通常国会の会期末を16日に控え、自民党内の主導権争いが顕在化しつつある。秋までにある衆院選や党総裁選、さらにその先を見据えた実力者たちの動きが活発化。現政権の継続を前提に人事を巡る派閥間の思惑も入り乱れ、さや当ても始まっている。政権運営を支える面々の不協和音は今後、菅義偉首相の頭痛の種にもなりかねない。

 3日午前、約30分の面会を終え、議員会館の安倍晋三前首相の部屋から出てきた首相の表情は晴れやかだった。官邸に戻ると、記者団の問い掛けに「非常に有意義だった」と応じてみせた。

 11〜13日に英国である先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、安倍氏の助言を受けた首相。これまでも就任後初の外国訪問、日米首脳会談といった重要な外交日程を控えたタイミングで、安倍氏のもとを訪れている。

 その安倍氏は5月3日、BSフジの番組で「7年8カ月の官房長官の経験を生かして、しっかり取り組んでいる」と首相を評価し、次期総裁選の再選を支持した。4月の衆参トリプル選挙で惨敗し、新型コロナウイルス対応で世論の逆風にさらされる首相をかばい、支持率低下に動揺する党内ににらみを利かせた。

 安倍氏がいち早く首相支持を表明した裏には、次の人事への思惑がちらつく。出身派閥細田派への復帰をうかがう安倍氏にとって、首相との関係を生かして幹事長ポストを奪取すれば、何よりの「土産」となる。細田派関係者は「『次は幹事長派閥』。これが、わが派の総意だ」と言ってはばからない。

 安倍氏の盟友で、菅政権発足後も閣内に残る麻生太郎副総理兼財務相は5月21日、甘利明党税制調査会長の呼び掛けで発足した「半導体戦略推進議員連盟」の設立総会に出席し、声を張り上げた。「3人そろえば何となく政局という顔だが、その期待は外れる」

 3人とは安倍、麻生、甘利3氏を指す。2012年の第2次安倍政権発足直後、首相を加えた「3A+S(菅)」は政権の屋台骨とされた。麻生氏の言葉とは裏腹に、3Aのそろい踏みに党内からは「政策だけが目的ではない」(閣僚経験者)との声が上がる。

 麻生氏には、菅政権下での自派閥の処遇に不満が根強いという。周囲には「よくやっている」と首相への評価を口にする一方で、「そろそろ幹事長は譲ってもらわねえとな」。麻生派所属の甘利氏は安倍氏とも近く、「うちとしては『甘利幹事長』を推させてもらう」と麻生氏周辺の鼻息は荒い。

 こうした動きに神経をとがらせるのが、昨年の総裁選で首相を担ぎ出し、後見役となった二階俊博幹事長だ。5月の記者会見では、19年の参院選広島選挙区の買収事件で当選無効となった河井案里氏陣営に党から1億5千万円を送金した問題を巡り、当時選対委員長だった甘利氏や安倍氏の関与をにおわせた。

 細田、麻生両派所属の党幹部の言動や運営方針に、二階氏が露骨に不快感を示す場面も目立つ。「機略縦横、百戦錬磨の幹事長が、簡単にいすを手放すわけがない」と二階派ベテラン。ひるむ様子はない。

 19年秋の党役員人事で安倍氏を翻意させ、二階氏続投の路線を敷いたのは、他ならぬ当時官房長官の首相だった。既に史上最長、5年近い在職期間を誇る二階氏を続投させるか、否か―。党内基盤が強固とは言えない首相は最近、キーマンたちの微妙な空気を懸念する側近に、こう漏らしたという。「先のことは考えないようにしている」

(河合仁志)

西日本新聞
2021/6/6 6:00
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