菅義偉官房長官(71)の消費税をめぐる発言が、総裁選の開票を前に波紋を広げている。10日夜のテレビ番組で、将来的な引き上げの必要性に言及したが、新型コロナウイルス対策で減税を求める声も党内にはあり、11日、軌道修正に追い込まれた。かつて橋本龍太郎元首相は、恒久減税をめぐる発言がぶれて、優勢とみられた参院選に敗れ、退陣した。選挙中は“鬼門”の、税をめぐる発言。「菅1強」の総裁選で、思わぬ落とし穴となるのか。

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菅氏は10日夜、自民党総裁選の候補者が出席したテレビ東京番組で、少子高齢化に伴う日本の人口減少を念頭に「将来的なことを考えたら行政改革を徹底した上で、国民の皆さんにお願いして消費税は引き上げざるを得ない」と発言。将来的な増税に言及した。

しかし11日の会見では、消費税増税について「安倍晋三首相はかつて、今後10年くらいは上げる必要はないと発言した。私の考えも同じだ」と述べ、10%は当面は据え置くべきとの認識を表明。税率引き上げ容認と取られかねない10日の発言を、事実上修正した。

党内には新型コロナウイルス対策として、期限を区切った消費税減税を求める声もある。14日の総裁選に向けて石破茂、岸田文雄両氏を大きく引き離す菅氏だが、党内の反発が広がらないよう軌道修正したとみられる。会見では消費税減税について「消費税は社会保障のため必要な財源だ」と、否定的な考えを示した。

選挙中の税に関する発言は、自民党にとって「鬼門」。選挙の形は異なるが、98年参院選では、当時の橋本龍太郎首相の「恒久減税」発言がぶれて反発が拡大し、敗北した。

党内では「責任ある政治を目指している証左」(森山裕国対委員長)と、菅氏を擁護する声もあるが、「菅首相」が年内にも衆院解散・総選挙に踏み切るとの臆測がある中、野党側はすぐさま反応。立憲民主党の安住淳国対委員長は「野党はコロナ禍では時限的に引き下げた方がいいスタンス。次期衆院選ではっきり争点になる」と指摘。共産党の田村智子政策委員長は「信じ難い」と批判した。

総裁選で都道府県連の独自予備選は事実上終了しており、党関係者は「今回の発言が結果に影響することはない」と話す。ただ、告示後のテレビ討論などでの菅氏の発言は「あやふや」「力強さがない」とも指摘される。会見で、最近の発言は言葉足らずではないかと問われた菅氏。「指摘は謙虚に受け止め、丁寧に説明したい」と、釈明した。

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◆98年参院選での橋本龍太郎首相のぶれ 前年97年4月に消費税率を3%から5%に引き上げ、デフレが進行。11月には山一証券などが経営破綻。金融危機が表面化した。恒久減税を待望する世論が高まる中、参院選が公示され、7月3日、橋本氏は熊本での会見で「恒久的な税制改革をする」と発言した。マスコミはこれを恒久減税と捉えたが、7月5日、「サンデープロジェクト」に出演した橋本氏は、司会の田原総一朗氏に「財源はどうする」と追及されると、「私は恒久減税という言葉は使っていない」と言葉に詰まり、さらに「下げるか下げないか、はっきりすべきだ」と迫られると、しどろもどろになった。自民党は参院選で改選の61議席を確保する見通しだったが、流れは一変。1週間後の投票で自民党は44議席にとどまり、橋本氏は退陣に追い込まれた。

日刊スポーツ
2020年9月11日21時6分
https://www.nikkansports.com/general/news/202009110000805.html