わずか数時間で「上限1万人」から「無観客」へ――。札幌ドームで行われる東京五輪の男女サッカー予選10試合(21〜28日)は9日、全て無観客開催と決まった。人の移動に伴う新型コロナウイルス感染拡大を憂慮する鈴木直道知事が有観客にこだわる五輪組織委員会の方針を覆した形だが、開幕間近の迷走に、あきれ顔の市民もいる。

 「無観客が適切だと判断し、組織委にも了承された」。深夜11時過ぎ、道庁で記者団にそう語った鈴木知事の目は充血していた。夕方の定例記者会見では「日中は上限1万人の有観客」と発表した組織委に「理解いただけず残念」と悔しさをぶつけたばかり。急転直下の方針転換だったことをうかがわせた。

 鈴木知事が懸念したのは、感染拡大中の地域から道内に人が流入することだった。組織委には有観客とする場合の条件として、4度目の緊急事態宣言が発令される東京を含む首都圏1都3県から観客が来ないよう、実行性のある対策を講じることを求めていた。

 しかし記者会見後、組織委の橋本聖子会長から連絡があり、1都3県からの観戦を控えてもらうのは難しいと伝えられたという。そのため鈴木知事は「1都3県と同様に、北海道も無観客で」と改めて申し入れ、橋本会長の了承を取り付けた。

 鈴木知事は「説明を受けたが、実行性を確保することは無理だと思った」と安全性を最優先した姿勢を強調したが、無観客とすることで宿泊のキャンセルなど民間の経済的打撃も大きい。「観戦を楽しみにしていた人たちには申し訳ない」と謝罪も口にした。

 市民はどう受け止めたか。会社役員の中島浩盟(ひろみ)さん(60)は、無観客を「ベストな判断」と評価しつつ、飲食店の時短要請が続くことも挙げて「五輪については常に整合性が取れず、矛盾とドタバタ感を覚える」と訴える。「市民をこれ以上、翻弄(ほんろう)するのはやめてほしい」【米山淳、真貝恒平】

毎日新聞
2021/7/10 20:39
https://mainichi.jp/articles/20210710/k00/00m/040/279000c