任命を拒否された「日本学術会議」新会員候補6人のうちの一人である岡田正則・早稲田大教授は、行政法研究者の立場から「首相や官房長官は、法律をまったく知らずに発言している」と厳しく指摘する。ゼミから多くの官僚を輩出してきた教育者として「有能な職員たちが、法律を破る手先にされている。見ていていたたまれない」と語る岡田さんに、任命拒否の何が問題なのかを詳しく聞いた。【木許はるみ/統合デジタル取材センター】

 ―−岡田さんは、10月3日に首相官邸前で行われた「任命拒否」に抗議する集会に参加し、マイクを握りました。どのような思いで参加したのですか。

 ◆10月1〜3日の日本学術会議の総会や委員会に、私は傍聴という形で出席しました。本来であれば分担すべき役割が担えませんでした。会員が少なくなれば、部会の運営自体も十分にできませんので、一刻も早く正常化する必要があります。集会には、正常化が必要だという思いをアピールしようと参加しました。傍聴という形は、幼いころに学校で理不尽に廊下に立たされているような気分でした。なぜ私が授業を受けさせてもらえないのかと。

 ――「任命拒否」はいつ知り、まず何を思いましたか。

 ◆9月29日夜に、学術会議の事務局長から電話があり、「任命者の名簿から落ちている」「理由はわからない」と聞きました。なぜ私が外されたか。みなさんは私が沖縄県名護市辺野古の新基地建設に関する論文を書いているからだと言いますが、それは私の研究のごく一部です。2015年の「安全保障関連法案の廃止を求める早稲田大学有志の会」に参加していますが、呼びかけ人の何十人かの一人です。これらの活動は、政権がそんなにも目くじらを立てることでしょうか。

 私は行政法が専門なので、国や地方の公的な仕事もしています。国家公務員、地方公務員への研修や司法試験の委員などをしてきました。これまでさまざまな行政事件で当事者の方々を応援してきましたが、まさか自分が当事者になるとは考えていませんでした。専門家・研究者としての活動についての疑心暗鬼を、政権は持たせたいのでしょうか。

 私は15年と18年に辺野古の新基地建設に対して、行政法学者たちと政府の対応に抗議する声明を出しました。その時、賛同はするけど、名前を伏せる研究者もいました。仕事への影響を心配していたのかもしれません。今回の任命拒否によって、研究者の活動が萎縮してしまうのではないかと懸念してしまいます。

 ――「任命拒否」の理由について、加藤勝信官房長官は「人事に関することでコメントを差し控える」と言って説明を拒み続けています。

 ◆これは人事の問題ではないんですよ。政権が人事の問題にしたいだけでしょう。外された6人のプライバシーを守るためのような言い訳で理由を公表しないのは、当事者のためではなく、政権のためです。たいへんひきょうです。学術会議は大きな労力を払って選考を行い、日本学術会議の決定として候補者名簿を提出しています。これを否定するわけですよね。人事を扱っているのは学術会議なので、政権がそれに手を突っ込むのは、組織同士の問題です。候補者個人の問題ではありません。政権は人事の問題として言い逃れをし、理由を明示せず、国民に説明しなくていいと思わせようとしています。

 ――菅義偉首相は「法に基づいて適切に対応した結果」と発言しています。加藤氏は、人事を通じて監督権を行使できるとしています。

 ◆菅首相や加藤さんは、まったく法律を知らずに発言していますね。インチキにもほどがあります。日本学術会議法の条文を本当に読んでほしい。私の専門の行政法の範囲なので、学者として日本学術会…

毎日新聞
2020年10月5日 17時11分
https://mainichi.jp/articles/20201005/k00/00m/040/125000c