政府は31日、「異次元の少子化対策」のたたき台を公表した。男性育休の取得率向上策や児童手当の支給対象の拡大、高等教育の奨学金の拡充などを盛り込んだ「加速化プラン」を示し、今後3年間で集中的に取り組むとした。また、財源確保を巡り、政府は社会保険料を引き上げる検討に入った。年金・医療・介護・雇用の4保険のうち、公的医療保険の月額保険料に上乗せする案が有力だ。

 公的医療保険は会社員や自営業者らで加入する保険が異なり、それぞれに上乗せした上で少子化対策の財源として拠出することを想定している。会社員らの健康保険は保険料が原則労使折半のため、企業の負担も増える。さらに、介護保険料を引き上げ対象とする案もある。政府内では、社会保険料の引き上げでまず数千億~1兆円程度を確保し、歳出改革などもあわせて段階的に予算規模を拡大していく構想が出ている。

 岸田文雄首相は31日、首相官邸で記者団に「たたき台を踏まえて必要な政策の内容、予算、財源について与党と連携しながら議論を深めていく」と述べた。自身を議長とする「こども未来戦略会議」を設置し、必要な財源などを議論することも明らかにした。

 戦略会議は、全世代型社会保障構築本部の下に設置し、関係閣僚や有識者、子育ての当事者らが参加する。経済財政運営の指針「骨太の方針」を策定する予定の6月までに示すとしてきた子ども・子育て予算倍増の大枠について議論を進める。

 小倉将信こども政策担当相が記者会見で公表した「たたき台」は、2030年代に入るまでの6~7年を少子化傾向を反転させる「ラストチャンス」と位置づけた。加速化プランで、首相が示した①経済的支援②子育て家庭へのサービス拡充③働き方改革の推進――に沿った具体案を示している。

 経済的支援では、児童手当は高校生を対象に加え、所得制限の撤廃を明記。多子世帯への加算を念頭に金額も見直すとした。出産費用の保険適用は導入を含め検討するとしたが、学校給食費の無償化は「課題の整理を行う」との表現にとどめた。高等教育費については、低所得世帯向けの給付型奨学金の対象を、現在の世帯年収380万円未満から、多子世帯や理工農系については同約600万円まで拡大することなどを盛り込んだ。また、多子世帯の住宅ローン支援を充実させる。

 子育て家庭へのサービス拡充では、保育士配置基準を改善し、1人あたりが見る子どもの数を、1歳児は6人から5人、4~5歳児は30人から25人に減らす。親が働いていなくても保育所を時間単位で利用できる「こども誰でも通園制度」の新設を検討する。

 働き方改革では、「男性育休は当たり前」の社会実現を掲げ、男性が「産後パパ育休」を取得した場合は、28日間を限度に育児休業手当の給付率を夫婦ともに手取りの10割相当に引き上げる。人手不足になりがちな中小企業での育休取得を後押しするため、育休中に業務をカバーする同僚に手当を支給する場合の助成措置を強化する。【横田愛、奥山はるな、菊池陽南子】

少子化対策のたたき台のポイント

・児童手当は所得制限を撤廃し、支給期間を高校卒業まで延長

・出産費用の公的保険適用を検討

・給食費の無償化は課題を整理

・給付型奨学金の対象を多子世帯や理工農系で拡大

・親の就労に関わらず、時間単位で保育所などを利用できる制度を検討

・産後の一定期間内に28日間を限度に、男女とも育児休業給付を手取りの10割相当に引き上げ

毎日新聞
2023/3/31 16:51
https://mainichi.jp/articles/20230331/k00/00m/010/131000c