こんなお話↓もあった

耳嚢 (みみぶくろ) 美濃國彌次郎狐の事 やぶちゃん 先生訳
(くま注:狐が若い娘に化けて、一休さんを試したお話である。)
……あるときのことじゃ、我ら、『一休和尚は道徳堅固なる名僧じゃ』というを聞き及び、それがまっことなるものか、一つ試したろう、と思うたのじゃった。
 丁度その頃、一休の御座った小さき寺の前に、母と娘の二人が住んで御座った。その若い娘が婿をとったものの、若夫婦との仲、また、母と娘との仲が、これ、穏やかならずして、どうも丁度その日、かの夫婦めおとは、これ、離縁したというを地獄耳じゃ……かの肉の炎ほむらの冷めやらぬ娘にまんまと化けると、やおら、寺に入いったのじゃ……
「……夫とは離縁致し……母からは勘気を被こうぶり……万事休して、御座りまする。……今宵、一夜……どうか、この寺に……お泊め下されぃ……」
と、よよと縋ったところが、一休、
「――我とそなたは寺と門前という仏縁の一つ世に住まいする者で御座ったが故、これまでは対面たいめ致いて参った者じゃ――なれど、かくも門前を出でて俗界へと奔ったとなれば――まこと、人の縁を断って、うら若き女人の丸のままと相いなって御座るそなたを――この寺内てらうちに泊めんというは、これ、如何にも難きことじゃ……」
と否んだによって、我らは、
「……悟りを開いたご出家の……外ならぬ徳道堅固のあなたさまにて御座いますれば……一体、何処の誰が、疑いを抱きましょうや!……女の一人、この闇夜に、行くあてものう、さ迷うて――この『女』独り、この真暗な『闇世』に、さ迷うておるを……お見捨てなさるとは……あまりに……あまりに……情けなきこと…………」
と恨みを含んで歎きつつ、そのまま地に泣き伏せば、
「……されば――座敷内に上ぐることはならずとも――典座てんぞの隅なりとも、客殿の縁の端なりとも、一夜ひとよをお明かしなさるが――よい。」
と申された。
……これも思う壺に嵌まったものじゃ……
……我ら、その意に随したごう振り致いて、まんまと泊まること、これ、出来た。
……元来が――一休なる者が、まこと、徳道堅固ならんかを試さんとの心なれば――夜に入って……一休の臥所ふしどに忍び入り、我らの柔肌にて戯れ寄った……ところが一休……
「――喝ッ!――不届者ッ!――」
と一喝すると――辺りに御座った小さな扇子のような物をもって――我が背を――
――タン!――
と――お打ちになられた――
「……いや! あの一撃! それは鉄槌よりも重う、強う御座った! いや! 正に死なんかと思う痛打で御座った!……いや! げにも……徳道を究めたお人の警策で、御座ったわいのう……」
 と、かの老狐は、しみじみと語って御座ったという。……
「……その他にも、かの老僧、いやさ、老狐……やはり信じ難いほど古いことなんどを年中、語って御座ったが……さても、今も生きておるものやら、どうやら……」
と私の知れる人が語って御座った。

狐にはだまされない一休さんである。
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