2019年の参院選広島選挙区の大規模買収事件で、公選法違反(買収など)の罪で実刑判決を言い渡された元法相の河井克行被告(58)と妻の案里元参院議員(47)=有罪確定=から買収の金を受け取ったとされる広島県内の地方議員や後援会員ら計100人について、東京地検は6日、100人全員を不起訴処分にした。大半が起訴猶予とみられる。

 買収事件では、買収、被買収の双方の刑事責任を問うのが通例だが、地検は、克行被告が現金を強引に渡したり、置いて帰ったりした状況などを考慮。悪質性が低く、刑事責任を問う必要はないと判断したとみられる。ただ、100人のうち40人は政治家で、受領額も10万〜200万円と高額。処罰の公平性や妥当性を巡り、地検の判断は波紋を呼びそうだ。

 地検は20年7月に河井夫妻を起訴した際、各5万〜300万円を受け取ったとされる100人の刑事処分をしなかった。このため、広島市内の市民団体「河井疑惑をただす会」が「河井夫妻だけの責任追及に終わると、被買収者らの悪習を絶つことはできず、同様の問題が再び生じる恐れが大きい。処罰の公平性にも多大な疑問がある」として100人全員に対する告発状を提出。東京地検が受理し、再聴取を進めていた。

 克行被告に対しては、東京地裁が6月18日に懲役3年の実刑判決を言い渡し、100人に渡した現金はいずれも買収の金に当たると認定した。克行被告は控訴している。

 100人には、地方議員や首長など地方政治家40人が含まれる。金額は亀井静香元金融担当相の元公設秘書の300万円が最も高く、元県議会議長の奥原信也県議=呉市=が200万円、天満祥典前三原市長が150万円を受領。残る政治家は各10万〜70万円を受け取った。大半の受領額が5万円だった後援会員と比べて高額だった。

 政治家40人のうち30人は現金授受の発覚後も辞職していない。起訴されていないことを理由に挙げる議員も多く、有権者からは批判の声が出ている。

 ただす会は、検察の刑事処分の妥当性を審査する検察審査会(検審)に申し立てる意向。検審で「起訴相当」「不起訴不当」の判断になれば、地検が再捜査する。このうち「起訴相当」の場合は、再捜査を経て地検が再び不起訴としても、検審があらためて「起訴相当」と議決すれば強制起訴される。

 被買収罪の法定刑は3年以下の懲役か禁錮または50万円以下の罰金。現職の政治家が起訴されて罰金刑以上が確定すると、公民権停止となって失職する。

 東京地裁判決によると、克行被告は案里氏と共謀して19年3〜8月、案里氏を当選させる目的で100人に計2871万円を渡した。案里氏は、そのうち県議4人に160万円を渡し、懲役1年4月、執行猶予5年の有罪判決が確定している。

中国新聞
2021/7/6 15:33
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