国民年金加入者への上乗せを目的とする全国国民年金基金で、年金を所管する厚生労働省や旧社会保険庁の後継組織・日本年金機構からの事実上の天下りが継続している疑いがあることが、「 週刊文春 」が入手した内部資料で明らかになった。

 年金官僚たちの天下りはこれまでも問題になってきた。

「2012年、AIJ投資顧問が約2000億円の年金資産を消失させた事件で、委託元の厚生年金基金に天下った旧社会保険庁(現・年金機構)OBが、顧客拡大に関与していた。約8割の63基金に、厚労省や旧社保庁OB159人が再就職していた事が判明したのです」(厚労省担当記者)

 厚労省は再発防止のため公募での採用を徹底するよう求めたが、天下りは形を変えて続いていたことになる。

 その舞台となっているのは2019年に誕生した「全国国民年金基金(以下、年金基金)」。

「この年金基金が、かつての社保庁と厚生年金基金のスキームと同じように、厚労省の官僚や日本年金機構OBの天下り先になっているのです」

 そう告発するのは、厚労省関係者だ。

 年金基金の役員名簿を調べると、理事長と常勤理事は金融機関出身者だが、常務理事の坂本耕一氏は元厚労省東北厚生局長であり、非常勤理事のうち7人が年金機構か厚労省OBだ。

 さらに今回、小誌は公開されていない全国41支部支部長のリストや人事情報の内部資料を入手した。それらの資料に記載されている情報を照合すると、支部全体の約7割にあたる29の支部長が日本年金機構や厚労省に在籍していたことが判明した。

基金の回答「即戦力を求めた結果、OBが多くなっている」
「多くが年金事務所長を務めた後、その地域の年金基金支部長に就任しています。年金機構は退職者のうち管理職しか氏名を公表しないので実態はもっと多い。基金の正職員は220人ほどですが、50人以上が厚労省や年金機構からの天下りと見られます」(同前)

 たとえば、非常勤理事の丸尾洋一北海道支部長は、旧社保庁の出先機関である北海道社会保険事務局で勤務した後、年金機構に入り、20年3月末で札幌西地域代表年金事務所長を退職。21年4月、年金基金の北海道支部長として採用されている。

 全国国民年金基金の前身である旧国民年金基金が、役員だけでなく一般職員も公募採用を徹底するよう求められたのは2010年の事だった。

 当時、厚労相として天下りの根絶を求めていた長妻昭氏はこう疑問を呈する。

「公募を隠れ蓑にした天下りになっている可能性がある」

 この天下り問題について、年金基金と厚労省年金局に見解を求めると、基金が代表して回答した。

「役員、一般職員すべてについて公募をし、書類選考、一次面接、二次面接の上採用しており、問題ないと考えています。全国国民年金基金は、もともとの年金の知見や管理業務の経験を有する即戦力を求めています。日本年金機構のOBは経験が豊富なため、結果として多くなっているのは事実です。年金事務所長から支部長となっているように見えますが、事前に採用が決まっている事はありえません」

 全国国民年金基金を巡っては、加入者数が6割減と立て直しが急務の中、果たして採用が適正に行われているのか、論議を呼びそうだ。

 1月25日(水)12時配信の「 週刊文春 電子版 」および1月26日(木)発売の「週刊文春」では、全国国民年金基金に採用された天下り年金官僚のリスト、年金官僚たちに有利に設定されている公募の条件など、天下りの実態について詳報する。

文春オンライン
1/25(水) 16:12配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/5fb36e5ee13fbc7910473334c213b492f09d13ee