータ!
バナナのような軌道で上手く横回転が乗ったボールは相手のミドルを抉りながら、そのままエースになる。
梨子「よしっ!!」
思わず胸の前で拳を握り締める。腹の奥底から歓喜の声が溢れる。たった一点。
初めて納得出来る攻めが出来た。
それでもこの一点の積み重ね、だから。
千歌「ナイスボール!!」
千歌「今のチキータよかった!!」
善子「リリーの場合、もう全部バックで行った方がいいかも……」
「4-9」
梨子「ふー……」
相手のサーブを上手く2球目攻撃出来た。次も相手のサーブ、次は一体……。
――速い上回転!
梨子「くっ」ポ-ン
「4-10」
下回転系の意識が強すぎたかな……。今のは反省……。
梨子(私のサーブ……帰ってきた球は全部バックで打つ……フォアでも動いてバックで打つ……) 少しでもバック側に来やすいように、横回転のサーブでっ!
キュパッッ
カツンッ
梨子「ぅっ」
フォア側に帰ってきた! やっぱり私の貧弱な横回転じゃコースを限定させるまでは出来ない……っ。
ググッ
千歌「お……」
追いつけるっ、フォアのところでも、バックで!!!
ギュインッッッッシュルルルルルルルルッッッ
梨子「くっ……」
「4-11」
鞠莉(すごい回転……)
千歌「うーん……むむむ」
果南「最後の方は悪くなかったと思うけど……」
千歌ママ「うう、アドバイスに行きたい……」
千歌ママ「最後の方は多分全部バックで取ろうとしてた……その意識で次も行けば……取れると思う」
曜「――オールバックハンド……」
千歌ママ「梨子ちゃんの場合フォアとバックで習熟度にかなり違いがあるから……」
千歌ママ「でもバックって便利だからさフォア前でもチキータとかを使えばバックで拾える。でも追いつけなくちゃ意味ない、そのためにフットーワークばっっかりしたんだから……」
千歌ママ「今の時代、ある程度のレベルにいかない限り、オールフォアよりもオールバックの方がやりやすいし、よっぽど勝ちやすいはず」 千歌「がんばって……っっ」
鞠莉「梨子、意識は悪くないわ。その調子でバックで思いっきり振った方がいい」
梨子「はい……」
鞠莉「フォア前をチキータで攻めるなら、相手のクロス狙ってね。そっちの方が距離があるから安定する。高さを少しだしても横回転の影響で沈み込んでくれるから」
梨子「うん……」
鞠莉「攻めたい時は弾道低めを意識してそのままバックにストレート、オーバーしやすくなるから気をつけて」
鞠莉「肘をちゃんとあげて、手首をちゃんと返してあげて」
鞠莉「大丈夫、あなたはバックハンドなら相手よりかなり上手いから!」
梨子「……」コク…
梨子「ふー……」トコトコ
梨子(サーブ……下手に横回転なんか出さない方がいいかな。下とナックルだけでいい)
梨子(元々打ってくる相手じゃないけど、確実にツッツかせるためにも)キュパッッ
カツンッ
梨子(よしツッツキ……っ!)ギュイン
梨子「よしっ!!」
千歌「ナイスボール!!!」
果南「いいバックドライブだったね、ノータッチ」
梨子(感触はいい感じ……よし)
続けて私のサーブ、同じコース同じ回転で出してみる。相手は思った通り、ミドル側にツッツキ。
このコースなら……っ。
ギュッパコンツッッ
梨子「っ!!!」グッッ
ダイヤ「――逆チキータ……!」
花丸「連続ノータッチ!!」
ダイヤ(チキータとは逆の回転をかけて相手のフォアゾーンに切れていく、ドライブともチキータとも違う高等技術……近年卓球界に導入されましたが、トッププロでも未だ使用者は少ない)
鞠莉「あんまり完成はしてなかったみたいだけど……よく決めたわね」
鞠莉「いい感じね……ミドル側なら逆チキータでも普通のチキータでも攻められる、バック側に来たら台上でもロングでもバックドライブを振りにいける」
ダイヤ「ええ……戦型も相手は守備型なので自分から攻めていける。このまま押し切れればいいのですが……」 ◇――――◇
千歌「やったー!!」ピョンピョン
善子「下に落ちるってば」
千歌「二セット目取った!! あと1セット!! いけるよ!!」
曜「うんっ!!!」
梨子「ふー……はー」
ダイヤ「大丈夫? 疲れてない?」
梨子「あんまり……」
鞠莉「この調子よ。次のセットはフォアに振られることがもっと多くなると思うから、気をつけて」
ワ-ワ-
ルビィ「うゅ……すごい歓声……」
鞠莉(やっぱり注目されてるわね)
鞠莉(かなりいい感じだから……最後まで……っ)
梨子「なんか、すっごく調子が良くなってきて……バックで打てば全部入る気がして」
ダイヤ「いい状態ですわね……さ、練習の成果を見せてあげて!」
梨子「はいっ!!」
梨子「ふー……」スタスタ…
千歌「梨子ちゃんがんばれー!!! いけるぞー!!!」ピョンピョンッ
梨子(下に落ちちゃうってば)クス
梨子(いける……このままいけば勝てるっ……) ◇――――◇
梨子「はぁ……はぁ」
梨子(6-4……私のサーブ……)
梨子(勝てる……勝てる)
梨子(勝つんだ……勝たなきゃ……)
ワ-ワ-!!!!
梨子(みんなに見られてる。ここで勝つんだ)
梨子(みんなで全国行くんだから!!)キュパッッ
セオリー通り、一番浅いところの下回転。
これならストップするかツッツキだけ、でも相手にそこまでのストップ技術はない。
梨子(フォア側っ……)
梨子(チキータ!)ギュワンツツッ
梨子「!?」
甘かったっ。
バック側に決めに行ったチキータに上手く当てられ、バック側にブロックされたボールが着弾する。
梨子(おい、つけ!!)キュパッ
フォアサイドから地面を蹴る、フットワーク。短い期間だったけれど、散々やってきたんだ。
追いつく、追いついた!
もう一回、撃ち抜くっ!!
梨子「ふっっ!!」ギユインッッツ
梨子「なっ」
梨子(読まれ……)
6-5
千歌「ああ……追いついたのに」 善子「フォア前に落ちた球をチキータで打ったけどがら空きのバックに返球されて、なんとか追いついてバックドライブ打つけどがら空きのフォアにブロックされる……」
善子「なかなか辛いわね」
千歌「ああっ、同点……だよお」
善子「……」
果南「私は日ペンだからオールフォアが基本だけど……がら空きのとこに打たれるのって割り切れる部分もあるけど、こういうギリギリの時は……堪えるよ」
曜「梨子ちゃんもうフォアで打つ気ないもんね……ミドルに来た速めの球にバックが変なふうに出ちゃってる」
善子「バックハンド偏重型にありがちね、気がついたらバックが出ちゃってフォアが出ないっていうのは」
千歌「でも、でも……それでここまで来たんだから!! 信じるしかないの!!」
善子「ええ……」
梨子「はぁ……はぁ」
6-9
勝たなきゃ……。
勝たなきゃ……。
私が勝たなくちゃいけないのに……。
千歌ママ「技術云々てより……やっぱりメンタルかな……」
千歌ママ「いくら技術を鍛えてもメンタルは初心者とほとんど変わらないから」
ワ-ワ-!!!!
果南「……この状況は酷だね」 善子「っ……リリー!! まだ終わってないわよ!! しゃきっとしなさいよ!!!」
梨子(よっちゃん……)
6-10。
相手のマッチポイント。もう、何連続でポイントを取られたかも、わからない。
足が重い。
なんでか息も浅い。そんなに疲れてるんけじゃないのに。入ってた攻撃も入る気がしない……でも、私は、まだ――。
◇――――◇
梨子「ぅ……う、ぅ……」
梨子「ぅ……ぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
梨子「はっ……はっ……わ、私の、せいで……! 私のせいでっ!! みんなが、っ……ぅ、ごめんなさいっ!!!」
千歌「梨子ちゃんのせいじゃないよ……ね、大丈夫だから」ポンポン
梨子「はっ……はっはっ」
果南「――梨子ちゃん落ち着いて、大丈夫だから、ね?」
果南「過呼吸になっちゃうから。深呼吸……深呼吸して……」
梨子「!!」コクコク…
梨子「はー……はー……」
梨子「……ぅう」
ダイヤ「梨子さんのせいじゃありませんわ」
ダイヤ「私たちは団体戦で負けたの。私達全員の力が足りなかっただけ」
ダイヤ「気に病まないで」 梨子「ぐす……ごめん、わたし……負けたくせに、こんな、泣いて……迷惑かけて」
千歌「いいじゃん、本当に悔しいから泣くんでしょ。そんなふうに思えるのって、すっごく大切だと思うんだ」
鞠莉「そうよ梨子、今回は力が及ばなかったとしても……ここまで来れたこと、誇りに思いましょう?」
梨子「……う、ん」
曜「善子ちゃんだって負けると泣くんだから、梨子ちゃんも――」
善子「わ、私は関係ないでしょ!!」
ルビィ「ふふふっ」
梨子「……みんな、ありがとね」
梨子「私、楽しかったよ。こんなふうにみんなと闘えた気がして」
梨子「次は千歌ちゃん達の応援、精一杯すはから……一緒にがんばろうね」
千歌「うんっ!!」
千歌ママ「……」
千歌ママ「ミーティングをしますー」
千歌「はーい」
千歌ママ「――まず初めにダイヤちゃん鞠莉ちゃんルビィちゃん花丸ちゃん梨子ちゃん、本当にお疲れ様」
千歌ママ「結果としてはここで団体戦は終わりになっちゃうけど……どうだった? 見ている私からしたら、すっごく楽しかった」
千歌ママ「本当に短い期間で、碌に大会も出れずにぶっつけ本番状態。そんな中で、みんなは本当にがんばってくれた。ありがとう」
梨子「……」 千歌ママ「今日試合に出た人達が今後卓球をやるかはわからないけど、それでも……いい思い出には、なったんじゃないかな」
ダイヤ「ええ……」
鞠莉「リベンジしないの?」
ダイヤ「それはまた……別の時に話しましょう」
鞠莉「そっかあ……」
果南「ていうか卒業じゃん」
鞠莉「あ」
千歌ママ「あはは、文字通り……このメンバーでやれるのは最後だったわけ。卓球ってスポーツは……水平な板の上にビー玉を置いて、それを転がし合うゲーム。簡単に相手の方に流れは行くし、逆もまた然り」
千歌ママ「厳しいことだけれど、それが面白いの。今回は悔しい結果として見に染みたかもしれないけど……どうなってたかなんてギリギリまでわからなかった」
千歌ママ「梨子ちゃん、技術的には勝ってた。間違いない。自信をもって!」
梨子「……ありがとうございます」
千歌ママ「初心者のあなたが本当によくここまでがんばってくれた、千歌のワガママに付き合ってくれた……」
千歌「わ、ワガママじゃないもん!」
果南「最初は完全にワガママだったって」
千歌「そんなことないー!」
千歌ママ「もちろんみんなを勝たせてあげららなかったのは、私の指導方法が間違ってたってこともある。勝たせるって言ったのに、本当にごめんなさい」
千歌ママ「明日は個人戦、あなた達にとっては本命なはずだね。今日悔しい思いをした分も全部、千歌達に晴らしてもらうことにしよっ」 千歌「丸投げー……」
梨子「ふふ……でも、明日は本気で応援するね」
鞠莉「ええ、メガホンでも持っていくから」
ダイヤ「それだけはやめて」
善子「――勝つから、絶対」
梨子「……うん」
ルビィ「かっこいい……」
善子「な、なによ……当然だから」
千歌「ディフェンディングチャンピオンだもんねー? 千歌だって負けない! 絶対絶対絶対っ、勝つ!!!」
千歌ママ「うん、これでミーティングは終わり。今日の試合はもう見なくていいから、帰ってゆっくり休んでね」
◇――――◇
梨子の家
梨子「……」ムク…
梨子「……変な時間に起きちゃった。というか、いつ寝ちゃったんだろう」
梨子「……」
梨子「はぁ……」
気怠さが全身を包んでいる。帰ってきてすぐに寝てしまったことで、変な時間に起きたし、リズムも狂った。
明日は私が試合するわけじゃないのが、救いだった。
梨子「……」トコトコ… カーテンの隙間から差し込む月明かりに導かれるようにして、ベランダの方へ。
カーテンを開け、冬の気温で凍えるような冷たさになっている鍵を開けた。
ふっ、と。
窓を開けたら瞬間に肌を刺すような冷気に、思わず声が漏れる。ベランダに出ると、穏やかな風が吹いていた。暴れる髪の毛を抑えながら、千歌ちゃんがいることもある窓を見つめた。
なんだか、こうやって眺めていると落ち着くんだ。あるのは、ただの家の窓だけれど、私にはそれがただの窓ではないから。
文字通り、運命が変わった。
ここのベランダで、あの日、あの時、手を繋いだ日……私はまるで命を与えられたみたいだった。全力を注いでいたピアノを諦めようとして、世界全てにモヤがかかって見えていた私の視界を、晴らしてくれたのは間違いなく千歌ちゃんだった。
太陽みたいな人だって、思った。
ありきたりかも、しれないけれど。思ってしまったものは、仕方がない。
その結果として……やったこともないようなことばかりしてきて……まさか昨日みたいに大会に出ることになるだなんて。
夏休みなんか毎日毎日死にそうになりながら練習して、全身筋肉痛で、お母さんに死にそうな顔してるって本気で心配されてたこともあったっけ。
私の中で一区切りついた今だからこそ、振り返れる。寒さにも慣れてきて、少しだけ心地良い。
ベランダによりかかって、手にした携帯電話を起動させると。 梨子「……!」
メール通知で、いっぱいになっていた。
Aqoursのグループでの会話は、明日もがんばろうってことで、終わったはずだ。でも、みんなから……メッセージが、届いていた。
私へ向けて。
ダイヤ:今日は本当にお疲れ様でした。初めての大会、どうてしたか? きっと、色々思うことはあったと思います。でも、それも全て、あなたが経験したかけがえのないことです。初心者でありながら厳しい練習についてきたあなたに敬意を。
私はあなたと一緒に戦えてよかった。明日は私たちにとっても、勝負所です。千歌さん達と共に、戦いましょう。おやすみなさい。
果南:今日はお疲れ様ー。応援席でずっと見てたけど、凄かったね。私感動したよ。周りの人達もそうだったんじゃないかな。梨子ちゃんがあんなに頑張ってくれたんだから……私も明日、頑張るから。応援、よろしくね。みんなで全国行こうね
鞠莉:梨子、ナイスファイトだったわよ! あなたがどれだけ苦労してたか、どれだけみんなについて行こうと頑張ってたか……多少かもしれないけれど見ていたつもり。あなたに私が教える機会は多かったから分かるけど、ここまでやってくれるとは思わなかった。
ごめんね、嫌味じゃないの。本当に凄いって思ってる。あんな頑張り見せられたから、後ろで泣きそうになってたのよ? ていうのは冗談。……あなたが居てくれて、よかった。good night梨子、また明日。 花丸:試合お疲れさまでした! 梨子ちゃん、途中から本当に強くなって……勝ちたいって気持ち、伝わってきたよ。一緒に団体を組んで、いっぱい練習したね。
私たちは私たちなりに、あの結果が答えだったと思う。結果は悔しいけれど、でも、本当に楽しかったよ、私は。梨子ちゃんはどうだったかな? 今度聞かせてね。また明日!
善子:お疲れ、リリー。えっとなんていうか……リリーは本当に頑張ってたわ。誰が見ても、そう思うわよ。結果はああだったけど、でも、あなたが頑張ったことは変わらないでしょ。
勝ちたいって本気で思うこと、大切なんだから。そう思えるくらい真剣だったこと……かっこいいと思うし。だから明日は、応援お願い。私、あなたのためにも、絶対また優勝するから。見ててよね……おやすみ。
曜:不在通知
曜:ごめん!メールじゃ長くなるかなって思って今日のことで色々話したかったんだけど……明日に備えて寝るね!とりあえずお疲れ様。本当に、凄かったよ!おやすみー!
画面をフリックする手が、震えた。ポタポタと、画面に涙が零れおちる。
みんな、みんなの気持ちが、嬉しかった。と、同時に辛くもあった。 暖かすぎて、勝てなかったことに対して、みんなは優しすぎる。これがみんななのだと言ってしまえばそれまでだけど、私は、一人じゃなかったんだね。あの場でも、みんながみんな……私と一緒に戦ってくれてた。
梨子「ぅ……」
肩が震えているのは寒さのせいではない。むしろ込み上げてくる感情に、身体は火照りに火照っている。
今日は泣きすぎた。会場で過呼吸寸前まで泣き腫らして、今だって、馬鹿みたいに身体を震わせている。ああ……でも、悪くない気分。これがやりきったあとにだけ、流せる涙なのかも、しれない。
私は、幸せなんだと思う。
――携帯電話から視線をあげると、向かいのベランダから千歌ちゃんが顔を出していた。
梨子「へ」
千歌「だ、大丈夫?」
梨子「え、あ、これは!!」
梨子「ぅ……」
梨子「その、みんなからメッセージ貰って……読んでたらつい」
千歌「そっか……」
千歌「ち、千歌だって! メールしようときたんだけど、なんか、詰まっちゃって……」
梨子「そういえば来てない……」
千歌「ねえ、こっちに来てよ」
梨子「え?」
千歌「一緒に寝よ! で、ちょっと話そ!」 ◇――――◇
千歌「ほらほらいつもみたいにベッドにどーぞ!」
梨子「あした大会なのに……」
梨子「失礼します」モゾモゾ
千歌「消灯ー!」
梨子「……眠れなかったの?」
モゾモゾ
千歌「ん……ちょっと考えてただけだよ。明日はどうしよっかなって」
千歌「これが眠れないってことなら、そう、なのかな」
千歌「一回負けただけで、だめなんだもん……。私は全国に行って、聖良ちゃんを倒すって決めたんだから」
梨子「……」
千歌「今日、凄かったね、えへへ……感動したよ?」
梨子「そんな……」
梨子「結局、負けちゃったし」
千歌「でも凄かった!! 梨子ちゃんの今までの頑張りが、伝わった」
千歌「千歌のワガママに付き合ってくれて、ありがとう。梨子ちゃんが居てくれたから、私はこうやって……みんなで楽しくやれてるんだよ」
千歌「えへへ……」
梨子「ワガママなんかじゃないって、言ったでしょ? ……やってきて良かったって、本気で思ってる」
梨子「ありがとう千歌ちゃん……本当にありがとう」
千歌「うん……っ」
梨子「でも、やっぱりさ」
千歌「うん……」
梨子「――勝ちたかった、なあ……」 梨子「ぐす……みんなでもっと、上まで行きたかった、勝ちたかった!!」
千歌「うん……」ギュッ…ナデナデ
千歌「梨子ちゃん達の分まで、絶対勝つから……。わたし、明日は死ぬ気でがんばる」
梨子「うんっ……」
千歌「あんなに必死でやってるところ見せられたらさ……私も頑張らなきゃって」
千歌「だから……がんばろうね、一緒に!」
梨子「うん……っ」
梨子「――はい、十分経ちましたよ?」
千歌「へ」
梨子「眠ろ?」
千歌「んぅ、もうちょっと話そうよお……」
梨子「だめ、明日は大事な日なんだから、ね?」ナデナデ
千歌「わかった……」ギュッ…
千歌「こうするとあったかいから、このまま寝る」
梨子「仕方ないなあ……」
千歌「起こしてね、起こしてくれないと起きないから」
梨子「はいはい」ナデナデ
梨子「おやすみ」 ◇――――◇
個人戦会場
千歌ママ「いよいよ今日がやってきたわけだけど……個人戦組、準備はオッケー?」
千歌「オッケー!!」
曜「うんっ」
千歌ママ「うまくすればAqoursだけでベスト4占めることも出来るドローだから、そう出来るように」
善子「いいわねそれ」
善子「準決勝で……曜、決勝で果南さんか千歌さんか……」
曜「今日は勝つよー!」
善子「望むところよ!」
千歌「ベスト4までいけばいいんだ……そしたら果南ちゃんと……」
果南「負けないからね?」
千歌「私だって!」
善子「私はシードだから、審判行ってくるわ」
善子「みんな、一回戦から躓くなんてやめてよね!!」
千歌「当たり前だよ!」
千歌「よしっ、行こう!!!」 ◇――――◇
梨子「千歌ちゃんナイスボール!!!!」
梨子「勝った勝った!!」
ダイヤ「4回戦……角シードも破って、余裕でしたわね……角シード相手にこれなので、次の試合はもっと楽なはずですわ」
鞠莉「果南も角シード余裕撃破、これは……あるんじゃないの?」
ルビィ「すごい、みんな」ウキウキ…
花丸「5回戦勝てば、ベスト4……」
ダイヤ「わたくしまでドキドキしてきました……もうっ」
鞠莉「くすっ」
◇――――◇
千歌(あれ)
見える。
相手の球遅い。動きも遅い。止まって見える。
簡単に打てる、追いつける。
ドライブされてもカウンターで撃ち抜ける。
前はこんなんじゃなかった、ギリギリで打ち合って、なんとか勝ってた。4回戦で負けて、今回は簡単にその目標を突破出来て。
5回戦、ベスト4、つまり全国へ行くための戦いだ。なんだかそれも、順調すぎるほど順調だ。 サーブ、ドライブ、台上、ブロック。冷静に考えても……負けてるところは、一つもない。
私は強くなった。確かにそう、実感出来る!!
少し前、果南ちゃんと曜ちゃんはベスト4をかけ試合をしていた。応援席で見ていたけれど、二人とも圧勝。善子ちゃんはすでにベスト4が確定していて、ついにAqoursが三人全国への切符を手に入れていることになる。
残るは私だけ。
プレッシャーもあった。
でも、心地良いプレッシャーだった。みんなに負けたくない、私だって、違う世界にいる人達に食らいついていくんだから!!
ドライブを振り抜く、相手のいないコースがよく見えた。まるで時間が止まったみたいに、相手はその場から動かず私の球筋を見ていた。
千歌「しゃっ!!!」
手を高くあげる。
みんなの歓声が聞こえた。
この日。静岡県からの全国への切符は、Aqoursが独占することになった。 ◇――――◇
千歌「やったー!!!!」
曜「やったねっ、やったねっ千歌ちゃんっ!!」
千歌「うんっ、うんっ!!!」ピョンピョンッッ
梨子「おめでとう……っ」
千歌「ありがとう……わたし、わたし……」
善子「あなたは強いんもの、当然よ。おめでとう」
千歌「あ、ありがと……」
鞠莉「まさかほんとーにAqoursだけで独占できるなんて……」
鞠莉「ちょっと白けちゃったかしら?」
果南「あはは……競技卓球でもあるよね、強豪校が強くて上にあがると部内戦みたいになること」
千歌ママ「みんな、ひとまずおめでとう。これで次に繋がったね」
千歌ママ「あとはここ、誰が優勝するかだけど……」
ダイヤ「部内戦で勝つのとプレッシャーたまらけの公式戦で勝つのはわけが違います、ここで勝った人が、Aqoursで一番強いと言ってもいいでしょう」
千歌「ごく……」
曜「一番強い……」
ダイヤ「がんばってください、みんな」
果南「よろしく、千歌」
千歌「う、うん」
善子「…………」
曜(うわ敵意丸出し……うぅ、そうだよね)
曜(勝てるようにがんばろう……善子ちゃんが本気で敵意を向けるくらい私は強くなれたってことなんだから……) ◇――――◇
会場前
千歌「んー……おわったあ!!」
花丸「決勝戦、凄かったね」
果南「だめだめ……善子ちゃんやっぱり強いよ」
善子「疲れた……」
ダイヤ「優勝インタビューも、前より良かったわよ。ディフェンド、おめでとう」
善子「ありがと」
善子「り、リリー有言実行よ!!」
梨子「うん、かっこよかったよ」
善子「ふふん!」
千歌「よし、今日は帰ろう! また今度、打ち上げしよーね!」
鞠莉「盛大にね!!」
千歌「ばいばいっ!!」 ◇――――◇
車の中
千歌ママ「やっぱりメンタルの差だったかな……」
志満「一番競ったのは曜ちゃんと善子ちゃんの準決勝だったね」
千歌「凄かったんでしょ? 私は果南ちゃんに普通に負けたからあれだけど……」
梨子「凄かったよ、本当に……善子ちゃんも曜ちゃんも……貫くみたいな眼光で」
千歌ママ「今回は善子ちゃんが勝ったけど、やっぱり大舞台慣れしてるからだね」
志満「曜ちゃん……今回かなり良い経験になったんじゃないかな」
千歌ママ「次はどっちが勝つと思う?」
志満「……多分、曜ちゃんかなって」
梨子「そんなに、なんですか?」
志満「序盤2ゲーム先行したのは善子ちゃんで、このまま行くかなって思ったところに……曜ちゃんの雰囲気が一気に変わったから……」
志満「そこから結局フルセットになって善子ちゃんは逃げ切ったけど……多分もう少し早く曜ちゃんがあの状態になってたら」
千歌「ごく……」
千歌ママ「……やっぱり天才だよ、あの子」
千歌ママ「今回また進化したとしたら、全国……凄いことになるかもね」
梨子「……」
千歌ママ「はいどーぞ梨子ちゃん」
梨子「ありがとうございました!」
千歌「じゃあね!」
梨子「うんっ、ゆっくり休んでね」バタン ◇――――◇
美渡「果南ちゃんに負けたんだって?」
千歌「なんでそこだけ言うのっ! ベスト4だよベスト4!!」
美渡「あーはいはい」
美渡「ま……がんばったじゃん」
千歌「……」
美渡「今度なんか買ってきてあげるよ」
千歌「ほんと! 服!」
美渡「安めの食べ物に決まってるでしょうが」
千歌「ケチだなー」
美渡「黙れ」
志満「でも、本当に頑張ってたよ。よかったね勝てて」
千歌「うん……!」
千歌ママ「全国大会までは約1ヶ月あるから……そこでみっちりやるんだよ。私はもう仕事、戻らないとだけど」
千歌ママ「美渡と志満、引き続きお願いね」
志満「わかった」
千歌「よしっ、ごちそうさま!」タッタッタッ
美渡「あの子がねえ」
志満「ね」
美渡「まあ……いいけどさ」
志満「見に来れば良かったのに」
美渡「仕事だってば」
志満「全国は?」
美渡「土日でしょ? 土曜仕事だしなあ」
美渡「……有給、とるよ」
志満「ふふっ、それがいいね」 ◇――――◇
プルルルルルルッッッ…
千歌「ごく……」
聖良『もしもし』
千歌「あ、あのっ聖良さん!」
聖良『――全国大会出場、おめでとうございます』
千歌「へ、知ってるんですか」
聖良『ええ、SNSで調べたら出てきたので』
千歌「な、なんだあ」
聖良「有言実行、ですね」
千歌「うん……」
聖良『Aqoursの皆さんで全国を独占したとか……少し話題になってるわ』
千歌「あはは……それはちょっと……」
聖良『何より……あの時の宣言をちゃんと形として実現したことを、尊敬する』
千歌「あ、ありがとう」
聖良『東京で会いましょう、そして対戦出来るのを楽しみにしてる』
千歌「うんっ!』
聖良『おやすみなさい』
プツッッ
千歌「あ……聖良さんに、北海道大会優勝おめでとうって言うの、忘れてた……」
千歌「ま、まあいっか……」
千歌「でも……ついにここまで来た。あの日無理だって言われてたこと、成し遂げた……ここからは、また……」 ◇――――◇
曜「おっはよー善子ちゃん!」
善子「ん……おはよ」
曜「いやー昨日は凄かったねー」
善子「私としてはなんか……」
曜「ん? 優勝したのになにかあるの?」
善子「いや……あなた、本当強いなって」
善子「……認めたくないけど」
曜「へ//」
曜「いやでも普通に善子ちゃんに負けたし」
善子「――対戦した私が一番分かるわよ」
曜「……?」
善子「ま……もし全国でも当たるなんてことになったら、よろしくって感じね」
曜「次は負けない!」
善子「私だってただでやられる気はないってば」
善子「でも……あなた、分かってるの?」
曜「?」
善子「――千歌さんとも当たる可能性があるわけだけど」
曜「……!!」
善子「なんか……一時期そんな感じのことで揉めてなかった?」
曜「あはは……確かにそんなことあったかも」
曜「でも、大丈夫だよ。相手が誰だって」
曜「……大丈夫」
善子「……それならいいんだけど」 ◇――――◇
二週間後
善子「ちょっとずら丸、なんであなたが前で見てるのよっ、見せて見せて」
善子「んん?」
ダイヤ「A〜Dブロックに分かれたトーナメント戦、です」
ダイヤ「大会は二日に別れて行われ、一日目はブロック代表者決め。二日目は各ブロックを勝ち上がった四人の選手が準決勝から決勝戦として、行われるようです」
ダイヤ「合計で8回勝てば優勝ですわ」
千歌「は、8回も勝たなくちゃいけないの……ひやー……」
善子「私は? 私はどこにいるの?」
曜「善子ちゃんは……あ、ここ。Bブロックの、中シードだよ」
善子「え、シード?」
鞠莉「実績残してたからね」
善子「そっか……」
ダイヤ「果南さんはAブロック、ですわね」
果南「ん、待って……Aブロックって」
ダイヤ「――鹿角聖良さんが、第一シードとして組み込まれています」
果南「うわ、運悪いね」 花丸「果南さんがAブロックを勝つには、聖良さんを倒さなくちゃいけない、ってことだよね……」
果南「ま……どうせいつかは闘うんだしさ、仕方ない仕方ない」
ダイヤ「曜さんは……Dブロック、ですね。ここにも……」
曜「――鹿角理亞ちゃん……か」
ダイヤ「ええ」
曜「かー……まあ、やるしかないよね……理亞ちゃんなら散々映像見てるからまだマシかも」
千歌「ねえ千歌は千歌は?」
ルビィ「あ、ここ、Cブロックにいるよ」
千歌「なるほど……」
ダイヤ「千歌さんはパッとみた感じでは、なかなか良いドローを引けたのでは?」
千歌「ほんとー? ラッキ!」 果南「私がAブロック、善子ちゃんがBブロック、千歌がCブロック、曜がDブロック……」
鞠莉「同士討ちは一日目は無し」
梨子「すごい、いい感じにバラけたね」
ダイヤ「二日目の準決勝はA×Bブロックの勝者、C×Dブロックの勝者なので、仮に全員勝ち上がれたならば、果南さん×善子さん。曜さん×千歌さん。になりますわね」
曜(――勝ち上がれたら、千歌ちゃんと、か)
鞠莉「全国でもAqoursで占めちゃったらどうなるのかしら」クス…
千歌「そしたらすーごいっ話題になるかも!」
千歌「えへへ……なんか楽しみになってきた」
千歌「よし、練習しよ!」
ダイヤ「後でみなさんが当たりそうな有力選手を調べておきますわ」
千歌「うんっ、お願いっ!!」 また。次から鹿角姉妹のいる全国。
最後まで付き合ってくださったなら、各キャラの詳細データを用意してます。それまでどうぞご贔屓に。 やっぱりちゃんと競技知ってる人が書くと面白いわ
続き期待 千歌ちゃんと当たったら曜ちゃんはガチれんのかなあ
楽しみ https://mobile.twitter.com/takkyuugeinin/status/846688347414118401
こちら卓球のサーブ集。
卓球芸人さんのもので、サーブがどのような変化をするか、一分もかからずに大体わかるのでよくわからない方は是非。 ◇――――◇
全国大会、初日
千歌「ついに!! この日が来たー!!」
千歌「6時の電車に乗って……はるばる東京まで……!!」
善子「あ、あんまり騒がないでよっ」
千歌「でもでもっ、今回は私もこの体育館で出来るんだよ!」
千歌「見てるだけじゃなくて!!」
梨子「うん……そうだね」
聖良「――お久しぶりです、Aqoursのみなさん」
千歌「え、あ……聖良さん!」
聖良「久しぶり」
聖良「今回はAqoursの皆さんは四人も出場されるそうで……」
善子「おかげさまでね」
聖良「お互い頑張りましょう、皆さんと対戦出来るのを楽しみにしています」
理亞「姉さん、早く入ろ」
聖良「そうね、ではお先に」
スタスタ
善子「なによスカしちゃって」
曜「まあまあ」
千歌「私たちも入ろ!」
スタスタ
千歌「うわーやっぱりロビーもおっきいなあ」
千歌「みんな可愛い……」
千歌「お化粧大丈夫かなあ……」
果南「大丈夫大丈夫可愛いよ」
千歌「そ、そう?」
花丸「もう練習してる人もいるみたい……行った方がいいかも」
千歌「そうだね! よし、練習行こ!」 ◇――――◇
千歌「開会式長くなかった?」
ダイヤ「当たり前ですわ! これから歴史を続けて行こうとする大会なんです、さくっと終わってしまったら今後に対する――」
千歌「あー、わ、わかりましたぁ!」
曜「みんなレベル高かったなあ……」
果南「そうだね……でも私たちだって負けてなかったはず」
千歌「うんっ……」
善子「そろそろ一回戦が始まるわね」
千歌「よし、みんな集合ー」
千歌「今日まで私たちは本当に頑張って来たと思う! 辛いこともたくさんあったけど、楽しかったからここまで来れたよね!」
千歌「だから今日は、みんなに知って貰おう!! 私たちAqoursがしてきたことを!」
千歌「明日もまたこうやって、円陣が組めるように!」 ◇――――◇
鞠莉「ナイスボールちかっちー!!」
善子「最高ね! 楽勝じゃない!」
ダイヤ「ええ、全国大会一回戦……初戦なので厳しいものになるかと思っていましたが……見事ですわ」
花丸「果南ちゃんも絶好調! みんなみんな一回戦突破ずら!」
ルビィ「すごいすごい!」
鞠莉「曜の試合見てなかったけど、フルセットまで行ったの? 大丈夫?」
曜「うーん、あははそうなんだよね。なんか、よくわかんないけど」
曜「でも段々調子出てきたから平気だよ!」
梨子「みんな……凄いね!」
美渡「ねえねえ、千歌は!?」
梨子「え、美渡さん……志満さんも来てくれたんですね」
志満「うん」
鞠莉「ちかっちはストレート勝ちです♡」
美渡「うそ……ほんとだ」
志満「まずは第一関門突破……うんうん」
志満「お母さんも少し遅れて来るけど、その間には負けなそうでよかった」 ◇――――◇
曜「しゃあ!!!」
曜「ありがとうございました!!」
聖良「……」
聖良「……あの人は確か、Aqoursにいた、渡辺曜さん、だったかな」
聖良「高飛び込みだか水泳だったかで凄い成績を残してるとか……」
聖良「……ふぅん」
聖良「――天は二物を与えないだなんて、誰が言ったのか」
理亞「……姉様誰を見てたの?」
聖良「渡辺曜さんよ」
理亞「なんであんな人?」
聖良「強いなって、思って」
理亞「はあ? あんな人が? Aqoursでも一番じゃないんでしょ、だったら津島善子でも見てた方がいいわ」
聖良「とにかく次の試合は見ておいた方がいいかもしれない」
理亞「……まあ、姉様がそう言うなら。分かった」
理亞「でも、津島善子……かなり強くなってると思う」
聖良「本当に? 勝ち上がると思ってまだ見てないんだけど」
理亞「今試合やってるから見に行こ」グイッ ◇――――◇
千歌「えへへ……勝っちゃった……三回戦まで!!」
千歌「凄くない!? 千歌、全国でも闘えてる!」
ダイヤ「ええ、素晴らしいですわ」
ダイヤ「ここまで四人とも、素晴らしい試合を見せてくれています、ただ、次の4回戦からは」
鞠莉「――シード選手と、よ」
鞠莉「4、5、6回戦はほとんどがシード選手……簡単に言えばボスラッシュね!」
千歌「ボスラッシュ……」クス
ダイヤ「ただ、千歌さんの場合はシード選手が負けているので……どうなるかはわかりません、良い方向に進んでくれるといいのですが」
千歌「楽な相手だと良いんだけど……」
善子「曜と果南さんはどこ言ったの?」
花丸「なんかロビーの方に行ったよ?」
千歌「?」
千歌「私の4回戦遅れてるんだよね? ちょっと見てくるー!」 ◇――――◇
曜「ふぅ……」
果南「ん、曜……平気?」
曜「え?」
果南「凄い顔、してたよ」
曜「あはは……気にしないで」
果南「ごめん、邪魔しちゃったね……」
果南(曜は集中力高める時、人を殺すみたいな目しながらぼーっとしてるからなあ……)
果南(まあ、それが出てるってことはいい傾向なんだろうけど)
曜「いやあ……理亞ちゃんとだからさ、頑張らなきゃって」
曜「果南ちゃんも聖良さんとなんだから……多少は緊張しない?」
果南「うーん、まあ楽しみの方が大きいかな。そんな強い人とやれるんだから」
果南「緊張してるの?」
曜「ううん、全然……すっごくいい感じ、いいプレッシャーって言うのかな」
曜「わたしも、楽しみ」
果南「そっか」
聖良「――あ……こんにちは」
曜「聖良さん、理亞ちゃんも」
理亞(こいつもいきなりちゃん付け……どいつもこいつも)イラ 聖良「次の試合、よろしくお願いします。松浦さんとですよね」
果南「ええ、よろしくね」
聖良「よろしく」
曜「理亞ちゃんも、よろしくね」
理亞「……」
曜「私ね、すっごく理亞ちゃんのプレーが好きで、参考にさせて貰ったの! だから、楽しみ!」
理亞「そ……負けないから」
曜「私も!」
聖良「……」
千歌「あ、曜ちゃん達こんなところにいた! あり? 聖良さん達も」
聖良「たまたまです。次、対戦するということなので」
聖良「理亞と渡辺さんが先に試合をするようなので……私も楽しみ」
聖良「では私たちはこれで、お互い、いい試合にしましょうね」
理亞「……」スタスタ
曜「ふぅぅ……」
曜「よしっ!! 行こう! 絶対勝つぞ!!」 ◇――――◇
曜(理亞ちゃんと練習してる、本当に試合するんだ……勝つ、勝つんだ)カコンカコン
理亞「ラストで」
曜「うん」
曜「ふぅぅ……」
曜(ラケット交換……)
曜(情報と変わりなし……前人向けのラバーとラケット、スピード重視のハイテンション表ソフトラバー……表ソフトの経験は千歌ちゃんのママに仮想敵として対策しただけだけど……)
曜(前評判通り、多分問題ない)
理亞(――はあ? なに、このラケットとラバーの組み合わせ)
理亞(馬鹿みたいにぶっとぶラケットに、馬鹿みたいにぶっとぶ超スピード重視のラバー……ぶっとび同士を掛け合わせるなんて、この人、頭おかしいんじゃないの?)
理亞(こんなの……普通扱えるわけない……。いくらここまで来たからって)
理亞(舐めてるのかしら……とりあえず暴発のミス狙いね)
渡辺 曜
ラケット ガレイディアT5000
フォアラバー ブライスハイスピード(特厚)
バックラバー ブライスハイスピード(特厚)
VS
鹿角 理亞
ラケット ヒノカーボンパワー
フォアラバー テナジー25(厚)
バックラバー フレアストーム2(特厚) 千歌「はぁぁ、緊張するよぉ」
果南「わかる……」
鞠莉「もうこっちが緊張しちゃだめでしょ!」
梨子「善子ちゃんの試合はどうなってるかな、見えない……」
鞠莉「押してるみたいよ、善子ちゃんはシードだから順当にいけば大丈夫なはずだけど」
鞠莉「あっちはダイヤとマルちゃんとルビィちゃんに任せて……応援しましょ」
梨子「うん……」
千歌(聖良さんも少し離れて応援してる……まあ当然か……)
千歌「曜ちゃんがんばれー!!」
曜(……まずは)カコンカコンッッ
理亞「!!」
理亞(いきなりロングサーブ、それも小細工もへったくりもない! 舐め、ないで!!!)カコンツッ!!
曜(ライジングのスピードドライブ!! ――知って、る!!!)バコンッッ!!!
理亞「なっ……」
1-0
曜「よしっ」 理亞(……ライジングで叩いたのに、ライジングで叩き返してくるなんて)
理亞(……むかつく)
千歌「曜ちゃんナイスボール!」
鞠莉「ナイスライジング返球ね……」
果南「うん……早すぎ」
梨子「ライジングって……」
果南「梨子ちゃんはほとんど練習してないからあんまりわからないかもしれないけど、球がバウンドしてすぐに打つ技術だよ」
果南「普通に打つタイミングよりも早く打球すると、相手の回転の変化を受けにくいし……なにより相手の時間を極端に奪える」
梨子「球の上り側……確かに曜ちゃんと打つととにかくペースが早くなって、すぐついていけなくなってたけど……それが――ライジング打法」
鞠莉「そう……曜はこれまでそのライジングに拘ってずっとやってきた」
鞠莉「ライジング打法は反射神経と繊細なタッチがとても重要で、常時打ち続けるだなんてほぼ不可能だけど」
鞠莉「曜はその才能が――神掛かっていた」
鞠莉「その才能は、きっと」
鞠莉「……」 鞠莉「そして相手の理亞ちゃんも、ライジング使いの前陣速攻型」
鞠莉「フルセットになったとしても、試合は早く早く終わるわよ」
鞠莉「前陣速攻vs前陣速攻はね」
理亞(こい、つっ!!)パコンッパコンッッ
ギュッ
曜「ふっぅ」スパ-ンッッ
理亞「くっ……」
理亞(速い……球も、動きも……なんなんだ)
理亞(私がラリーで負けてる……? そんなわけ……)
曜(相手のライジングショットは確かに速いけど……なんとかなる……ラリーでなんとかなるなら……勝てる!!)
曜(もっと速く、もっと強く、もっともっと!!)
カコンカコンッギュッインッギキュパッッ
理亞(お、押され……)
スパ-ンッッ!!!!
理亞「な……くっ」
11-6
曜「よしっ!!」
理亞「もうっっ!!」
千歌「1セット取ったあ!!!」
千歌「あの理亞ちゃんから! 全日本ベスト32から!!」
果南「すごい……完全にラリーで打ち勝った……」 鞠莉「相手はほとんど考える時間が無かったみたいね……なんとかしようとしてるうちに」
梨子「すごい……」
聖良「……」スタスタ
千歌(聖良さん、どこ行くんだろう……?)
理亞(落ち着け私……さっきのセットは最悪だった。サーブもレシーブも全部長いのを打たれて、ラリー戦にしようとしてる)
理亞(前陣でのラリーで負けてる……そんな、わけ。前陣速攻っていうのはミスがつきもので、どれだけミスよりウィナーを増やせるかの勝負)
理亞(ずっと厳しいコース、しかもライジングで打ち続けるなんて出来るわけない……出来てたまるか。冷静になって、タイミングをずらすのが良いわね)
理亞(2セット目)
理亞(ほとんど見れなかった、台上はどう、かしら!!)キュパッ
曜(フォア前下回転! 回転は強烈、打つのは無理)ツッツキ
曜(理亞ちゃんのフォア前にツッツキをすれば……)
理亞(甘いっ!!)フリックッッガツンッ!!!!
曜(それも知ってる!)パチコ-ンツッ!!!! 理亞「くっ……」
理亞(うそ……)
曜「しゃっ!!」
果南「台上でミート気味にはたきつける打法の、理亞ちゃんのフリック。かなり攻撃力があって成功したら一気に優位になるレシーブだけど」
鞠莉「あんな風にライジングでぶっ叩くなんて、ね……」
果南「曜は言ってたんだよね。あんな風なフリック打ちたいって、きっとあの超高速フリックは理亞ちゃんの生命線のはず」
果南「それを延々とビデオで見てた。フォア前に少し甘いのを出したらクロスにフリックっていう定石があるのを、分かってたんだと思う」
千歌「すごい、曜ちゃん……」
曜(理亞ちゃんの生フリック、ほんとに速いな……今のはギリギリだった……)
曜(でもコースが分かってたからついていけた……問題はコースが分かってない時)キュパッッ
曜(バックの短いところ、表ソフトなら台上ドライブもチキータもほとんど出来ないはず――)
理亞「っ!!!」スパ-ンッッ!!!
曜「なっ……」
1-1
曜(ライジングのタイミングで、バック側、表ソフトの超超高速フリック……速い)
曜(裏ソフトのフォアより、圧倒的に速い……) 理亞(舐めんなってこと……もう怒った、ぶっ潰す)
理亞(全速で……)スッッ
曜(!!)
曜(バック! ミドルっ、速い……さっきより、全然!)カコンッカコンッッ
曜「くっ……」
1-2
千歌「早すぎ、だよ……なにあれ」
果南「本領発揮って感じかな……ちょっと速すぎる」
鞠莉「球離れが早くでさらに回転の影響も受けにくい表ソフトを貼ってるバック側でのラリーが主戦力、みたいね」 ◇――――◇
理亞「しゃあ!!!」
6-11
曜「……ふう、だめか」
曜(速い、とにかく速いけど……)
曜(なんか――見えてきたかも)
曜(次はいけそう……)
曜(なんだろう……私、理亞ちゃんとまともにやりあえてる……嬉しいな)
曜(理亞ちゃんも答えてくれてる。理亞ちゃんのラリーのスピードはおそらくもうほとんど最速に近いはず)
曜(私もそれに喰らい付かなきゃ……次のセットは――最初から全開だ)
曜(――ん……善子ちゃんが勝った、みたい? なんか喜んでる)
曜(さすが善子ちゃん……私も、いっちょやりますか!!)スッ…
理亞「……」
曜「……」ギロッ…
理亞(雰囲気が変わった……なに、この人……本気って、わけ? いかんせんアイドルがする顔じゃないけど……まあいいわ)
理亞(卓球歴が浅いとか実績がないとか思ってたけど……どうでもいい。最速で、打ち勝つだけ)
理亞(決勝で、姉様を倒すのは――私なんだから!!!) ◇――――◇
曜「よしっ!!!」
相手が、握りこぶしを突き上げ手を吠える。それに呼応するようにして、会場が沸き立つ。
どういうこと。
どうして私は今、こんなにも、劣勢なの?
理亞(2セット取られて……6-9で負けてる)
嘘、だ。
私はこんなところで、負けられない。
それなのに、なんなんだこの人は!
ラリーが速い、どれだけ早く打ってもタイミングをずらそうとしても……前で前で打ち込んでくる。深いところに送った球は普通ドライブで薄く擦るように返球するくらいしか出来ないのに。
この人はライジングよりもさらに前……馬鹿みたいにシビアなタイミングでぶっ叩いてくる。
なんて反射神経。どこへ打っても、反応して飛びついてくる。
それを、何本も何本も。
あのぶっ飛び道具をまともに扱って、私は少し下げられて結局ラリーで打ち負ける。
それにこいつ――私のラケット面なんてほとんど見てないっ。来た球だけを見てる。
そんなので、正確な回転が、分かるわけっ!!! わかられて、たまるかっ……。 曜「っ」ジッ…スパンッッ
なんで、こんなに。
まるで――自分と打っているみたいだった。最高に良い時の自分と。サーブもフットワークも台上も……私のいいところをとって、さらにプラスした、みたいな。不自然な感覚。
相手の打った球が、ラケットより向こうへすり抜けていく。
試合終了のコールがされる。会場は、馬鹿みたいに沸いていた。
ああ……負けた。
少しの間、理解出来なかった事実だったけれど……相手側の応援の声が聞こえて、そのあと、嬉しそうな相手と握手をする。
途端に、現実が襲ってきた。
――才能、か。
押し潰さんとばかりに大きくなったそれは……私の眼前を、埋め尽くしていた。 ◇――――◇
千歌ママ「模倣がオリジナルを超える、か」
千歌ママ「ありえるような話だけど」
千歌ママ「残酷、だね」
千歌ママ「曜ちゃんは死ぬほどあの子を見てたから勝てた」
千歌ママ「千歌や果南ちゃん、善子ちゃんでも負けてたかもしれない」
千歌ママ「理亞ちゃんは、努力の極み、それでも……才能の壁は」 ◇――――◇
千歌「すごい、すごいすごい!!!」
千歌「理亞ちゃんに勝っちゃったよ、おめでとう!!!」
善子「まさか本当に勝つなんて……」
曜「いやー、私もこんなにって思ったんだけど! なんか出来がすっごく良くて!」
曜「相手の動きも映像で散々見てたから、次何をしてくるかなんとなく分かって……」
千歌ママ(ほんと、恐ろしい子ね……遅れて来てみたらかなり優位だったんだもの)
曜「あ、千歌ちゃんのお母さん!」
千歌ママ「こんにちはー、おめでとう」
曜「ありがとうございます! 映像たくさん用意してくれたおかげです!」
果南「見ただけでなんとかなるような相手じゃないと思うけどなあ……すごいよ本当に」
千歌「大金星!! みんな曜ちゃんのこと話してるよ!!」
曜「えへへ……良かったあ」//
千歌(そういえば聖良さん……どこ行ったんだろう)
曜(理亞ちゃん……最後……なんか、大丈夫だったかな……様子変だったけど) ◇――――◇
ロビー
聖良「……」モグモグ…
千歌「……ん?」
千歌(いや……え?)
千歌(な、なに食べてるの? いやいや嘘だよね)
千歌(――お寿司……?)
聖良「……?」
千歌「こ、こんにちは……」
聖良「ん……理亞が、負けたようですね」
千歌「あ、はい……」
聖良「渡辺曜さん……素晴らしいですね」
千歌「あの、どうして途中でいなくなったんですか? 戻ってきて、なかったよね?」
聖良「ああ……見てたんだ」
聖良「そうですね……なんて言えばいいのか」
聖良「――理亞は……努力していましたよ。私なんかより、きっとどこの誰よりも。理亞を一言で表すならば……努力の粋」
聖良「届くはずのない空へと手を伸ばし続けている――蛇です」 千歌「……」
聖良「そうですね。簡単に言うなら……あれ以上見ていたく、無かった……それだけです」
千歌「え……」
聖良「――妹がやられるって分かってて……。いえ、だったら妹の頑張りを最後まで見ていなければいけないんですけど」
千歌(わかっ、てた?)
聖良「……でも」ウツムキ
聖良「――理性だけでどうにもならないことも、あるじゃないですか。目を背けたくなることだって、あっても……いいじゃないですか」ギリリ…
千歌「っっ」
聖良「……私は理亞が必死に頑張って来ていたのを私は知っています。私が一番近くで見ていましたから」
聖良「悲しいですね。"それ"を持っているだけで、人は人を無容赦に傷つける。持たざる者にとって一番――残酷ですよ」
千歌(曜ちゃん……)
聖良「……では、これから試合なので。松浦さんですよね、私も理亞の分まで、頑張ります」 千歌「あ、そっか果南ちゃんの!」
千歌「あ、ちょっと待って!」
聖良「?」
千歌「あのー……どうしてお寿司を……」
聖良「ああ……栄養補給になかなかいいんですよ」
千歌「そ、そうなの?」
聖良「本当は加熱したりした方がいいんだけど」
聖良「……まあ単純にモチベーションの一種というか、好きだからなんです」
千歌「ほえー……リッチ」
千歌(だからクーラーボックス持ってるの……?)
聖良「ふふ、安物ですよ」
聖良「ただ……やっぱり東京のものはあまり美味しくない、かな」
千歌「流石北海道……」
聖良「よかったら来てくださいね」
聖良「よし……行ってきます」
千歌「うんっ」
千歌(果南ちゃん……がんばって……!) ◇――――◇
曜「……」キョロキョロ
コソコソ
「あれ、渡辺曜だよ」
「前回準優勝の……ほら、鹿角の片割れをやったっていう」
「えー、鹿角の妹もかなり強いはずじゃ」
「強いも強い、全日本でも結構な成績残してる化け物だよ」
曜(なんかさっきから見られてる気が……うぅ、お化粧崩れてないかな……)
曜(理亞ちゃんは……)キョロキョロ…
曜「あ……」
理亞「……」ズズズ
曜(メロンミルク……)
理亞「……? なに」
曜「あ、いや……えっと」
曜「なんか、変な感じだったから大丈夫かなって! 余計なお世話かもしれないけど……」 曜(勝った人が敗者に向ける言葉は……全部ナイフみたいになるって……今までの経験で、わかってるはずなのに)
曜(睨まれて拒絶されて、才能があっていいねなんて、言葉をぶつけられて。そんなこと――今までの経験でわかってるのに)
理亞「そうね、余計なお世話」
曜「ぅ……」
理亞「……」
理亞「座れば」
曜「え、大丈夫?」
理亞「うん」ズズズ…
理亞「……」
曜「……」
理亞「あなた、強いのね」
曜「え……あ、いやたまたまだよ……。たまたま理亞ちゃんのプレーがいいなって思って、いろんな映像見てただけで」
理亞「そう思う機会なんてあった?」
曜「ほら、夏辺りに卓球場で善子ちゃんとやってたでしょ? あれを見て」
理亞「……なるほど。映像見て練習してたらあんな風になったと」
理亞「それだけで……」ボソ…
理亞「……最高に気持ち悪かった、私がしたいプレーをそのままやり返されてる気がして」 曜「あはは……」
理亞「私に勝ったんだから……少なくとも決勝まで行って……姉さんに勝ってよね」
曜「聖良さんの応援しないの?」
理亞「する、けど……姉さんには負けて欲しいから」
曜「負けて欲しい?」
理亞「本当なら私が姉さんに勝つのが一番良かったんだけど……それも出来ないから」
曜「どういう、こと」
理亞「……」
曜「聞いちゃ、まずかったかな」
理亞「それで気合い入るなら、話す」 ◇――――◇
果南「くっ……」
果南「はぁぁ……」
4-11
果南「たく……ほんと、強すぎだって」
聖良「……」
果南「まさかここまでなんてね、どうしようかな」
千歌「うぅ、強いな聖良さん……」
鞠莉「果南もフォア同士のラリーなら負けてないと思うんだけど……どうしても、バックが」
ダイヤ「果南さんがバック苦手というよりも……最早日ペンの弱点を突いてきているとしか」
千歌「がんばれ、がんばれっ……果南ちゃん」
聖良(松浦果南さん……日本式ペンのレンジ関係ないオールラウンドドライブ型。そのドライブの回転とスピードの威力は私よりも上かもしれない)
聖良(ただまあ、それが正確なところに入るかと言われたらそうではないし打ち合いになったらバックバンド側に振ればやっぱり対応が遅れている)
聖良(ラリー中のバックハンドの切り返しにはやはり弱点が残っている)
聖良(格下相手ならばオールフォアでのドライブで決してしまうでしょうけど、私はそうは行きませんよ) 聖良(バックに深いツッツキ……っ、これで松浦さんは)
果南「ふっっ!!!」
スッッギュイッンッッ!!!!
聖良(! バック側も回り込んで逆クロスに必殺のスピードドライブを仕掛けてくる!!)
聖良(でもっ)ブンッスパンッッ
果南「くっっ」
果南(このカウンタードライブはオープンコートに打たれたらまず取れない……まずいなあ)
聖良(そのドライブを打っているんじゃなくて、打たせている間、私は負けません)
果南「はぁ……ほんと、やっかいだな」
果南(サーブも、全然わかんないしな……次はなんだろ)
果南(鞠莉が出すYGサーブ! 回転の精度は似たようなもの、だけど)
キュパッッポ-ンッッ
0-6
果南「ふぅ……」
果南(フェイントの精度が桁違いだ……しかも左利きのYGはほとんど受けたことないしなあ……) 鞠莉「んん……」
千歌ママ「……」
千歌「強い……」
千歌(夏前に私と打った時はどれだけ手加減を)
善子「……」
千歌「果南ちゃんまだまだいけるからガンバッテー!!!!」
2-11
果南「ふぅ……」
聖良(今の所は問題なし)
聖良(長い手足を生かしたレンジ関係ない超強力な日ペン特有のフォアドライブ、攻撃に繋げるための積極的な台上プレー)
聖良(バックハンドの強烈なプッシュ攻撃に、繋ぎのブロックと……バッグも鍛えては来ている)
聖良(なにより、広大な範囲を動き回る……縦横無尽で強靭なフットワーク)
聖良(一つ一つは素晴らしい……でも)
聖良(――一つの技術が一つで終わっている)
聖良(卓球は一つの技術で勝てるスポーツじゃない、技術と技術の親和性がなによりも大切なこと。松浦さんは、どこかそれを見失っている、のかもしれませんね)
聖良(私には関係ないけど。このまま、倒すだけ) 果南(全然だめだ……強すぎ)
果南(バックが悪いのかな……)
果南(いやでも……打ち合いになっても負けてる気が)
果南(それもこれもバックへの返球がチラついてるせいでもっとバックに安定感を)
果南(あ、いや違うな……そもそも、もっと満足な体制で打てるように時間を作って)モヤモヤ
鞠莉「んもう!」
鞠莉「――果南!!! なにごちゃごちゃ考えてるのよ!! やりたいようにやればいいでしょ!!」
鞠莉「私たちはこれで最後なんだから!! 悔いなんて残さないで!!」
ダイヤ「ち、ちょっと鞠莉さん……アドバイス扱いになってしまいます」
鞠莉「あ、ごめん……」
ダイヤ「でも……その通りです」
ダイヤ「果南さんはごちゃごちゃ考えるタイプではない、だったらもう、感覚のままやってしまう方がらしいプレーに繋がるかもしれない」
千歌ママ(前に比べて確かにバック系技術はかなり上手くなったけど……時々こういう風に詰まっちゃうことがあったしね) 果南「そっかあ……」
果南「そうだよね」
果南「何の為にここまで来たんだ」ペシペシ
果南(一度は諦めたことだけど、みんなのおかげで……私は今ここに立ってる)
果南(こんな、こんな何も出来ないまま終わるわけにはいかない)
果南(最後だもん……全力で行こう)
果南「ふぅ……」
聖良「……」
聖良(折れない、か)
果南(鹿角聖良さん、あなたはとっても強いけど……でも、夢、見させて貰うよ)
果南(みんなとずっと、語り合ってきた夢をさ!)キュパッッ
聖良(ナック……いや、上回転っ)ギュインッッ
果南(いいね、打ち合おうよ。負けない、から!!!)ギュインッッ!!!
聖良(はやっ……)ギュインッッ
ギュインッギュインッッッ!!!!!
千歌「すごい……」
鞠莉「バックに振られても……上手く繋ぐし……」
鞠莉「なにより、打ち合いでも全然、負けてない……」 ダイヤ「いや、むしろ……」
果南「っ……」ググッッバコンッッ!!!!!!
聖良「くっ」ポ-ンッッ…
果南「しゃっ!!!」
聖良「くっ……」
聖良(スポンジに極めて厚くあてることで、ループドライブのような回転量とスピードドライブような速度を極めて高い次元で両立している――パワードライブ)
聖良(今までは当てればなんとかなったけど、あてるだけじゃラケットが弾き飛ばされるような感覚)
聖良「ふぅ……」
聖良(急に技術全体が、繋がった……)
聖良(弱点のバックハンドの繋ぎも、荒々しいけど思いっきり攻められるボールじゃない)
聖良(なにより、フォアが……っ)ギュインッツ
果南(バックサイドが弱点だからって、さ)
聖良(フォアに振った後の、バックへのドライブよ……そこから、追いつける、わけ……)
シュッッ…… 果南「ふっ!!!」バコ-ンッッ!!!!
聖良「なっ……」
聖良(あの体制から回り込んで逆クロスに、スピードドライブ……)
果南「――ま、結局私にはこれしかないからさ」
ワ-ッッ!!!!!!!
11-7
聖良(全く反応出来なかった……つくづく、面白い人達です。Aqoursのみなさん)
鞠莉「やったー!!!!」
鞠莉「完全にノータッチ! 打ち勝った!!」
千歌「果南ちゃんの決め技!!!」
千歌「……すごい、すごいよ果南ちゃん」
梨子「ひょっとして、ひょっとするんじゃ」
善子「……」
果南「ふー……いける、このまま頭の中空っぽにして……」 果南「相手のサーブはわからないけど、なんとかコートに入れて、あとはドライブで打ち合うだけ」
果南(打ちにくいボールばかりだけど、なんとかしてみせる……)
鞠莉「果南……がんばって……」
聖良(いいでしょう、付き合いますよ。ドライブの"打ち合い"……私も、大好きですから)
果南(さあ何がくるかな)
聖良(――ただ)キュパッッ
果南(ここに来てロングサーブ!! 貰ったっ!!)バコ-ンッッ!!
聖良「!!」スッ…
果南(!? ――なんだ、あの……フォーム)
善子「来た……」
千歌ママ「!!」
聖良「――ふっぅ!!!!」ギュワンッッッゥ!!!!!. 果南「!?」
果南(ドライブ、これは……)
ギュルルルルッッポ-ンッッ
果南(真横に、跳ねた……!?)スカッ…
果南(あの軌道で真横に跳ねるなんて……)
果南(そっか、これが噂の)
果南「ごく……」
果南(ちょっと……想像以上すぎる、かな)ダラリ…
聖良(――打ち"合い"になるかは、わかりませんけどね)
善子「シュートドライブ……」
聖良(沢山動いて動いて……最高の踊りにしましょう?)フフ… ◇――――◇
理亞「姉様は天才」
理亞「誰が見てもわかると思うけど」
曜「うん……」
理亞「理想的なフォームに繊細なボールタッチ、力強さと荒々しさの中に繊細さが絶妙なレベルで絡み合ってる」
理亞「……小さな頃からそうだった。私は姉様が凄かったから、つられて卓球を始めた」
理亞「姉様は日に日に、どんどん強くなったけれど、私はそうじゃなかった。単なる一般人、初めた時期が早いってだけ」
理亞「嫉妬とかは、しなかった。姉様が凄いのは、私の中じゃ当たり前だったしね」
理亞「でも、練習した。姉様よりも誰よりも。才能なんかで決まるだなんて……嫌だったから、私に才能がないだなんて言ってきた大人達を見返したかったから」
理亞「姉様と比べて才能がないのは、認めるけど」
曜「……」 理亞「……私も段々強くなった。練習が身を結んだんだって、思った。北海道じゃ無敵の鹿角姉妹だなんて言われて、次第に全国に出ても言われるようになっていった。まあ、結局姉様には勝てなかったけど」
曜「どうして、そんなに勝ちたかったの……お姉さんはやっぱり、特別?」
理亞「姉様に勝つって決めたのは最近なの。姉さんは、負けなくちゃいけなかったから」
曜「?」
理亞「姉様は怪我、してるの……」
曜「それって、肘……?」
理亞「……知ってるのね、利き腕の、左肘よ。姉様が姉さんたる所以のショットを打つために小さい頃から酷使してきたから。あれだけはどう見ても不自然なフォームだしね」
理亞「怪我をしたのは中学三年生の最後の時、そのせいで高校一年間をほとんど棒に振った」
理亞「……でも、まだ治ってないの」
曜「……」 理亞「姉様は天才で、それでも勝ててしまうから……完全治癒していないのに、卓球を再開したからよ。どうしてかわからない、やめたほうがいいって再三言ってるのに、ぶり返しては治療しを繰り返してる」
理亞「普通のプレーならきっと問題ない、でもシュートドライブだったりチキータだったり肘を酷使する技術を使うと……いつぶり返しだっておかしくない」
曜「……だから、聖良さんを倒す、の」
理亞「一度も負けなかった私に負けたら、少しは自分の状況がわかると思って。私の言葉に――耳を傾けてくれるって、思って」
理亞「地に這いつくばってたら――空に声は届かないの」
理亞「……」
理亞「姉様はこんなところで人生を台無しにしていい人じゃないの! 私は、私は……姉様のために、姉様に勝たなくちゃいけなかったの!!!」
曜「……っ」
理亞「――でも、あんたに負けた」 理亞「どうして……わたしは、誰よりも練習したはずなのに。どうして映像だけ見て私をコピーした人に、ちょっと本気でやっただけの人に負ける、どうして、どうしてどうしてっっ!!!」
曜「っ……」
理亞「っ……」フルフル…
理亞「――どうしてあんたなんだ!!」
理亞「なんで、そんなに馬鹿げたモノを……対して欲しくもないあんたが持ってるんだ!!! 私はずっとずっと!! ……なんでそんな才能を持ってて……なんで、なんで!!!」ウル……
理亞「――なんで私は……っ」
理亞「馬鹿、みたいじゃないか……っ」フルフル…
曜「理亞ちゃん……」
曜(私は……)
理亞「あんた……水泳とか、高飛びとかも凄いんでしょ……なんで、なんでそんなに……色んなものを持って、奪う、んだ」
理亞「ぅ……ぅ」グス…
曜(うば、う……)
曜「っ……」
曜(……才能、か) 理亞「……ごめん。みっともなさすぎた」
曜「ううん……」
曜「理亞ちゃんは、凄いと思うよ」
曜「胸張って努力したっていえること、それだけ一つのことに打ち込めたこと……必死になれたこと……すごいことだよ」
理亞「は……」
理亞「結局負けたら、意味ないって」
曜「その気持ちもわかるけど、でも……きっとそれだけじゃないって思う」
理亞「なにそれ……」
曜「多分……きっと理亞ちゃんだって、感じてたこと、あると思うから、言わない」
理亞「わけわかんない……」
曜「そっか……。ともかく、さ。勝つよ聖良さんに。私が勝つ」
曜「聖良さんにだって、勝ってみせる」
理亞「……無理、とは言わないわ。もう」
理亞「あなたがそう言ってくれるなら、私も少しは救われる。姉様は肘を怪我してるから……痛みが出てきたらチャンスくらいなら、あると思う」 理亞「もしずっと万全なら、誰も勝てるわけない」
曜「……うん」
曜「理亞ちゃんのプレーを間近で見ることが出来たから私は今ここにいるの! だから、本当に感謝してるよ」
曜「後は理亞ちゃんの分まで……私もがんばる!」
理亞「ええ……」
理亞「……」
理亞「……姉さんと松浦って人の試合、もうとっくの前に始まってるけどいいの」
曜「へ……あ、やばいっ!!!」
理亞「早く行って、ちょっと一人にさせてよ」
曜「……うん」
曜「じゃあ、また!」タッタッタッ
理亞「……はぁ」
理亞「みっともないにも、ほどがある」
理亞「才能がないだなんて……そんな誰でもわかるような、簡単なことで、当たって……」
理亞「でもなんだか……いい気分」
理亞「あの人に負けたのだけが……幸せなことかも」
理亞「ぅ………うぅ……」 ごめんなさいマジで姉様と姉さん間違ってる所多くて。 ◇――――◇
曜「ハッ……ハッ……どうなってる!?」
千歌「あ、曜ちゃんどこ行ってたのさ!!!」
曜「ごめん!」
曜「っ……!!」
5-11
曜「セット数は……1-3……」
曜「そっ、か……終わっちゃった、か」
果南「ありがとうございました」ギュ
聖良「ありがとうございました」
果南「強いね、やっぱり」
聖良「いえ、そんなこと」
果南「楽しかったよ」
聖良「私もです」
聖良「あなた達の努力が、伝わってきたみたいでした」
果南「あはは……そう思ってくれたなら嬉しいけど」
聖良「松浦さんは三年生でしたよね」
果南「うん」
ペコリ
聖良「お疲れ様でした。今後の人生であなたが卓球に携わるかはわかりませんが……私としては、辞めないで趣味としてでも続けて欲しいと思います」 果南「あ、頭下げないでよ」
聖良「すみません、あなたの最後の相手を勤めさせて頂いたので……。今日はありがとうございました」スタスタ…
果南「もう……卑怯なことするよね全く」ウル…
果南「強さに人格まで備わってるとか……隙なしにも程があるって」
果南「あー、負けちゃったなあ……」クル…
千歌「果南ちゃんお疲れ様ー!!!」
鞠莉「かっこよかったわよー!!」
ダイヤ「ナイスプレーでしたわ!!」
ワ-ワ-!!
果南(会場が……こんなに)
果南「はは、まだ4回戦だってば。ただ一般の選手が、第一シード選手に負けただけでしょ」
果南「全く……大袈裟……なん、だから」ウル……ギリリ…
果南(本当……幸せ者だ) ◇――――◇
善子「おめでと」
曜「ん」
善子「果南さんが負けたからあんまりはしゃげないけど」
曜「あはは……」
善子「私たちだっていつ負けてもおかしくない」
善子「あなたはそれを跳ね飛ばしたけど」
曜「運が良かったね」
善子「運なんかじゃないでしょ」
曜「そうかな」
善子「ええ」
善子「今後何回やったって結果は同じ」
曜「……」
善子「あれがあの人の限界」
善子「そしてあなたはまだ」
曜「……だから、私はそんなんじゃないって」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています