新型コロナウイルス対策で、政府が、感染症法を改正し、入院勧告を拒否した感染者に対する刑事罰を検討していることについて、医学関係の学会で作る日本医学会連合は恐怖や差別を引き起こし、対策への協力が得られなくなるおそれがあるとして、刑事罰や罰則を伴う条項を設けないよう求める緊急声明を出しました。

政府は、新型コロナウイルス対策の実効性を高める必要があるとして、感染症法を改正し感染者が入院勧告に反した場合や保健所の調査を拒否したり虚偽の申告を行ったりした場合に懲役や罰金を科す案を検討しています。

これについて、国内136の医学系の学会で作る日本医学会連合は、刑事罰や罰則を伴う条項を設けないよう求める緊急声明を出しました。

声明では、今の感染症法は、かつて結核やハンセン病などの患者が強制収容されるなど、まん延防止の名目で著しい人権侵害が行われたことの反省のうえで成立したとしています。

そして、罰則を伴う強制によって恐怖や不安、差別を引き起こすことにつながり、対策への協力が得られなくなるおそれがあるほか、刑事罰や罰則を恐れて検査を受けなかったり検査結果を隠したりして対策が困難になると想定されるとしています。

声明ではさらに、入院勧告などの際は、所得の保障や医療介護サービスの無償提供など、十分な補償を行うこと、それに偏見や差別の防止のために法的な規制を行うことなど、感染者などの人権に最大限配慮するよう求めています。

専門家「拙速は避け慎重に議論を」


政府が、感染症法を改正し、入院勧告を拒否した感染者に対する刑事罰を検討していることについて、新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで行政法が専門の慶応大学大学院の磯部哲教授は「感染症法はハンセン病患者などへの著しい差別が起きてしまった経緯から、感染者に対してまずは自発的な行動を促し、良質で適切な医療を提供することで感染症のまん延防止をはかろうというのが基本になっている。そのなかで、懲役刑など非常に強権的な案が出てきて、およそ1か月後の成立を目指すという報道がされており驚いているというのが率直な感想だ」と述べました。

そのうえで「法律には、制限をかける目的と強制手段とのバランスが取れていなければならないという大原則があり、特に、入院勧告を拒否すると懲役刑というのはバランスを欠いているように思える。また、刑事罰を伴う法律ができたとしても感染している人に対する警察の捜査など、刑事手続きが実際に進められるのかや感染者だと診断する医師の負担が重くなりすぎないかなど運用面でも課題が多い。今は非常に緊急の事態で大きな不安が社会にあり、何とかしなければならないという思いは分かるが、拙速は避け、慎重に議論をすることがどうしても必要になってくる」と指摘しました。

NHKニュース
2021年1月15日 4時04分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210115/k10012815201000.html