政府による日本学術会議の任命拒否問題について、同会議の元会員で2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授(78)が本紙の電話インタビューで、「理由なく拒否することが行われれば危険だ」と話し、任命権者である菅義偉首相の説明が必要との認識を示した。(勝間田秀樹)

◆理由なき拒否、拡大解釈の恐れ
 ―任命拒否をどう感じたか。
 理由を説明しないのは大きな問題。任命権者である菅義偉首相が自ら、明確な説明をするのが基本ではないか。理由なく拒否することが行われれば、例えば文部科学大臣による国立大の大学長の任命などにも拒否権が拡大解釈されていきかねず、危険だ。
 科学は国民のためのもので、自由に研究をやってもらうことが大切だ。今年のノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術の女性科学者も、予想もしないことから、そこにたどり着いている。僕らが発見した物質も同じ。一つの方向へ、国が命令するということでは新しい発見は出てこない。任命拒否のように政府が頭から、これはダメあれはダメと言うのは問題だ。
 ―学術会議のあり方について検証が始まった。
 「国から学術会議に10億円も予算が出ている」と、いかにも大金のように言うが、10億円ほどで国の将来を見据えた科学技術の提言を出してもらうのは乱暴ですらある。あまりに安い。もっと優遇されてしかるべきだ。会員らに支払われるのは交通費、宿泊費と、わずかな手当だ。組織、資金を、今以上に切り詰めることはできないはずだ。そうなれば、解体になりかねない。

◆政府が科学者の助言受ける仕組みを
 行革の理由に「過去10年、学術会議から勧告が出ていない」と挙げた人がいたが、諮問されなければ勧告もできない。10年も勧告がなかったのは、政府が科学者の助言を求めなかったということだ。むしろ、その方が大きな問題だ。
 ―議論はどうあるべきか。
 米国や英国には政府への科学アドバイザーがおり、科学者が国に科学的見解、知識を発信するチャンネルは明確になっている。これが日本にはない。だから新型コロナウイルス対策もふらふらしている。
 私も学術会議の会員を務めたが、会議で提言をしたとしても、ほとんど政府に受け止められた実感はなかった。今回の問題の本質は、政府が科学者の集団から、アドバイスをきちんと受ける仕組みをつくれるかどうかだ。

本庶佑氏(ほんじょ・たすく) 1942年生まれ。京都大医学部を卒業し、84年に同大医学部教授、2017年から特別教授。免疫の働きに関与するタンパク質を発見してがん治療薬オプジーボを開発し、がんの新しい治療を切り開いたとして18年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

東京新聞
2020年10月20日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/62861/