前首相秘書官の差別発言を受けて今国会の焦点に浮上した性的少数者(LGBTなど)への理解増進法案を巡り、与野党の駆け引きが激化してきた。自民党は保守派の理解を得るため、超党派の議員連盟がまとめた法案にある「差別は許されない」との文言の修正を模索。立憲民主党は受け入れられないと反発する。保守派が修正要求のハードルを上げる可能性もあり、法案の行方は予断を許さない。<下へ続く>

 「妥協に妥協を重ね、ようやく理解増進法案ができた。今の法案にも満足していないのに、さらに趣旨を弱めようという動きを許せるわけがない」。立憲民主党の泉健太代表は10日の記者会見で、法案修正の動きをけん制した。

 法案は性の多様性に関する国民の理解促進に向けて政府に基本計画策定を義務付けることが柱だ。自民党案をベースに超党派議連が2021年5月にまとめたが、野党の要求で加えられた「差別は許されない」との文言に自民党保守派が「訴訟乱発を招く」と反発。党内での激論の末、最終的に「執行部預かり」となり、了承が見送られた。
 法案は長くたなざらしの状態だったが、ここにきて機運が高まったのは、自民党内で「今国会で成立させなければ差別発言への批判が党に向かう」(閣僚経験者)との声が強まったためだ。
 旗振り役の稲田朋美元防衛相は7日、東京都内で記者団に「交渉の余地はある」と述べ、修正に応じる考えを表明。世耕弘成参院幹事長は10日の記者会見で「党内で議論してコンセンサスを得られればいい」と述べ、執行部として合意形成を後押しする考えを示した。公明党の山口那津男代表も同日、「文言には柔軟に対応していい」と記者団に語った。

 これに対し、立民は「議連の合意通り成立させるのが筋だ」(関係者)と修正の動きに冷ややかだ。党内には修正を容認する声も一部にあるが、衆院補欠選挙や統一地方選を控え、「意見集約できない自民党」(幹部)を印象付けた方が得策との計算が働いているようだ。
 保守派が「差別」文言の修正で首を縦に振るかも不透明だ。「『差別はあってはならない』と修正すれば賛同できる」との意見の一方、「ゼロベースで法案を作り直したい」との声も漏れる。

 仮に理解増進法案の成立にこぎ着けても、自民党はさらなる法整備の要求に直面しそうだ。立民の長妻昭政調会長は9日の会見で「理解増進法案は入り口にすぎない。本丸は差別解消法案だ」と強調。泉氏は10日、性的少数者の人権団体に同性婚の法制化を目指す考えを伝えた。与党の山口氏も同日、記者団に「差別を禁止する仕組みに最終的には至るべきだ」と語った。
 
 ◇理解増進法案の目的条項
 この法律は、全ての国民が、その性的指向または性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向および性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に、性的指向および性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、ならびに国および地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向および性自認の多様性を受け入れる精神をかん養し、もって性的指向および性自認の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

時事通信
2023年02月11日07時03分
https://www.jiji.com/sp/article?k=2023021001165&g=pol