自民、公明両党は12日、政府の外交・安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定内容に合意した。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛費の大幅増を了承したが、15回にわたる実務者協議は非公開の「密室」で、議事録は公表されない。政府は国会で「検討中」と曖昧な答弁に終始。戦後の安全保障政策の大転換にもかかわらず、国会で内容を巡る議論を素通りしたまま、政府は16日にも改定3文書を閣議決定する。(川田篤志、市川千晴)

 与党協議は10月中旬に始まり、実務者による協議は毎週1~2回のペースで計15回、両党幹部でつくる親会議は2回開かれた。実務者協議には政府側も出席し、敵基地攻撃能力の保有をはじめとした3文書改定の素案を提示。両党が協議し、了承する形をとった。
 協議は非公開。毎回、協議終了後に両党の代表者が記者団の取材に応じるが、政府の素案の内容や出席者の発言は「合意前なので」などと説明しないことも多く、どのような案がどのような議論で修正、合意されたかは不明。議事録を公表する予定もない。

 10日閉会した臨時国会では、野党議員から敵基地攻撃能力保有の目的や攻撃対象、軍拡競争が激化する懸念などさまざまな角度から質問が出たが、政府は多くの場合で明言を避け、「もっと情報を出さなければ国会で深い議論ができない」などの反発が相次いだ。
 安倍政権下での集団的自衛権の行使容認の場合、憲法解釈の変更は閣議決定だけで行ったが、集団的自衛権を実際に行使する手続きなどを定めた安全保障関連法の国会審議は200時間を超えた。敵基地攻撃能力の保有は憲法に基づく専守防衛を逸脱するとの指摘があるが、政府は国会審議が不十分なまま、閣議決定のみで決めようとしている。
 今回の3文書改定を巡っては、当初から「密室」議論が続いてきた。政府は1月から開始した有識者会合で計52人からヒアリング。全17回のやりとりをまとめた「議論の要旨」は公表したが、議事録は作成せず、各回の議事要旨も非公表だったため、各発言者の具体的な発言内容は分からなかった。9月に設置した別の有識者会議はわずか4回の開催で、議事要旨によると、敵基地攻撃能力の保有に関する言及は5カ所のみ。目立った議論はなかったが、報告書で保有が盛り込まれた。
 3文書を決定する首相や閣僚による国家安全保障会議は16回議論してきたが、これも内容は非公表だ。
 法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「専守防衛を変質させる安保政策の大転換なのに、情報公開がなく、国民は何も知らされていない。政権は全て結論ありきで進めている。選挙で防衛力増強のために増税するとは説明していなかった。議論の過程や根拠が見えず、国民は納得できない」と批判している。

東京新聞
2022年12月13日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/219489