https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20201002-00201120/
「学問の自由への介入か」

[ロンドン発]日本の科学者を代表し「学者の国会」と呼ばれる首相所轄の特別機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補者105人のうち安全保障法制に反対した左派の学者ら6人が任命から除外されていたことが分かりました。日本でも「赤狩り」が始まるのでしょうか。

推薦された候補者が任命されないのは前例がありません。退任した山極寿一・前日本学術会議会長(京都大学前総長)は「学問の自由への介入と受け取られても仕方がないのではないか」と政府の対応を批判しています。

日本学術会議の職務は次の2つです。

(1)科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。

(2)科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業と国民生活に科学を反映、浸透させることを目的に1949年、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。政府に対する政策提言、科学の役割についての世論啓発などを担っています。

首相の所轄と言うものの、政府から独立して職務を行うため、首相の任命権は形式的なものに過ぎないと過去に国会で答弁されています。会員の任期は6年で、3年ごとに半数が任命されることになっており、今回のように任命を見送ると欠員が生じてしまうからです。
アメリカからの対中強硬圧力

日本学術会議の人事ぐらいに一国の首相たるものが目くじらを立てるのはいかがなものかという意見も当然あるでしょう。菅義偉首相が、安全保障法制に反対した6人に意趣返しをしたのでしょうか。この動きは菅政権が抱える今後の防衛・安全保障上の課題と無関係とは筆者は思いません。

購買力で見た経済規模では中国がアメリカをすでに追い抜き、軍事面でも対決姿勢を鮮明にしています。

そんな中で菅政権はアメリカ側から中距離ミサイルのアジア配備(有力な候補地の一つは沖縄・琉球諸島)、米英を中心とした電子スパイ同盟「ファイブアイズ」への協力を強く求められているはずです。そうした政治課題に取り組むためには6人は将来、障害になる恐れがあります。

ドナルド・トランプ米大統領は11月の米大統領選を控え、対中強硬姿勢をますます強めています。超タカ派ぞろいのトランプ政権の動きをおさらいしておきましょう。
【トランプ政権の対中外交】

2017年12月、トランプ大統領が中国やロシアを「アメリカの国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力」と位置づけ、戦略的競争という新たな時代の中でアメリカが優位性を取り戻す国家安全保障戦略を発表

2018年10月、マイク・ペンス副大統領が「トランプ政権の対中政策」と題した講演で「中国の自由が経済的にも政治的にも拡大することを期待したが、その希望は実現しなかった」と断言。膨大な対中貿易赤字や中国による南シナ海の要塞化、借金漬け外交、新疆ウイグル自治区での弾圧に強い警戒感を唱える

今年6月24日、ロバート・オブライエン国家安全保障問題担当大統領補佐官が「中国共産党のイデオロギーと世界的野心」と題して講演。「中国共産党はマルクス・レーニン主義」と断罪し、習主席は自らを旧ソ連の独裁者スターリンの後継者とみなしていると非難

7月7日、クリストファー・レイFBI(連邦捜査局)長官が「中国政府・中国共産党がアメリカ経済と安全保障に及ぼす脅威」と題して講演。「中国はあらゆる手段を使い世界で唯一の超大国を目指している」としてアメリカの未来にとって最大の長期的な脅威になると警鐘を鳴らす

7月16日、ウイリアム・バー司法長官が「中国共産党の世界的野心へのアメリカの対応」と題し「ディズニーや他の米企業が北京に追従し続ければ、自分たちの将来的な競争力と繁栄、その繁栄を可能にしてきた伝統的な自由の秩序を損なう危険性をもたらす」と警告

7月23日、マイク・ポンペオ国務長官が「共産主義者の中国と自由世界の未来」と題して演説。対中関与の門戸を開いたリチャード・ニクソン元大統領は「中国共産党に世界を開くことにより“フランケンシュタイン”を作ってしまったのではないかと心配していると語ったが、それが今日実現した」と糾弾。対中関与政策の終結を宣言する

(略)