岸田文雄首相は2月29日、国会内で衆院政治倫理審査会(政倫審)に出席し、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をめぐり「国民の疑念を招き政治不信を引き起こしている」として、自民党総裁として謝罪した。

 首相として初の政倫審出席だったが、裏金問題の進展につながる発言はなく、野党に「時間の無駄」(立憲民主党の泉健太代表)と酷評される始末。国民のストレスや怒りを増やしただけの機会に終わった。

 首相の答弁は、これまでの国会答弁とほぼ同じ内容。新たな答弁としては、26日の衆院予算委員会で対決した野田佳彦元首相に、「勉強会」と称した政治資金パーティーを在任中は行わないと明言するよう再三追及され、数回のやりとりの末に「結果的に在任中にやることはない」と、応じたことくらい。政治資金収支報告書に不記載があった議員への処分は「処分などの政治責任について党として判断する」としつつ、具体的には踏み込まなかった。

 安倍派でキックバックが始まった経緯や指示した人物、岸田派の収支不記載についての質問も出たが「確認できていない」など、詳細への言及はなかった。

 首相が28日に電撃発表した完全公開での出席は、安倍派、二階派幹部5人の審査出席を促すための「捨て身の作戦」(関係者)だった。ただ首相の次に出席した二階派の武田良太事務総長は「条件をつけずに出席する方向性でぶれたことはない」と、自身は元から出席方針だったと明言した。

 開催の1日遅れを招いた自民党内の調整の不十分さや、首相自身が党総裁としての指導力を発揮できていなかったこともにじんだ。

 野田氏は「新たな内容はなく、ポーズだけだ」と首相の答弁や対応を批判した。3月1日は安倍派の幹部4人が審査会に出席するが、野党では早くも「期待薄」の見方が大勢だ。

 審査会が行われる国会内の委員会室には、くしくも安倍派会長を務めた安倍晋三元首相の肖像画が飾られていた。安倍氏の肖像画の前で安倍派幹部は何を語るのか。内容次第では今後、参考人招致や証人喚問を求める声がさらに強まる可能性もある。「捨て身の作戦」が功を奏しなかった場合、岸田首相もさらに窮地に追い込まれることになる。【中山知子】

日刊スポーツ
2/29(木) 20:13配信
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