大阪府では新型コロナウイルスの重症者数が141人となり、重症病床使用率は68・4%で、実際に運用されているベッド数は81%と医療体制が逼迫。看護師も不足し、吉村洋文府知事は急きょ、自衛隊に派遣要請をするなど、危機的状況だ。吉村知事はこれ以上の感染拡大を防ぐため、先月27日から今月15日まで酒類を提供する大阪市北区と中央区の飲食店を対象に、営業時間を午後9時まで短縮するよう協力を求めている。

 大阪市24区のうち、北新地がある北区と、心斎橋、難波、千日前がある中央区を対象としたのは、市内の飲食店約5万店舗のうち、半分を占める約2万5000店舗が両区に集中しているからだ。

 大阪最大の繁華街を抱える北区と中央区の飲食店が時短営業すれば、感染拡大を阻止できる――という狙いだった。

 ところが北区と中央区で夕食を済ませた客たちが、そのまま近隣の福島区や都島区、西区に繰り出し、ハシゴをするケースが目立つというのだ。これでは、とてもじゃないが感染拡大は止められない。

 先週末の5日(土)、大阪市を訪れるとJR大阪駅、阪急梅田駅周辺は結構な人出で、駅近くの家電量販店は多くの買い物客で賑わっていた。時短要請に応じた北区の飲食店店主はこう嘆く。

「ウチは北区いうてもオフィス街にあるし、北新地からは離れとる。北区いうだけで対象にされるんやから、たまらんわ。お客さんは『そろそろ店がしまいやから、福島か京橋(都島区)でも行こうか』いうて、よそ行って飲んでるわ。キタの客が向こうに流れて、えらい繁盛しとるいう話や」

■電車で1駅、タクシーでも1メーター

 北区があるJR北新地駅から、福島区のJR新福島駅まではわずか1駅。東京でいえば銀座と新橋のようなもの。タクシーなら1メーター。徒歩でも行ける距離だ。


 実際に行ってみると、オドロキの光景が広がっていた。

 午後9時すぎ――。福島駅近くの路地裏にある居酒屋やバー、ラーメン屋は、土曜だというのにどの店もごった返していた。なかには辺りに響き渡る大声で大合唱しながら、ドンチャン騒ぎする体育会系の大学生の姿もあった。もちろん誰もマスクはしておらず、フラフラになりながら、友人の肩を借りて引きずられるように運ばれる学生や、路上で嘔吐する泥酔者もいた。

 店にいた客が言う。

「通天閣や太陽の塔がナンボ赤くなろうが、知事が外出自粛を呼び掛けようが、あまり危機感ないわな。ちゃんとルールを守って北区と中央区以外で飲んでるんやから、ええんちゃうのいう感じやで」

 いくら高齢者が外出を控えたところで若者が自粛をしなければ、家庭や職場を通じて感染が拡大するばかりだ。

日刊ゲンダイ
2020/12/08 15:50
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/282377