西村大臣の衝撃的な「暴論」

 いったいどこの国の話なのかと思ってしまった。4度目の緊急事態宣言発令の決定を受けて西村康稔コロナ担当大臣が7月8日、酒類を提供する飲食店が休業要請に応じなければ、取引先の金融機関に店舗情報を提供して働きかけを行うと発表したことだ。

 どうやら「資金の貸主に圧力をかけたら、やむをえず言うことを聞くだろう」という魂胆だったようだが、いったいいつの時代の話なのだろう。そもそもコロナ禍でもっともダメージを受けている業種が飲食業だ。

 帝国データバンクが7月8日に公表したデータによると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて倒産した企業数は1740件。このうち「飲食店」が294件と最も多い。しかも飲食店は、現金や有価証券などの手元流動比率が低い場合が多く、日々の売上如何が経営に直撃する。政府が高らかに掲げる協力金などは、実は事務手続きの都合などから支給は遅れがちで、金融機関が融資を止めれば容易に破綻が見えてくる。

 それにしても、コロナさえなければ経営に支障がなかったはずの飲食店を、ただ“政府からの依頼があったから”といって金融機関が虐めるのだろうか。金融機関にとっても飲食店は大事な顧客のはず。しかもこの超低金利時代に、破綻されては元も子もない。

 だが西村大臣は8日の会見で、記者から融資の引き上げなどを含めて資金面での圧力をかけてほしいということなのかと聞かれ、「これは法律に基づく要請、あるいは命令だから、しっかり順守してもらえるように金融機関からも働きかけをしてもらいたい」と回答。この西村大臣の“暴論”には、ネットを始めとして国民から大きな批判が寄せられた。

 立憲民主党の安住淳国対委員長は9日、国会内で「脅し、締め付けようという政府の傲慢な態度」と怒りを示し、国民民主党の玉木雄一郎代表も「基本的対処方針にも書いていない法的根拠を欠いた措置」と厳しくツイートした。

発言は撤回したものの

 そうした事態に自民党も捨てておけないと思ったのだろう。9日には森山裕国対委員長と林幹雄幹事長代理が官邸を訪れ、加藤勝信官房長官に「誤解を招く発言をしないように」と釘を刺した。

 というのも、7月4日の都議選で自民党は、史上2番目に少ない33議席しか獲得できず勢いがない。このまま10月21日に任期満了を迎える衆議院選挙に突入すれば、苦戦は避けられないため、官邸に下手に世論を逆撫でしてもらっては困るのだ。

 こうした反響に西村大臣は9日、「(金融機関に求めた働きかけは)日常のコミュニケーションの中で行うこと」と発言を変え、強制力がないことを強調。さらに加藤長官は同日午後の会見で、西村大臣の「働きかけ」発言を撤回した。

 だがこれで騒動は収まらない。国税庁酒税課はすでに7月8日、酒類業中央団体連絡協議会各組合に対して、所属する酒類販売業者に「休業要請に応じない飲食店との酒類取引停止」を求める“依頼書”を配布。これについてはいまだ撤回されていない。

 もし酒類販売業者が飲食店の取引を停止したとしても、飲食店の酒類販売がなくなるとは限らない。飲食店は他の酒類販売業者から購入を決めるだろうし、“理不尽な行政指導”に従った販売業者から二度と購入しなくなるかもしれない。

 7月9日の官房長官会見で加藤長官は酒類販売業者が販売を停止した場合の補償について言及したが、わずか1か月のために酒類販売業者も大事な顧客を失いかねないというリスクを考慮している様子はなかった。

 中でも問題は菅義偉首相の発言だろう。菅首相は7月9日午前、前日の西村大臣の発言に法的根拠があるかについて記者団に問われ、「どういう発言なのか承知していない」と回答。

 しかし加藤長官は9日午後の会見で、西村大臣の当初の発言が個人的なものであることを否定し、半ば強制的ともいえる“金融機関への働きかけ”が新型コロナウイルス感染症対策本部で作られた案であったことを証言した。この新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長は菅首相が務めており、7月8日に開催された時も、菅首相は午後5時5分から同22分まで17分間出席していたのだ。

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現代ビジネス
7/11(日) 8:02
https://news.yahoo.co.jp/articles/0ac5c91a5bbeae899459aee2262a0dfc44400c60