【集中企画・マイナ狂騒】#5

 ナントカのひとつ覚えのように、岸田政権が「国民の不安払拭」と繰り返している。加藤厚労相は27日、マイナカードと保険証を一体化させた「マイナ保険証」への全面移行に向け、自身をトップとする「オンライン資格確認利用推進本部」の設置を発表。そもそも「マイナ保険証」を導入する前提が破綻しているのに、来年秋の健康保険証廃止の方針をかたくなに撤回しようとしないのはオカシイ。

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「一つ一つの課題を洗い出し、具体的な対応策とスケジュールを明確に示し、国民の不安や懸念の払拭を図る」──。加藤は会見で「オンライン資格確認利用推進本部」の役割について、そう強調。「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることによって、より良い医療を国民の皆さまに享受していただく」として、「その実現のためにオンライン資格確認の利用をしっかり促進していく必要があります」などと訴えた。

 そもそもオンライン資格確認とは、医療機関や薬局がオンラインで患者の加入している医療保険や自己負担限度額などの資格情報を確認できる仕組みのこと。マイナ保険証で資格確認した場合に限り、患者の薬剤情報や特定健診などの個人情報が閲覧できる。

 この仕組みに基づき、患者と病院が医療情報を共有することで「より良い医療を受けることが可能となり、医療制度の効率化につながる」(岸田首相)というのが、政府の触れ込みだ。もっとも、資格情報は現行の健康保険証に記載されている被保険者番号を病院などの窓口でオンライン入力すれば確認できる。

 健康保険証でもオンライン資格確認が可能ということは、マイナ保険証に限定している薬剤情報などの閲覧に関して、健康保険証でも本人確認や本人同意を可能にすればいい。実際、厚労省保険局は「オンライン資格確認等システムの検討状況」(2018年12月)で、健康保険証でも薬剤情報などが〈本人同意の下〉で閲覧できるシステムを想定していた。

厚労省は「成りすまし件数」を把握せず

ところが、1年後には〈マイナンバーカードにより本人確認と本人から同意を取得した上で〉に条件を厳格化。健康保険証に2次元バーコードをつけて読み取る案も検討部会で出たものの、現在のマイナ保険証によるオンライン資格確認の推進へとつながった。

 現行の保険証でも本人確認ができる仕組みを作れるのに、厚労省はかたくなに“拒否”。先月12日の参院地方創生・デジタル特別委員会で、「薬剤情報、医療情報の提供についてはマイナカードによる電子的かつ確実な本人確認を必要としている」などと答弁していた。

 確かに、機微情報の取り扱いに本人確認が必要なのは当然。しかし、厚労省は「確実な本人確認」と力む割に、他人の健康保険証を使い回す「成りすまし」の件数も把握していない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。

「そもそもマイナカードの取得自体が任意だったはずが、マイナ保険証か現行保険証かの『選択制』すら消えてしまった。マイナ保険証に納得できるメリットがあるなら、強制しなくても取得率は上がっていくはずですが、返上運動まで出てきています。政府は国民の不安を払拭するどころか、メンツのためにゴリ押ししているからこそ批判を浴びているのです」

 政府がマイナカードの利便性を強調するために、国民に不便を強いる──。国民が感じているのは不安ではなく、怒りだ。

日刊ゲンダイ
6/28(水) 13:30
https://news.yahoo.co.jp/articles/d877d7b210aeacc0da9313b556822813d9e007f9