「これで今国会会期末の解散はなくなった」──。解散風におびえる衆院議員の間に安堵の声が広がっている。

 松野官房長官が9日の定例会見で、天皇皇后両陛下のインドネシア訪問を発表。17日に出発し23日に帰国という予定を聞いて記者席がざわついた。今国会の会期末は21日。解散が噂される会期末をまたぐ1週間の日程だからだ。

 衆院解散は憲法7条で「内閣の助言と承認による天皇の国事行為」と規定されている。解散が閣議決定されたら、解散詔書に天皇の署名と押印をもらい、衆院議長が本会議場で解散を宣言する。

 会見の質疑で、天皇の外国訪問中の解散について聞かれた松野官房長官は、法的に可能との見解を示した。「摂政となる順位に当たる皇族が代行できる」「臨時に代行する行為に制限はないと承知している」というのだ。

 岸田首相が会期末の解散に踏み切った場合、今回の海外訪問中に臨時代行を務める皇嗣の秋篠宮が解散詔書への署名を代行することになる。

「法的に可能でも、現実には難しい。解散詔書の御名御璽が臨時代行でOKというのは、ともすれば天皇陛下を軽視するような発言にも聞こえます。それに、そうまでして強引に解散すれば党利党略と見透かされ、国民世論も許さないでしょう」(自民国対関係者)

 過去にも森喜朗首相(当時)が天皇不在中の解散を模索したことがあったが、党内の反対は根強く、帰国を待っての解散になった。松野官房長官自身、「現行憲法下で天皇陛下の外国訪問の間に衆議院が解散された例はないものと承知している」と答えていて、前例がない。

岸田首相はまるで“愉快犯”

「常識的に考えて、天皇不在中の解散などできるわけがない。解散風もいったんやむでしょう。そもそも、いま解散するメリットが岸田首相にはありません。野党がこの調子では、いつ選挙をやっても自民党が勝つのだから、急ぐ必要はない。総裁選での再選戦略で最も効果的なタイミングを考えているはずです」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)

 天皇皇后の海外訪問日程は閣議で決定する。会期末をまたぐ日程を了承したということは、岸田首相はもともと早期解散する気などなかったのだろう。

 天皇の帰国後に衆院を解散する余地を残すため、会期を小幅延長する可能性はある。国会が閉幕する瞬間まで「解散あるのか?」で引っ張るためだ。

「解散をチラつかせている間は求心力を保てます。最近の岸田総理は、解散風に浮足立つ議員たちの反応を見て楽しんでいるフシさえある。まるで“愉快犯”ですよ。昔はそんな人じゃなかったのだけれど、最高権力者になって変わってしまった。権力の絶頂感を味わっているのでしょう」(自民党の閣僚経験者)

 自民の森山選対委員長は9日、TBSのCS番組で「不信任案は解散の大義になり得る」と野党を牽制していたが、岸田首相は最高権力を楽しんでいるだけ。実際に解散に踏み切る気はないことが、9日の官房長官会見でバレてしまった。

日刊ゲンダイ
6/10(土) 11:32
https://news.yahoo.co.jp/articles/7f136506f316b076abbcdcce4fe54606e145bf4f