新型コロナウイルスの感染拡大で「医療非常事態」を宣言した大阪府で病床の逼迫ひっぱくが続いている。独自基準「大阪モデル」の赤信号を点灯させたが、まだ感染者数の低減の兆しはない。ここに至った経緯からは、過去の対策の成功ゆえの判断の甘さ、試算の軽視、感染のピーク期の読み違えなど複合的な要因が浮かぶ。

成功体験 判断甘く

 大阪府で感染拡大の傾向が顕著になったのは10月末。「大阪都構想」の住民投票が大詰めの頃だ。1日あたりの平均感染者数(1週間平均)が100人を超え、上昇カーブは明確だった。

 しかし府が最初に動いたのは11月12日。この日の平均感染者数は既に「第2波」のピークに迫る184・4人で、夏に時短・休業の要請に踏み切った水準だった。

 吉村洋文知事が呼びかけたのも「静かに飲食」で、夏の「5人以上での飲食自粛」より弱い内容だった。

 吉村知事の判断の背景を、府幹部は「過去2回の波を経験し、経済との両立でも乗り切れるとの判断があった」と語る。春夏の感染の波は、府が動くと減少傾向に転じた。感染者数が一定程度増えれば、府民の行動が慎重になるとの見方もあった。

 だが行楽シーズンもあって人出は減らず、感染者数は増大。同27日には大阪市の一部に「時短営業」を求めざるを得なかった。既に重症病床(206床)の使用率は50%超。約1週間後には赤信号の基準の70%を超えることが確実となり、点灯に追い込まれた。

「赤信号」試算軽視

 赤信号の点灯の可能性は早い段階で示唆されていた。11月18日の大阪府の庁内会議。健康医療部は、最悪の場合、12月1日に重症病床使用率が70%を超え、同8日には最大限確保できる病床数を上回るとの分析を示した。とはいえ危機感は共有されなかった。これまで試算が当たらなかったからだ。「第1波」の3月、吉村知事は、国から1週間の感染者数が大阪府と兵庫県で計3000人超になるとの試算を示され、兵庫県との往来自粛を要請。実際に大阪での感染者数は最大で週440人にとどまった。

 また「第2波」の7月には健康医療部が重症者数が8月半ばに194人に達すると試算したが、結果的にピーク時でも72人。府幹部は「最悪のシナリオを回避し続けたことが、判断の遅れになった」と明かす。

ピーク期 読み違え

 大阪府の重症病床の使用率は11日現在、75・2%。人口約880万人の大阪府で206床という水準は、東京都(人口約1400万人)が最大確保できると見込む500床には及ばないが、神奈川県(同約920万人)の200床と遜色はない。

 それでも病床数が不足するのは、他地域より感染拡大が進んでいるためだ。

 人口10万人あたりの感染者数(3〜9日累計)は27・27人と全国で最多。神奈川県(12・75人)はもちろん、医療の逼迫が指摘される東京都(22・38人)や北海道(25・01人)をも上回る。

 また206床のうち約20床は他の患者が入院するなどし、まだ使えない。受け入れ可能な病床(188床)の使用率は82・4%だ。

 府は11月19日、各病院に206床の病床が全て使えるよう準備を求めたが、冬場で心疾患などの重症者も増え、対応が遅れている。

 府が警戒のピークを例年、インフルエンザが広がる12月下旬から1月と見込んでいたことも影響した。

 春から計画してきた重症者用プレハブ病棟「大阪コロナ重症センター」は15日からようやく稼働するが、看護師の確保が進まず、国や他の自治体に支援を要請する事態になった。

 1日あたりの平均感染者数は12月に入り、横ばいだが、これから下がるのか、上昇に向かう「踊り場」なのかは見通せない。府庁内には、時短営業の解除を探る声もあるが、重症患者を受け入れる近畿大病院の東田有智病院長は「府の要請で病床も増やし、人繰りもぎりぎりの状況。いまはブレーキをかけてもらわないと困る」とくぎを刺した。

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読売新聞
2020/12/12 14:53
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20201212-OYT1T50124/