「夫は、これで3回殺されたんですね……」

 赤木雅子さん(50)はそうつぶやいた。安倍晋三前首相その人の公式ツイッターを見て。

この公式ツイートにある「赤木氏」とは、雅子さんの夫、赤木俊夫さん(享年54)のこと。4年前、森友学園との国有地取引を巡る公文書を改ざんさせられ、それを苦に命を絶った。

 俊夫さんが生前、改ざんの実態をまとめた「赤木ファイル」と呼ばれる文書が6月22日、ようやく国から妻の雅子さんに開示され、マスコミで大きく報じられた。その2日後、安倍前首相の公式ツイートが投稿されている。一体なぜだろう? そして雅子さんはなぜこれを「夫は3回殺された」と表現したのだろう?

首相が揶揄した赤木ファイルの記述

 赤木ファイルの冒頭で、赤木俊夫さんは確かに以下のように記している。

本省(財務省)の問題意識は、調書から相手方(森友)に厚遇したと受け取られるおそれのある部分は削除するとの考え。現場として厚遇した事実もないし、(会計)検査院等にも原調書のままで説明するのが適切と繰り返し意見(相当程度の意思表示し修正に抵抗)した

 この「現場として厚遇した事実もない」という部分を、安倍前首相の公式ツイートはとらえている。

 財務省近畿財務局は鑑定価格9億5600万円の国有地を8億円以上も値引きして1億3400万円で森友学園に売った。その土地に建つ小学校の名誉校長が安倍首相(当時)の妻、安倍昭恵さんだったから、「首相の妻に忖度して不当に値引きしたのではないか?」と国会で追及された。これに対し安倍氏は「私や妻が(取引に)関係していたら総理大臣も国会議員もやめる」と見得を切った。

 だから今回の赤木ファイルの「厚遇した事実もない」との表現をとらえ、マスコミに「報道しない自由で握り潰されている」と揶揄した。一見もっともらしく思える。

「厚遇した事実もない」は上司が伝えた内容

 だが、赤木俊夫さんは公文書改ざんの当事者ではあるが、国有地取引の当事者ではない。俊夫さんが担当部署に異動してきたのは国有地売却の翌月だから、実際の交渉には関わっていない。取引の経緯を直接知らないのである。だから「厚遇した事実もない」と書いたのは、売買交渉に携わった上司の池田靖統括国有財産管理官(当時)が俊夫さんに伝えた内容だろう。雅子さんは当時を振り返る。

「夫は池田さんのことを信頼していました。森友問題が発覚した当初『取引は正当だと池田さんに聞いている』と話していました。だからあのように書いたんでしょう」

 しかし時がたつにつれ、俊夫さんは池田さんへの不信感を募らせていく。値引きの理由は地中深くにあるゴミとされたが、その存在は誰も確認していない。その年の人事異動で俊夫さんだけが担当の職場に残され、池田さんや他の職員はみな異動していなくなった。そして異動後、問題の国有地取引に関する資料が職場から消えていたという。

「むっちゃ落ち込んでました。一人だけポツンと残されて、資料はすべて処分されて……夫に取引の真相を知られたくなかったんですよね。あんまりです」

その直後、俊夫さんはうつ病と診断され休職。職場に戻ることはできなかった。休職中、池田さんへの不満を漏らす。

「池田さんは仕事が雑や。ちゃんと(国有地を)売っていたらこんなことにならんかった。大学に売っとったらよかったんや」

 大学とは、国有地の隣にある大阪音楽大学のこと。森友学園より先にこの土地の購入を希望し、7億円以上の額を提示したとされるが、近畿財務局は売らなかった。それを森友学園には1億3400万円で売った。これが厚遇でなくて何だろう。

続きはWebで

文春オンライン
2021/07/06
https://bunshun.jp/articles/-/46635