立憲民主党は8日、岸田内閣と細田博之衆院議長に対する不信任決議案をそれぞれ衆院に提出した。内閣の不信任は「物価高に対する無策ぶりは看過できない」というのが最大の理由。現状を「岸田インフレ」と名付け、夏の参院選の争点化を狙って対決姿勢を強めたが、野党の足並みはそろわず、効果を疑問視する声もある。両不信任案は9日の衆院本会議で採決される見通しで、与党は否決する方針だ。(井上峻輔)

◆物価高に無為無策と批判
 「政府は物価高に無為無策。『岸田インフレ』は亡国の道だ」。内閣不信任案は社民党も提出者となり、提案理由には厳しい批判の言葉が並ぶ。泉健太代表は記者団に「生活実感がなく、生活を立て直す具体策のない政権だ」と訴えた。
 内閣不信任案を提出したのは、岸田内閣が物価高に有効な手を打っていないと印象づける狙いからだ。
 岸田内閣の支持率が高い水準を維持する中でも、生活を直撃する物価高への国民の不満は強い。可決される見込みのない不信任案を提出すれば、与党から「選挙目当てだ」と攻撃されるのは確実だが、対立軸を鮮明にした方が得策と判断した。
 「岸田インフレ」は、立民の小西洋之参院議員が5月末の国会審議で使った表現。旧民主党時代に「消えた年金」をキーワードに参院選を戦ったことにも重なる。

◆政府と黒田日銀の認識の甘さを強調
 提出を後押ししたのは、日銀の黒田東彦はるひこ総裁が「家計の値上げ許容度は高まってきている」と発言し、国民に反発が広がったことだ。立民は、安倍政権時代から日銀が続ける「異次元の金融緩和」が円安と物価高につながっていると主張しており、政府・日銀の認識の甘さを強調できる機会ととらえた。
 政府が7日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」には、安倍晋三元首相の強い意向で防衛費増額の記述が盛り込まれた。立民は教育や子育て重視を前面に出しており、中堅議員は「岸田首相になっても自民党は変わっていないと主張でき、戦いやすくなった」と話す。

◆細田氏のセクハラ疑惑対応、10増10減批判も問題視
細田氏の不信任案の提案理由では「国権の最高機関の議長として最も不適切な人物」と断じた。
 細田氏は議長の職にあるにもかかわらず、衆院小選挙区定数「10増10減」に否定的な発言を連発。週刊文春が女性記者らに対するセクハラ疑惑を報じた後は、自民党内でも「本人の説明責任が問われる」(中堅議員)などと心配の声が上がる。野党が求めた国会での説明に細田氏が応じていないことから、立民は疑惑解明に後ろ向きな姿勢を際立たせようと提出に踏み切った。
 ただ、野党の足並みはそろわない。日本維新の会の馬場伸幸共同代表は内閣不信任案に関し「いわば茶番劇」と反対する考えを表明。政府の2022年度予算に賛成した国民民主党も否定的だ。
 岸田文雄首相も出席した8日の政府与党連絡会議では、内閣不信任案提出の動きが報告され、自民党の茂木敏充幹事長が「全く理由が分からない」と批判。首相はあいさつで不信任案には触れず「原油高、物価高騰の影響に迅速かつきめ細かく対応する。参院選後は骨太方針を前に進めたい」と余裕をみせた。

東京新聞
2022年6月9日 06時00分
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