岸田政権が目指す防衛力の抜本的強化に伴う防衛費増額の財源について、政府・与党内で所得税や法人税を想定し「増税で確保すべきだ」とする意見が主流になっている。自民党の主張のように、防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げるなら、新たな必要額は年5兆円。所得、法人の2税で賄うとすると15%ほどの大幅な増税につながり、家計や賃金に影響する。(川田篤志、山口哲人)

◆当初は「国債頼み」だったが

 鈴木俊一財務相は9日の防衛力強化に関する政府の有識者会議で、防衛費を増額する場合は国債に頼らず恒久的な財源を確保すべきだと主張し「税制上の措置を含め多角的に検討する」と強調。財務省は同会議への提出資料で「幅広い税目による国民負担が必要」との方針を鮮明にした。自民、公明両党の幹部からも、所得税や法人税を数年後から引き上げ、増税で財源を確保すべきだとの意見が続出している。
 財源を巡っては当初、安倍晋三元首相が「防衛費は祖国を次の世代に引き渡していくための予算だ」と位置づけ、借金である国債を提案したが、死去後は下火になり、増税論が台頭している。2023年度の予算案や税制改正大綱が決定される年末までに、政府・与党が一定の方向性を打ち出す見通しだ。

◆所得・法人の両税でまかなうには1.15倍に

 防衛費はGDP比1%程度で推移し、現在は補正予算を含め年6兆円前後。2%なら、年約11兆円と2倍近くになる。これに対し、消費税と合わせ国の「基幹3税」とされる所得、法人2税の税収は、22年度一般会計当初予算の見込みで計33兆7000億円。仮に、新たに5兆円を2税で確保するなら、約15%の増税になる計算だ。
 所得税は、高所得者ほど税率が高くなる仕組みだが、増税は中間層を含む幅広い層の負担増につながる可能性がある。法人税増税に関しては、有識者会議で「企業の国内投資や賃上げに水を差すことのないようにすべきだ」と懸念の声が上がり、財務省の財政制度等審議会でも賃上げへの影響を指摘する意見が出た。
◆「増額ありきでなく本当に必要なもの検証を」と識者
 物価高で生活が厳しさを増す中、国民に増税への理解が広がっているとはいえない。防衛費の増額は、共同通信社などの世論調査で必要性を認める意見が半数を超える一方、日本経済新聞社の10月末の調査では何を財源にすべきかとの問いに「防衛費以外の予算削減」が最多の34%。「国債発行」は15%、「増税」は9%にとどまった。
 財政と安全保障の関係に詳しい法政大の小黒一正教授は「防衛は(現役を退いた)高齢世代も便益を受けるので、全世代で負担すべきだ。仮に所得税の増税で防衛費増を賄う場合、高所得者の課税だけでは5兆円に全く足りず、所得の低い人にも課税しなければならなくなる。増額ありきではなく、本当に必要なものをよく検証し、判断すべきだ」と話した。

東京新聞
2022年11月15日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/213905