森友問題で決裁文書の改ざんを強いられ、自死した元財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻、雅子さん(50)が来県した。改ざんの過程をまとめた文書「赤木ファイル」の全面開示を求める本紙社説をネット上で読んだのをきっかけに、世論に訴える全国行脚を沖縄から始めることにした。14日は沖縄戦の遺骨収集と米軍機事故の現場を訪ね、沖縄と夫妻に降り掛かる国の暴力を重ねた。(編集委員・阿部岳)

 「ガマフヤー」具志堅さんと対面

 無念の死 遺骨に思い

 子どもの小さな遺骨を手のひらに置いた雅子さんは、「重みがあった」と語った。糸満市の陣地壕。「亡くなって、なかったことにされてきた方たちだと思う。夫と重ねてしまう」

 俊夫さんの無念と、死に追いやった国の間違いを「なかったこと」にさせない。雅子さんは死から2年後の昨年3月、国側に損害賠償を求める訴訟を起こした。「戦争で亡くなった方はもう76年、思いを果たすことができなかった」と遺骨を見つめた。

 遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さん(67)が案内した。陣地壕の外で子どもやお年寄りの遺骨を示し「軍に中に入れてもらえなかった可能性がある」と説明した。

 国有地を値引きして森友学園に売却した問題は、安倍晋三前首相が自身や妻の関与を否定したため、現場職員の俊夫さんが公文書改ざんを強いられた。沖縄戦の日本軍も、わが身かわいさに住民を犠牲にすることがあった。

 共通する構図に、具志堅さんは強い関心を寄せてきた。「誰が安全な所から改ざんの指示を出し、俊夫さんを犠牲にしたのか。赤木ファイルは黒塗りせずに全部出すべきだ」と求める。辺野古新基地の埋め立てに遺骨混じりの土砂を使わせないよう体を張るのも、雅子さん夫妻のために何ができるか自問するのも、国の過ちの犠牲にされた人の尊厳を守るため。「不条理のそばを黙って通り過ぎることはできない」と語った。

 届かぬ願い 世論に託す

 緑ヶ丘保育園訪問「爆音怖い」

 緑ヶ丘保育園(宜野湾市)の上空を通過するオスプレイ。雅子さんは両耳をふさぎ「怖い。足が震える」と言った。階下の園庭では、子どもたちが変わらず元気な声を上げていた。

 雅子さんを迎えた園長の神谷武宏さん(58)は「最初は泣く子どもたちも慣れてしまう。本当は怖がらないといけないです」と語った。2017年の米軍ヘリ部品落下事故と、その後も全く変わらない異常な日常を説明した。

 米軍に事故の責任を認めさせてほしい、園の上空を飛ばないでほしい。ごく控えめな願いも、政府には届かない。事故続発を批判する質問に「それで何人死んだんだ」とやじを飛ばした副大臣までいた。

 「死ななかったら動かないのか、と思った」。事故時の保護者でつくる「チーム緑ヶ丘1207」の与那城千恵美さん(48)は、積み重なってきたもどかしさを雅子さんに伝えた。

 雅子さんは「米軍はまだしも、日本政府が国民を守ってくれないことにびっくりする」と聞き入った。そう言う雅子さん自身も、俊夫さんを追い詰めた公文書改ざんの真相を隠す国と対峙(たいじ)せざるを得なくなった。

 頼みは世論の力。全国行脚を思い立ったのも、もっと多くの人に俊夫さんのことを知ってもらうとともに、各地の課題を知りたいと考えたから。スタート地点の沖縄で早くも多くの共通点を見つけた。「こういうことになり、いろんな人に出会えた。いいこともたくさんあります」と話した。

沖縄タイムス
5/15(土) 8:46
https://news.yahoo.co.jp/articles/dd06af1e4e6181391ee702e43595f8d4a47183d4