国のマイナンバー政策の中核を担う地方公共団体情報システム機構が2014〜16年度に発注した関連事業費が、当初契約から約2・6倍の1655億9000万円に膨張していたことが本紙の調べで分かった。発注後に契約内容を変更するケースが相次いだためで、1つの事業で29回も変えた事例もあった。IT事業に詳しい識者によると、契約変更の多さや増額の規模は異例という。(デジタル政策取材班)

 本紙が機構から資料提供を受け、マイナンバー導入初期に業者へ発注した事業78件について、20年度末時点の進捗を調べた。その後、21年度に入ってからも変更されたものがあり、事業費はさらに膨らみそうだ。

◆1事業で29回変更し費用1.7倍の例も
 78件のうち半数弱の37件で契約を変更し、うち15件が4回以上変更を繰り返していた。最多の29回は、地方自治体が保有する個人情報を他の行政機関とやりとりするために必要な拠点「中間サーバー・プラットフォーム」を整備・運用するための契約。契約金額は当初から70%増の335億2000万円に膨らんだ。
 変更の理由には、国の政策判断を受け、実務を担う機構が契約を見直さなければならなくなったケースが目立つ。そのほか、システム利用者からの要望などで機能の追加や改修を行っていた。業者と契約を継続するためのやむを得ない変更もあったが、発注時の想定が外れたことで改善を余儀なくされたケースもあった。

◆機構「当初見込めなかった事情。変更契約での対応は適切」
 地方公共団体情報システム機構の話 マイナンバーカードの発行枚数増加への対応や、システムを利用する中で市区町村や住民の利便性を考慮し、必要な改善を行った。当初契約では見込めなかった後発的な事情があり、その内容を鑑みて既契約と一体的に管理する必要があるものを変更契約として対応したと考えており、適切に行われているという認識だ。

 地方公共団体情報システム機構 総務省とデジタル庁の所管。住民基本台帳ネットワークを運用していた総務省の外郭団体などを改編し、地方自治体が共同で運営する法人として2014年4月に設立された。マイナンバーカードの発行や関連システムの運用などマイナンバー事業に関わる実務を国や自治体に代わって担う。事業費の多くは国や自治体からの公金で賄われている。20年度上半期までのマイナンバー事業の発注額は当初金額ベースで1300億円を超える。21年2月1日時点で、職員268人のうち63人が民間企業からの出向。

◆識者「業者選びに競争性働かぬ影響も」
 マイナンバー事業にも関わったITコンサル会社の元社長の伊藤元規氏は「長く官公庁のシステムの受発注に携わったが、これほど契約変更を繰り返すのは見たことがない」と驚く。

契約後に変更すれば発注責任を問われかねず、受注者も追加費用をかぶる恐れがある。伊藤氏は「受発注者双方にとって、変更は本来非常にシビアなものだが、常態化してしまっている」と指摘。「業者選びに競争性が働いていないことが影響した可能性もあるのでは」と見立てた。

◆デジタル人材乏しく、民間依存体質が背景?
 機構の発注事業を巡っては、2014〜20年度上半期までで、その8割が随意契約や一者応札といった競争を経ない方法で受注業者を選定していたことが、本紙の報道で判明している。さらに随契で発注した事業は、社員を機構に出向させていた特定の業者に集中していた。情報システム関連の公共事業では行政側にデジタル人材が乏しく、民間事業者に依存しやすい問題が指摘されている。今回もこうした双方の緊密さが背景にうかがえる。
 契約変更があった37件のうち、コールセンター業務などをのぞく情報システム絡みの事業は21件。このうち、随契や一者応札で受注者を選んでいたのは19件に上る。
 伊藤氏は「仕方ない契約変更もあるが、安易に変更を許すようなら、費用が安くなることはない」と警鐘を鳴らす。

東京新聞
2022年1月9日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/153182