――菅首相の話し方はどうでしょうか。ご本人もインタビューなどで口下手であることは認めていますが、官房長官時代から、会見や国会では無表情で平板なイントネーションで受け答えをしていました。それゆえ、温かみよりも冷たい印象を与えてしまい、首相になってからも国民に“熱量”が伝わっていないように思います。

都築:7年8カ月も官房長官をやっていたのだから、話し方の癖はなかなか抜けないでしょう。ただそれ以前に、菅首相の政治的なリソース(資源)は、情報と人事を握っていることです。言い換えれば、インテリジェンスの出身なんですね。国家の情報収集や分析、人事の差配などは見えないところでやるものなので、言葉は重要視されません。むしろ周りに気付かれてはいけないものであり、「国民に向けて語りかける」という方法とは180度違う政治手法です。

 菅首相はインテリジェンスで政治の世界を生き抜いてきました。言葉というものは、経験がにじみ出るので、同じ言葉でも話している人によって伝わり方が違います。国民と一緒に共感を得ながら進めよう、という姿勢が薄いのは菅首相が歩んできた政治的キャリアの“帰結”でもあるのです。

――言葉数は少なくても、歴史に名を残す首相はいました。たとえば大平正芳氏は「アーウー宰相」と呼ばれ、饒舌ではありませんでしたが、一つ一つの言葉には無駄がなく、とても論理的だったとされます。また、小渕恵三氏は首相在任中、自らの発信力を卑下して「ボキャ貧」と述べて流行語大賞にもなりましたが、その人柄が国民にも受け入れられるようになり、低かった内閣支持率を上昇させていきました。

都築:大平さんとはバックグラウンドが違うのであまり比較になりませんが、たたき上げという点で、菅さんは小渕さんのようなタイプになるのかと思っていました。小渕さんもアジア通貨危機と日本の金融危機に直面していた大変な時期に首相になりました。本当に笑っている場合ではなかったと思いますが、小渕さんにはユーモアがありました。社会が厳しい状況であるほど、トップがユーモラスであることは大切です。菅首相とはそこが違う点でしょうね。

 私は首相は雄弁である必要はないと思っています。たとえば海部俊樹さんは早稲田大学雄弁会出身で饒舌でしたが、逆に型にハマった言葉が多く、あまり伝わってくるものがありませんでした。言葉が「インフレ」にならず、言葉の中身に注目してもらえるという点では、口下手であることも悪くはないと思います。

――失言はどうでしょうか。過去にも「ASEAN」を「アルゼンチン」と間違えたり、緊急事態宣言の対象地域の「福岡」を「静岡」と言い間違えたり、菅首相は重要な場面で言葉を間違えることが少なくありません。また、緊急事態宣言の延長について「仮定の質問には答えない」という旨の発言をして批判を浴びたこともありました。

都築:失言が多いということは、国民には発信力や指導力のなさとして映ってしまいます。菅首相はまだ就任4カ月ですが、政権末期の麻生太郎さんのようにもみえてしまいます。あのときはリーマンショックの対応が猛バッシングされて、麻生さんは何を言っても批判されました。失言癖があり、上から目線だという点も似ています(笑)。

 揚げ句の果てには、漢字が読めないことも連日攻撃されて、追い込まれ解散になり衆院選で大敗しました。今年の秋までに衆院選があることは確実なのですから、菅政権もこのままいけば、追い込まれた形で衆院選突入という可能性もゼロではありません。政治家にとって「言葉は命」という格言は、まさにその通りなのです。

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