官僚人事を掌握、逆らうものは左遷して霞が関支配を続けてきた菅義偉首相(71)。黒川弘務元東京高検検事長の定年延長、公文書改ざんなどが問題化しても権力でひねりつぶしてきた。元官僚の前川喜平、古賀茂明両氏が菅首相の正体を暴く。

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──9月16日に菅義偉内閣が発足しました。菅首相について、お二人はどのように見ていますか?

古賀:菅さんは、自分の政策は何もない人。だから、「安倍政治を継承する」と言うしかない。「改革」「縦割り打破」と抽象的なことは言うけど、デジタル庁以外は大きなテーマは見えません。

前川:菅さんの一番の関心は、権力の維持と拡大です。すでに頭の中には来年9月の自民党総裁選があり、それを勝ち抜くことを考えているのではないでしょうか。

古賀:「改革」はそのための人気取り政策。ただし、本人は自分のことを改革派だと思っているふしがある。私はこれを「気分は改革派」と言ってます。自分の思い込みでテーマを絞ってくるでしょうね。

前川:携帯電話料金の値下げも、菅さんの人気取りのための政策ですよね。

古賀:携帯電話料金を安くするなら、業界の競争を促進して値段を下げる方向に持っていくのが筋です。ところが、すでに楽天が携帯電話事業に参入しているし、規制緩和の余地もあまりない。その上、日本は5Gの展開で世界に大きく遅れている。今後莫大な投資資金が必要なのに「利益を削れ」とやるわけですから、資金不足でさらに後れをとりかねない。

 総務省の官僚は困るでしょうね。値下げできなければその官僚はクビ。そう思えば、企業に嫌がらせのようなことをして値下げを迫るなんてことも起きかねない。かなり混乱するでしょうね。

前川:ふるさと納税制度の問題点を菅さんに進言した元総務官僚の平嶋彰英さんは、省外に異動になりました。平嶋さんは事務次官候補だった人。問題点を説明するだけで左遷されたわけですから、この人事は霞が関全体に衝撃を与えました。官僚人事への介入は、菅政権でさらに強まるでしょう。

安倍さんの政策は思いつきが多くて、うまくいかなかったことが山ほどある。最近ではアベノマスクです。こういった政策を主導したのは、安倍さんの側近で「官邸官僚」と呼ばれた経済産業省出身の今井尚哉首相補佐官、佐伯耕三首相秘書官、長谷川栄一内閣広報官でした。3人は菅内閣発足でそろって退任。これで経産省の影響力が弱まり、財務省や総務省が菅内閣で強くなります。

古賀:安倍さんというのは、ヤクザの大親分みたいなもの。官僚たちは、安倍さんが関心があることについてだけちゃんとやっていれば、あとは好き勝手にやっていい。だから「安倍さんはいい人だよ」と話す官僚もけっこういるわけです。ですが、菅さんは違う。

前川:菅さんは、官房長官として各省の審議官級以上の人事に目を光らせていました。私も、現役時代に大臣の了解を得て官邸に人事案を持っていくと、官房長官がひっくり返したことが何度もありました。こんなことは、菅さんが官房長官ではなかった第1次安倍政権にはなかったことです。

 一方で、菅さんが600人以上いる審議官級以上の官僚全員を知っているわけではない。だから、菅さんの目や耳になる官僚が官邸にいる。その一人が、首相補佐官に再任した国土交通省出身の和泉洋人さんです。

古賀:和泉さんは、厚生労働省の女性官僚と不倫疑惑が報道されました。恥ずかしくてやってられないはずです。安倍政権が終わっても居座る神経が理解できません。

前川:和泉さんは、2015年7月に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」でも、この案件だけ文化庁の審議会から外し、内閣官房で特別に“審査”しました。

 この世界遺産は、産業革命遺産なのになぜか松下村塾まで入っている。これを熱心に推進していたのが、安倍さんの幼なじみの加藤康子さん(加藤六月元農林水産相の長女)。加藤康子さんの妹婿は加藤勝信官房長官です。

古賀:私は、安倍政権が残した負のレガシーに、「倫理観の欠如」があると思うんです。社会通念に照らして明らかにおかしくても、捕まらなければ何をしてもいい。だから検察を抑えて法律違反でも憲法違反でも何でもやる。

2に続く

週刊朝日
2020.10.2 08:00
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